attention!
TOVでフレユリです。多少下品話含みます。










「あのさ、青年とフレン君ってどんな関係なワケ?」
「何、今更言ってんだ。オレとフレンは腐れ縁だよ。知ってるだろ?」
「違うって、そっちじゃなくってさ。」
「何だよ、おっさん。そっちって…」
「だから…俺様見ちゃったわけよ。昨日、青年がフレン君の部屋から帰ってくるところを。」
「ああ、そっちのことか。オレとフレンは、セフレだよ。」

ドスッ
次の瞬間、レイヴンが手にしていた鋭いナイフが鈍い音を立てて突き刺さった。





ユーリとレイヴンが何気ないように会話をしている場所は、帝都ザーフィアスの下町に位置する宿屋兼酒場である箒星。
日もとっぷり暮れた夜ならば、空いている椅子がないくらい混みあう場所なのだが、現在の時刻は昼を大分過ぎた時間帯。
まだ夕方の仕込みの準備も始まる前では、残飯漁りに迷い込む動物はいても基本は誰もいないのが常のことである。
旅の途中、帝都ザーフィアスに寄ったユーリ一行は、次の日の出発までは各々自由行動ということになった。
日ごろの疲れもあり、たまののん気に昼寝でもと意気込んだレイヴンだったのだが、思わぬ人物に睡眠を邪魔された。
邪魔をした本人であるユーリは、あろうことにか、甘い物が食べたいと言ってきたのだ。随分と突然すぎるが。
嫌々言っているうちにもあれよあれよと立たされ、悲しいことにレイヴンはユーリ青年が求める甘い物を作らせられることになってしまった。
と、なると必然的に台所を借りることとなり、ユーリが長らく世話になっている宿屋のおかみさんに一声かければ、二つ返事で好きに使ってよいということになるのが道理。
ちょうど、買い出しに出かけてしまったおかみさんを見送って、何が悲しいか広い酒場の台所でむさくるしくも野郎二人でお菓子作りという状況になってしまった。
何で隣に居るのが女の子じゃないのよ。
俺、今日絶対ついてない…とレイヴンは思う。
そりゃユーリは甘いもの好き。でもレイヴンは逆に苦手なのだ。
苦手なのに作るのは得意って、事実も悲しくのしかかる。
牛乳と卵が残っているのを見て、必然的にプリンとユーリは勝手に決めて、レイヴンに作るように促したのだ。
食べたいなら自分で作ればいいじゃないかという意見は通らず、「自分の味は食べ飽きたし、おっさんが作った方がおいしいんだよ。」と返されてしまった。
かくして、一応ユーリは手伝ってはくれるが、下ごしらえから始まったわけで、レイヴンはちょっと鬱だった。
だから気を間際らそうとして、かねてから気になってはいたが、なかなか聞く機会がなかったことを聞いたわけだ。



「あっ……ぶねーな!おっさん。」
レイヴンの右手から滑り落ちた果物ナイフは見事に、薄手の色合いをした滑り止めの絨毯へするりと落ちた。
その横には、ちょうどユーリの左足があり、本当に危機一髪だったのだ。
反射的に足をひっこめたから助かったもの、その距離を余裕があるなら図ってみたいぐらいだった。
「いやいやいやいや…何、おっさんが、これ悪いの?」
まだ少し混乱していて、脈絡のない言葉を出す。
「どーみても、悪いじゃねえか。」
そう言いながらユーリは少し中腰になり、未だ突き刺さったままだった果物ナイフを引き抜いた。
結構深く刺さってしまった。
こりゃ、絨毯貫いて床にも傷がついたんじゃないかと心配する。
そして原因を作ったレイヴンをジト目で見るのだ。
「青年が驚くことをさらりと言うからでしょ?何もこんな場で露骨に言わなくてもいいじゃない…」
ユーリとレイヴンはパーティー内で唯一の成人組で、酒場で一緒に飲むこともたまにはある。
こういう話を闇がしっかり降りた夜にするならともかく、まだおひさまが下り始めた時間帯にされるとは思っても見なかったのだ。
「何だよ、話を振ってきたのはそっちからだろ?」
少しふて腐れながらも、ユーリは言う。
「いや、まあそうなんだけど…」
冷静に突っ込まれればそうなのだが、どうも納得して良いものかと戸惑う。
それに訂正する気も全くないようなところを見ると、本当に聞き間違いではなく、ユーリとフレンの仲はそうらしい。
いいのか?と、頭にじんわりとその自体が浮かぶ。
「他に説明のしようがねえんだから仕方ないだろ?」
いつまでも動こうとしないレイヴンを見かねて、ユーリは拾った果物ナイフを冷たい水で洗う。
一応刃こぼれはしていないようだが、後で研ぐかと思い、とりあえず台の横へ置く。
レイヴンのバニラビーンズのさやを片手にした手はまだプリンへとは動かない。
「いや、だからってさ。おっさんは、若い青年たちをからかおうと思ったわけよ。それなのに、恥ずかしがりもしないしさ…」
今の若い子におっさんついて行けないわ…と深くため息をつく。
ユーリの早くしろという視線を受けたので仕方なく、別のナイフを取り出して、バニラビーンズをしごき出しはじめる。
「それにしても良く気がついたな?痕とか残ってねえ筈なんだけど…」
ふむっと少し考えてから、ユーリは自分の服の襟元をくいっと引いて自身の身体を確かめて見るが、やはり何もない。
そこにはいつもどおりの自分の肌があるだけだ。
「あーそこはおっさん、年の功だからさ。勘でわかるのよ。」
ちょうど、その日の朝方近くに、ユーリとレイヴンは宿屋の廊下ですれ違ったのだ。
その時のユーリ本人はいつもどおりにしていたが、纏っていた空気が違った。
絡みつくような色気と独特の雄の匂い…こればっかりは、いくら水で流し落としてもすぐには消えるものではない。
となると、必然的にユーリとフレンが何をしていたか、導きさせられるものだった。
「ふーん。そういうもんか…」
そう答える割には、本人あまり気にしていないらしく、ユーリは先に作っていたカラメルソースが十分に冷えているか確認している。
レイヴンの方を改めて見る気はないらしい。
「しっかし、青年とフレン君がセフレねえ…意外だわ。」
あまりにユーリがこちらに気を示さないので、牛乳とバニラビーンズと砂糖をかけた鍋を木へらでかき混ぜながら、改めてレイヴンはそう言う。
触れられたくない話題というわけではなく、本当に大したことがないようなユーリの反応が気になったのだ。
「別に意外でも何でもないだろ?小さい頃から一緒にいるんだし。」
ユーリとフレンの周知関係…傍から見れば幼馴染とか親友とかそういうカテゴリーに言われることが多い。
だから本人は今更だと口に出るのだ。
本当はあまり普通でもないのだが。
「え…じゃあ、昔からそうなの?」
「いつからかだなんて、覚えてねーよ。物心ついた時から処理し合ってたからなあ。」
一応思い出そうとして、どこか遠くを見るように、窓の外へとユーリは目を向けた。
「その関係が今でも続いてるってことね。でも、セフレは違うんじゃない?ほらほら、正直に言いなさい。愛し合ってるんでしょ?」
お気軽に愛と言う言葉を言えるレイヴンはあっさりと問い詰めるように、そう言葉を畳みかけた。
ユーリもフレンも21歳を過ぎている。
子供とは違う立派な成人で、苦いも甘いもわかりきっている歳だ。
そんな二人が互いにこんな不思議な関係を続けているという事態、おかしなことで、愛やら恋やらそういう甘ったるい関係が生まれてくるものだと思うのだ。
「愛?それは、ないない。」
フレンのことを一般的に好きではあるが、愛という言葉は不釣り合いに思えすぎる。
きょとんとした顔で、ユーリはレイヴンの言葉を断ち切った。
しかも、わざわざ利き腕で違うと何度も手を振るリアクション付きだ。
「いや、だって…フレン君。ものすごくストイックに見えるよ。それなのに、セフレってどうよ?」
お堅く真面目で法から反れることを許さない…というイメージのあるフレンに付きまとうのは、どうしても恋愛に関してはストイックということだった。
事実、レイヴンはダングレストでフレンを酒場に連れ込み、色とりどりのお姉ちゃんを何人も呼び寄せたが、結果は無残に惨敗。
フレンは女性の話を聞くばかりで、恋愛方面にはぴくりとも関心を示さなかったのだ。
にぶいとかそういうのではなく、全てわかっていてわざと手を出さないのだから余計に性質が悪いものだ。
そうして陰ながら、夜の帝王という称号がついた恐ろしい人物…そんな印象だった。
「ストイックだからこそ、オレみたいなセフレがちょうどいいんだよ。立派な騎士様のイメージ崩すのはよくないだろ?簡単には女遊び出来ないんだよ。」
そう、香付けのために用意したオレンジの皮を剥きながら、騎士の鏡すぎるフレンを示した。
「確かにフレン君の女遊びの噂は聞いたことないけど…じゃあ何、青年もそれに付き合ってあげてるわけ?」
何なんだ…話を聞くほど、この二人の関係がよくわからないぞとレイヴンは頭を悩ます。
普通の幼馴染が、親友が、簡単にセフレになるわけないだろうが。
少なくても自分は嫌だと思えるから、付き合う義理さえ思いつかないのだ。
「いや、むしろオレに付き合ってもらってるようなもんだよ。フレンから誘われたことねーし。オレがしたいなと思った時に行くくらいか?」
前はいつだったけかと、記憶をめぐるが、直ぐに答えは出せない。
「…確かにその関係だとセフレかもしれないけど………
しかし、久しぶりだったわけね。青年は巧妙に隠してるのかと思ったわ。」
思春期もそろそろ終わって、自由にしていい年頃だから、冗談半分でアダルトな話題にしたとしても、今回のことがなければ深く聞いたりはしなかっただろう。
料理も得意だし結構何事もそつなくこなすユーリなので、てっきりレイヴンはこっち関係もうまくごまかしているから今まで気がつかなかったのかと思いこんでいた。
「別に隠していたわけじゃねーよ。聞かれねーから言わなかっただけだ。」
まさか、これからフレンとやりに行くから出かけてくるわ…などとおおっぴらに言うほどユーリの性格は度肝を抜いてはいない。
レイヴンのように普段から全面に押し出していれば、また話は別だろうが、別にああもなりたくはない。
「そだね…ジュディスちゃん以外のみんなが聞いたら、固まっちゃうよ。」
誰よりも敏いから、もしかしたらジュディスあたりは、わざわざ言わなくても知っているかもしれないけど、レイヴン自身もあまり知りたくなかったもしれない。
おっと、会話に夢中で手がおろそかになっていた。
卵黄と白身に分けた下地に温めた牛乳とバニラビーンズの下地を少しずつ加えて、泡立てないように混ぜていく。
お前は固まるなよと念を込めて。
「まあ、言うような機会も殆どないけどな。この前、おっさんに見られた時も、1年ぶりぐらいだし。」
やや苦笑しならがら、それでも何と無くこの都合の良い前の時を思い出したのでユーリはそう言う。
「1年?それはまた随分とご無沙汰だったのね。青年も旅に出て、忙しかったからね。なかなか来れなくてフレン君も寂しがってたんじゃない?」
レイヴンも途中から、この旅に正式参加したのだが、ドンサイドやアレクセイサイドからエステリーゼ一行の動向は逐一聞いていた。
それはゆっくり自由があるような道程ではなく怒涛続きで、ここザーフィアスへ戻ってきたのも随分久しぶりのはずだった。
かたやギルドの人間。かたや帝国騎士。
分かれた二人の道が重なることはそう何度もあることではないだろう。
「いや、いつも冬しかしないから。夏は暑いだろ?」
最近本当に寒くなってきたよな…と口の中だけでユーリは言葉を続ける。
うん、飾りつけのために用意したイチゴも冷たいと触る。
「それ…本気で言ってんの?」
この青年、何かおかしい。
夏に熱いのは当たり前だろう。
だから、冬限定って何?
そんな期間限定愛、聞いたことない。
人生経験も豊富で心の広いおっさんが、のろけ話の一つでも聞いてやろうかという大人の気遣いは崩れ落ちる。
「オレの部屋とか布団は薄いし、一人で寝ると寒いし。それに、フレンとするならタダだろ?楽じゃん。」
ぐわんっと再びレイヴンは理解しがたい言葉を耳にした。
「なっ、何………その理由?」
酷く調子外れた声がレイヴンから発せられる。
いくら、タダだからって…
そりゃ金銭関係持ち込まないセフレなら、タダだろうよ。そうだろうよ。
でも何か違うだろ。おかしいだろ。
今が昼間じゃなかったら。ここが声が響き渡る台所じゃなかったら。確実に声を大にしてレイヴンは叫んでいただろう。
いや、むしろ今でも叫びたいわ。
「しょうがねぇだろ。子供の時からの貧乏症が根付いてるんだから。一晩女買うのに、あんなバカみたいな金だせっかよ。」
元騎士をやっていたころは、それなりに給付金は良かったが、ユーリの人生のほとんどはギルドにも満たない用心棒まがいの仕事で生計を立てていた。
ただ、貴族様なんかを依頼主にすることは間違ってもないので、よくてザーフィアスの市民…普段は下町のみんなが困っているのを知って勝手に動き回っているので、ユーリの懐ぐあいはそんなに良い方ではなかった。
自由にガルドを使えるようになったのは、ギルド凛々の明星を結成してからだが、基本は首領であるカロルに管理してもらっているので、ユーリ自身は自分の使う武具を購入する時ぐらいしか金銭を使おうとは思わない。
武器は確かに性能があがるにつれて高いガルドを支払うのだが、それでも魔物から命を守るために必要なものであるから金額に関してはさほどの躊躇はしていなかった。
しかし、女と酒場で飲むとか買うとか、危機迫っているわけでもないのに、そういうものに金銭を使うのはどうもためらいが抜けないまま、今もあったのだ。
「え、何?フレン君にも、タダだからとか言ってんの?」
もう呆れすぎたが、今手を止めたら不味いので、作業をしながらレイヴンは尋ねる。
丁寧に作ったかぼちゃ色の下地を裏ごししていく作業は、プリン作りではここが一番肝心だ。
それにしてもマトモに聞いているこっちの方が何だか、間抜けに思えてきたのはなぜだろう。
「それが何か悪いのかよ…向こうもタダだし、一石二鳥だろ。」
氷水をレイヴンに渡しながら普通にユーリは言う。
ドライすぎるその様子に、もうやだ…と本人には聞こえない音で、レイヴンは声を漏らした。
ユーリからフレンへのベクトルがここまでないとは思っていなかった。
少なくともレイヴンから見て、フレンはユーリのことを好いているように見えたから。
それが恋なのか愛かなのかまではわかっていなかったけど、ユーリが言うように単純にセフレという言葉で終わらせたいとは思っていないだろう。
不憫な子だわ…と、この場にはいないフレンを一瞬だけ思い出した。
ただし、こんな関係に甘んじているのは当人同士のせいということは間違いないだろう。
「大体、青年さ。女性をわざわざ買わなくても、十分もててるじゃん。おっさんの目の前でも何度か逆ナンされてたでしょ?フレン君としなくても、それならタダじゃない。」
あくまでタダに拘るユーリに、レイヴンはそう突っ込みを入れた。
まだまだ若いし、むしろよりどりみどりだろう。
ユーリなら、逆にお金もらえる方もイケると思う。
今のユーリは、料理に邪魔だということで艶を失うことのない長い黒髪を後頭部の高い位置で結んでいて、珍しくうなじがちろちろと見えている状態だ。
それだけでも生唾を思わず飲み込むほど、魅力的で。
身体だけの関係で他の男とも寝ていないというならば、おっさんとしない?と試しに言ってみれば了承するだろうか。
さすがにそこまで言うと怒るだろうから、とりあえずタダなところだけを際立たせる。
「あー何か、それも無理なんだよな…」
ちょっと不味いところを突かれたなと、ユーリにしては珍しく言葉を濁す。
視線を盛りつけのために用意した、小皿の方へと向ける。
「何?やっぱりフレン君じゃなきゃダメなの?」
ほらっ、思ったとおり、本当は好きなんでしょ。うりゃうりゃ…と無駄なアクションを示す。
自覚がないだけだと、この時までレイヴンはそう思っていた。
話も終わりかけて、そろそろプリンも型に入って、オープンに突っ込むだけだと安心した。
しかし



「オレ、フレンの顔が好きなんだよ。だからどうも、するならフレンかフレン以上の美人じゃなきゃ嫌なんだよな。」
と、仕方ない出来事のようにあっさりユーリは言った。
「はぁ!?」
今度こそ間違いなく、遠慮なくレイヴンは叫んだ。

顔…身体じゃなくて性格でもなくて………顔………
近すぎて見えすぎているからこその、弊害。

つーかさ。
フレン以上の顔の人間がそんなホイホイ居るわけないだろう…
どこかの王子様と言っても過言ではないフレンが基準では、どうしようもない。
フレンが一番目立つのは顔で、それを目当てにきゃーきゃー言っている若い子はたくさんいる。
だからこそ、一番側にいたユーリこそ顔とは言わなそうなのに。






これから先、多分ユーリの相手をするのは一生フレンだろう。
もしかしたら、フレンはそれをわかっていて、とりあえずは今の関係に甘んじているのかもしれない。
そう思いながらも、出来上がったプリンを味見の為に一口スプーンですくって食べると、いつもと同じように作った筈なのに必要以上の甘さをなぜか感じて、自分で作ったのだが、おえっとレイヴンは胸やけを起こした。
横で嬉しそうにプリンを食べるユーリは、その甘さに浸っていた。





甘 い プ リ ン の 作 り 方