attention!
6/15 タルディルオンリーイベントの無配。
致しているだけなので、内容はないです。
2ページ目に、当日会場で突発的に書いていた
アヤックス(14歳)×ディルック(17歳)設定の小話を収録しています。
『だからこそ、君を汚す』
「こんばんは、オーナー。今日も店は盛況だね。
オススメの一杯をくれないかな?」
「……僕が選ぶのでも構わないが、その代わり全て一杯あたり一万モラを請求させて貰う」
「それは……メニュー表の三倍の金額な気がするけど」
「特別に、ファデュイ価格として設定している。
嫌なら帰って貰って構わない」
「いいや。素晴らしいバーテンダーへのチップだと思って、頼むよ」
モンド最大の酒場であるエンジェルズシェアのサービスは、文句の付け所がなく雰囲気もすばらしい。それは、モンド人たちがこれまで涵養してこなかった部分である。そして、はしご酒の最後に行くのに最適の場所だ。そこでは、ことあるごとに言われてきたが、深くは理解されて来なかったモンドの酒飲み文化の本質を見ることができる。モンド人が酒をがぶ飲みするのを見るにつけ、だれもがビールを一杯飲めば後ろめたさもなくなると言う、あるまったく正直な考えが心に浮かぶ。
モンドでは、深酒についてどんなに周囲から悪く言われていても、一度そこに踏み入れたら、仲間と意識のなくなるまで付き合わないと、無礼だとされる。言い換えれば、中途半端な飲みは強烈な酒を二、三杯だけ飲んでお開きにするということと同じである。
そんな騒々しさの中、淀みなく来店したタルタリヤはカウンターに座り、一番目当てのバーテンダーであるディルックに向かって、軽口を飛ばすのだ。
「最近、モンドで君の姿を良く見るが、何をしている?」
「ちょっと他国で大きな仕事をしたんだけど、本国に戻ると書類仕事の山と向き合うのが嫌だなって思って。今は、誰も執行官のいないモンドでのんびりさせて貰ってるよ」
差支えのない範囲でタルタリヤは現状を口にする。上からの取り扱いは療養中なので実質休暇みたいなものだが、周囲に弱いところを見せるのは本意ではない。束縛がなく適度にリハビリ運動を称して身体も動かせるモンドに書類上、飛ばして貰ったのだ。タルタリヤにとって、戦闘は呼吸と同意義だ。たとえ怪我が完治していなくとも、適度な戦いと刺激を求む気質に変わりはなかった。
「ところで今日は普段以上に賑やかだけど、何かあるのかな?」
開きっぱなしのエンジェルズシェアの扉の外まで人が溢れている様子を見て、タルタリヤは率直な疑問声を出した。人気店な事は重々自覚しているとはいえ、外まで立ち飲み客が賑わうほどの盛況ぶりは初めて見た。統率できないほど客が殺到する場合、たいてい制限をしている筈なのだが、今回はその様子が見受けられなかった。
「今日は、年に一度の在庫整理の日だ。棚卸でのボトルキープを減らすためにも、特別価格で提供している」
「へぇ、それなら納得だ。だから、フロアの一角で大酒飲み大会みたいなものをしているのか」
ふと視線をやれば、屈強な酒豪が集い飲みっぷり競う様子に、周囲の熱気はヒートアップしている。大杯いっぱいに注がれた酒を一気に飲み干し、早さや飲みっぷりを競う。司会者のかけ声に合わせて、皆勢いよく杯を空けている。観客たちは歓声を上げ、拍手を送る。真っ赤な顔で既に三杯目を空けていたが、まったく乱れる様子はない者もいて、杯を置いた瞬間、豪快に笑い、次の酒が注がれるのを待っている。
「喜べ! 今日は、特別にオーナーから蔵出しの秘蔵の酒まで出して貰えたぞ」
「俺にも一杯くれ!」
「おうっ、今注ぐ。って、そこの隣の奴は……おいおい、もう酔いつぶれたのか?」
「ぃや……、ちょっと…………休憩する、だ……け」
「今回の優勝者には、オーナーがどんな酒でもボトルキープしてくれる権利が与えられるぞ! さぁ、呑んだ呑んだ!」
自身も片手で?みながらも、司会者も場を盛り立てまくっている。大酒飲み大会は、闘飲や酒戦とも呼ばれる。醸造酒よりも、蒸留酒の方が酔いやすい。またお酒をちゃんぽんすると、当然のことながら酔いがまわりやすい。さまざまなお酒を飲むことで、自然と摂取するアルコールの総量が増えたり、飲酒のスピードが早くなるからだ。特に、糖分を多く含むお酒による血糖値の変化は深刻だ。既に、その場に倒れたて床に転がっている者までいるが、悪酔いのような度を越えているわけではないらしく、愛嬌にも思える。
「へぇ、優勝者ね。景品もあるんだ。随分と、面白い事をやってるね」
「ガス抜きのようなものだ。特に血気盛んな冒険者には、たまに思いっきり発散させた方がいいからな」
自由と酒の国と称されるモンドも何度か動乱はあったものの、ここ最近は随分と穏やかだ。戦いに明け暮れない日々が続くと、一番の道楽はやはり酒である。ディルックはイベント事を積極的に開催するタイプではないだろうが、それでも折り合いを見ているのだろう。
「さて、じゃあ折角だから、俺も参加しようかな。
ねぇ! 飛び入れ参加でも大丈夫?」
相変わらず涼しい顔で注文の酒をつくるカウンター越しのディルックを眺めるのも心地よいが、今日はもう少し刺激が欲しくなった。グラスの中で揺れる琥珀色の液体を殻にすると、タルタリヤはウインクを一度ディルックに送った後、奥の集団に声を張り上げて尋ねた。
「おっ! 見かけない顔だが、若い兄ちゃんか。
大丈夫か? オーナーにミルクを用意して貰わなくて」
「ミルク割りは十四の時には卒業したよ。
そうだな、オーナー蔵出しの秘蔵の酒を俺にもくれるかな?」
タルタリヤは、挑発するように渡された杯を遠慮なく一気にあおった。その飲みっぷりの良さに、気が付いた者もいた。祖国では、ウォッカさえも一気に飲み干すのが流儀であり、ちびちび飲むことは許されていない。また陽気に飲むことも求められる。自宅に人を呼ぶ時でさえ、食前酒がウォッカだったりするくらいなのだ。何より、子どもの頃から度数の高いのを飲んでるし、兄弟から飲まされている。
「うんっ、これかなり美味いね。俺好みだ」
「やるねぇ、兄ちゃん。次、どんどん注ぐぞ」
いつの間にか、酔っ払いのならず者たちも駆け寄り、周囲の面々は若輩者への洗礼気分で余裕の上から目線だ。容赦ない強要に臆さないニューカマーの登場に、更に場は盛り上がりを見せて、積まれる樽が新しく増えていく。そうして粗野な笑い声とともに、樽から注がれた濁酒がドンと目の前に置かれる。だが、タルタリヤは微動だにせず、むしろゆったりとした動きで杯を手に取ると、ひとつ軽く空へ掲げてから口元へ運んだ。喉を鳴らす音が聞こえるほどの一気飲み。飲み干した杯を逆さにしてテーブルへ叩きつけるように置くと、場は一瞬静まり──そして、爆発したように歓声が沸き上がった。
◇ ◇ ◇
「君が、俺をここに案内してくれる日が来るなんてね」
「ゲーテホテル前に転がしても良かったが、優勝者をぞんざいに扱うほど、僕は経営者として落ちぶれていない」
ここ一番の盛り上がりを見せた大酒飲み大会も、深夜に時計の針が廻ったところでオーナー自らが手打ちの言葉を出し、お開きになった。そのまま最低限の店内の片づけと、酒に溺れ転がる男たちを手慣れた様子で御退室を願ったのだ。夜も深い為、本格的な掃除は翌日の営業前に行う指示を出したディルックは、スタッフ達を岐路に着かせた。そうして、唯一勝者の一人として追い出されなかったタルタリヤは、今エンゼルシェア三階にいる。普段、客に解放されているのは一階と二階のみで、三階へ続く螺旋階段には鍵がかかっている。だから、タルタリヤも三階に立ち入るのは初めてのことだった。
流石に酒に強い体質とはいえ、祖国以外で浴びるほど飲んだのは久しぶりだ。遠慮せずに室内に置かれたベッド相手にゴロリとまどろむ。しばらくベッドから立ち上がれないだろう。
「で、何のボトルキープを用意すればいいんだ? スピッツか?」
「そうだな……俺が立ち寄った際は君がカウンターにいてくれるという権利が欲しいから、銘柄は君に任せるよ」
またの約束が欲しいと、タルタリヤは臆面もなく伝えた。今はたまたまモンドに赴任しているが、それも執行官責務の中では束の間である。直ぐ、次の辞令が飛んでくるだろう。それでも、顔を出しても許される免罪符の一つが欲しかった。本当はベッドに倒れ込んだ形でなんて伝えたくなかったが、いつもより羽目を外してしまった自覚がある。これが、好きな人の前だと酔いやすいという奴だろうか。
「アルコールを摂取すると、怪我の治りが遅くなる。この店に来るのは、ほどほどにするんだな」
「知ってたの? 俺が怪我してるって」
「いつもより、動きが鈍かったからな」
「闇夜の英雄からすれば、大チャンスってところかな?」
「その呼び方は不本意だ。それに、万全でない相手に僕はどうこうするつもりはない」
「そう……じゃあ、俺が君に手を出すこととするよ――」
アルコールは何も悪い事だけではない。摂取することで、ドーパミンが増え気持ちが高揚し欲が高まるようになる。ただの酒以上に溺れる可能性が目の前にあるのだから、それは仕方のない事なのだ。だからこそ、人は酒を付き合いと呼び、文化として許し、逃避として容認する。理性の鎧をひとつ、またひとつと外していく過程にこそ、人間らしさが滲み出る瞬間があるのだ。しかし、酒という魔法には代償がある。飲み干したその先に、自分の欲望が何を求めているのか──それを見誤れば、ただの快楽が奈落への入り口にもなりかねない。
それでも、人はまた酒を手にする。誰かと、あるいは自分自身と向き合うために。
・
「……君は、性格が悪い」
「あんまり他人からそういう評価を受けた事はないんだけど。ただ、君の反応を見るのが好きな事は否定できないな」
「ふんっ、やはり悪趣味だ」
小部屋唯一のベッドで重なる二人。ディルックはそう簡単に組み敷ける相手ではないが、だからこそ叶いベッドへ押し付けられれば、酒以上の酔いをタルタリヤにもたらす。そうして、その鍛え抜かれて人生が刻まれた美しい身体を暴く過程は、何度享受しても飽きることはなく、むしろ新たな渇きを呼び起こす。指先が辿るたびに、その肌の下に潜む熱や鼓動が鮮やかに伝わってきて、まるで生きた彫刻を味わっているかのようだ。静寂の中、吐息が重なり互いの温度が絡み合う。理性の声は遠のき、ただ本能だけが次の瞬間へと身を駆り立てる。
「いい加減、しつこいっ」
「焦らしたつもりは、ないんだけど」
怪我がある程度隠せる状況になるまで姿を現せなかったこともあり、相当久しぶりの邂逅。だから、無意識に楽しむ時間を不用意に与えてしまったのかもしれない。臀部をタルタリヤの不埒な手により、露出させられる状況にディルックはお冠だ。内股になって必死で閉じるけど、足を踏ん張れず、膝を上げられて尻を弄られる。タルタリヤとしては、優しくこねているつもりなのだが、ねちっこいようなくすぐったいような気もするのかもしれない。潤滑ゼリーを更に足し、再び後孔の縁に指の腹を添える。
「慣れないね。いや、感じやすくなったかな」
「余計な一言が多い……」
「ああ、ごめん。それとも寂しかった」
「違う」
即否定されたのが少々癪で、代わりに薄くひくつく後孔は、くぱっと開いて、また入り口をくちくちと確認する。爪を立てないように丹念に刺し入れると、ぷちゅっと小さな水音を立てて進んでいく。潤いは十分に足りているようだが、ディルックの口が伴わないのはいつものことだから、悪いが話半分に聞き流す。その態度も身体の素直な反応も、何度身体を重ねても男を知らない無垢な初物に見える事が、タルタリヤとしては心地よいのだから、それをディルック本人に伝えたら瞬時に蹴とばされる自信があるので、毎回心の内に秘めておく。
丹念に手をかけたおかげで二本入れた指で、むにっと縦方向に拡げても肉壁の抵抗をそれほど受けなくなった。こりゅっ、こをゅっ、と届く範囲で前立腺をほぐすと、じれったいのに耐えきれないのかディルックの腰が僅かに揺れる。ぐーと押して、トントンとダメ押した後に、グリュッと明確な意図をもって、潰すとディルックは隠し切れないほどに歯を食いしばって、快楽を何とか外に逃がそうとシーツに爪を立てていた。
「そろそろ、いい?」
「待て……」
「ここで、君が焦らすの?」
「そうじゃなくて、この部屋は従業員も立ち入るから……だから。なるべく汚したくない」
はたとここにきて、タルタリヤは一瞬だけこの場を顧みた。三階とはいえ、ディルックにとってここは大切な職場である。生真面目な彼からすれば言語道断という事だろうから、通してくれただけでも歓喜である。そのうえ、この先までとなると色々と思うことがあるのだろう。部屋の換気は問題ないとはいえ、情交後のベッドというものはたとえシーツを取り替えたとしても、余韻が残る事には違いない。タルタリヤはエチケットとして必ずスキンを付けるが、となれば。
「そうだな、君もスキンをつける?」
「……わかった。だが、君のも僕がつける。念のために」
「信用ならないなぁ」
といいつつも、それはただのご褒美では?という内心の言葉をタルタリヤは寸でで出さなかった事を、褒めたくあった。口角は笑みを覚えていたが、ディルックは既にスキンを片手にもってタルタリヤの局部に向かっていたから、上は見上げていなかったのでラッキーだ。真剣な面持ちでタルタリヤの性器を掴むディルックという構図を見られるだけで、絶景だった。着けて貰えるのなんてもちろん初めてで、ピリッとスキンの包みを破り、手早く着けようとしているが明らかに慣れていない仕草である。それでも本人は頑張っているのだから、茶々を入れたらおしまいだ。ただ角度的に普段はあまりいい顔をしない、ディルックのその素晴らしい長い髪を撫でられも怒らなかったから、それほど集中していたのだろう。正直、結果としては下手だったが本人が満足しているのならいいだろう。こちらとしては、必要以上に大きくならないように助力した。
「俺も君に着けてあげようか?」
「結構だ。君がすると、余計な事をされそうだ」
せっかくだから互いに着けっこしたかったが、即拒絶させられた。これから、そんな程度ではないほどより羞恥な事をするというのに、ディルックの潔癖ラインは未だにタルタリヤにはわからなかった。まあ、そういう事も含めて次回以降のお楽しみとしておこう。今回は、進んで着けて貰ったということだけで、大躍進だ。タルタリヤはディルックとのやり取りでこういうギリギリの見極めをする事を好んでいた。邪な未来を考えているうちに、ディルックの方も装着が完了したらしいので、またベッドへ押し倒す。すべてのお膳立てが揃ったのだ。ディルックの興が乗っているうちに流さなければと、タイミングを掴む。
一度は身を離したものの、柔らかく諭した後孔につんっと性器の先端を宛がっても具合は悪くない。それでも多少の苦しさを与える行為に違いはないから何度か、とつっ、とつっ、と押し当ててみて角度を見極める。後孔も呼応して、よくほぐれている事を示すかのように、みちゅっと吸い付いてくる。タルタリヤとしても男の本能として、一刻も早く入りたい気持ちが先行している。だが、このいつ入ってくるのかと、チラチラとこちらの様子を伺うディルックの様子を眺める時間が好ましくあった。しかし、あまり引き延ばせるほど、余裕が残っているわけでもない。これから入れるという合図は十分に整った。ぐりんっと一滑りだけ、くぱつく後孔を楽しんだ後。
「挿入れるよ……」
「…………」
ディルックの沈黙は了承の意である。
一息いれてから、くぐっと後孔の縁を割り開けば、素直にくちゅんと亀頭が滑り込む。そのまま、ちゅこっちゅこっと確実に進み落とす。指先が届かない箇所は、ほぐしたわけではない。それでもにゅぐ…とそのままの勢いで推し進める事が出来た。トロトロしすぎて一瞬で挿入完了と言っても過言ではない。今日は酒が入ったせいか時間感覚が多少あいまいで、確かに時間をかけすぎたのかもしれない。一気に到来した恍惚によって、タルタリヤも喜悦に落ちた。それこそ、こんなに大きくなったことは今までないほどに、煽られ過ぎたのだ。
「はっ、…君のナカは良すぎる……もっと進みたい、ダメかな?」
「…、んっ……」
ディルックもようやく苦しい最初を乗り切って、体内に埋め込まれた現状を享受し始めているようだった。受け入れる身体と心が伴わなければ、決してまかり通らない行為。それでも、次第にその複雑で異様な感覚が心地よく感じられ、痛みすらも快感に変わり始める。抵抗することなく、ただ流れるように、その変化を受け入れていくのだ。最初は恐れに似たものが支配していたが、今はそのすべてが一つのリズムとなり、呼吸と共に深く馴染んでいった。そんな過渡期にタルタリヤは、鼻先が触れ合う程の距離で訴える。同時に下腹部を軽く捏ねるのだから、やはり最初に性格が悪いと評したのは間違いではなかったと思っているに違いない。まるで腹を見せる相手という認識の刷り込み。動きたいと示唆して隙間なく、みぢっと犯している肉壁に薄くぞりぞりと小刻みに小突く事はしてくるのだから、厄介だ。確信犯的に緩く脳が痺れるだけの刺激は、あらゆる判断を鈍らせる。
「……少し、なら」
「ありがとう。苦しかったら、言ってね」
了承を得られれば、こっちのものだと言わんばかりにタルタリヤは迅速に動いた。すっとディルックの腰骨を掴んで固定する。もちろんの事、これ以上シーツの上で動かれないようにだ。方向性が定まったところでこちらの腰をぐっと入れて、たんっ、たんっ、と段階を少しずつ進めていく。粘膜同士の絡み合う肉感。狭いからこそ、こじ開ける征服感に心頭する。やがて、コツンっと突き当たった奥が、ぷちゅっとつぶされて、きゅうぅと、タルタリヤの亀頭を抑えつけた。期間が空いたから手加減するつもりだったけど、これは無理そうだ。
「久しぶりだけど、俺の形を覚えていてくれて嬉しいよ」
「何、を……ふざけたことを言っている」
「ふざけたつもりは、ないんだけどね。とても上手に受け入れられていると思うけどな」
「っ、言葉を選べ」
「なんで? 俺の為に頑張ってくれているのに」
言葉と同時に、ずろーと性器を引き戻した後に、ばちゅんっと押し込む。衝撃でディルックの脚が、ふわっと浮く程度も厭わない程に。引き抜きの絡みつく気持ち良さももちろん好ましいが、とちゅとちゅと不規律に動いて乱暴を働くのも嫌いじゃない。現に、ディルックのナカも問題なく、ずっぷりと受け入れてくれているのだから。ただ、本人の気持ちとしては慣れていないことに違いはない。目の前でディルックの髪を一掬いして、スリスリと触る。普段なら、絶対に嫌がる筈なのに抵抗の様子が見られない。とはいえ、どこまでもリードされるのは癪に障るのだろう、そう簡単に流されてはくれない。おとなしくしてくれるとありがたいなと思ったが、むしろ絡みついてくるので、こっちが食われそうだ。
「ひっ……、…まて、これ……以上は、おかしくなるっ」
「おかしくなれば、いい。
アルコールで判断が鈍ったとはいえ火をつけられて、一度で鎮火するなんて、君も思ってないだろう?」
ぶわっと予想していなかった汗が発生したディルックは、無意識に腹を触る。だがおかけで詰まった呼吸が解け、変に入っていた力が抜けたせいか、奥が柔らかい。ぱちゅぱちゅと、可愛い音が存在を示す。何度か、ちゅこっちゅこっと突けば、段々と奥が緩んできた。いつもの奥より、さらに先への示唆がうかがえる。まるでそこに、まだ踏み入れたことのない領域が存在するかのように、微かな抵抗と共に新たな感触が現れる。好奇心と緊張が入り混じり、慎重に様子をうかがいながら、確かめるようにその境界を、くりゅっと、なぞった。先を見据えて震える反応が、向こう側に何かを見つけた証のように感じられて、じんと熱を帯びる。
「開けてくれないかな、もっと奥」
「ぁ、ばかな、ことを……。……むり、……に、きまってる」
切なげな声と共に、返事は否定である。しかし、奥は正直だ。収縮と弛緩を繰り返していて、時には明確に飲み込んだ亀頭に甘えている。だからナカのぷっくりしているところを、綻ばせる為に、とんとんと打ち上げてあげる。まるで奥底に詰め込まれた願いごとを、溶かすように。深く柔らかい箇所に向かって、そっとためらいがちに。そのたびに、ディルックの身には、とちゅとちゅと甘い痺れが走るようで、頻繁につま先でシーツを掻いている。折角ならこちらに掴まってくれたら嬉しいからと、泣きどころを苛め抜く。それでも素直には慣れないところをタルタリヤは好んでいたから、今はこれでいい。
「なるべく力を抜いて………。そう、少し息めばいい」
「ひぅ……、んっ…………」
もう、嫌だったら突飛ばせるとかそういう段階ではなくなっていて、真直ぐ協力を仰げば、まるで洗脳のように従ってくれた。ここまで身体を解かして、ぐずぐずにしなければ到底タルタリヤのいう事を聞いてくれないから、大分ディルックにもこの酔いが移ってきたらしい。身体を任せてくれれば、自然と力が抜ける。それは安心の証なのか、それともただ自分を諦めてしまっただけなのか。けれど今は問い詰めることもせず、ただこの柔らかさに身を沈めていた。そうして、トントンと腰を叩けば、それは腹の奥にまで響く。だから、ぬちゅーぬちゅーと刻み込む律動で動かし隈なく意思表示する。
「覚えてくれると嬉しいな、これが気持ち良いことだって。だから、開けて」
「……ぃ。入んな…ッ、、………もぅ十分、おくに……」
抜いてと途切れ途切れで訴えるディルックを留めるように、前立腺と腸壁を゛ぬるーと擦り上げて、善がらせる。とどめとして、でっぷりと張った鬼頭とカリ首でずり上げて引っ掛ける。半分、奥をこじ開けるように進めば、ようやく……
「ごめん、あと少し耐えて……」
「……ひゃ…、…あっ!」
理性を手放す覚悟が出来ようと出来まいと、ドプンッと水の中に落ちたように、ディルックは打ち震えた。もはや深く沈んでいく感覚に抗えずただ溺れていくしかなかった。声も出せず、視界の輪郭は滲み思考のひとつひとつが水泡のように弾けて消えていく。スキン越しにディルックがぷしゅっと射精の様子が伺えて、同時にタルタリヤはゴチュリと最奥へと容赦なく侵入した。ガコンッと、明らかに段階を踏み越える。
くっぽんっ!と、はめ込み結腸をブチ抜いたのだ。
「イッ、ぁ……、! も、…ぅうごく……な! っ、ンッ ん……っ」
とうとうこれ以上の奥はダメだとこんなの知らないと、ディルックは首を嫌々と降り始めた。なんてものを教えてくれたんだ。こんなの知ったら、もう……熱くて苦しくて、その苦しいことが気持ちよい。
流石にそこまでより一層、シーツに身体をうずめるようにジタバタされて、流れに身を任せるほどタルタリヤも人間は捨ててない。だから、そっと顎を、頬を、耳を撫でて落ち着かせる。まるで世話をやくように。本当はいつもこうやって甘やかして、どろどろにしたい。自分のわがままを受け入れて欲しい。この場だけ叶う恋。声も聴きたいが、キスもしたいという矛盾。両頬を抑えて口を開かせる。ここまでディルックは頑なに唇を閉ざしていたが、一度タガが外れれば堰を切ったかのように、赤い舌がチラチラ見えるので、やはり一度は塞ぐ。そのキスも一瞬しか許されていないが。
「まだ、ツライ?」
「も…くるしっ。…また、おおきくなって………」
「きみが、締め過ぎるから。我慢が効かないんだ……」
「あああっ、深っ…。はう、…あン」
二人ともずっと熱をせき止められたまま、気が狂いそうだ。解放されたい。なんとかタルタリヤは動かないように努めているが、ディルックのナカはずっと、きゅーと吸い付いて身震いをしている。性器に浮き出た血管の筋さえ刺激となって、感じているのだろう。ぐち…ぐち…と、静かな体動が二人の繋がる身体に襲い掛かり続ける。
「んっ、う…くぅ…ッ ふっ。は、……はや、……く」
「なに? ゆっくり、で良いから。教えて?」
息を整えることも忘れてブルブルと震え混沌に落ちているディルックを、舞い戻すように声をかける。何かを言っているが、断片的で聞き取りにくい。耳を澄ませても、言葉の端々がかすれていて意味を結ばない。けれど、その表情には確かに何かを訴える必死さがあった。静かに声を重ねると、わずかにこちらに焦点が戻った気がした。目の奥で渦巻いていた混乱が、ほんの少し和らいだようにも見えて、そして。
「からだが、…うずく。……ふっ、…ん!…、うごい、て……ぁ、」
熱い吐息の中、絶え間絶え間で、何とか喋る。こんな状態でも、欲しい。足りない。寂しい。解放されたい。そんな順良な言葉は口に出来なくとも、これがディルックが最大限言う事が出来る願望だった。
タルタリヤとしても、こんなものほしがるねだりをされては、返事をする間もなかった。即座に腰を最大限に引き一息の間もなく、ぷちゅ、ずぷぷ…と容赦なく吸い付いて離さない肉壁を犯しながら、ぢゅごっぢゅごっと何度も最奥へ狙い定めて、楔を打ち込む。一旦引くときは、ぢゅぶぶぶっと絡みつくように求められ、いざ挿入すればずちゅうっと何度でも歓迎してくれるディルックのナカ相手に止まる理由が、もうなかった。ピトリと根本までつくほどに何回も。そうして、最奥にも形を覚え込ませるのだ。
「っう!、いっちばん、おく……、きつっ……い。それッ、だめ! 出てるッ、から。…、はげしっ…」
訴えなくともディルックの性器からは、じょぱっと何度も薄い精が出ているのは、頭の隅ではわかったが、タルタリヤも既に理性がおいついていない。ただひたすらに、そのにゅくりっとした前立腺をぐりゅっぐりゅっ追い詰めたあとに、ねっとりまとわりつく肉壁をずりゅずりゅと堪能し、最後に一番奥をこじ開けて、とちゅっとちゅと結腸を貫通することしかできない。強い感情を叩きつける。
「んうっ! あぐ…っ! ……ンンン! っ、あ、……アァ、ア!」
「う、……くっ!」
打ちぬくほどに、がぽんっとハメ込んだ瞬間。抑えていたディルックの腰が飛び上がり、落ちたことを示した。みぢみぢだったナカは、最大限にタルタリヤの性器をぬちぃと全体的にがっちり引き締まる。締め付けが強すぎる。吐精が促されたまま、タルタリヤも身を甘美に任せ、がぽっとこぷっ、こぷっと薄いスキンの中へ注ぐ。
余韻中もグッグッと押し付けていたものの、ディルックが足ピンし過ぎている事に気が付き、解いてあげる為に、ようやく身を引こうとする。ゆっくりとした動作ではあったが、その間でも脱力したディルックのナカはむちゅっと吸い付いてくるから厄介だ。それでも何とか、ずる…る…゛ぬぽっと音を立てながら、性器を引き抜いたのだが。
「あっ!」
「……なん、…だ?」
未だ完全には現実に戻ってきていないディルックではあったが、それでもタルタリヤが不用意に叫んだので流石に怪訝な疑問声を出す。やっと引き抜かれて落ち着いたと思ったのに、再び胸の奥がざわつくのを感じたようだった。ディルックは目を細めてタルタリヤを見つめる。
「ごめん、慌てて余裕なかったから、スキンが君のナカで外れたみたい」
正確に表現するのなら、ディルックのスキンの付け方が下手だという前提を忘れて、思う存分抜き差しをしていたせいなのだが、それを口にすることは流石のタルタリヤとしても憚られる。一応途中で、若干ズル剥けな予感がしたのだが、男の本能が先行してしまったのは否めない。
「……は? ………っえ、………ンンっ! ……はっ、…ァ!」
「動かないで、多分スキンから漏れてる」
まさかの事態に混乱したディルックは身を捩っている。おかげで、ドロオとナカで遅れて精液が落ちているのだろう。しかも最奥の一番弱い場所へ、溜まる。残されたスキンの異物感より、遅れてやってきた熱い精液の方がよっぽど厄介なのだろう。その存在を実感した瞬間、明らかにディルックは見悶えた。ぶるぶると震えると、余計にスキンから精液は漏れ出す。このままではナカに滲み込んでしまう。
「とりあえず、掻き出すから。大人しくしてくれるかな?」
「むり、だ……、こん…な。あっつ……いの」
既に可哀そうなほどにぐちゅぐゅちゅになってる後孔の縁に、ぢゅぽっと指を差し込むと早速ディルックはびくんっと跳ねた。その衝撃で、もちろんまたスキンから精液は漏れ出す悪循環だ。
これは…一筋縄ではいかないことをタルタリヤは予期した。
そうして、明日また怒られても良いと思う程の姿をこの夜は見せてくれたのだった。
attention!
アヤックス(14歳)×ディルック(17歳)設定の小話
「今のは違うな」
鋭くアヤックスの元に届いたスカークの声に、特段の感情は乗っていなかった。
アヤックスは、つい癖で同じ失敗を二度繰り返してしまった。スカークの修行は、非常に独特だ。その為、元来海屑町で狩猟などの為に必要とされた武芸とは方向性が違った。特に、弓は未だに苦言されることが多い。
短いなりにも師弟関係を築いているアヤックスからすれば、この後のスカークの行動は暗に予想が出来た。しかし、予見が出来たとしても、師匠の行動の方が遙かに早い。すっと伸びていたのか、腕だったか剣だったかはたまたそれとも元素だったか、その判断も付かぬまま。次にアヤックスに訪れたのは、圧倒的な衝撃だった。これは、スカークの罰の一環である。その見た目とは違い、案外スカークの手癖は悪い。それも大体がほぼ無言で押し通される。
「うわっ……」
あまりのスピードに、かろうじて一声出せただけでも快挙と言えるだろう。浮遊感を与えられる暇もなく、ただただ世界の流転に巻き込まれた。そうして、アヤックスは突如生み出された深淵の裂け目にあっけなく放り込まれたのだ。
・
「ん…ここ、は」
今思えば、はじめてアヤックスが投げ飛ばされた先は、たしか無人島だったか。間違っても飛ばされる先は、人間が住まうような場所ではなかった。罰の一貫だから、当然と言えばそうなのだが。
さて、二度目となった今回は、一言でいえば雪山だった。少々無様な着地をしたが、慣れた新雪の上となれば話は別だ。基部は堆積岩、山体は片麻岩で形成されている。山肌は雪が多く、高山植物も彩りはなく雪の合間に薄っすら見えるのみだ。ここは、切り立った北壁の断崖絶壁の淵にいるようだ。この山は4つの斜面を持つようで、珍しい独立峰だから見通しは良い。標高がそれなりにあるらしく、薄っすら雲がかっている。どうやら故郷スネージナヤではなさそうだ。水分量から判断しても雪質が違う事が知れた。
「――誰かそこにいるのか?」
さてどうしようかとアヤックスが思考をぐるりと一巡りしているところで、予想外の声が聞こえてきた。極寒のせいで幻聴かとも思えるほどではあったが、声と同時に本当に人がそこにいた。
アヤックスと同年代ぐらいの青年であろうか。一番印象的なのは、その長い赤髪。焔のような思念を背負い、風に舞う緋の流れのように思えた。静謐と激情の境を歩み、熱でも冷たさでもない、曖昧な温度をまとっていた。燃えるような赤ではない。どこか鈍く、時間にさらされた鉄のような赤。長く伸びた髪は、彼の沈黙を補うかのように、その存在を主張していた。白だけに包まれる世界で、まるで唯一の存在だった。
「なぜ、ここに子どもがいる?」
「子どもって、もしかして俺のこと?」
「この場には、君しかいないだろう。当然、君のことを言っている」
「俺は子どもじゃないよ、今14だし。そういう君だって、俺より少し年上なくらいだろ?」
整った顔立ちをしているのに、赤毛の青年は意外と遠慮ない物言いをしてきた。相手がそういう対応をするのなら、アヤックスだってもちろん言い返す。スカークからは子ども扱いされているが認めているわけではないし、海屑町では成人相手にも大立ち回りをしているのだ。見ず知らずの同年代に、子どもと揶揄されるのは本意ではなかった。正直、赤毛の青年の正確な年齢はわからない。ただ童顔なだけかもしれないが。
「僕は、騎士だ。少なくとも君とは立場が違う」
「騎士?」
はてと、存在は知ってはるが馴染みの薄い言葉を、アヤックスは頭の中で反復する。
「僕は、西風騎士団の騎兵隊に所属している」
「西風騎士団って、もしかして……ここモンド?へぇー、はじめて来た」
こんな感じなのかと、アヤックスは周囲を改めて見渡した。なんか想像のモンドとちょっと違う。緑がそれなりに豊かだと聞いていたはずだが、まごうことなき雪山でしかない。遠くの山々は薄っすら視界に入るが、標高がそれなりなせいか、遠くの山筋しか見えず、地表がどうやっているかはさすがにわからない。
「ここは、モンド領のドラゴンスパイン。この国唯一の雪山だ。君は、他国の人間か?」
「ああ、俺はスネージナヤからやってきたんだ」
「随分と遠くから来たな。なぜ、スネージナヤの人間がここにいる?」
赤毛の青年は訝しんで、尋問よろしくこちらに質問を投げかけた。どうやら見た目通りの真面目で、これが彼の職務らしい。自国の評判が他国にあまりよろしくない事は知っているし、状況から考えたら怪しむのも当然だろう。しかし、アヤックスにも事情があるのだ。
「んー修行の一環でさ。師匠に連れてこられたんだ」
「その師匠は?」
「今はいない。頃合いを見て、また呼びつけてくるとは思うんだけど」
「つまり、迷子か」
「違うよ!」
まさかこの年になってまで、そんな扱いを受けるとは思わず、アヤックスは憤慨する。もしかして大分失礼なのかもしれない。
「ともかく、君は僕が保護する。それが騎士団の努めだからな」
「えー、いいって。頼んでないし」
確かにいくら寒さに強いスネージナヤ人とはいえ、このような寒空の下にいたら、一溜まりもないであろう。それをこの目の前の赤毛の騎士が心配するのは理解できるが、アヤックスにも都合というものがある。ついでに矜持もある。つまるところ、素直に言う事を聞くなんて選択肢は一切なかった。だから、意地でも動かない。
「無理にでも連れて行きたいなら、俺を再起不能にしてから引きずっていけば?」
「それは騎士道に反する」
「へえ、自信がないと?」
そこまでアヤックスが挑発すれば、赤毛の騎士だって黙って良い大人のふりをするつもりはないらしい。ピキッとわかりやすいくらいに、若干癪に障ったという様子を隠し切れない。やっぱり騎士とはいっても、アヤックスより幾分年上なだけで未だ成人しているわけではない十代なのだ。わかりやすい。
「素人に手を出す道理がないだけだ」
「ふーん、それなら俺が君の驚異になったら?俺の目的は、世界征服だ。もちろんそれにはモンドも含まれるよ。つまり、西風騎士団は俺の敵にもなり得る。早めに芽はつぶした方がいいんじゃない?」
スカークは修行の罰として、ここにアヤックスを放り込んだのだ。何を考えているかわからない師匠とはいえ、何にも考えていないわけではない。詰まるところ、目的は戦いだ。目の前の好敵手が現れたのだから、相手が最大限に力を発揮できるようにお膳立てをして、向かうのがアヤックスの流儀であった。その結果の先にあるものをどこまでも見据えたかったから。ただ、ゆらりと表情を変えた赤毛の騎士の印象は、アヤックスの予想とは違った。輪郭を拒む瞳は、見えぬものを見透かし、名もない世界の色を変えていく。長く流れる髪は、どこか現実から浮いた存在感を持ち、見る者に一瞬の非日常を思わせる。まるで、夢の中でだけ触れられるような人。
「君は少し現実を知って、痛い目をみる方が良いかもしれないな」
それでも、アヤックスの意図を知ってか知らずか、赤毛の騎士は抜刀をして見せた。本意がどこまでかはわからないが、最初は子どもと侮っていたが、一人の青年としてきちんと向き合ってくれたのだ。だからそれが嬉しくてアヤックスも唯一携帯していた、直前にスカークに冷ややかに言及された、弓を取り出した。
騎士と戦うのはもちろん初めてだ。自然と高揚感が胸の奥から湧き上がる。当然のように、期待が勝っていた。言葉よりも確かな、心と心の交差点が戦いの中にあるのだと、どこかで知っていた。しかし―――
「なんだ、その弓の構えは?」
少し構えていた剣をおろし、赤毛の騎士は忌憚なく疑問を口に出した。一瞬のうちに緊張が解かれる。
「え…俺はいつも、こうだけど?」
「君は、口ばかりで本当は武人ではないのか?」
「失礼だなー じゃあ、見ててよ」
明らかに小馬鹿にされているのがわかったので、アヤックスは口で説明するより、行動する方を選んだ。指摘された構えはそのままに弦を引き絞ると、世界が一瞬、静まった。指先に感じる緊張は、ただの力ではない。心の乱れがあれば、それは矢の軌道に現れる。左手で弓を支え、右手で矢羽をそっと引く。張りつめた弓の音が、かすかに風を切った。目線の先には、的??ではなく、自分自身の限界があった。息をひとつ殺す。指を離す瞬間、全身の感覚が一点に集まる。 放たれた矢は、風を割り、音もなく空を駆ける。狙いを外さぬようにと祈るでもなく、ただ自然に、それが“そこ”へ届くことを知りえていた。次の瞬間、乾いた音が静寂を裂いた。的は、はるか遠方の燭台であった。それまで目印として雪風にも負けず周囲を紅く照らしていた炎に向けて飛んだ矢は、燭台を雪地へと落とし、炎は消え行く。
「なぜ当たる?」
ここで、赤毛の騎士が一番素直に言葉を出したのかもしれない。驚きを隠せてはいない。
「ほらっ、命中しただろ?」
「君は、もしかして才能があるのか?」
「さあ、わかんないけど。構えは確かにあんまり教わってないから、自己流かな」
最初は、見様見真似で狩猟していた。いざ武芸を学ぶとなった時、スカークはどちらかというと、感覚派だった。見て覚えろ的な。一から十までの丁寧な指導ではない。だから、一度はモーションを見せてくれるから盗み取る的な。それでもダメと言われて、自分なりに訂正をするが、うまくいかないことも多い。ただアヤックスも細かい指図を受けるくらいなら、そっちの方がいいとも思っている。
「弓を貸してみろ」
「え?あ、うん」
色々と考え込んでいた赤毛の騎士がこちらに手を出してきたから、促されてアヤックスは弓を手渡す。
赤毛の騎士は慣れた手つきで静かに足を開き、地を踏む。背筋はすっと伸び、肩の力は抜けている。無理も誇張もなく、ただ自然に立つその姿は、まるで一本の柱のようだった。左手に弓を取り、右手で矢をつがえる。動きはなめらかで、どこにも迷いがない。まるで、そこに至るまでの一連が最初から体に刻まれていたかのように。ゆっくりと弓を引き始める。肩甲骨がわずかに寄り、肘がしなやかに後方へ流れる。腕だけでなく、全身がひとつの軌道に沿って動いていた。弓はきしまず、静かにしなる。彼の姿勢は揺るぎなく、重心はぶれない。矢が弦に乗り、目線がまっすぐに定まる。呼吸を整え、無音の間が訪れる。そこにはただ、「的」と「射手」とが存在するだけだった。
「えっ、凄い!めちゃくちゃ綺麗なんだけど、君って剣だけじゃなくて、弓も使えるの?」
「騎士として、一通りの武器種は習うからな」
赤毛の騎士は、あまりにもすっと目を惹くフォームだった。間違いなく、姿恰好だけはアヤックスより整っているだろう。彼の弓技は正統派だった。実際のところ実戦でここまで丁寧に対応できるかは別としても、理想的な姿であった。
「僕としては、めちゃくちゃな構えなのに、きちんと的に当てる君の方が型破りで、余程疑問だ」
「まあ、当たっているからいいじゃん」
「今はいいかもしれないが、将来の為に覚えておくべきだ。変な癖がつくのは良くない」
今ならまだ軌道修正が出来ると、言われた。確かに、認めなくないがアヤックスはまだ本格的には弓を覚えたてである。悔しいから的に当てる事だけばかりに今まで尽力していたことは確かで、少々痛いところを突かれた感はある。現に今回、スカークに投げられたのも弓のせいであったし、だがあの師匠は少々無口気味で具体的にここを直せと言わないから、わかりにくいのだ。だから、もしかしたら…
「たしか君には師匠がいるんだったな。構えは改めて確認した方がいい」
「うん、とりあえずさっきの君の姿は、目に焼き付いたよ。思い出したんだけど、最初に狩猟の為に弓を教えてくれたのは確かオヤジだったな」
新鮮だった。たまには基礎に戻ってみるのも悪くないのかもしれない。懐かしい。そもそも父親が構えを正統に教えるタイプじゃなかったので、今こうなってしまったとはいえ、苦手とはいえ弓の楽しさを教えてくれたことに違いはない。だから、うまく扱えなかったとしても、スカークに投げられる原因となっても、アヤックスは弓が嫌いではなかった。
「僕も最初は、父さんに教えてもらったんだ」
「へー、君のオヤジさんも騎士なの?」
「いや、父さんは違うんだが、僕が騎士になったことをとても誇りに思ってくれている
「いいオヤジさんだね」
「ああ、自慢の父だ。とても尊敬している」
そう言う赤毛の騎士の口元が薄く緩んだのを見て、アヤックスは少し驚いた。ガッチガチな騎士として、今まで真顔か不審的な表情くらいの二択だったのだ。それが父親の話となったら、どうだ。きっと、彼も家族を大切にしているのだろうと瞬時に理解した。アヤックスの一家は、兄弟も多く大所帯だ。父親も少し口うるさいくらいだが、家族が一番大切で、もしかしたら目の前の青年とは方向性が少し違うかもしれないが、それでも家族を思いやる気持ちはきっと同じだと思った―――
「なんだ、あれは?」
歓談の最中、赤毛の騎士は突然不可解な声を出した。目線の移った先をアヤックスも見ると、軽く吹雪いている空の先に、空間の裂け目が少しずつ現れていた。海のようでもあり空のようでもあり、だがどこまでも飲み込む深淵への入り口。闇の中でも、ひときわ深い闇だった。星々の光が遠巻きに避けて通り、時間さえもその渦に引き込まれる。そこには“存在する”という言葉すら、どこか違和感を伴う。最も密度の高い沈黙が、確かにそこにあった。 形は見えない。ただ、何もかもがそこへと落ちていく。光も、音も、重力に従う理すらも、境界を越えた瞬間、意味を失う。観測できるのは、その縁に立ち現れるわずかな光のきらめきだけ。重力に引き裂かれた星々の断末魔が、まるで供物のようにその周囲を彩る。時間は伸びきり、空間はねじれる。そこに近づくということは、もはや未来へ進むのではなく、因果律そのものに別れを告げるということだ。それでも、アヤックスはその闇を見つめていた。
「ああ、これは。師匠が上に上がってこいって言ってるんだ」
「遭難してたんじゃ、本当になかったんだな」
意外にも赤毛の騎士は、どこまでも異質な深淵をこれ以上追及しなかった。それは、アヤックスの覚悟が固まる様子を見ていたからかもしれない。だからの、あえての茶化しの言葉でもあるのだろう。
「まだ疑ってたの?君こそ、騎士団ってわりには単独行動してるし、遭難してたんじゃない?」
「君と一緒にするな。僕は、きちんと戻る」
「そう、じゃあ、俺はそろそろ行くね。付き合ってくれて、ありがとう。またね」
「また…とは?」
「君とはまた会いたい、俺はそう思ったから」
それだけ伝えると、とんっと雪面をアヤックスは蹴り、跳躍する。まるで時空の狭間に吸い込まれるように、身体が浮く。この先へは恐怖ではなく、畏敬でもなく、ただ純粋な「問い」があった。この先に何があるのか。すべてを超えた向こう側に、いったいどんな真理が眠っているのか。そしてアヤックスは、意志をもって一歩を踏み出すのだ。光さえ逃れられぬその暗黒へ??
赤毛の騎士は、明確には言葉は返さなかった。是非なのか、非なのかわからなかったが、……ただ、首をふりはしなかった。今はそれだけで良かった。
馴染みすぎた故郷の雪とは違う印象を、この日アヤックスは記憶として刻み込む。
ただ、ああ…彼の名前を聞いて置けばよかったな。と、たまにこの邂逅を思い出すのだ。名乗りも名乗られもしない関係が、次に再会したときにはどうなっているのかと、修行が終わった後の一つの楽しみとなった。