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輪廻転生ネタで、悲恋気味。
「ヌヴィレット様。最高審判官、在位1000年おめでとうございます!」
パレ・メルモニアで行われた式典の一番後ろと言っても過言ではない末席で、生まれて初めてヌヴィレットの姿を認識した瞬間、天啓が襲い掛かった。
リオセスリに齎されたあまりに膨大すぎる情報量は、直ぐには消化が出来なかった。誰もが本日式典の主役であるヌヴィレットを讃え敬う中、一人軽く頭を抱えて何とか脳内の整理をしようと躍起になるが、それも上手くいかない。見回りをしていた上官の共律官が、はた目から見ても具合が悪いと判断してリオセスリを退席させなければ、更にその場で醜態を晒していただろう。その後、なんとか体調不良を自力で訴えて初めての早退を申請し、よろよろとした身体を引きずって独身寮宿舎のベッドに転がった。
「メロピデ要塞への配置転換希望?そりゃあ、あそこは万年人手不足だからこっちとしては助かるが……本当にいいのか?」
「はい」
何とかあの無理やりに引き出された天啓と現状をかみ砕いた結果、リオセスリは翌日上官に直ぐに配置異動申請をしたのだった。その可及的速やかな願いを。
リオセスリは、フォンテーヌのごくごく一般家庭に生まれ育った。一人っ子ではあったが、両親の仲も良く今まであまりにも平凡な人生を培ってきた。その満たされた子ども時代を抜け、いざ働くとなった際に、両親の勧めもあり安心安定したパレ・メルモニアでの職員採用に応募して勤め始めた。それがつい先日の事で、具体的な配属は未だ決まっていなかった。そんな中、全員参加ということでヌヴィレット最高審判官の在位1000年式典に事務的に臨席することとなったのだ。無論、フォンテーヌ人でヌヴィレットの存在を知らぬ者はいない。リオセスリとて物心ついた時にはこの国の統治者である最高審判官を認識していた。だがしかし他の子どもと同等で今までさしたる興味もなく、広報や新聞で姿かたちを紙越しで知っているという程度であった。
そうして迎えた式典で、ヌヴィレットの姿を視認しその声を初めて耳にした瞬間―――全てを思い出したのだ。
500年前、己は前世であの人と情人であった事を。
「ようこそ、メロピデ要塞へ。歓迎するよ、新人くん」
久方ぶりに足を踏み入れた水の下であったが、案外変わってないなとリオセスリは懐かしさを覚えた。考えれば先々代水神エゲリアの助力あっての砦な為、構造的な変化は容易ではない。特段犯罪を犯す理由もないリオセスリは堅実な看守として、淀みなく配置された。
それは前世の記憶を取り戻したから懐古の為に訪れたのではなく、この国でヌヴィレットの存在を強く認識しないための最良の場所であったからだ。あのままパレ・メルモニアで働いていれば否が応でもでもすれ違う可能性が高い。ここなら、余計な事を考える必要がない。いっそ別の国にとも思ったが、それが難しいという前例があった。子ども時代に両親に連れられて、他国へ旅行へ赴く機会があったのだが、尋常ではない体調不良に見舞われてそれが叶わなかったのだ。あの時はたまたまと思っていたが、それ以後も国境付近が得意ではないという認識が身体にあったのだ、多分今後も端くれだけも結局無理であろう。となると、選択肢は治外法権である水の下しかない。
ヌヴィレットと極力関わらないようにと決断した事に関しては、独断で。別に嫌いになったわけではない。一応前世の記憶があるとはいえ、今のリオセスリは別人と言っても過言ではない。それに500年前のヌヴィレットが変わっていないとも限らない。そうして、そ知らぬ顔が対面出来るほど、これは胸の内の留めて置ける感情ではない。ならば物理的に離れるしかなかった。
「ふぁ……ようやく休暇申請が通ったよ。久しぶりに家に帰れる。ん?そういえば、お前全然水の上に戻ってなくないか?」
「ああ、俺はいいんだ。それに、水の上の家族とは手紙でやり取りをしている」
「奇特な奴だなぁ。そんなに真面目に働いてるから、同期より随分と偉くなっちまって」
「別に望んでなったわけじゃない。たまたま、今の管理者がそういう方針なだけだ」
あいかわらず水の下は性に合ってるし、制度も保たれているから看守生活も悪くない。リオセスリとしては普通に働いていただけのつもりであったが、矯正長である管理者に手腕を買われ、現在は看守達を統括する看守長の地位にある。今の管理者は直接自分で手を下さないで、階級による序列を付けて、看守たち同士を管理するという方針を取っていた。組織としてはこの方が統率が取れるし、不測の事態にも対応できるから良いと思う。一番偉い奴があくせく働くっていう姿を見せるのは、他の組織ならばともかく囚人が見て快いものではないのだから。リオセスリの唯一の想定外が、余計な口など出した記憶はないのにいつのまにか管理者に目を止められてしまった事だろう。おかげで年齢にしては異例の出世ともてはやされた。元々、パレ・メルモニアに配属されて速攻でメロピデ要塞の看守を希望する者はほぼいない為、その若さが際立っていたせいもある。
リオセスリも最初は序列が上がるのは良しとしていた。一般職員である主任看守はともかくとして、矯正処遇官である看守部長は要塞内である程度の自由が約束されていたからだ。別に職務に不満があるわけではなく、メロピデ要塞内で唯一リオセスリが避けるべき存在がいたのだ。それがメリュジーヌであった。前世にさんざんお世話になったおかげで彼女らを避ける方法も体得していたが、ただの看守では制限がある。だからこそある程度の地位は求めたが、そのせいでとんとん拍子に序列が上がってしまった。おかげで、メリュジーヌをうまくのらりくらりとやり過ごすことが出来、それ以外は至って平和に仕事に専念した結果、今の立場である。
「……辞めるって?あんたが、管理者を」
「ああ、オレもいい歳だ。いくら囚人の管理を看守長たちに任せてるとはいえ、そろそろ体力的に限界だ」
急にメロピデ要塞の管理者執務室に呼びつけられたリオセスリは、上官相手に隠すこともない声を出した。当然である。自分が水の下に初めて来たはるか前から、この管理者がトップとして君臨していたのだ。それが切り替わるなどという事は、考えもつかなかった。
「だからって、突然すぎる」
「知っているか?リオセスリ看守長。歴代のメロピデ要塞の管理者で、死ぬまでその地位を勤め上げたのは一人しかいない」
知っている。知りすぎている……リオセスリという名は偶然か。必然か。
かつて管理者であるリオセスリの情報は、水の上よりここの方が得やすかった。そうは言っても、写真はもちろんのことインタビューなども避けていたから、記録として残っているのはその名前とここの制度を改めたということくらいだ。ちょうどフォンテーヌの予言の危機である水害や超大型飛行船ウィンガレット号の話題の方が記録的に残っているので、リオセスリ個人は目立たなくて済んだ。そうして、天寿をメロピデ要塞で全うしたのだ。死ぬまでここにいたのは、元々孤児であり囚人であるという経歴な為、今の管理者のように水の上に戻るという選択肢がなかったからだ。
「それでだな。管理者を辞めるときは、水の上に後任を報告する必要がある。オレがお前を呼んだ理由、ここまで言えばわかるな?」
イヤだとリオセスリははっきり伝えたが、後の祭りであった。かねてからこの管理者はリオセスリが看守長より上の序列を授けようとしても同じように拒否っていた。だからこそ、もう水の上に……あのヌヴィレットに報告をしてしまったと寄りにもよってこの管理者は言い放ったのだ。リオセスリの承諾を得る前にだ。これはただの推挙ではなく、完全な命令であった。
こんなことなら前世の知識を生かして歴史学者にでもなれば良かったと一瞬後悔したが、きっとその歴史にこそ彼の存在が糸のように絡みついているので多分無理だっただろう。
治安も良くなったとはいえ元々、看守長にかなりの権限を与えて、今の管理者はあまり自分で動くタイプではなかった。だからリオセスリもそれなりに自由にできた。その為、無理やり座らされた管理者の地位も淀みなく、移行が可能であった。全く嬉しくはないが、一回りも二回りも年の離れている他の看守長たちも、今となっては書類仕事の多い管理者の地位など別に望んではおらず、かつての自分が持っていた史上最年少記録を更新することになった水の下の統治者になってもリオセスリに反発を持ちもしなかった。
こうして500年ぶりにメロピデ要塞執務室の椅子に着いたリオセスリは、水の下の管理と、水の上の統治者とのやり取りを行う必要性に迫られたのだった。あの人に会いたくなくて、水の下へやって来たのに、強制的にエンカウントしなくてはならなくなってしまった。
「……筆跡は変わらないな」
もちろん公的な事務対応でヌヴィレットから何かあったわけではないので、ひとまずはほっとした。最初こそは新しいメロピデ要塞管理官として今後の活躍に期待する的な内容の、就任書類は贈られてきたがそれきりだ。公文書のやり取りというのは、ある程度形式が決まっているので私情を挟む隙間などないのが助かった。
タイプライターが大分進化しているので、拝命書であっても個を特定するものではないが、それでもさらりと記載されたヌヴィレットの直筆署名を眺めて、リオセスリは呟いた。
こちらは記憶はあるとはいえ、身体は切り替わっているので覚えは少ないが筆跡くらいは変わっているだろう。管理者となった今、探せば500年前の自分の筆跡を調べる事も可能かもしれないか、それほどの興味はない。
管理者となれば、ほとんど何の制限もなく水の上にいつでも足を運べるが、その権限をリオセスリはプライベートで行使したことがなかった。看守長時代と一緒だ。ただ立場的に水の上の業者と関りを持たないわけにもいかない。仕事で必要な場合のみ、フォンテーヌ廷での取引業者や棘薔薇の会との会合の為にポワソン町へ足を運ぶことはしていた。だが、パレ・メルモニアへだけは固く足を踏み入れなかった。500年前は今より水の上と下の通信網が発達していなかった為に、定期報告などをする必要があったが今ではそうではない。だから、何かと理由を付けてヌヴィレットとの直接の対面は避けて、どうしても用がある場合は代理の使者を遣わせていた。
「ゴホッゴホッ……すみません。体調管理が出来ていなくて」
「いや、俺の方こそずっと水の上とのやり取りを頼んでいて、悪かったな」
「なんか僕。あんまり、パレ・メルモニアと相性良くないかもしれないです……ケホッ」
「どうしてそう思う?」
「……いつも必ず雨なんですよ、僕がパレ・メルモニアに行くと。だから、この前うたれた雨で体調崩してそれがなかなか治らなくて……」
平素、リオセスリの代理としてパレ・メルモニアの橋渡しを頼んでいる看守に、いつものように仕事を依頼しようとしたら、風邪で寝込んでいた。そんな状態であるため、火急の用とはいえ水の上に行かせるわけにはいかなかった。大抵のパレ・メルモニアとのやり取りは記録に残すために公文書で行き来している。だが、敢えて文書に残すわけにはいかない報告事項という事は多々ある。だから、パレ・メルモニア側もメロピデ要塞専用の共律官が派遣されてくるし、こちらも同じ体裁を取っているだけのつもりではあった。
しかし今、リオセスリの手元にある水の上に報告すべきとある事項は、迅速に対応すべき勧告も含まれていた。
「そろそろ、潮時か」
望んで着いた地位ではないとはいえ、管理者として一個人の私情より優先すべき事項が目の前にあるのだ。
それに、リオセスリ自身がヌヴィレットに要請されたことは今まで一度もなかった。だからヌヴィレットがどのように思っているのか見当がつかない。ただ名前がかつてと同じだけの管理者という認識をしているだけかもしれないが……さすがに、そろそろ一度も顔合わせもしたことが無いという状態を続けるわけにもいかなかった。
◇ ◇ ◇
「はじめまして、最高審判官殿」
「ごきげんよう。新しいメロピデ要塞の管理者殿。君と対面出来て、嬉しく思う」
晴れた水の上に上がり、500年ぶりのパレ・メルモニアの執務室で二人は対面をした。
メロピデ要塞よりこちらの方がもっとずっとずっと何の変化もなかった。相変わらずヌヴィレットはあの執務机に座って全く同じ姿と声色で業務を進めていた。
挨拶はそこそこに必要な報告事項を事務的に書類を含めて説明すると、瞬時に現状を把握したヌヴィレットは早々に共律官を呼び寄せて対処の為の指示を出していた。その的確で迅速な様子も変わらない。しかしこれでおかげさまで水の下の憂いもそのうち解消されるであろう。このスピード感は公文書のやり取りでは賄えない。やはり、足を運んで意見を直接取り交わすからこその良さがあった。
「助かったよ、最高審判官殿。これで俺も枕を高くして眠れる」
「なに、昔の貸しをようやく返して貰っただけだ」
完全に不意打ちの言葉を食らって、リオセスリは一時停止した。
それまできちんと互いに立場をわきまえた事務的な応対をしていたのに、ついにヌヴィレットはその一線を越えたのだ。はじめましてというリオセスリの挨拶を素知らぬふりをしてスルーしたというのに、やはり500年くらいじゃ記憶は飛ばなかったかと、当たり前に聡明な事を再確認した。
「まだそれ根に持っていたのか?」
「結局、君が亡くなるまであの時の借りを返す機会がなかったが故、当然だ」
あの時というのは、ヌヴィレットが珍しく個人的に水の下にメリュジーヌの事件を調べに来た一連の事である。あの時のリオセスリは旅人もいたことだし大したことをした記憶はなかったが、私的だったのに巻き込んでしまった事を嫌に気にしていたのだ。こっちとすれば不穏分子の囚人を予め排除出来て逆に感謝するくらいなのだが、明確な貸しだとヌヴィレットは認定したらしい。生前、たまにその話題が出たものの、そういう過程もあって結局清算されることはなかった。今更その話題が出てくるとは、虚を突かれたのにも近い。
正直、前世の記憶を取り戻したとはいえ、それが本物かどうか。この日この場までリオセスリは半信半疑な部分もあった。確かに記憶の中にある『リオセスリ』は500年前に存在していた事は歴史によって記録されているが、勝手に作り上げた妄想だとか記憶違いの可能性も十分にあった。そして、それがたとえ事実だとしても、あの公正無私の根源であるヌヴィレットが情人であったことに関しては、一番の疑惑があった。だが、それもこの場によって真実であったと肯定されてしまったのだから観念するしかない。
「それで、そろそろ私を避けていた弁明をして頂こうか。ただし、聞いたところで許すとは限らないが」
「そいつは随分と怖いな。別に言い訳をするつもりはない。ただ、ヌヴィレットさん。それはあんたも同じだ。あんたの立場ならいつだって、俺を水の上に呼びつける事が出来たはずだ」
互いに積極的に介入をしなかった理由はきっと同じだ。ヌヴィレットも多分、リオセスリに前世の記憶があるのか半信半疑だったに違いない。
それも、会話がこうして成り立った事で明確に判明したわけだが。互いに慎重になりすぎたせいで、今こうやって対峙することとなってしまった。
「私は……きっと、君に責められるのを恐れていた」
「俺があんたを、なぜそんなことをする必要がある?」
「君はおかしいと思わなかったのか?再び、フォンテーヌの地でフォンテーヌ人として生を受けた事を。本来ならば、自由に輪廻転生出来る筈なのに」
「もしかして、あんたがそういうふうに仕向けたのか?」
「言い訳となってしまうが、故意ではない。だが、君は元は純粋精霊でその構成物質は原始胎海の水であった。それを私の力で受肉させた事もあって、君が肉体的に死した後も原始胎海の水を掌握している私は、きっと無意識にまた君に会いたいと願ってしまったに違いない……」
「水は、生命の源だから……か」
「そう……これは君からすれば、呪いだ」
ここでヌヴィレットの表情は明らかな苦痛に切り替わった。それは長く共に過ごして来たからこそわかる程度の些細な変化ではあったが、間違いない。
ヌヴィレットがそこまで断言するのならば、恐らく事実なのであろう。そうだとしたら、リオセスリは予め敷かれたレールを歩いてきただけということになる。
「はぁ……そうだとしたら、随分とあんたを待たせてしまったようだな。うだうだ考えてないでさっさと会いに来れば良かった」
「……君は、怒らないのか?」
「そんなことするわけがない。というか、500年も一人にさせちまって悪かった。確かにヌヴィレットさんが言う通り、これは必然なのかもしれないが。それでも良い。これも俺が選んだって、はっきり思える。だって、また俺はあんたを好きになるからな」
困惑し戸惑うヌヴィレットに明確にリオセスリは右手を差し出した。また、よろしく頼むと示すように。
もしかしたら、ヌヴィレットは積極的に今度のリオセスリに介入しない様にと関わらない人生という選択肢を与えてくれたのかもしれない。それでも、こうやっていざ対面したらとても感情が抑えきれなかった。それは500年ぶりでも変わらずヌヴィレットが綺麗だったから。
ヌヴィレットは変わらず優しいが、この500年で色々あっただろう。長らく傍にいた元水神フリーナさえも寿命によって、傍を離れてしまった。メリュジーヌは変わらず隣にいたが眷属としてしまったが故に、対等に隣に並び立つ者はいなかった。
リオセスリの差し出した手を、ゆっくりとヌヴィレットは掴んだ。だから今こうやって、ヌヴィレットを抱きとめる事が出来る、運命に感謝出来た―――
「ん?ヌヴィレットさん。なんか冷たいんだが」
「……ああ、もしかして」
念願である500年ぶりの抱擁は、想像と少し違った。ヌヴィレットは元々体温が高いタイプではないが、それにしても……とリオセスリはマナー違反とわかりつつも訝しむ声を出した。
その指摘で何か思いついたヌヴィレットは、こちらの背に回していた腕を戻して、二人の間にはほんの隙間が発生した。少し自身の服の中を探り当てたヌヴィレットは手のひらに何かを握りしめて、こちらに見せてくれた。
「これは……俺の神の目か?」
「ああ。以前の君が亡くなって、生気を失いガラス玉となっていたのを、私が預かっていたのだ。ようやく君に返せるな」
久しぶりに持ち主の元に戻った氷の神の目は、存在を主張するように光り輝いていた。水元素の根源であるヌヴィレットがずっと所持していたのだから、こうやって少し凍り付いてしまうのは仕方のない事だ。
だが、二人の間に居ればその熱できっと直ぐに溶けるであろう。
「私は、また君を好きになって失うのが怖い……」
「大丈夫。俺は何度でもあんたに会いに来るさ」
「私も、これからもずっと君を待っている。だから、今はたくさん愛してくれ」
この時間は永遠ではない。
『今』のリオセスリはあと何十年持つだろうか?
きっとまた繰り返すだろう。何度でも…… 次に再び二人がまみえるのが、何百年、何千年後になるかはわからないが、確約など二人の間だけにあればよい。
そうして繰り返す輪廻で、ガラス玉である神の目だけが唯一の証言者となる。
「一人は、いささか辛かった」
そうしてまた、寿命によってヌヴィレットを一人にする。だが、君とまた出会えるならば頑張れるとヌヴィレットは言う。だから私は君の生まれてくるフォンテーヌをいつまでも守り続けよう。
寂しさを紛らわせる、この神の目が再び光り出す日を夢見て。
何度生まれ変わっても、またヌヴィレットはこの国の不動の統治者で最高審判官なのだから―――