attention!
リオヌヴィとフリーナちゃんが、セッしないと出れない秘境に閉じ込められる話。全年齢ギャグ。

5/26のイベントで無料配布した内容と同一となります。








地脈異常 『セックスしないと出られない秘境へようこそ』
その表題を見た瞬間、全てを悟ったフリーナはそのまま押し黙った。

たとえ時計があったとも、響き渡るこの轟音がいつになったら止まるのか、フリーナにはまるでわからなかった。ただひたすらに秘境内のありとあらゆる箇所に濁流を噴射するヌヴィレットと、今までフリーナが見たことがないほどに憤慨しナックルを完全に武装モードにしながらも氷塊を作っては粉砕するリオセスリが、その場を奮闘していた。
「フリーナ、君も助力を」
故意にサボっていたつもりはないが、思わず手が止まってしまっていたフリーナ相手にヌヴィレットから声がかかる。
しかし本当に申し訳ないがイマイチ、フリーナはやる気が起きなかった。一応最初はサロンメンバーを召喚しやることはやったが、それら全ては無為であったという確認はフリーナの中で確証してもうある。だから、きっとこの行為は何をどうあがいても無意味なのだろうし、未だ破壊活動に勤しむ二人も心のどこかでわかっているのだろうが、だからといって棒立ちをできるほど安静にはいられないからこその行動なのだろう。

―――ここは、フォンテーヌのとある箇所に突如現れた秘境。
旅人から国内に新たな秘境が見つかったと聞いたフリーナは冒険心を覚えて、ちょっと探検するくらいの気持ちでいたのだ。しかし勝手に一人で行くとなると、心配をさせるので一応ヌヴィレットに一声だけかけて……と思ったのが運のツキであった。当然のようにヌヴィレットは同行すると言って引かなかったし、ちょうど報告で水の上に上がっていた公爵リオセスリも、それならば二人を護衛すると引かなかった。何度かの押し問答をした後、あくまでもフリーナが先行して自主性を尊重するという形での冒険が承諾された。そんなわけで男二人が後ろ遠くから後を付けてきているなという認識はありつつも、はじめての秘境探索にウキウキしながらフリーナは進んだ。
秘境内は最初こそはありふれた通路であった。秘境を攻略するには、鍵となるフロアを探す必要がある。予想通り、階段を降り重々しい扉を開けて現れた空間があった。大抵は、敵意剥き出しの迫りくる輩を倒すという形式めいた強要があった。今回の秘境は入り組んだ迷路タイプではなく、ごくシンプル。開放的な空間に、上がり下がりをする階段がいくつかの一直線。中央に、石造りの敷き詰められた床が存在し、そこだけが少し広い空間となっている。出口と思われる生命の樹を模したオブジェクトも、奥に見受けられる。あまりにも見慣れた光景だ。とりあえずいつものように部屋の中央に鎮座した、宙に浮かぶ赤い鍵へフリーナが起動を促したのだが、なにか反応が違う。即座に現れる敵の群れたちという筈の、動きは皆無であった。もちろん浮かび上がっていた赤い鍵は喪失しているので、起動に失敗した様子は見受けられない。しばらく首を傾げていると、煌々と輝くテイワット共通語が空に示された。地脈異常 『セックスしないと出られない秘境へようこそ』と。
瞬時に消えた赤い鍵の代わりに、おあつらえ向きのキングサイズのベッドが秘境のど真ん中にどーんっと鎮座したので、思わずフリーナは後ずさりした。そうして、なにこれぇ……と、心の中だけで口にして怯え震えた。
「どうしたんだ?」
「なにか、あったのか?」
気を使ってわざと少し離れてこちらの様子を見守ってくれていたリオセスリとヌヴィレットも危険を察知したのか、こちらに近寄って来てくれたが。
そうして、浮かんだかの文字を目撃した結果。怪訝な顔をして言葉を認識し、文字通り暴れる事となった――――無言で。この後から、二人は秘境の暴力的な破壊行動を目論むこととなる。とにかく破壊するしかないと、心は一丸となったのだろう。鍵を起動した瞬間から、秘境独特のシールドのような空間に包み込まれた為、三人はこの秘境から出る事は一切できなくなってしまった。宙の高い天井・見た目に反する強固な壁・特殊な材質にも思える無機質な床…そして問題のベッドしか存在しない空間で、時には武器を使用し、時には元素で攻撃をする。各々が過激に元素を使えば、水たまりや氷柱のせいで勝手に凍結反応が発生し、至る所で冷気が見受けられたが各々傷つかずびくともしない。その他、ありとあらゆる方法を使い躍起になり脱出を試みたが、全てが無為に終わった。脱出の為にと得意の元素を使ってあれこれ試行錯誤したのだが、ものの見事になしのつぶて。
いつもならある程度の時間が経過すると強制排出される秘境な筈が、そんなカウントは永遠に始まりそうになかった。また不思議な事に、ここにきても一切喉も乾かないし空腹を感じることもなく、眠気や他の生得的行動は一切生じることがなかった。五感はしっかりしているのに、時間感覚がどこまでも薄いのが唯一の問題か。
「二人とも、一旦。手を止めてくれるかい?」
既に諦めていたフリーナは早々にサロンメンバーを撤収させていたが、未だ虚空に攻撃するリオセスリとヌヴィレットに比較的大きな声で制止を求めた。この国でも最高峰の頭脳の二人だと思うのだが、案外最初に手が出てしまうのは、この地脈異常がうちの国に相応しくないエレガントさからかけ離れているせいなのか、それとも実はこの二人の隠された気性なのかそれはわからない。ただ、連携する攻撃の息がピッタリだったことが、余計にフリーナの声をかけにくくなる要因でもあった。
そうしてようやく鶴の一声であるフリーナの声が届いたのか、二人は武器と元素力をしまってこちらにやって来てくれた。でも、リオセスリは件のベッドの横を通り過ぎる際にさり気なく邪魔だと言わんばかりにきちんと悪態もついて、ベッドを乱雑に払いのける仕草を入れた。しかし、不思議なシールドに守られたベッドは当然のように傷一つつかなかった。そう、自分たちの攻撃はこの空間にまるで干渉できないという現れでもあった。
ともかく並んでフリーナの前にやって来てくれたリオセスリとヌヴィレットはきちんと、今フリーナのいる視界からはあの問題の地脈異常の文字が見えない角度にわざわざ、すすーと位置取りをしてくれた。さすが、長身だからこそできる配慮である。
「フリーナ、何か発見でもしたのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど。ほらっ、二人とも力を使って疲れただろ。少し休憩でも、と思って」
「休憩って言ってもな……」
ヌヴィレットの問いにその場を誤魔化すフリーナが思いつきで回答しても、リオセスリが休憩の意味を深読みする声が出てしまう。フリーナができるのだから二人とも元素で自前の椅子でもなんでも用意できるのだろうが、明後日の方向にあるベッドで休むのが一般的だと思ってしまうのは仕方ない。そんなつもりは一切なかったが、だがさすがにここに閉じ込められてはその問題ばかりが直面するのだ。
(なんで僕が、こんな目に……)
必死に泣き言を言わないようにとフリーナは気丈にふるまったが、そう嘆きたくなる最大の理由があった。
二人は一応隠しているが、リオセスリとヌヴィレットがいわゆる交際関係であることをフリーナは見知っていた―
さすがにリオセスリの事はほぼヌヴィレット越しにしかそこまで見知っていないが、ヌヴィレットは数百年以上も近くにいた存在で、そんな彼に変化が訪れればフリーナとて察する。ヌヴィレットは感情を見せないと専ら噂だが、フリーナからすればだからこそ些細な変化にも機敏に気が付く。
長年の付き合いでわかるよ、何百年見てきたと思っている? 隠してるけどバレバレだよ? 特にヌヴィレットは、リオセスリがやってくると明らかに機嫌が良かった。両者の立場からすれば、恋愛劇ばりの関係性だから仕方ないのかもしれないが。
ともかくフリーナは、今自分は巻き込まれた側だと理解している。もし、自分がこの場におらずこの二人だけがこの珍妙な秘境に遭遇したらすぐに解決出来ただろうと思うくらいの関係性なのだ、この二人は。だけど今フリーナに悟られないようにと遠慮され、秘境に閉じ込められたままなのである。正直、ツライ立場である……大人な二人がフリーナに配慮しているというのはわかる。もしかしたら、二人の関係は知りえているからと正直に指摘して吐露しても、とぼけられる可能性もあった。それは、困る。余計に事態を悪化させる可能性もあった。内容が内容だけに。ともかく、今の自分の場違い感の激しさが一番苦しかった。
(僕が知る限りでも、この二人それなりに長く付き合ってると思うんだけど……)
どうしてもこのトンデモ達成条件を意識してしまったようで、先ほどの二人の行動にはイマイチ洗練さが足りなかった。まるで色恋沙汰にドギマギする恋愛初心者のようで、じれったい。大体、いつももっと距離が近いのにわざと今離れているようにも思えた。それにさきほども、仲良く?破壊活動に勤しんでいたが、両者チラッチラとアイコンタクトを交わしていた。アタッカー二人のそんな様子を後ろから見てしまえば、さすがのフリーナも加勢する気がなくなる。だから、こうして達観するしかなくなっていた。やはり、根本的な解決が必要だった。その為に、とりあえず話し合いだ。
「二人とも随分と必死に頑張ってるけど、この秘境。ビクともしないだろ? だから少し、作戦を考えてみないかい?」
「作戦……って、フリーナ様。あんた、妙案でもあるんですか?」
「それは、これからみんなで考えて、だね……」
作戦……あるよ? ていうか、脱出方法一つしかないよね。絶対に。だから、早くここから出してくれぇ〜〜と内心で叫びながら、リオセスリの疑問をフリーナは平坦に返すしかなかった。救助を待つのは現実的ではない。いや、確かに待てばいつかはくるかもしれないが、こんなヘンテコな場所でいつ来るかわからない助けを求めるのは嫌であった。耐えきれなくなって、精神が狂う可能性だって有り得る。
「仕方ない……やむを得ないが、するとしよう」
「ヌヴィレット! ようやく気が付いてくれたのかい?」
ぱぁっとまるで太陽の光がこの秘境内に降り注いだかのように、フリーナは思わず歓喜を隠さずに声をあげてしまった。まさか、この場で一番奥手と思われるヌヴィレットが一番槍を名乗り上げてくれるとは意外であったが、さすがフリーナの長年の心の友である盟友だ。この居心地の悪さを解決してくれるのが彼で本当に良かったと、思わずフリーナは両手を合わせて拝んでしまうところであった。
しかし―――現実はそう甘くはなかった。一度だけ虚空を見上げたヌヴィレットは、件のベッドに向けて元素スキルと元素爆発を立て続けに放出した。何度か見慣れた光景で、当然のようにベッドへの破壊活動はなされなかったが、敵という扱いをヌヴィレットがしたようなので源水の雫が九個現れた。そのままふわりと宙に浮いたヌヴィレットは、源水の雫を吸収しその極大強太火力を、秘境を覆う前後左右の空間に向けて放出したのだ。
「その……ヌヴィレット。これは一体何をしているだい?」
「この空間を私の水で満水して、その圧迫した力で秘境を破壊し、脱出する。リオセスリ殿、船の準備を」
「ああ! こんな感じでいいかい? ヌヴィレットさん」
さすがお付き合いしているだけあって息ピッタリなようで、リオセスリはすかさず元素スキルと元素爆発を用いてこちらも与えられた水を意気揚々と凍らせて三人が乗るノアの箱舟ばりの氷塊で出来た船を構築しようとしている。消防法も真っ青な物量である。荒れ狂う洪水がフリーナの足元に迫ってきたところで、極限状態でノリノリとなってしまった二人に対して本格的に危機感を覚えた。
「ちょっと、二人とも! 勝手に、そんな危険な事をやらないでくれよ?」
「大丈夫だ、フリーナ。君の安全は保証する」
「万が一、氷の船が壊れてもヌヴィレットさんはもちろん俺も神の目があるから水の中に落ちても問題はない」
「そういう問題じゃないよ。こんな大それたことをして、ダメだった時に取り返しがつかないよ。ともかく、一旦二人とも手を止めてくれぇ!」
フリーナの叫びがあまりに悲痛だったせいか、渋々といった表情ではあったが二人は、元素を扱うのをやめてくれた。足元の水が横に引いていくのはヌヴィレットの仕業だろうが、それがまるでモーセの海割りみたいになっている。優秀な二人なのに、ところどころポンコツ気味になってしまったのは何故だろうか。あまりにも手段が極端すぎた。それでも一応フリーナに怒られているという意識はあるらしく、素直に出してしまった水と氷の片づけを黙々としている姿は何とも哀愁漂っていた。
「コホン。二人とも、ちょっとこっちに来て欲しい」
片づけの終わった二人を、改めて呼びつける。フリーナが指示した場所は、秘境の中心。つまり件のベッドの近くであった。ちなみに煌々輝く脱出条件もこの真上に聳え立っている。だから、ギミックを解除するには……
「今日の秘境探索は、本当は僕一人で赴こうと思っていた。それを、二人がどーーーしても心配だから一緒に付いてきたい。だが、僕の自主性は認めるっていう条件だったね?」
「そうだ、だから私は。このような不慮の事態となり、君を助けようと……」
「つまり。僕の現在の立場は色々複雑だが、少なくてもこの秘境内では僕がリーダーで、この場で一番偉いのは僕。僕の言うことは絶対! この認識はあるよね?」
「ああ、まあ。一応は」
「ならば―――僕は二人に命令を下す。これは緊急事態だ。僕は、この秘境から脱出したい。だから……二人で僕の為だと思って、この場で解決してほしい」
明らかに頭上の脱出条件と目下のベッドに交互に視線をやりながら、心を鬼にしてようやくフリーナは言い切った。
やり遂げた……僕は演技派なんだと、が。―――やはり、揉めた。
この場で誰もがあえてふれていなかったソレにきちんと向き合おうとしたのがフリーナだという事に申し訳なさがあるらしい。目を丸くしポカンと薄く口を開けて固まる二人を並んで見る事が出来た事だけが唯一の利点であったが、そんな高揚に浸る暇はなかった。正直、この件に関して押し問答するつもりはなかった。ていうか、話したくない。謎の遠慮をされるとか、もういいから。情操教育に悪いとか思われていそうだが、フリーナが十や二十の子供じゃないことくらい二人も知っているだろうに。第三者だからこそフリーナが一番冷静に見て取れるのだ、何ともじれったい。指摘したからこそ、もうこちらは遠慮しなかった。恥ずかしさを乗り越えて露骨に言ったのだから、早く完遂してほしかった。言い切らないといつまでたっても、埒があかない。どう考えても選択肢は一つしかないのだから。
「流石の僕だって直視したいわけじゃない。デリカシーくらい知っている。ヌヴィレット、キミなら視界や音を遮る水の結界くらい張れるだろ?」
「確かに可能だが……」
「おいおい、ヌヴィレットさん」
今度は二人が軽い口論となったが、フリーナは見逃さなかった。二人で遂行して欲しいと伝えた瞬間、この二人。明らかにほっとした様子を見せたのだ。
僕は……知ってる、知ってるよ。この二人、最近多忙だったから、今日会うのも久しぶりなことを。フリーナの護衛とかこつけて、二人の一緒にいる時間を長引かせていたことを。そうだ、僕は多少ダシにされたのだ。きっとだからこんな変な秘境に引きずりこまれたに違いない。と、フリーナは多少躍起にもなっていた。まさか、この二人の柔軟剤として立ち回ることになるとは思わなかった。生きているといろんなことがあるんだなって。恋愛関係である二人の様子をこんなに長時間見せつけられて、本当にそろそろ早く出たい。その気持ちでいっぱいになってしまったのだ。
「何度も言うが、これは命令だ。出来ないの? もちろん、このことを誰かに言いふらすつもりはない。僕は早く脱出したいだけだ」
とても気まずい雰囲気が流れている。もはやフリーナは早く逃げたいだけとなっていた。それでもどこまでもドギマギと渋る二人に対して、とうとう寛大な気持ちでいたフリーナも潮時を感じた。
そうして、すぅっと息を吸ってから、虚勢を張りフリーナは二人に向かって宣言した。

「抱き合え」……、と。

◇ ◇ ◇

なるべく早く慣行すると専したリオセスリをぎょっと見つつもヌヴィレットはベッドの周囲にぶ厚い水の結界の膜を張って、二人は中に入っていった。さすがのフリーナとて命令したからこそ、無理はせずにごゆっくりとも何だか言えなかった。赤裸々に言われても困るが、まあそういうことだろう。だから、ある意味戦場に向かう二人を実直には見送れなかったのだ。
やけに神妙にヌヴィレットは水の結界を張っていたおかげで強固なソレは確かに、外にいるフリーナには音も光の一辺倒も何も伝えることはなかった。ただ水球の中にベッドだけがあり続けるのであろう。無論、直視するような趣味はフリーナにはなく、ただ外の広い空間を与えられた。そうして、さすがに一人では耐えきれないのでサロンメンバーを呼んでなるべく会話をすることを努めた。二人の前では隠していたが、いまさらこちらが恥ずかしくなってしまい、もじもじと照れて時にはバツが悪い顔ともなってしまう。そのたびに、こちらからは見えていないけど向こうからもこっちは見えていないよな?と警戒してしまう。まあ当の二人は今、それどころではないのかもしれないが。ともかくフリーナは、なるべくサロンメンバーとのおしゃべりに意識を注力するようにした。
―――そうして、何分何十分……何時間経った頃だったろうか。フリーナは時計を所持していなかったしこの秘境にもそのようなものはなかったので、正確な時間はわからなかったが。
ついに『セックスしないと出られない秘境へようこそ』と掲げられていたテイワット語は、一度だけピカーっと眩い白い光を放った後、すぅっと消え去った。
「ひ、……開いた!」
あれだけ頑なに秘境内に存在していた不思議なバリアと外へ続くセフィロトへの道が、同時に一遍に解決した。やった、やったんだついにとうとうと感慨深くなり、この状況に置かれてから一人フリーナは初めて叫んだと思う。思わずじたばたと小躍りしてしまった。何をどう考えてもクリア要因は、その……水球に包まれたベッドの中で巻き起こったことに関連しているだろうが、今は脱出できる喜びのほうがどう見ても上回った。なんだかんだ色々はあったが、やはりフリーナの選択が間違っていなかったという事が一番であった。
ともかくよしっ脱出だと、ここにきてようやくその水球ベッドの方をフリーナは直視したのだが、いつまで経ってもそこに変化は無かった。ん?おかしい、出てこない。いや、確かに明らかな事後を見るも嫌ではあるが。ここでいつまでも二人を待っているのも、とてつもなく嫌であった。出口は示されているからこそ、お預けを食らっているようにも感じてしまう。
「おーい、ヌヴィレットーー。公爵ーー」
あまり近づくのもどうかと思ったので、ちょっと離れた場所から投げかけるようにフリーナは試しに声を張ってかけてみた。サロンメンバーの力を借りれば同じ水元素だから、強制解除とかできるかもしれないが、やりたくないし。とりあえず二人の無事?を確かめたかったのだ。
「……すまない、フリーナ様」
「ん。その声は、公爵かい?」
しばし後、水球にはまるで変化は見られなかったものの、少しの音からそこからこぷりと漏れた。直接空気を通しているわけではないから、響く声量は悪いが仕方ない。とにかく反応があっただけでも行幸であった。
「ああ。そっちの状況はどうなっている?」
「出口への道は開いたよ。恐らく脱出は成功だ。ところで、ヌヴィレットは大丈夫なのかい?」
「あーーー。………すまないが、ヌヴィレットさんはちょっと色々あってここから動けなくなった」
はーへーふーん………フリーナは、それで全てを察した。
ヤバい。僕の知らない世界だ。だから直ぐにはそこから出られないって事かと多少の察しをしてしまった。正直、これ以上の追及は野暮だし、当初の目的である二人の無事は確認できたのだ。今はそれで充分であった。
「わかった、僕は先に帰る。こっちの道中は心配しなくていいから」
「気を使って貰って、悪い」
「いいや、今回の件は僕が望んだことだからね。ただし明日には、この国の最高審判官を帰してくれないと困るから、それだけはヨロシクね、公爵」
「了解。肝に命じる」
短く切った水交じりのリオセスリの声を、最後にまたその声は遠ざかってしまった。

かくして、フリーナは数時間ぶりに、秘境から出る。外の月の高さを見てようやく今の時間を実感する。気が狂いそうになるほど果てしなく思えた秘境内の時間も、どうやらそれほどの長さではなかったようだ。フォンテーヌ廷への道中が少し寂しいような気もしたが、サロンメンバーを伴い、我らがフォンテーヌの未来を担う近しき者たちの繁栄を祈る。

そうして、一度だけ秘境の方を振り返り、
今夜はおたのしみに―――と、薄くほほ笑むのであった。


















ゆ う べ は お た の し み で し た ね