attention!
TOVでフレユリです。劇場版設定で、ユーリ女体化注意。












「よく聞いてね、ユーリ。この下町で女の子である、あなたが生きるのは凄く大変なの。だから辛いかもしれないけど男の子のふりをして生きてね。お願いよ………」

ユーリ・ローウェルの生まれて初めての記憶は、とても鮮明なものだった。
しかしその相手姿はぼんやりとしていて見えておらず、言葉だけは辛うじて覚えている程度のどこか遠い女性の声。
そう声をかけたのが誰だったのか、ユーリは知らない。
たとえそれが実の母親だったとしても、彼女が生きていたのは自分が赤ん坊の頃の筈で、その頃の記憶があったとはあまり思えなかった。
次に、自分が生きていると自覚した時は、幼少時代。
ユーリという中性的な名前の意図も知らず、下町の子供たちとワイワイ走り回っていた。
たまにふと思い出して、あの言葉をかけてくれた女性を探そうと思ったが、声しか手がかりがないのに、みつかる筈もなかった。
そうしてお願いされたとおり、ユーリは男のふりをして生きて、ついに帝国騎士団へと入団した。











ぺたりっ
そう、音がしそうなぐらい神妙に、ユーリは自分の胸の上に両手をあてた。
そのまま重力にまかせて、両手を真下に下ろす。
これまた、すとんっと良い音が発生しそうなほど、障害もなく腕は落ちた。
着崩した濃紺の隊員服の生地の上をそのまま落下する。
普通の女性ならため息交じりに、はあっと悩むシーンなのだろうが、ユーリは別に悩んだりはしていなかった。
ただ試しに改めて確認しただけだ。
その、自分の胸のなさを。
まあさすがに抉れているわけではないが、ユーリの胸は限りなくまな板に近かった。
女性の胸の大きさに興味はないのでよくは知らないが、ちらりとどこかで聞いたAAAカップというやつだろうか。
小さい頃の不健康生活が悪かった影響か何かは知らないが、ユーリの胸は全くといっていいほど育たなかった。
男のふりをしているわけだから、むしろない方が都合がいいわけで、特別な努力もしないで放っておいた結果がこれだ。
逆に騎士団に入って、胸板がないから筋肉ついてないと嫌味を男の先輩に言われたことがあるくらいだ。
だから、胸のないことに関しては今更すぎるのだが、珍しくそんなことを思ったのは、他の胸を見たからだった。
帝国騎士団に入り、初めての赴任先はシゾンタニアという辺境の町であった。
そこで自分の先輩になったのは、ヒスカ・アイヒープという女性騎士で、女性騎士がとんでもなく珍しいというわけではないが、基本騎士団は男社会で女性騎士の絶対数はやはり少ない部類に入る。
帝都ザーフィアスにて騎士団入りしたユーリだが、たまに見かけはしたが女性騎士と触れ合うようなことはほぼ皆無。
男性にもまれた中で久しぶりに女性を見て、思ったのだ、胸を。
あ、女性なら誰でも少しは胸があるものだなということを。
そして改めて確認しても、やはり自分はヒスカよりもっともっと胸がなかったのだ。
身長は他の女性騎士より断然高いが、根本的にはひょろい身体だ。
普段ユーリは自分が女性であることを忘れそうになっていた。
ある人物の前では、特に。



「ユーリ!また君は…」
ノックもせずにガチャリと扉が開くのは、彼もこの部屋の住人だからで、同室のフレン・シーフォは少し怒った声を出した。
それはいつものことすぎて、ベッドサイドに腰掛けてぼっーとしていたユーリは少しフレンの方を向いただけで、さしたる反応はしなかった。
「シャワーを浴びたら、きちんと髪をふいて出てきなって…何度言ったら、わかるんだ。」
毎日の惨事だが、今日はいつも以上にそれが酷い。
長く腰まで伸びた艶のある漆黒の髪からは未だに、ぽたぽたと水滴がしたたる。
歩いてきたと思われる床はまだマシな方で、肝心のベッドサイドには点々と水の跡が伝わり、座っている場所には大きめの波紋まであった。
「今日は仕方ねぇだろ?疲れたんだから…」
いつも以上にフレンの言葉が耳触り悪く、ユーリはそう言葉を返す。
今日の訓練は地獄一歩手前に落とされたかと思うくらいキツかった。
ユーリとフレンはつい最近シゾンタニアに配属されたばかりで、まだ慣れていないだろうからとそれほど厳しい訓練は受けていなかったのだが、今日は初めての本格的な訓練で、身体はかなりガクガクだった。
のろのろと先にシャワーを借りて、比較的ゆっくりとした足取りでベッドに辿り着くと、そのまま腰掛けて無駄な動きはしたくなくなったのだ。
そんなわけで、普段からあまり髪を乾かす癖のないユーリが、この時点でそれをやるというのは不可能に近かった。
「それは言い訳にならないだろう?全く…」
いつもならもっとぐちぐちと小言が続くのだが、さすがに今日はユーリも頑張っていたことを認めたフレンは、戸棚から大ぶりの真新しいタオルを取り出してユーリに近づく。
そのまま慣れた手つきで長いユーリの黒髪をすくい上げて、丁寧に水滴を取り除く。
ユーリが髪をきちんと乾かさないのは、この時間があるからだと、フレン自身は知らない。
自分でやる時はワシャワシャとざっくばらんにやるせいか面倒としか思わないのだが、フレンにやってもらうと凄く気持ちいいのだ。
そのまま身を任せると、段々と瞼が重くなってくる。
「ユーリ。眠いのかい?」
無駄なく水滴を払って、くしで何度か整えたあたりで、フレンは聞いてくる。
くしを通すと言っても、ユーリの真っ直ぐな毛質ならそんなにひっかかることもないので、時間もかからずに終わる。
「う…ん。眠い……」
そう言いながらも、フレンの手が離れると、こてっと横に倒れてしまう。
変な形でシーツにしわが寄る。
「ほらっ。寝るならきちんとベッドに入りなよ。」
「んー。フレンも寝るのか?」
言われてなんとか身体を上げたユーリは虚ろに尋ねる。
「ああ。明日も訓練だから僕も寝るよ。おやすみ。」
「…おやすみ。」
ユーリがベッドに入ったことを確認すると、フレンは部屋に備え付けられた大手のランプに近づく。
明るく灯っていた火をゆっくり消すと、自身もユーリと並んでいるもう一つのベッドへ入った。
今日はフレン自身も凄く疲れた。だから、寝ようと思って………





ベッドに入ってどれくらいの時間が経過したのかはわからない。
ただ、疲れた身体で、直ぐに眠りにつくと思われるところの、あと少しで眠ってしまう最中という時間だったので、そんなに時間は経っていなかったのかもしれない。
ユーリが寝返りと共にベッドから降りた微かな音を聞いて、フレンの意識も徐々にだが覚醒した。
トイレにでも行くのだろうとかしか考えていなかったその音だったが、段々とフレンに近づいてきて。
次の瞬間には、フレンのシーツが勝手にゆっくりと動いた。
「ユーリ!君は何をやっているんだ。」
まさか…と思った時すでに遅し。
寝ているフレンのベッドにユーリが潜り込んできたのだ。
慌てて身を起して、確認するようにフレンはベッドサイドの魔導器ランプを必要最小限だけ点けた。
「だって、仕方ねぇだろ?オレのベッドは冷たくてなかなか暖ったまんねぇんだから。」
そう言って、我が物顔でシーツの中へ勝手に入り込む。
まるで永眠するかのように温かさを求めて縮こまる。
「だからって………って、僕の服まで掴む必要はないだろ?」
いつのまにかフレンの上着をぎゅっと握りしめていて、だからといって安易に払うこともできず、指摘する。
本当に失念していた。
さっき気がつけばよかったのだが、水滴が溜まってろくに拭きもしなかったユーリのベッドが冷たいのはあり得すぎた。
だからと言ってまさか自分のベッドに来るとまでは思っていなかったが。
「近づいた方が暖かいだろ?ほらっ、早く寝ようぜ。」
フレンが起きたままでは冷たい空気が入り込み寒いままだ。
ユーリはフレンの服を引っ張り、無理やりシーツの中へと誘う。
ぐいっとたぐり寄せられたことでバランス崩し、フレンはそのままシーツの中に逆戻りしてしまう。
「君は、一体何を考えているんだ!」
「いいじゃねえか。ガキの頃はよく一緒に寝てただろ?」
そうだ。ユーリとフレンは下町時代からの幼なじみで、覚えていないくらい小さい頃から一緒に寝起きをしていた。
それがいつだったろうか、ユーリ自身に自覚はないのだが何故か自然に一緒に寝ることはなくなってしまって、少しさびしかったのだ。
だからこうやってフレンの傍で寝るのはひどく懐かしいぬくもりを感じて、とても心地よい。
ユーリも訓練でとても疲れていて、安心すると瞬く間にすぅっと寝入ってしまった。

「ユーリ…」
確かに少し冷たいユーリの身体が隣にあるから、無理に出ていけと言うことは出来なかった。
しかし、非常に困った事態なことにかわりはない。
一言でいえば、不味いのだ。
ユーリはいいだろうが、フレンの方が………
そう。フレンはユーリが女性であることを知っていた。
そして気が付いていないふりをして、今日まで至るのだ。
確かにユーリの言う通り、幼少の頃は一緒に寝たりもしたが、それはユーリの性別を男だと思っていたからで、気がついてからはさり気無くわからないように、それとなくかわして一緒に寝ないようにしていた。
だから、こうやって同じベッドにいるのは本当に何年ぶりだというくらいだった。
ユーリから男性のふりをしている理由を聞こうと思わなかったわけではないが、聞けなかったという方が正しい。
自分たちが住んでいた下町という場所はお世辞にも治安がよくない。
ユーリのような女の子が色々な犯罪に巻き込まれるのを実際この目で見たこともある。
男だと言っているのに、男でもいいということでユーリ自身も攫われそうになったことさえある。
だからユーリの性別を公にしないようにと、フレン自身も努めてきたのだ。
だが、騎士団に入ってきたのは本当に驚いた。
一緒に入団試験を受けたのなら絶対に止めただろうが、いつの間にやら隣にいたのだから性格が悪い。
これでも男性騎士として入ってきたのだ。
本当にどうやって性別を誤魔化したのかは謎だが、そうして同性ということで新人二人は同室に押し込まれてしまった。
フレンと同室なら楽だなと、明るく言いのけたユーリは、無防備極まりなかった。
普段から衣服をきちんと着ないのだが、フレンの前だとそれ以上に適当で…さっきもユーリの濡れた薄い上着がぴたりと肌にくっついているのが見えて、慌てて寝かしつけたくらいだ。
それなのに、本物が隣にいるという今の状況は少しヤバいだろう。
「全く…」
小さくそう呟いてフレンは呆れた。
正直、意識しまくっているのはフレンだけで、当の本人は気にせず眠っているのは悲しいことなのかもしれないが。
だからと言って、このまま一緒に寝るわけにはいかない。
ユーリが安心して寝たのなら自分は別の場所に行こうと、シーツから動いた。
しかし、フレンが動いたことで温かさが遠のくのを嫌がり、ユーリは出て行こうとするフレンにくっつく。
それはちょうど腕を伸ばして抱き枕にひっついた形になって…
体勢を変えようとしていたフレンの手の甲に、一瞬だけだが、ユーリの胸元が触れた。

「んっ…」
口元から漏れた意識のない声が響く。
これが服越しだったらまだマシだったろうが、寝崩していたユーリの上着はずれていて、あろうことにか直だった。
びくりっと震えたのはフレンの方だった。
薄暗いランプの光だったが、その光景をはっきりと見てもしまったのだ。
本当に無理を感じて、掴んでいたユーリの手をなんとか引き外して、フレンはベッドを下り、そして部屋も出て行った。
同じ部屋さえ、いられる筈がなかった。











翌朝の早い時間、なんとか動悸を沈めて部屋に戻ってきたフレンだったが、ユーリはまだのんびりと寝ていた。
よほど眠かったのだろうと言いたいところだが、フレンの方は生憎ユーリのせいで寝不足だったから、少し恨めしくも感じる。
朝食の時間も差し迫っているので、慌ててユーリを起して身支度をしている姿をなるべく見ないようにして、これでまたいつもどおり訓練などに明け暮れる日々が始まる…そう思っていた。

「あー今日は、何するんだっけ?」
いつも訓練開始時間に集まるのは規定の部屋で、朝一番は特別な任務に当たっていないナイレン隊が一堂にそろうのだが、今日来るように言われた部屋はどうみても医務室だった。
白いベッドや鍵のかかった薬品棚が見えるが、部屋の主と思われる医師は見当たらず、この場にはユーリとフレンだけだった。
二人きりなのは何故かと、ユーリの方から疑問の声を上げたのだ。
「僕も詳しくは聞いていないけど…」
昨日のこともあって、しばらくユーリに近づくのはやめようと思い、少し離れた位置でフレンは言葉を返す。
「っと、ユーリ、フレン。いるな?」
扉を開けて、医務室にやってきたのはナイレン隊の副隊長をしているユルギスであった。
「ユルギス副隊長、どうしたんですか?」
「ああ。昨日言い忘れたんだが、お前たち二人は新人だろ。こっちに来たら本当は最初に身体検査受けなくちゃいけなかったんだが、ここのところの騒ぎで医師が時間とれなくて、延ばし延ばしになっていたんだ。ちょうどこれから医師が来るから、ちょっとそこで待機しててくれ。」
そう用件だけ言うと、医師を呼びにさっさと医務室を出てしまった。
「身体検査?」
眉をひそめながら、訝しげにフレンはその声を出す。
身長や体重や視力や聴力あたりはまだいい。
しかし確か、内科検診もある筈だ。
少なくともフレンはその都度受けている。
女性であることを隠しているユーリは、一体どうやって入隊検査にもあった筈の内科検診を誤魔化しているんだ…と今更ながら疑問に思ってきた。
「なんだよ、フレン。まさか意外と血液検査が苦手なのか?」
悩んでいるフレンを見て、違う悩みだと思ったユーリは、たまに血を見るのは苦手だという人間がいたことを思い出し、からかってそう言ってやる。
「違うよ。内科検診があるから…」
ふと考え込んでいたので、そのままの疑問をフレンは口に出してしまい、不味いとはっと気が付き、口を押さえる。
これは言ってはいけない話題だろう。
「あ、そっか。内科検診もあるよな。」
ぽんっと、思い出したかのような仕草をしたユーリは、鎧の着込んでいない略的な隊員服なことをいいことに、ばっと合わせていた前を一気に開いた。



「ユーリ!」
それほど広くない医務室で、隣にいたフレンは開かれたユーリの白い胸を目の前で見てしまった。
そして、するりっとその上着が床に落ちる前に、反射的に立ち上がった自身のものをやり過ごすためにフレンは一瞬で前かがみになった。
ああ…男の性はなんて悲しいものだろう。
フレンの目に飛び込んできたものを簡単に忘れることなどできなかった。
眩しいほどに白いユーリの肌は、きめが細かく傷一つない。
騎士団に所属しているせいで多少肉つきが悪いのだが、だからこそ無駄な肉は一切なく、薄く肋骨が見え隠れする。
髪を拭くためにふわりと触れた首筋から知る感覚。
あの肌の上に、両の手を余すことなく滑らせたらどれだけ気持ちがいいだろうか。
引き締まった腰から下はスボンに隠されているが上半身裸という事態が逆に危うい想像に拍車をかける。
ユーリに女性的なふくらみや胸の大きさがないことはわかってはいたが、それでも胸の上の飾りを見てしまったのが致命的だった。
決して熟視したわけではないのだが、昨日触れてしまったその感触を思い出したのだ。
寒かったというように少し硬くなって存在を主張している。
触れたと同時に漏れた声は甘く、しなやかな肢体の上の胸の飾りが、微かに震えたように思えたのだ。
よくもこの一瞬にこれだけ思い出すなと監視するほどの光景が、何度もフレンの頭の中でリフレインして………
それから先の想像をここでするわけにはいかなかった。

「どうした、フレン。どこか具合でも悪いのか?」
真っ赤になり具合悪く屈んで、床ばかり見ているフレンをさすがに心配して、ユーリは問いかけた。
さっきまで多少疲れた感じはあったが、それでも普通だったのに、どうしたのだろうか。
もうすぐ医者が来ると言うが、それまでベッドにでもいた方がいいんじゃないかとまで考える。





「っ……ごめんっ!」
そう、なんとか言うのが精いっぱいで、フレンは前かがみのまま医務室を飛び出した。

その行き先がトイレだったことは、言うまでもないが、もちろんユーリが気づくことはなかった。





性 別 欄 有 無 確 認 不 足