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ヌヴィレット先天性カントボーイ。本番はないので、ぬるい。R-18








「最近の俺は、晴れ男だと思っていたんだけどな」

やや小走りで屋敷に駆け込んできたリオセスリは、ヌヴィレットが手渡したタオルでがしごしと髪に浸された水滴を落としながら冗談めいてそう言った。
まさに、バケツをひっくり返したかのような土砂降りが外では展開していたのだから、それは仕方ない。フォンテーヌの天候はお世辞にも安定しているとは言いにくく、概ね曇っていてどんよりしている事が多い。他国の者からすると、雨が多いと印象を持たれがちではあるが、頻度は多いものの小雨がザーと一時的という事が多く、意外にも長引かない。ただ単に一日の天気が変わりやすいだけである。リオセスリが濡れてしまったのも、傘を持っていなかったからだ。実は傘はフォンテーヌでの文化的側面が多く、元々傘と言えば女性が持つ物という習慣が根付いており、男性が持つ事が少ない事も要因であろう。それに、リオセスリは普段は雨とは無縁の水の下に住んでいるのだ。うっかり失念してしまうのも無理はないだろう。

「すまない。今回の会合は、私がこのような場所を指定してしまったせいだな」
「いや。俺も慣例の為だけに、わざわざパレ・メルモニアに行くのは前々から堅苦しいと思っていたから、こっちの方が気楽でいい」

本日、リオセスリが訪れたのはヌヴィレットが所有するセカンドハウスであった。
もちろんヌヴィレット自身は立場的に必要とされている、公邸がある。警備もしっかりしているし、立地も路線価から鑑みれば上から5つくらいに入るくらいの場所ではあるのだが、リオセスリからするとパレ・メルモニアと大差ないと思われるであろう。だから私邸の方に招いたのだが、いわゆる富裕層向け住宅の一角にあるので、わかりにくかったに違いない。

「えーと、ヌヴィレットさん。あんた、もしかしてこれから寝るとこなのか?」
「そのような予定は…… そうか。この服装か。失礼した。確かに、仕事をする装いではなかったな」
「まあ、ここはあんたの私邸だ。ラフな格好で居ても問題はないが、少し驚いただけだ。わざわざ着替えてもらう必要はないさ。いつもそんなに時間はかからないだろう?早く済ませよう」

リオセスリの指摘の通り、今のヌヴィレットは普段身に着けているパリッとした重たい最高審判官服を脱ぎ、ゆったりとした布地一枚の前開きが可能なローブを身に着けていた。ガウンは肩に羽織っているものの、アカデミックドレスよりは軽装だと思われるに違いない。
リオセスリとしても一応確認したという程度の声だったから、きっと深くは気にしていないだろう。とりあえずさっさと仕事を済ませようという彼の気持ちを汲み取って、ヌヴィレットも可及的速やかに会合を進める事とした。

「では、審判所法第46条第1項の規定に基づき、フォンテーヌ審判所最高審判官及びメロピデ要塞矯正監管理者との第25903回定例会合を開催する」
「ちょっと待ってくれ、ヌヴィレットさん」
「なんだろうか、リオセスリ殿。会合回数に間違いはないと思うのだが」
「あー、いつもの口上回数は俺もいちいち覚えてないから、それは気にしてない」

いつものように、会合前の宣言を淀みなく言い伝えたのに、なぜかリオセスリからストップがかかった。
確かにいつもはパレ・メルモニアのヌヴィレット執務室で読み上げられる事項ではあったが、このタイミングで呼び止められるのは初めてではあった。

「俺は、前任者から引き継ぎを受けた時。毎月1日に、最高審判官と管理官は会合をする義務があると聞いて、あんたと毎月面談してるし、今回は特別に場所を変更したいと連絡が来て。あんたの私邸でやるのも別に構わないとは思った。だが、わざわざ寝室である必要があるのか?」

そうしてややわかりやすい困惑顔で、リオセスリは今の状況の疑問を口にした。
確かに、ここはヌヴィレットの寝室で、ちょっと首を横にズラせば、奥に天蓋付きのベッドが部屋の主として君臨していた。今、リオセスリとヌヴィレットはそんな寝室に備え付けられた簡易応接セットの書類一枚しか置けない程度の小テーブルを対面に座っている。そもそもが雨に濡れたリオセスリの為にタオルを渡すために招いた部屋ではあったが、ここで仕事が始まるとは思っていなかったらしい。

「この場所に何か問題があるのだろうか?」
「いや、俺としてもここまであんたのプライベートな空間に踏み入るつもりはなかったというか」
「この私邸に関しては、公にしては差しさわりがある事もあるだろうと。最高審判官の地位に着任した際に、公邸と共に貸し出された場所だ。私にとっては、それほど深い使い分けをしているわけではないが、そうだな。確かに今回、リオセスリ殿に私の秘密を共有して貰いたいという意図があって呼びつけた事に違いない」
「秘密?」

明らかに怪訝そうな顔をして、リオセスリは疑問を返した。
公務の上で二人がやり取りする上で、立場的に公に出来ない事は両手に数える以上にあったことだし、それは対面での会話以上のやりとりをする手紙の上が多かったとはいえ、さすがにこの事項を書き残す事は出来ないので、直接という形にはなってしまった。

「話を最初に戻そう。毎月1日の私との会合。君は前任者から、どのような引き継ぎを受けた?」
「俺の場合は、知っての通り前任者から良好な関係で引き継いだわけじゃないからな。ただ業務フローの一環として必要だから、行けばわかるとしか。多分前任者も、わざわざ水の上に上がらなくちゃいけない面倒な仕事としか思ってなかったと思うぜ」
「面倒な仕事、か」
「いや、俺はそうは思っちゃいないがな。あんたとの話は有益だし、仕事帰りには水の上でアフタヌーンティーのテイクアウトも出来る。しかしも大体天気は晴れてる。素晴らしい日だと思っていたさ」

道理で、月一会合のリオセスリは毎回随分気分が良いのだなとここで合致した。不要不急ではなく水の上に上がるリオセスリは大体厄介な要件を抱えているので、それと比べれば定期的に報告を兼ねて水の上に赴くのは良い事だったのだろう。ここが今までの歴代管理者たちとの態度の違いかと、納得もする。

「それでは、リオセスリ殿は。なぜこのような会合が毎月必要とされているのか、深くは理解していないと?」
「あんたが毎回、『審判所法第46条第1項の規定』って律儀に唱えてくれるので、一応法典の原文は読んだぜ。最高審判官の任命の欠格事由が関係しているんだよな?」
「その通りだ。端的に言えば、私が最高審判官の地位に不備がないことを君たち管理官が審査している」
「で、当然問題がないから毎回面談の後にはこれに俺がサインするってことだな」

びらっと、リオセスリが手に取った紙には第25903回と記載された確認書である。
宛先は、フォンテーヌの政治を担当する政府機関である枢律庭となっている。ヌヴィレットはこの国の公的機関最高位である最高審判官の地位についているとはいえ、そもそもは水神に招かれ枢律庭の許可の元、職務を行っている。直接選挙を採用しているわけではないから、国民一人一人の意見が直接反映されるわけではないとはいえ、もし最高審判官に欠如理由があるならば、除せられる可能性が全くないわけではなかった。

「なぜ、歴代のメロピデ要塞の管理者が最高審判官を審査する立場のあると、君は思う?」
「それは俺も考えたんだが。メロピデ要塞には自治権があり、フォンテーヌ政府機関とは違った視点から最高審判官を監視できる第三者機関っていうのが大きいんじゃないか?実際やるかどうかは別としても、メロピデ要塞の人員と資金力はフォンテーヌ廷を対抗できるだけの立場ではある」
「そうだな。今となっては、そのような見方も出来る」
「今は、か。昔は違ったのか?」
「今も昔もフォンテーヌ廷とメロピデ要塞の関係は、それほど変わりはしていない。変わったとすれば、私の立場だ」

その曇りなきリオセスリの瞳をヌヴィレットは少し真っすぐ見据える事が出来ず、少し視線をずらしてレースカーテン越しの窓の外を見やる。雨はまだしとしとと続き夜でもあるからこそ、ヌヴィレットが純粋な人間であれば景色など見える筈もない。だが、景色以上に思いを馳せる必要のある年月であった。

「ヌヴィレットさんは、最初から最高審判官としてこの国に招かれたんだろ。今と何が違うんだ?」
「当初の私は、この国の誰からも信頼も信用もされていなかった。君も予想はしているとは思うが、私は純粋な人間ではない。だからこそ、異端の者として扱われた。だがそれでも私は最高審判官で、誰かしらは私を定期的に審査する必要がある。当時の私をフォンテーヌ人が審査するとなれば、色々と問題が出てくる事が容易に想像された」
「……だから、メロピデ要塞の歴代管理官が審査をすることになったのか」

昔のヌヴィレットは怖がられて誰も手を出せなかった名残である。500年前の記録が全部残っているわけではないだろうが、当時のメロピデ要塞は今よりもずっと殺伐としていた。名目上はヌヴィレットが審査される側ではあったが、意図としては強制的に水の下と会談をして、メロピデ要塞を監視するという面もあった。そのままずるずると今の今までこの慣習は続き、随分と形を変えた。そうして、最近ではすっかり形骸化をしてしまった。

「一応聞くんだが、今までこの確認書であんたを認めなかった奴はいるのか?」
「いいや、いない。君が前任者にも抱いた事だが、歴代の管理官は大抵皆このような会合を厄介事と感じているようで、私と深く会談はせずに時には確認書だけ水の下に送ってくれサインはするからという始末だった」
「めくら判か。確かに、こっちに残っている押印もしっかり押されていないのがあるからな」
「だが、リオセスリ殿。君は違った。毎回、私の最高審判官としての気質を試す質問を必ず投げかけるし、サインも一考してから書き始めている」
「わざわざそんなところまで見てくれるのは光栄だが。さすがの俺だって当初はともかく、今はあんたの気質を疑ってなんかいないさ」

必要なら今この場で直ぐサインをしようか?とわざとおどけるようにリオセスリは口にした。
歴代管理官は概ね、水の上の厄介事に巻き込まれるなどごめんだというスタイルであった。しかしリオセスリは時には鋭い疑問を飛ばしてきて、盤石であるヌヴィレットの土台を少しは揺らいでやろうとくすぐる事があった。そのおかげで、改めてヌヴィレットは自らを顧みる事が出来たのだ。だからこそ、今回改めて初心に立ち戻ろうと思った。

「今回、君を私邸に招き第25903回の会合を行うのは、私の立場が少し様変わりしたからだ」
「ヌヴィレットさんの立場…… もしかして水神フリーナ様が座を降りた、からか?」
「そうだ。私の最高審判官の地位が変化したわけではないが、より権力が集中したことに違いはないだろう。だからこそ、今まで以上に厳格な審査をリオセスリ殿に求めたい」

この件について、明確に誰かに何かと言われたわけではない。だが、次代の水神が座に就くことはないと一番見知っているのはヌヴィレットである。今までは共同統治者という体裁を保ってきた面もあったからこそ、何かあればそう多くはないが非難の先は分散化していた。実際、ヌヴィレット自身が糾弾され、被告席に座った回数だって少ないわけではない。
自ら望んだわけではないが結果的には一本化された今、そういった危機感は更に増したと言っても過言ではなかった。

「厳格な審査って言われてもな。いつも以上に厳しく追及しろっていうのか?それはちょっと無理だぜ。あんたには隙が無さ過ぎる」
「……審判所法第44条第3項第46号の規定を君は知っているだろうか?」
「いーや、悪いがまるで見当がつかない」

まるで呪文のようだとでも思ったのだろうか。その法令の数字を読み上げただけで、リオセスリはわかりやすくお手上げの表情をした。
残念ながら、ここはヌヴィレットの寝室なので主要な法典しか本棚には並んでいない。一階の書斎に赴けば、該当の条文を提示できるのだが、致し方ないと口頭説明に努める。

「規定には、最高審判官は『緑、新鮮、繁栄』である必要がある。と記載されている」
「それは……哲学か何かか?」
「リオセスリ殿が感じたような哲学ではないと思われる。注釈では、最高審判官は社会的地位そして対人関係の点で影響を及ぼしうるからこそ、俗世に流されるのは良くないと」
「まあ、それはあんたの立場ならそうなるだろう。大変そうだが」
「端的に言えば、純潔であることが必要だ」
「は?純潔……??」

さすがに動揺を隠しきれずに、少し頬を引きつらせながらもリオセスリは横目でヌヴィレットに視線をやった気がする。おおよそ日常で使う言葉ではない事はヌヴィレット自身も理解してはいる。まだその単語を噛み切れていないようで、疑惑の目があるようでもあった。
だからこそ、ヌヴィレットは意を決して腰かけていたソファから立ち上がった。

「私の性自認は男ではあるが……生まれ持った身体はそうではない」

すっとローブの紐を緩めて前開きを解いて、照明の薄い月明かりの下でヌヴィレットは自らの身体の様子をリオセスリに示した。

「なっ!……」
「私の外見は男だが、下半身はそのような機能はない。代わりに女性器が備えられている」
「わかった!……わかったから、ヌヴィレットさん。頼むから、理解したから……服は着直してくれ!」

そこまで堂々と脱いだわけではなかったが、きちんとヌヴィレット下半身を視認した瞬間、リオセスリは右手を広げて自らの視界を遮った。そうして顔を豪快に背けて立ち上がり、ソファから後ずされるように明らかに距離を置いた。

「すまない。服は着直した。突然、このような不浄な姿を見せて申し訳なく思う」

ヌヴィレットとしてはこのように受け入れがたい事項を口で説明しても信じて貰えないと思ったからこそ、実際に見て貰って認識を促そうとしたのだが、やはりここまであからさまに拒絶に近い声をあげられると、自分が異質である事を再認識した。

「いや、不浄とは思っていないが……ここは驚く方が自然だと思うんだが」

恐る恐る薄目を開けて、指の隙間からヌヴィレットが衣服を直した事を確認したリオセスリは、あからさまにほっと安心をして胸をなでおろしていた。さすがにオーバーリアクションをしてしまった事は認識しているのか、騒ぎ立てて申し訳ないと謝って来る。

「気味が悪くないのか?男でも女でもない、私の存在が……」
「別に俺は、性別であんたを見ているわけじゃないからな。ヌヴィレットさんは、ヌヴィレットさんだろ?あんたは昔から変わらずこの国の為に尽力してくれてる存在だ。そこに性別は関係ないだろ」

少し耳の先を赤らめて、いつもの余裕声よりまくしたてられたような気もしたが、リオセスリはそれだけは淀みなく答えた。その言葉に嘘偽りはきっとないだろう。だからこそヌヴィレットも、ようよやく心を落ち着ける事が出来た。
そもそも今日、リオセスリにわざわざ私邸に来てもらったのはこの告白をする為であった。ずっと嘘をついていたわけではないが、性別に関して改めて聞かれるような事項はないからこそ、隠していたことは違いない。今まで誰にも吐露したことのない事項を告げることとなって、どんな反応をされるのかそれが心配で天候にまで響いてしまった。

「君が、私の性別に関してそのように感じてくれていて安堵した」
「まあ確かに簡単に他言するようなことじゃないが、ヌヴィレットさんを知っている人なら、誰でもそう言うと思うけどな。……言いたくなかったら言わなくてもいいが、あんたの身体の秘密は他に誰が知っているんだ?」
「メリュジーヌは知っている。だが、彼女らはそもそも性別に関しての認識が薄いから、気にはしていないだろう。人間で知っているのは、リオセスリ殿だけだ」

必要でないメリュジーヌにははっきりと伝えたことはないが、恐らく認知はしているだろう。ヌヴィレットの身の回りにいるメリュジーヌや健康管理をしているシグウィンは身体を見る事があるので当然見知っているが、反応は薄い。
もしかしたら必要に男だとか女だとか気にするのは人間くらいなのかもしれない。ヌヴィレットは審判で男女のいざこざを今まで無数に見てきた。実際、数としても判例として手元に上がって来る物は少ないが、多くの審判官が一番目にするのが男女のもつれである。だからこそ、明確に男女の区別がついていないヌヴィレットは自身がどちらにもなり切れていないような気持ちで、常に後れ毛を引っ張られているような気分だった。
だからこそ、初めて明かすのだとしたら、自分をはっきりと見極められる人間が良いと思っていた。それでも、リオセスリに告白するのに随分と年月がかかってしまった。その理由の一つとして。

「今はそれほどではないが、500年前のパレ・メルモニアは男性社会であった。女性であるというだけで、登用試験の受験資格はないほど性差別が存在していた。だからこそ、私は自らの身体の秘密を今まで誰にも明かすことは出来ず、ひた隠しにしてきた」

それでいて、純粋な女性でさえないという中途半端さである。人間ではない得体の知れない者は不浄だと。当時は姿かたちに変化がないとはいえ水神と同じように長寿であることも示せないので、これで異端と認定されて自分が無用に審判される可能性さえあった。

「悪い意味で言うわけじゃないが、確かに性別の事は無用に口にしたら混乱を来たす事だとは思う。俺も今後あんたに何かあったら、真っ先に事情を知るメリュジーヌに任せるようにするさ」
「……本来ならば、私の身体に関することはメリュジーヌに任せるべきであろう。だが、彼女らは人間の身体に対して性自認が薄い」
「そりゃあ、種族が違うから。そうなるのは仕方ない、な」
「だから……リオセスリ殿に、私が純潔であるか見極めて欲しいのだ」
「…………は?」

そうしてヌヴィレットは、ようやく本来の目的を口にすることが出来た。

「数百年の間に薄れてしまった事項ではあるが、メロピデ要塞管理者が最高審判官の透明性を審査する当初の目的はそうであった」
「いやいやいや……なんだ、それ」

わからない何を言っているのかわからないと、ありありと頭と両手を左右に振ってリオセスリは困惑を示した。先ほど、ヌヴィレットの身体を見たときよりも明らかに動揺の姿を見せて、妙な汗をかいているようにも見える。

「最高審判官の審査にメロピデ要塞管理者が選ばれたのも、そもそもが要塞では囚人に身体検査を義務づけられているからこそという経緯がある」
「それは…………本当に数百年前の話だ。今は、簡単な持ち物検査くらいはするが、もちろん同性が対応するし。武器や不審物を所持していないか確認するくらいだ」

慌ててリオセスリは、現状のメロピデ要塞での体腔検査について説明した。
検身で行われる主な理由は、それらの体腔を利用して不当に隠し持たれている武器や薬物等を発見する為である。そのような尊厳を踏みにじる不当な行為は、確かに数百年前は存在していなかったと否定はしない。だが、今はそれほど過激な者は少なくなり、何よりリオセスリが管理者となってからは事前に芽を潰す方向にシフトしたため、遺恨の残る検査は行わない様に徹底している。

「私の性自認は男だ。やはり適役はリオセスリ殿しかいない」
「なあ、ヌヴィレットさん。俺はあんたを信じてる……だから実際が高潔であろうがなかろうか、別に疑ってはいない。なんでそんなに審査に固執するんだ?」
「私は、今まで一度もきちんと人間から身体検査を受けた事がない。だが、今回の件で立場的に人間の統治者として君臨することとなった。人間ではない性別さえ不確かな私が、このような地位にいて許されるのかと思うのだ」

これは別にヌヴィレットのような特殊な立場だけに適用されるわけではなかった。
今はそのような事はまかり通らないが、昔は女性体である水神と交流できるのは初潮経験のない女性や処女の女性だけであった。清らかな女性は神の共同体の所有物であり、純粋な者だけが携われる。処女には神聖な力が宿っており、処女でなくなった場合にはその力が穢れたり、失せたりするという。これは現在の審判にも左右される部分がある。性犯罪が起きた時には被告が処女であるか非処女であるかで、起訴内容や量刑が変わるのだ。そのように民間でも完全に形骸化されているわけではない。長らく改訂がないとはいえ、審判法はずっと最高審判官の透明性を規定している。一度もそのような審判を受けたことが無いヌヴィレットには、そもそもがわからないため、自信がなかった。これ以上、偽りを重ねたくない。だから、言葉も強くなってしまう。

「……500年近く生きていた私が、純潔だと?品位にかける淫らな行為や甚だしい猥褻行為も社会的良識に対する罪などなく、未貫通で一度も何にも汚されていないと思うのか、リオセスリ殿は?……純粋なのは、君の方だな」
「それは……」
「わかった。そもそも、このような法令を当初制定したのは枢律庭だ。君も、これ以上の嘘偽りを提出するのは心が痛いだろう。以後、私の審査は枢律庭に委ねよう」

テーブルの上に置かれていた、25903回目の白紙のままの確認書に触れたヌヴィレットは、サインはもう必要ないと万年筆も終いすべてを片付けようとした。
が、ぱしっと右手を留めるように重ねられて少し強く握られる。そのまま上から加えられた力のせいで、確認書をスライドさせることが出来ない。

「リオセスリ殿、手を放してくれないか?もう君は、サインしなくても良いのだから」
「……それで、あんたはこの確認書を持って枢律庭のジジイに身体を明かして、審査してもらうつもりなのか?」
「私から見れば、みな年下だ」
「そうだな。俺もあんたから見れば、相当若い。だから理性を総動員して、拒否った」
「私の身体検査が、君にとって不快な事くらいは自覚している……」
「そうじゃない。だが、それがわからない、あんたにはやっぱり俺が対応した方が良いって。よく理解した」

いつの間にか、確認書を抑えている手を持ち上げられてするっと逆の手で紙を抜かれてしまった。
回数が決まっているので今回の確認書はこれしかないのに、リオセスリが手に入れて決してヌヴィレットに差し出さないのだ……





◇ ◇ ◇





しぶしぶという態度は崩さなかったが、それでもリオセスリはヌヴィレットの身体検査に同意してくれた。
そこに積極性はない。だからこそヌヴィレット自身がある程度納得をする必要があった。成人男性が寝転がっても余裕があるベッドに寝転がるのは、ヌヴィレットのみ。検査なのに見えないのでは?と懸念をしたが、リオセスリは当然のように部屋のメイン照明を切った。だからベッドサイドの光源を絞ったランプと、先ほど会談をしていた入口付近にある応接ソファ脇にあるレースカーテンからの月明かりくらいしか与えられる光はない。視界的に薄暗くあるからこそ、懸念無くリオセスリの一挙一動が気になってしまうという側面もあった。

「リオセスリ殿。ベッドに上がって来て欲しい」

ベッドを背にして枕を頭にしたヌヴィレットが要望の声を上げると、ゆっくりとリオセスリはベッドに乗り上げた。薄い羽織とローブだけを身に着けたヌヴィレットとは違い、ブーツさえも脱がないリオセスリはシーツを汚さないためかフットスローから不用意には動こうとはしなかった。だが、さすがに両手に纏うグローブや拳に纏うテーピングなどは外してくれた。
明確な言葉による返事はないが、それでもそのままでいるわけにもいかなかった。ヌヴィレットも意を決して、ローブの腰紐を緩めた。また先ほどのように前を寛げて、ベッドの上で膝を立てれば、衣はするりと左右に割れシーツの上に落ちた。この行為は、数分前にリオセスリに身体を明かしたのと同じ行為である。その時、彼が視界に入れたヌヴィレットの下半身は、太ももによって隠された僅かな双丘とぴったりと閉ざされた割れ目だけだっただろう。ヌヴィレットの身体は産毛含めて必要以上の体毛が存在していなかった。水龍だからこそ自身の発汗などコントロール出来ると判断されているからだろうか、それはわからない。だが、一般的な女性器でないことは生物学の知識から見知ってはいた。
そのまま足を閉じて居れば、晒される事がない秘所ではあったが、こちらから頼んだ以上、リオセスリに手間をかけさせたくはなかった。肩幅程度に足裏をスライドさせたヌヴィレットは、そのまま足を開いて見せた。

「確認をお願いする」

リオセスリの視線が、こちらに向けられて、今更ながらとんでもなく恥ずかしい行為なのでは?とヌヴィレットは自認したが、時すでに遅し。
ゆっくりとリオセスリから伸ばされた手があった。安定をさせるためか、まずはこちらの右膝に触れられて固定された。確かに足は揺らめき、そうでもされないと閉じてしまいたい衝動に駆られた。それでも固定されたのは右だけだから本当に嫌だったら左膝を使って閉じれば良いというリオセスリの配慮だろう。それで邪魔をしろという中途半端な葛藤にしばしヌヴィレットは頭を悩ませた。
進んで足を開いたとはいえ、未だ閉じられた割れ目は全容が明らかになったわけではない。ただ、すっと一本の秘裂が通っている事が示されただけだ。

「……ヌヴィレットさん。これからあんたのここに触るが、何か違和感があったら言ってくれ」
「わかった」

予め宣されて、ヌヴィレットが頷いたのを確認してから、リオセスリは軽く人差し指で双丘に触れた。本当に、軽く接触しただけではあるが、ふにっと指の感覚があった。もちろん嫌とかそういうわけではないが、なんだか不思議な気持ちになった。そこは、誰にも見せたことはない場所で自分でも意識をして触ったことなどはないのだ。そのような場所を他人に触られるということはドキドキするものなのだなとヌヴィレットはシーツを触っていた右手をちょっと胸元にやって、胸の挙動を抑えた。
何度か軽く撫でるように双丘をさすっていたリオセスリの人差し指だったが、ヌヴィレットの肩の力が抜けて来た事を確認したのか、一度だけすっと秘裂に沿って縦に撫でつけた。

「……」

ベッドに着けていた腰がピクリと勝手に動いた。
またリオセスリは双丘に軽く触れるだけに戻ったが、それでもふいに秘裂に指をやる回数が増える。やがて、すーっとゆっくりだが何回か秘裂を撫でられると、呼応するかのように腰が少しずつ引けて来た。今まで下方向にだけ指先でくすぐるように秘裂をなぞられていたが、ふいに下から上へとさっと当てた。

「……あ…………」
「悪い…、不快だったか?」
「そのようなことは、ないが。知らない感覚だったがゆえ、少し驚いて……」
「……ヌヴィレットさん。こういう事を聞くのは、マナー違反かもしれないが。確認させてくれ。今まで、自慰の経験は?」
「自慰とは………?」

軽く起き上がって尋ねられたリオセスリの質問の意図がよくわからず、ヌヴィレットはきょとんと尋ねられた言葉を返すのみであった。素直になぜそのようなことをする必要がある?と質問に質問で返す。
自慰がどのようなものかはもちろん知っている。特に男性はそのような事が必要だとそれくらいの知識はある。だが、ヌヴィレットに自慰に必要な男性器はついていないし、その必要性を感じずあまりそれ以上は調べていなかったのだ。

「えーと、自分では触った事がない?」
「自慰が必要なのは、男だけでは?私にも必要なのだろうか?」
「あー、わかった。そっちの経験がないってことは、このまま続けるのは少し支障がありそうだ」
「どういうことだろうか。私の身体検査は難しいのだろうか?それは、困る……」

ここまで来て、ようやく成し遂げようとした本懐が頓挫するとは、ヌヴィレットも考えたくはなかった。何度も説得してようやくリオセスリにベッドにまで上がって貰ったのだ。これで、はい終いとなったらもう二度と叶う事は出来ないとさえ感じる。なんとしてでも今この場で全てを完遂したかった。

「リオセスリ殿、お願いだ。少し無理があっても構わないから、続けて欲しい」
「だが、このままだとあんたに痛みがあるかもしれない」
「たとえ痛みがあったとしても、リオセスリ殿のせいなどとは思わない。全て私の認識不足が招いた結果だと甘んじて受け入れる。だから、頼む」

ベッドの上で足を開いたまま懇願して訴える。ヌヴィレットは意図したわけではなかったが、それを断れる男が居たとしたらそれは無理であった。リオセスリも多分に漏れずその他大勢となったわけではあるが、それならばと殊更慎重に進める事と舵を切った。

「そうまで言うなら……あんたに負担をかけないように、何とか進めてはみるが」
「無理を言って申し訳ない。なるべく私も協力をする」

そう言ってヌヴィレットはリオセスリが事を進めやすいように、自ら左膝を持って開いた。
相変わらずその割れ目は閉じたままのはずではあったが、自らの意思で力を入れた結果少しずつではあったがその中の様子が窺い知れるように数ミリずつ開いていった。観念したリオセスリも再び秘所に向き直ってくれて、また双丘に手を当てる。そうして表面をなぞるように秘裂をすっーとゆっくりと指をやった。何度かそれを繰り返されると身体の奥から明確な違和感が生まれる。滑りが先ほどより良いとヌヴィレットが自覚した時には、既にぷくりと零れ出る雫があった。リオセスリの人差し指に撫でつけられた雫はそのまま秘裂を開かれる為の潤滑油となっていた。

「リ、リオセスリ殿、すまない。君の指が濡れてしまっている」
「これは危機感を覚えたあんたの身体が出したものだから、不思議な事じゃない」
「そう、だろうか?だが、君を汚してしまっている」
「いや。こんな綺麗なものは見たことないくらいさ」

つぅ…っと、奥から漏れ出る雫をすくい取ったリオセスリは、指先に乗せて観察していた。見ないで欲しかったが、そのような訴えをする隙間もなく、また秘裂をなぞられるのでそれどころではない。そのおかげでずっとぴったりと閉じていた秘裂は徐々に奥に存在する媚肉の存在を示してくる。割れ目という名の意味が薄れてくると、リオセスリは秘裂から手を放し、最初に撫でていた双丘の片方に親指をかけた。秘裂と双丘の間に軽く指をひっかけると、指で押して左右に押し開いた。少しぐいっと持ち上げられた双丘に隠されていた媚肉の中が覗かれる。その、肉芽も肉びらも膣肉も何もかもが、リオセスリの視界に晒された。そのままの状態でしばらく制止されて、ヌヴィレットは少々不安を感じた。

「何か……私の身体は、不都合があるだろうか?」
「……いや、むしろ。これは、いや……」

リオセスリがヌヴィレットの高潔なアンバランスさに酔っている事など知る由もないが、言葉にすることもない。ただ、愛液によって卑猥に濡れた媚肉から目を離させなかっただけだ。ひくひくと震える媚肉にくぎ付けになりながらも、はっとしてぶんぶんと正気に戻る為に一度頭を振った。

「……ヌヴィレットさん、もういいだろ。あんたは確かに純潔だ。これは俺が保証する。これで終いにしよう」
「それは、本当か?私は純潔なのだろうか。処女膜はあるのか?」
「…………ああ、きちんとある。疑いようはない」
「だが、処女検査では指を入れて確認するはずだ」
「なんで自慰はよく知らないのに、そんな知識だけはあるんだ……」
「リオセスリ殿。きちんと触って確認して欲しい。そうでなければ、私は信じる事はできない」

ここまで来たのだから全てを白日の下に晒してほしかった。リオセスリは目視で処女膜があるとは言ったが、角度的にヌヴィレットには見えないしもし何らかの手段で見えたとしても、どれが処女膜なのか知らないのだから判断が出来ない。

「ヌヴィレットさん、正気になってくれ。指を入れるんだぞ?俺の指、見えるか?あんたの指よりだいぶ太いんだぞ」
「わかっている。私が未貫通なゆえ、苦労をかける」
「絶対わかってない。あんたのは狭いんだ。そこに俺の指を入れたら、絶対に痛みがある」
「君が与えてくれる痛みなら、私にはなんの問題はない」
「っ!だから、あんたはわかっちゃいない」

また軽くリオセリは頭を抱え込んでしまった。一体何が駄目なのだろうか。わからない。痛みなど必要だからあるもので、それがリオセスリによってもたらされるのならば、本望であった。それを伝えているのに、伝わっていないような気がする。

「……まだ指は入れない。だが、これであんたが根をあげなかったらが、条件だ」
「むっ、私が今更止めてくれなどと言うとでも?」

何かリオセスリは思いついたようで、ゆらっと身体を上げてまたヌヴィレットの膝を掴んだ。最初からそこまで積極的ではなかったが、初めてやる気のようにものが垣間見れて、ヌヴィレットは喜んだ。そうして挑発をされる。リオセスリがこれから何をするのかはわからないが、自分の身体に関する事なのだ。500年の付き合いで本人より知らないことがあるなんてない筈だとヌヴィレットは高をくくった。
再び、リオセスリは残った雫を絡ませながら丹念に秘裂を撫でた。そのような事、先ほどから幾度となく繰り返している。今更何か別の感情が沸くことなどない……と思っていた。そのまま秘裂の一番上の付け根にたどり着いたリオセスリの指は、愛液によって濡れた肉芽を指先で軽く押した。知らない圧迫感が生まれる。ずんっと、重く突く痛みではないのに一本の伝導。

「……えっ、……」
「ヌヴィレットさん、あんた自慰したことないんだろ?じゃあ、これもはじめてってわけだ」
「っあ、……!……」

腹側にくいっと、肉芽を露出させられる。まさに生まれたままの姿が、はじめて外風に晒された。色の薄い包皮の合間に指を入れたリオセスリが自身の唾液で滑りをつぎ足しながらも丹念に、幾重にも重なる包皮を剥いていった。身体を洗う時でさえ触れたことが無い無垢な箇所が男の武骨な指によって、徐々に明らかにされる。時々ピリッと皮が突っ張ってヌヴィレットに引きつりを与えた。だが、それを緩和すべく愛液は生み出される。滑りが良くなったからこそ、ますます肉芽は赤く熟れて揺らめいた。もはや下半身だけではなく全身が震える。身を捩るのを隠すことは出来ないのに、リオセスリは的確にぷるぷると震える肉芽に狙いをつけて、根元までくるりと弄られる。

「なに、あっ、……ぁ……あっ!」

くりくりっと動きが早く、こすこすと濡れる肉芽を指先で跳ねるようにこね回した。爪先は当てないようにと、指の腹の先で何度も繰り返し肉芽を押される。そうして、改めてずぅーと秘裂の下からじっとりと撫で上げて、最後にたどり着いた肉芽を挟み上げるように親指と人差し指で、ぐいっと摘まみ上げた。

「ひぁ……あ!……、んっっっ!!!………あ、、……はっ………」

やや甲高い声が抑えられず、あまりの衝撃に腰を揺らして、ぎゅっとシーツを掴みヌヴィレットは見悶えた。何が起きたのか、一切わからなかった。ただリオセスリから与えられるモノ全てがただただ未知の感覚だった。

「大丈夫かい?ヌヴィレットさん」
「はー……はー……私は。何、を?」

簡単には息が整わず、何度か息を吐く。ようやく肺呼吸が落ち着くと、後に残る少しの気怠さ。発汗コントロールも出来ず、全身に知らない汗をかいた。どこまでも熱かったその感覚が、何かが起きた瞬間に一瞬にして引いた。そうしてまとわりつく汗が不快だと後に残る。

「イッた……って言ってもわからないか。そうだな、達した。絶頂したって言えば、なんとなくわかるか?」
「……私の身に、そのような事が?」
「はじめてで、皮も剥いたから痛かっただろ?それだけでもこのざまだ。狭いあんたのなかに指を入れたら、その痛みは想像が出来るだろ?」
「確かに……痛みはあるのかもしれない。だが、先ほどもだが不快な痛みではなかった。リオセスリ殿が進めてくれるのであれば、嫌ではない」
「……あんたは、俺を過大評価しすぎだ」

はぁ……とわかりやすく、リオセスリは一度だけ大きくため息をついた。そして、観念したと言わんばかりに一度だけ両手を上げたので、最後までよろしく頼むと改めてヌヴィレットは伝えた。

……何度こうやって向き直ってベッドに転がったのだろうか。それでも、リオセスリは有言実行の男だ。やると言ったのならば信頼に至る相手であったから、ヌヴィレットはとても落ち着いていた。
ぐいっと今までで一番大きく足を開かされたが、今更恥ずかしがるつもりもない。その股の間をリオセスリは見下ろした。ヌヴィレットの媚肉が狭いからと言い訳されて、何度か指を入れるのは拒否されていた。だが、幸か不幸か先ほど達したおかげで十分な愛液が膣肉からもたらされていた。シーツに雫を落としそうなほどに濡れていて、露出された媚肉全体が直接照明が当たってるわけでもないのに、てらてらとしていた。十分に開かれた媚肉はもう薄く撫でるような秘裂としての存在はなかった。だからリオセスの指ははくはくと動く肉びらを撫でて、中に入る許可を得るように伺っているようにも思えた。肉びらのひらひらは少しずつ打ち解けるかのように開き、もうぴっちりと閉じていた過去には戻るつもりもないようだ。その先の膣肉の中へ至る道筋を誘導してくれる。そこには処女膜も確かにある。

「ヌヴィレットさん、指を入れるからな」
「ああ、一思いにやってくれ」

視診や触診による糾問法による処女検査は、処女膜の損傷を確かめるものだが、そんなもの誰が確定的に判断出来るのかとリオセスリは思っている。本来ならば二本指検査だが、ヌヴィレットには言わなければわからないであろう。だから、一番濡れて浸されている蜜壺からリオセスリは指を一本だけ入れたのだ。
だが、つぷりと突き刺した指先はあまりにも抜かるんでいて、動じたのはリオセスリの方であった。狭いだろうと思っていたが、あまりにもぬとりとその膣肉も雫たちも中へ誘うように指を招き入れたのだ。まとわりつかれたことに驚き、思わずそのまま指を奥へ進めそうになってしまい、挿入していない他の指でぐっと手の腹を押して、衝動を抑えつけた。これは不味いのではないだろうか?と思いつつも、このまま止まっていればまたヌヴィレットが疑問に思う事は必須で、それでも狭く密着してくる膣肉に誘われて、少しずつ指を押し進める。
覚悟をしていたせいか、ヌヴィレットに予想以上の痛みはなかった。もちろん違和感はすさまじい。腹の奥をずんっと押され、胎内を暴かれるはじめての感覚は未知の体験である。ずりずりと勝手に腰が逃げてしまうのが自分自身でもわかり、自らの腰を手で支えるなんて事をするとは思わなかった。

「もういいな、ヌヴィレットさん。抜くぞ」
「あっ……どうして?」
「指は半分入れたが、これ以上は相当無理をして割り開かないと現実的じゃない」

それだけ言うと、そのままリオセスリはさっと指を抜いた。逃しはしたくないと執拗に膣肉たちはまとわりついたが、リオセスリの意思は堅かった。元々狭い狭いと言われていたヌヴィレットの膣肉ではあったが、先ほどまであった圧迫感の喪失を直ぐには受け入れられないようで、はくはくと名残惜しんでいた。
リオセスリは全てを基に戻すかのように、膣肉を優しく撫でて戻し、肉びらも軽く詰まんで元のように内側に収納する。そうしてあんなに丹精に剥いた肉芽もそっと眠るように隠すと、ヌヴィレットの秘裂はまた双丘によって閉じられて、綺麗な割れ目にしか見えなくなった。

「筋肉の弛緩も調べたが、あんたは紛れもない純潔だよ。これ以上は必要はない」

そうして、開いていたヌヴィレットの両足も揃えてぱたりとベッドに降ろされた。まるで何もなかったかのように振舞われた。それが、ヌヴィレットには信じられなかった。こっちはあれだけリオセスリを信頼してすべてを任せたというのに、きっと彼はこれをなかったことにするつもりだと悟った。確かに審査の一環として、この度は願い出た。ヌヴィレットの身体の秘密を打ち明けて助けてもらった。そうして目的も果たした。リオセスリの中ではこれはもう終わったことなのだろう。だがあまりにも呆気なく、リオセスリも淡々としていた。こちらは一世一代の告白だったというのに、あまりにも反応が無さ過ぎではないだろうかと、ヌヴィレットは少々憤慨したのだ。
そうして思い当たる―――こちらから吐露したとはいえ、ヌヴィレットだけ秘密を共有するのは不公平ではないかと。何か、何かリオセスリの弱みを握るとまでは言わないし、自分の秘密に匹敵するような事は早々ないだろうが、見つけられないかと。思い立った後の行動は早かった。一仕事を終えてさっさとベッドを降りようとした、リオセスリの後ろ肩をヌヴィレットは思いっきり掴んだ。

「……どうしたんだ。ヌヴィレット、さ…………ん?」

全てを言い切るまでにリオセスリの視界は流転した。片方の肩だけ掴んで、ヌヴィレットは指先の力だけでリオセスリの肩のベルトを引っ張りぐるりとベッドの転がしたのだ。まさかそのような力を後ろから加えられるとは思わなかったリオセスリは、重力に促されるまま滑り通るシーツの上を転々として、先ほどヌヴィレットが頭にしていた枕を終点に行きついた。

「って、てて」
「リオセスリ殿。私が、男である事を忘れていたな?」

軽く頭を打ったと思われるリオセスリは軽く首の角度を調整しつつも、目を回していた。リオセスリのような大男を片手で飛ばすなど、並の男性では無理だろうがヌヴィレットが龍王の力を使えば容易い。
そもそもこのまま帰したら、ヌヴィレットの女性的な面で引きずられて今後も過ごす可能性もある。それは今後の二人の関係にも差しさわりがあると判断をした。

「いや、忘れてないが。あんたを侮ったわけじゃない。で、何が不満なんだ?」
「一方的に身体検査を終わらせて貰っては困る」
「だから、指まで入れて証明しただろ?もうサインをさせてくれ」

先ほどとは打って変わって、今はベッドに寝そべるリオセスリにヌヴィレットが押し迫る構図となっていた。
相変わらず今にも隙間に目ざとく逃げようとするので、また龍王パワーを用いてリオセスリの左手首を持つ。二人ともに別に本気を出しているわけではないから、リオセスリも本当に嫌なら逃げられる程度の力だ。それでも、ヌヴィレットが力を使って押しとどめているのがわかっているからこそ、リオセスリも無理に脱出しようとはしない。

「身体検査に関しては、全てリオセスリ殿の体感による証言でしかない。私自身が納得したわけではない」
「それ以上どうやってあんたが純潔だって証明すればいいんだよ……」
「簡単な方法がある。私の女性器は狭くて入らないんだろ?」
「そうだって、何度も言っているが」
「では……これが入らないと試せば確実だ」

シーツを背にしたリオセスリの足に軽く乗ったヌヴィレットは、その股間の膨らみを軽く撫でた。
気が付いたのだ。リオセスリが常用する着衣はゆったりとした下履きではない。その股間の変化に気が付かない程、ヌヴィレットは鈍くはなかった。

「見せて欲しい」
「は?いや、ダメだ。ていうか、俺が悪いのかコレ。あんた、俺にあんな事までさせて……あれで反応しない方が無理だ」
「ならばやはり、これは私のせいということだ。見せてもらう」

本気で抵抗し始めたリオセスリの下半身に覆いかぶさり、ヌヴィレットはまず身体の支点を止める。なりふり構わずリオセスリが暴れればその程度では留められないだろうが、あれだけヌヴィレットの身体を傷つける事に苦心していたリオセスリがそんなわかりやすく立ち向かいはしなかった。何とか、抜け出そうとシーツの上をスライドしている程度ならば容易い。
その隙に、ヌヴィレットはリオセスリの下履きに手をかける。強固で厄介なベルトも、所詮は男性の服の構造だ。同性だからこそおおよそは把握出来る。リオセスリがヌヴィレットの右手を掴んでいる間、左手で留め具を外してその窮屈そうな前を寛げて開放を目指した。ずり降ろそうとする下履きを、リオセスリが慌てて留めようとするがここは龍王の力が勝った。

「……確かに、これは入らないな。このようなものを、いつもリオセスリ殿は隠しているのか?」

ぶるんっと外気に晒されたリオセスリの性器は、天にそそり立つかのように鎮座していた。
そうしてリオセスリは、やってしまったと空いた片手で視界を遮り空を仰いでいた。

「……いつもは、もう少し大人しいさ」
「男性器があると、大変なのだな」

試しに、目の前の性器を軽く右手に持ってみると想像以上温かくあった。自分にはない器官で、脈打っているし浅黒く存在感が非常にある。そしてなんといっても、片手ではとても持ちきれない大きさであった。安定もしないので、両手でぎゅっと掴んでみて改めてその大きさを実感する。
あまりにも立派なので変に納得をしたヌヴィレットは、リオセスリの性器の側面をよしよしと撫でた。触るとぴくりと反応したので、これはもしかしたらリオセスリ本人より余程正直かもしれない。

「っ、……悪いが、あんまり触らないでくれないか?」
「そうだった、敏感なのであったな。それでは早く目的を果たさなければ」
「目的?見て触って、もう満足したよな?」

なぜか性器を見られている事にリオセスリは情けなく思っているようではあったが、ヌヴィレットだって見られているのだからおあいこだと思う。それにこれだけ立派なのだから、恥ずかしい事などないと思うのだが。
とりあえずリオセスリが、謎の悲しみで力を抜いている今がチャンスである。よいしょっとリオセスリの腰の上に乗っかったヌヴィレットは、ローブの前を開けて馬のように跨った。

「ヌヴィレットさん!あんた、何しようとして」
「リオセスリ殿は動かないで欲しい」

一度リオセスリの腰に乗った後に膝立ちしたヌヴィレットは、そのままリオセスリの性器を手に取り、ゆっくりと自身の秘裂に当ててみた。
だが、やはり大きさの差は歴然していて、ずりゅんっとわかりやすく滑り落ちて、狙いを定めたものの残念ながらぺたりとヌヴィレットはリオセスリの足の間に尻を落とす事となる。

「む……やはり難しいか。リオセスリ殿、手が空いているなら私の女性器を指で割り開いて欲しいのだが」
「あんた……なんて事をしてんだ。俺がどれだけ我慢して……」

絶句しながらも独り言を呟くリオセスリは、全く協力的ではなかった。ただただ茫然とこちらを見据えている。
寝そべるリオセスリの性器を支えながら、自身の割れ目を開くのはさすがのヌヴィレットもバランスが取れなくあった。それでも何度かにゅるんにゅるんとその繰り返しをしていると、秘裂は先ほど指で開かれたのを思い出したらしく少しずつ雫を垂らす。そうして、リオセスリの性器の先端からも同じように液が出てきたような気がする。しかしそれは糸を引くようなヌヴィレットの愛液とは違い、粘着質がより高かった。
ツルツルした股ぐらに何度も押し当てて、軽くぐりぐりと入り口付近でくぽくぽと粘膜同士をくっつける。それでもリオセスリの性器は抜群に大きく、一向にひたひたと濡れるヌヴィレットの蜜壺にも浸かろうとはしなかった。

「膣は伸縮性があると聞いているが、それでも慣れぬ私では上手くは入らないな。やはり、リオセスリ殿に試してもらう他ない」
「―――あんたって、人は。もう、俺は我慢しないからな。どうなっても知らないぞ!」

また、よろしく頼むとヌヴィレットは同じように告げるつもりだった。
だが、手首を掴まれてあっという間にベッド仰向けにされた。不意打ちのようにごろんと倒される動作に容赦はなくなっていた。そうして先ほどとは真逆になり、リオセスリはこちらを磔にしながら折り重なって来た。

「ヌヴィレットさん、膝立ててそのまま足閉じて」
「なぜ、そのような事を?」
「いいから、言うとおりに」

挿入を目指すのに足を閉じるとはどういうことだ?と理解の出来ないままとりあえず膝を立てて内股になると、こどものようなポースであった。そのままぐっと太ももを外側から手で押されて、この不思議な構図の理解をした。
固く上向いているリオセスリの性器は、着実にヌヴィレットの秘裂に狙いを定めていた。ヌヴィレットの内太ももと割れ目の間に僅かにある三角。絶対空域の間にリオセスリは、ずぶりと挿入をした。

「っあ……あ!……ぁ。なに、これ……」
「おっと膝は閉じたままだ」

そうは言っても、リオセスリがヌヴィレットの両膝をすり合わせているので、離れるのは難しい。変なところに力を入れられているせいか揺さぶられてバランスがとりにくく、だからこそ安定を得る為に内ももに力が入ってしまう。その内ももの間を腰を引っ張られながらもずるんっずるんっと駆け抜けるモノがリオセスリの性器だ。あれだけ開かれた秘裂は忘れもせずに、擦られて思い出してまた肉びらも膣肉もいやらしく露出しようとしているのを無理やり苦しそうに留められている。
女性器は持っているもののそのほかのヌヴィレットの身体的特徴は男性だ。太ももは女性特有の柔らかさというよりは筋肉の発達の方が強い。だからこそ、ぎゅっと内ももを締めればむちっとした柔らかさより余程芯のとおった圧迫をもたらしてしまう。挟み圧迫と摩擦することで訪れる疑似挿入感が到来する。

「リオ、セスリ殿。……これ、では、……君のは入らない」
「入らなければ、あんたが純潔だって証明できるんだろ?だから安心して動ける」

だがここまで激しいと迂闊にも入ってしまうかしもれしないような、それくらいの勢いであった。そのお世辞にも広くはない隙間をリオセスリの粘つく性器がまかり通るとなれば、押しつぶされるのは、ヌヴィレットの秘裂の方だった。秘裂の上を明確に滑り押し当てて擦り合わせられる。入れたくない筈なのに、媚肉は何かを求めてはくはくと戦慄いでいた。
……そうして自分で言いだしたのに、入らない証明っていったい何だとだんだんとヌヴィレットはわからなくなって来た。

「ぃあ……、そこ、……は。ダメ、だ……!」
「ああ、ここか。さっき丁寧に隠したのに、出て来たな。また、欲しがってる」

くいくいっと重点的にリオセスリの性器の亀頭で刺激したのは、秘匿されるだけの筈であった熟れた肉芽であった。一度は皮を剥かれたものの、初心な肉芽は元通りに奥深く眠りについた筈だった。だが一度でもあの快楽を味わってしまったら、それが再び与えられるかもしれないという可能性を知ってしまい、むくむくとより高みを求めて目を覚ましたのだ。それが今度は指ではなく、指よりも何倍も太い剛直だとしたら期待をしない方がおかしい。

「…ふぁ、……ちがっ…!…いらな、い。……、そうじゃない」
「さっきは少し痛かったもんな。大丈夫、もう気持ちいいだけ……だ」

ぷっくりと内股の間より姿を現した肉芽はヌヴィレットの白く朱に染まりやすい肌の中でも、いやらしく存在を主張していた。それは早くたくさん可愛がって欲しいとリオセスリに訴えるかのように、ふるふると震えて待っているように見えた。リオセスリの先走りによる粘着で、肉芽は包み込まれ塗れる。だから、ご希望通りに誘導されて、亀頭のくびれに引っ掛けながらも、こりゅこりゅと何度も押しつぶして貰った。
そうして、ピンッと泣きそうなほどに反応して尖り膨らんだ赤い肉芽がごりゅっと、亀頭で捻じられながら抑えつけられた。

「っあ!…………つ……あ、ぁぁぁ……!!!!――――んっ!」

びくんびくんと何度も腰を上下に揺らして、ヌヴィレットは背中を反りつつ達した。
到来する快感は先ほど指で弄られた時以上で、波を打つように何度も何度も断続的に襲い掛かった。文字通り痛みなどなくただ与えられる快楽に息が途切れるほど、溺れそうになった。
そうして、無意識にうちにどばっと蜜壺からからは愛液が溢れ出たが、体勢的にそのままシーツへは落ちなかった。全て、未だ秘裂の上を滑り通るリオセスリの性器によって絡めとられたからだ。狭すぎるヌヴィレットの内ももで素股を強いられていたリオセスリだったが、それによって格段とこの疑似挿入は入れる事の出来ないヌヴィレットの膣肉の奥底を連想させた。絶頂したことによって余計な力が抜けた事もあり、揺さぶる事も出来て興奮したことは否定できない。膣に挿入できないとはいえ、あのヌヴィレットを好き勝手に蹂躙出来ているなんてと、好きな角度で我が物顔に暴走する自らの性器を押し付けて擦った。

「うっ……」

そうして許可を得たわけではなかったが、ヌヴィレットの薄い腹の上に吐精を思う存分にぶちまける。何度か断続的にヌヴィレットの脚を揺さぶって、自身の精を残らず出してようやく満足した。





―――ようやくリオセスリが正気になったのは、ヌヴィレットの腹から上の乗り切れなかったリオセスリの精がシーツにぽたぽたと零れ落ちたのを目撃した時だった。
自慰もしたことなかったヌヴィレットに、今日二回も無理やり絶頂を強いて、且つぐったりしているのにリオセスリは自分の欲を優先して好き勝手してしまったことに、はっとした。

「ヌヴィレットさん、すまない!身体は大丈夫か?」
「……リオ、セスリ殿。私は、平気だ。……それどころか、君に色々と無理を言ってしまったようだ」
「いや、俺は結局は自分の欲を優先してしまったというか……」
「そのようなことは、ない。……君のおかげで、私は自分の純潔に自信を持つ事が出来た」

身体こそは少し億劫気味ではあったがそれでも長年の憂いが解消されて、ヌヴィレットの胸の内は清々しい気持ちであった。
リオセスリからのお墨付きも貰ったし、あれだけ激しく動いても性器は入ることが出来ない事が自分でも自覚出来た。これは揺るぎない事実だ。

「これだけのことをして……あんたが純潔だと言えるかどうか、俺には疑問なんだが」
「む?リオセスリ殿は、私がやはり純潔でないと思うのか?」
「いや、そうまで言っていないが」

リオセスリは少々頭をねじって色々と考えているようではあったが、ヌヴィレットは自己満足で忙しくあった。
そんな胡坐をかいて悩むリオセスリを見て、ヌヴィレットも思う事があった。

「そうだな…今のリオセスリ殿の大きさなら、入るかもしれない」

ふふっと、指さして指摘したのは、最初に見た時より随分と可愛らしくなってリオセスリの股間に鎮座する性器であった。正直、初見からそそり立っていたから平常時を見るのはこれが初めてなので、これならばとヌヴィレットも納得する。
さすがに第二ラウンドは勘弁してくれと苦笑するリオセスリだったが、どうせいざ挿入となればアレに戻るのだろうから、意味はないだろう。それに試しに触ろうとしたら、軽くパシッと伸ばした手を払いのけられた。もう流石に今日は終わりだと、頑なだ。
ヌヴィレットも納得したのだしと、早速リオセスリは立ち上がって、第25903回の確認書にさらっとサインをした。

「これでいいだろ?」

手渡された確認書のサインの文字は、いつもの流暢さより少し戸惑った感の残る文字であった。





「ふむ、本日の第25903回の審査に感謝する。では、来月1日の―――第25904回でも、同様の身体検査を頼む」
「はっ、?また来月も……これを???」
「当然だ。これは私の定期審査なのだから、な」



果たして一体、何回目でヌヴィレットの純潔は失われるのか……
リオセスリの苦悩は続く―――

















貞 操 の 危 機