attention!
メタ発言しまくる旅人に振り回されるタルディルの話。一応旅人の性別はどちらとも取れるようにしています。話の都合上パイモンはお留守番。ギャグです、ご注意ください。










「リセマラディルックさん、今日これから時間空いてるかな?」

「旅人………毎回疑問なんだが、そのリセマラとは何だ?」
「ああ、ごめん。つい癖で、………簡単に言うと、運命は自分で掴み取ったって事かな」



ワイナリーで経費精算書を作成する時間の合間、ディルックは旅人の来訪をメイドから受けた。
旅人が突然ディルックの元へと訪ねてやってくることは別に珍しい事ではない為すんなり通したが、たまに自分の名前の頭に聞きなれぬ形容詞が付け加えられているのは何故か。結局こうやって説明を受けたとしてもまるで分からないが、いつもなのでそれはもういい。そんな事より。
「………また、君も一緒か」
「やぁ」
本来なら、この場に足を踏み入れる事さえ憚られる相手。ファデュイ執行官であるタルタリヤが顔馴染みのように、旅人の後ろに続いて入って来た。片手をあげながらにこやかと、悪びれない表情を今日も今日とも。
「言っておくが、旅人には協力するが。僕は、ファデュイを容認しているわけじゃないからな」
「はいはい、わかってるって」
「ごめんね、ディルックさん。やっぱり今回もアタッカーじゃないとって思って。確定天井タルタリヤにも来てもらったんだ」
二人の微妙な関係を旅人も理解しているが、それをも凌駕しているある問題が存在していた。
いわく…自分は初心者旅人だからこの世界の理がわからないとの事だった。
モンドの危機を救った栄誉騎士が初心者とは謙遜をしているようにも思えるが、とにかく『元素』と名の付く要素に関して理解が及ばないらしい。元素反応、元素共鳴、元素量、元素粒子、元素オーブ、元素付着、元素シールド………頭に元素というものが付いていればすべてアウト。旅人自身が神の目を所持していなくても元素の力を操ることが出来る為の弊害なのかもしれない。その為、難しい事を考えるよりはアタッカーで殴ればすべて解決!という結論に生き渡ったとの事だ。
「相棒は俺の事。たまに確定天井って呼ぶけど、それって縁起の良い言葉なのかな?」
「うーーーん。まあ、これも一つの運命かなって。ともかく二人とも、頼りにしてるから」
「今回も、この三人か?」
「そうだね。気兼ねなく声をかけられるのか、二人だけになっちゃったから」
毎度おなじみとなりつつある顔ぶれになってしまったのには、少々の理由がある。
旅人は非常に顔が広く人望もあり慕われているからのだが、上記の通り力こそ正義と考えている節がある。いわゆるサポーターやヒーラーと言った面々の連携を何となくしか理解できず、声をかけにくくなってしまったのだ。もろちんアタッカー専門としている知り合いは他にもいるし、彼らも協力は惜しまないだろう。だが、女性だったり少年だったりと………このアタッカーしかいない道中という過酷さを強いるのは憚られているようで、余りにもしのびない。最終的に、成人男性であるディルックとタルタリヤだったら、多少の無理を言っても大丈夫という結論らしい。その経緯を理解しているからこそ、だったら自分に声をかけてくれとディルックも言っている。

「それで、今回はどこに行きたいんだ?」
「そうそう!この前、カッコいい両手剣を見つけたんだ!だから取りに行こうと思って」
「両手剣………それはどこかの鍛冶屋にあったのか?」
「違う違う。たとえそうだとしても、きっとモラ足りないし」
「相棒が望むなら、喜んで俺が払うけど」
「待て、両手剣は君には必要ないだろ?払うなら僕だ」
各々の得意武器から鑑みるに両手剣というならばディルックに関係があるのだろうと、タルタリヤに割入ってあたりをつける。
元々旅人と一緒に向かう先は、大体通常では足を踏み入れるような秘境や討伐対象の大型モンスターだったりする。見知らぬ彼らを倒した暁や、冒険をしていて手に入れた武器の中で、旅人自身が使用するものでないものを今までも貰ったりすることはあった。
「この前、ディルックさんにあげた両手剣より強そうな見た目だったから、是非手にいれたくて」
「気を使って貰うのはありがたいが………」
「相棒?俺には弓くれないの???」
「タルタリヤは、弓あんま使わないから大丈夫でしょ。一応元素熟知弓あるけど、よくわかんないし」

ともかく行こう!と旅人は張り切って、行先もつげずにワイナリーの二階から勢いよく翔った。窓から風の翼で時間短縮するほど期待に生き踊っているらしい。
続くディルックも仕方なく、この前旅人から貰ったいわゆるマグロソードを担いで屋敷を出ることとなった。
確かに強力な武器ではある。それは認めよう。だが申し訳ないが、旅人に同行する以外では使うことができないなかなかに問題のある見た目だった。
この武器がもしかしたら新しくなるというならば、いくらタルタリヤが一緒だとしても大義名分は十分であった。



◇ ◇ ◇



「ディルックさん、残りお願い!」

少しの切迫した掛け声と共に、指示された先にいたは炎スライム軍団。
炎シールド持ち相手よりマシとはいえ、得意の元素スキルが通用しない相手なので、通常攻撃で切り込んでいく。相手のおかげでマグロソード多少こんがりしているような気もするが、今は非常食にしている場合ではない。
大丈夫、ディルックさんはただ殴ってるだけで強いからとの声援をする旅人とは言うと、現在は雷属性だったらしく、炎と雷の過負荷爆発のせいで後方に吹っ飛んでいる。確か最初に出会った時は風属性。次は岩属性だった筈だが…本人曰くなぜ変わったのかよくわからないらしい、仕方ない。
「物理で殴るよりこっちの方が早いでしょ」
逆方向の炎スライムを相手していたタルタリヤから遠くで声がかかり、こちらに近づきながらフルチャージ重撃を付与される。波紋のように断流状態が浸透し、敵は次々と無双消滅していった。

「助かったよ…やっぱり頼りになるね。ディルックさんは、もう物理でいいような気がしてきた。今度、良い物理聖遺物あったら渡すね」
「相棒。俺も褒めて褒めて」
「そうだな。水スライム対策として、タルタリヤも物理になろうか?そうすれば今後一切何も考えなくていいし」
「えー」
いわく初心者旅人は脳筋プレイしかわからない。
こういうわかりやすく強いのが一番らしく基本はごり押しで、こちらにも突っ込ませる指示しかしない。
正直どうかと思うが、無邪気でキラキラした目を向けられ冒険や探検を全力で楽しんでいる様子を見るとディルックとしてもNoとはいいにくい。なんか強そうだから男性アタッカーに同行を頼んでいると言われて悪い気もしないし、モンドを救った栄誉騎士として大変感謝しているから、全力でこの旅人を守るだけだ。
とりあえず、元素爆発起こしても炎スライムが回復するわけではないし、飛び出るぴちぴちとしたマグロのダメージは確かに物理ダメージなので理にはかなっている部分があることに間違いはないような気がしてきた。もうそれでいいと最近は諦め顔だ。

「あ、ずるい。俺にも少し分けて」
「旅人に同行してるのに、携帯食を持ってきてないのか?」
「いや、持ってるけど。なんかそれ美味しそうだし、力がつきそう。俺のと交換して」
生憎この面子では、ダメージを軽減したりシールドを張るサポーターは一切存在いない。
もちろん体力を回復するヒーラーなんている筈もなく、この旅では食事こそが減った体力を回復する唯一の手段だった。満腹にならない程度に適度な食事を取りつつ、進むことが一番重要な事である。だからディルックも回復ついでに次の戦いに備えて、得意料理の肉に齧りついていた。タルタリヤの持つ、少々不気味そうなスープ料理は見ずに。
「毎回思うんだが、なぜファトゥスが旅人に同行する?何を企んでいる」
「全く企みがないわけじゃないけど、まあ一番は。俺が、スリルがあって楽しいからかな。俺は元々誰かと協力するより単独行動派だから新鮮というか。君もそうだろ?」
確かに、今は旅人に対して好意的であるように見える。こんな戦い方は自分じゃ思いつかないと言葉が続き、確かにそれはディルックも思うがそれ以上に、やはりタルタリヤは危険な思想の持主だと思う。ただどこかがぶっ壊れて重症なだけかもしれないが。ともかく監視しておくに越したことはないだろう。
「フンッ、妙な真似をしたら。旅人の前だろうが、容赦なく斬るからな」
「おー怖い怖い」



「二人ともーーーお待たせ。ちょうど良い道を見つけたよ!」





目的地は秘密のお楽しみだという旅人に示唆されて、最短ルートであるという地図を見ながら、今タルタリヤは断崖絶壁をひたすらよじ登っていた。

「相棒、これ以上は無理だと思うけど」
「え?そう。下から見たとき、行けると思ったんだけどな」
「右上にジャンプすれば行ける。早くするんだな」
「見た目よりしんどいよこれ。ていうか、さすがに力が………」
長身足長手長だからと、こういう崖登りはどういった必然でもタルタリヤかディルックが先に請け負う事が多い。危険である事に変わりはないので、別に構わないが計画性は欲しいところだ。
今回はタルタリヤが先行し、ルート指示を下から旅人がして、ディルックは合間にマグロで鉱石を掘ることに。
結果、最初は自信満々ステップで調子よく崖を登っていたタルタリヤだったが、頂上まであと少しのところを微妙な傾斜のせいでそれ以上登る事が出来ず待機状態となっていた。心なしか吹き付ける風も強くなっている気がするようだ。
「あー そうだ。そろそろスタミナがヤバいよね。タルタリヤ、スタミナ回復料理持ってる?」
「まさか崖登るなんて聞いてないから、持ってない」
「フンッ、準備が甘いな」
「ディルックさん、この北地のスモークチキンをタルタリヤに投げて!」
「え!そんな、今投げられても………ぁ」
料理を受け取ろうと最後にもがいたタルタリヤではあったが、状態キープしていたのにそこに無駄なスタミナを消化してしまったせいが、呆気なく崖を捕まえていた腕が外れて落下した。無抵抗に宙を舞ったタルタリヤの身体は、崖の中腹で登る位置を指示していた旅人とディルックの横に身体ごと落ちる結果となる。呆気なく無残にも、その肢体は崖の最中にたたきつけられて力尽きることとなった。数十メートルに渡る受け身を取る事さえ出来ないダメージはタルタリヤに直撃し、一気に体力を奪って死亡カウントを増やした。
これは二人にとっては何度目かの見慣れた光景で…ディルックに至っては別にファデュイだし、死んでもいいしと思ってるから気に病む点ではなかった。

「ごめんね。タルタリヤ」
「そう思うなら復活させてやったらどうだ?僕はしないが」
「それなんだけど、まださっき復活料理使ってから120秒経ってないから無理。
そうだな………ディルックさんもそろそろ鉱石掘りに飽きたよね?そうだよね」

「………わかった。登ってくる」
タルタリヤをわざわざ復活させてやるというプライドとの天秤の結果、ディルックは立ち塞がる絶壁に向かうこととなった。戦闘中ではないので一瞬考える余裕があっただけマシか。
先ほどタルタリヤが死んだルートも考慮して、見極めるしかない。キョンシーもびっくりなゾンビプレイではあるが、これも旅人に同行すると毎度の事だから、そろそろ慣れるかもしれない。
自分の身体が丈夫な事だけは両親に感謝するしかないなと、北地のスモークチキンを懐に忍ばせながら登るのだった。



◇ ◇ ◇



「着いたーーー」
「目的地は、奔狼領か?」
「相棒、わざわざ崖登らなくとももっと良いルートあったんじゃない?」
「えーでもワイナリーから直進するならこれが一番近道だと思うし」

何とかよじ登った先で落下死を逃れたディルックは、旅人から五分休憩を提案された。念のためのスタミナ料理回復クールタイムらしい。ディルックが登ったルートに続き、ちゃっかりタルタリヤと旅人も安全に登って来た。
何度か崖登りで死んだタルタリヤの苦言は旅人の心には響かないらしいが、こればっかりは仕方ない。旅人の猪突猛進ぶりは変わらない。とにかく無事に目的地に着いたのだから、タルタリヤが何度死んだとか復活料理のみで登っていたからずっと瀕死状態だったけどどうせ死ぬから意味ないとか、細かい過去の事を考えるのはやめよう。
とにかくモンドの蒼風の高地にあるサブエリアに到着だ。確かにここはワイナリーに近くはある。
「こんな林ばっかりの場所に、鍛冶屋なんてあるの?」
「あるわけないだろ」
「二人ともこっちこっち」
期待に胸を膨らませる旅人が、スキップでも入れるかの如く意気揚々と先行して獣の遠吠えも気にせず二人を導く。
樹木が生い茂る林間地は中に入ると、恐怖を感じるほど静けさに満ちている。深夜ではあるが、月明かりに照らされた鬱蒼とした道をまっすぐ進んでいくのだったが、着いた先は開けた場所。
「ここは………」
「あーそういう事ね」
「あった、あった。コレコレ。なんかゴツくてギザギザついてるし、絶対強いと思うんだ!」
爛々と煌めく旅人が示したのは、北風の王狼へ挑戦する鍵だった。
確かに、見るからに頑丈そうな大剣。ただ物ではない鉄の塊は、狼の名に相応しい神話さえ手に入れられそうではあった。
「これは不味いんじゃないか?」
「何で?とにかく抜いてみようよ。ダメなら地面掘るとかしてさ」
恐らく無理だろうとわかりつつも、一度はやってみないと旅人も納得しないだろうからと仕方なく、タルタリヤとディルックは交代でその聖剣と言わんばかりの石に刺さった剣の柄を引っ張る。旅人からすると伝説の選定の剣に見えるのかもしれないが、二人からするとそもそも抜くものではないと思っている。
ついで一応、刺さっている床の破壊を目論むがどういう構造かわからないが、謎の力で傷一つつかない仕様となっていた。そもそもマグロで殴っている時点で望み薄いんだが。一応、タルタリヤやディルックの元素爆発でも同様だったので本音はともかくとしても持ちうる限りの全力は尽くした。

「旅人あきらめよう。これは無理だ」
「相棒。そもそもこの剣、人間サイズだとしてもデカすぎるから。この旦那が装備しても扱えないと思うよ?」
「でも、おっきい方がなんか強そうだし。そうだ…一人じゃなくて二人一緒なら引っこ抜けるんじゃない?」
「「は?」」
「だから、タルタリヤとディルックさんが二人で協力すればさ。きっと」
「いや、無茶………」
「恥ずかしがってないで、ほらっこうやって………」
二人の手を導くように少々無理やり、旅人はタルタリヤとディルックの手袋を引っ張った。
別に二人ともに恥ずかしがってるわけではないが、旅人特有の謎の説得力が付与される。効率も悪そうだし絶対意味のない共同作業すぎて、戸惑いのまま頭の理解が双方追い付いていない。

導かれるままに、タルタリヤとディルックの互いの手と手が触れる瞬間。
その、狼の末路と思われし大剣が青白い輝きを天に導くだけの筈なのに、輝きが一層煌めいたかのように思えた。



『旅人…試練を受ける準備はできたのか…?』

「げ………」
「二人がもたもたしてるから、間違えて挑戦開始ボタン押しちゃった………」
さすがにこれは不味い事をしてしまったという自覚はあるらしい。旅人の顔色が少々青ざめて見える。
ゆっくりと王者の貫禄を見せつけながら現れたのは、四風守護の一人である北風の王狼…狼の支配者であるアンドリアスの霊だった。
「待って、なんの準備もしてないよ!元素スキルも元素爆発もさっき使ったばっかりだし」
「あ、よく見たらこの降りてきた壁。反り返しがあるから、登って逃げられない………」
「旅人。のん気に背後を見せてないで、早く僕の後ろに…」
「えっ、あ……… あーーーー!」
三人の中で一番隙があると判断されたのだろう。見事に大きな爪に狙い撃ちされた旅人は、あっという間にワンパンされてリングの場外へと見事に吹っ飛んだ。本人の望み通りに逃げる事には成功したが、強力な体力減少の結果に死亡というオマケ付きでは嬉しくもないだろう。
続く第二撃は、体制を立て直したディルックが振り向いて何とかマグロ大剣で受け止める。いったん間を取って身構えて対峙する形となった。ある程度の予想はしていたが、やはりこうなってしまった。
「チィっ、やるしかないか。君、僕をサポートしろ」
「は?俺が」
「君の得手は弓なんだから、その方が向いてるし効率がいいだろ」
「俺はそういうタイプじゃないんだけど」
口喧嘩の合間でさえアンドリアス相手に、何とか応戦できている程度だった。何もかもが万全ではない今では健闘している方であろう。素早い攻撃の連打を紙一重のところでかわすが、それでもジリジリと体力を削られる。
確かに動きの速い相手に弓のエイムは猶予を与えてくれないから、不向きだった。しかもタルタリヤに至ってはメインが水属性ゆえ、凍結反応を食らうこともあり体力の消費が激しい様子が垣間見られる。

「ふぅ…ちょっと休憩させて…」
「休憩するならエリア外に行けばいいだろ。なぜ僕の傍に来る?」
「だって凍結溶かしてくれるし。それに、逃げるような真似は出来ないよ。これでも出来ることはあるからね」
「クールタイム中の君に言われても説得力がないな」
さすがのタルタリヤもスキル切れとなれば、いつもの馴れ馴れしさとは少し違う余裕のなさがあるようにも感じる。
ディルックも合間合間にスキルと通常攻撃を挟んでいたが、外周を高速で周回されてからのダッシュ直進攻撃は流石に回避に努めるしかない。
そもそもの準備不足すぎて打てる策が少なすぎる。こんな、ほぼ単騎二人で挑むような相手ではない。
どうしようかと、思慮を巡らせていると。

「危ない!」
一際大きな叫びが背後を警戒していたタルタリヤからもたらされたが、反応はそれより半歩遅れるものである。気が付いた瞬間には狙い撃ちされたディルックを突き飛ばす形で、かばったタルタリヤがアンドリアスの特大ジャンプ攻撃を受けているのが見えた。
「なぜ、君が僕をかばう?」
不意に口から出た言葉ではあったが、その声がタルタリヤの耳に届いたかはわからず、そのまま無残にも朝露へと消え行った。
タルタリヤにとっては、本日何度目かの死因。真っ当な敵と戦ってという結果は本人からしたら本望なのかもしれないが、ディルックからすればピンチに追いやられたことに違いはない。たった一人で事態が好転する可能性は薄い。
しかし、じっと耐えていたおかげで時間だけは稼いだ。待っていたのは、復活料理クールタイムだ。最初に旅人が吹っ飛ばされて死亡してからの時間を換算するに、そろそろの筈である。
何でもいいから、この場を打開する助力をとディルックは空を仰いだ気がする………



「さぁて、始めようとするか」

「は?なぜ、君。今死んだのでは」
次に見たのは、間髪入れずに復活したタルタリヤの姿だった。
準備万端だと言うように意気揚々と、自慢である得意の双剣を構えて聳え立つ。それは、この氷と風に包まれる舞台で、より一層際立って見えた。
「相棒は自分じゃなくて俺を先に復活させたみたいだね。いつもの目玉焼きと回復料理とバフ料理と薬剤を一気に詰め込まれたよ」
「それはわかったが、君。スキルのクールタイム中じゃなかったのか?」
「知らなかった?一回死ぬとクールタイムリセットさせるの。だからさ…」
「………わかった。短期決戦だな」
「理解が早くて助かるよ………行くぞ!」

一つ、気合を入れる掛け声が入る。
心も身体も膳立は整ったタルタリヤが、先陣を切って走る。ジリ貧だった先ほどとはまるで違う動きで、それは生と死の狭間から復活した怒号の勢いを見せた。
それに触発されるように、ディルックも大剣を構えて向かっていく。
サポートとか料理での回復とかもうそんなものを気にはしなかった、ただこうやって一緒に戦う事がまるで楽しいかのような錯覚に包まれた―――



◇ ◇ ◇



「ほんっとうに、ごめん!!!」
辛くも戦闘を終えた頃、ようやく次の料理クールタイムを空けて復活した旅人が、一目散に二人の元に駆け寄った。両の手を添えての文字通り平謝りだ。
よほど慌てていたらしく、目玉焼きが口の端についている程。続く回復の為に、ディルックはエンジェルスシェアのアップルサイダーを手渡す。
「ともかく君も無事なようで良かった」
「敵を倒してしばらくしたら、またあの大剣が復活したね。そもそも触媒みたいなもので、人間が扱えるものじゃなさそうだ」
「そっか…残念」
「まあ、何事もチャレンジするのは悪い事ではない」
「俺はこういう戦いに身震いするからいいけど、相棒。自分は死なないように注意するべきだよ?」

「うん、わかった。また何かあったら二人に同行を頼むよ………あ!」
そこまでいつものお決まりの言葉で終わるはずが、旅人の思い立ったかのような少し甲高い声が響く。
そうして、少しの思考停止の様子をこちらに見せた。世界の理でも垣間見ているのか、たまに旅人は未知を解決するかのようにこうやって天を仰ぎ見ることがある。



「どうかしたのか?」
「喜んで、二人とも!今度、新しく岩属性のアタッカーを仲間にするから!」
「「は???」」

そうして、次には自信満々に謎発言を言い切る旅人が居た。
それは明らかな確信らしく、既に軽くジャンプするくらい喜びまくっている。
岩属性のアタッカー?そんな神の目を持っている局地的な有名人をディルックは知らなかったが、謎人脈を持っている旅人だからこそ、成し得る技なのだろうか。タルタリヤも同様なようで、不思議そうな顔をしている。
旅人は、たまにこういう突発的な不思議発言を以前からすることはあった。旅人には少し濁されたかのように、七神とも違う天の声だと言われたことがある。別にディルックは神を信仰しているわけでないが、それぞれの胸の内に信じる者がある事は知っている。ただ旅人の場合、それが少しズレているような気がするが。
「それは、やはり男なのか?」
「もちろんっ 二人と同じく頼りになりそうな大剣使いだよ」
「へぇ…大剣ね。良かったじゃん、先輩としてそのマグロソードを渡してあげたら?」
「………余計なお世話だ」



「これでようやく、四人パーティーが組めるようになるね。今度、紹介するから。じゃあ、またヨロシク!」

リセマラディルックさんと確定天井タルタリヤに続いてどんな出会いがあるか楽しみだと、また色々と爆弾発言を投下しながら、最後は大きな笑顔であわただしくも旅人は去ってしまった。
いつもこう後味が悪くないからこそ、毎回の無茶ぶりも付き合う形となっている。
新しい仲間を迎える準備に、これから旅人は忙しくなるらしい。また素材集めに付き合ったりするために、新しい未知なる敵と戦うことになるだろうが、それはそれで楽しくもあったが、しかし。
―――そうか、一人増えるのかと。一つ投下された今後が、ディルックの胸に一陣として残った。

「今度から二人っきりでピンチを乗り越えるっていうのは、無くなるって事かな」
「何を言っている?」
「別に。ただ、俺はこういうの嫌いじゃないって事だよ。君もだろ?」
「君に僕の何がわかる?」
「わかるよ、少なくとも戦闘に於いてはさ」
二人残されたからこその短い言葉のやりとり。
ただの戦闘狂のタルタリヤにも多少は思うことがあるらしいが、二人の間にこれ以上の会話はきっと必要ない。多くを語るよりは戦う方が、お互いを理解できる事が多いのだから。
今まで旅人に連れられてそれを何度も繰り返して来て、それはずっと変わらないと思っていたが、もしかしたら―――

「さぁて、じゃあ。俺も行くから……… 次に会うのは相棒に呼ばれた時かな?」
「待て、そっちは人里じゃない。どこに行くつもりだ?」
「………ちょっと風の噂でね。奔狼領の近くにアビス教団がいるって聞きかじったから、ついでに拠点を見てみようと思って。まだ戦い足りないし」
そう言いつつ、タルタリヤは目線でうっすらその先を見透いている。
善良な旅人の前では大人しくしているふりをしているが、タルタリヤの本質的に血肉躍る興奮がまだ足りないらしい。強敵を倒した直後だからこそそれはきっと。それに戦いにおいて、この男が満たされる時はないと、それはディルックが唯一彼を理解出来る点でもあった。
「そうか」
「って、何?君も一緒に倒しに行くの?俺と」
「勘違いするな。元々、僕もその情報は手に入れていた。それに、君の戦いは派手だからな。だったら僕が先に拠点をつぶす方がいい」
「へぇ…じゃあ競争しよう」
「また君は、そういうことを………勝手にするんだな」

癪だが、実力だけは認めているお互い―――
行先が同じだからこそ、自然と二人が進む足取りは早くなりつつあった。








翌日以後。
旅人経由ではなくタルタリヤが直接ディルックに声をかけての、二人の共通の敵であるアビス教団の拠点潰し競争は、これから先もしばらく続くのだった。
そのディルックの片手には常に、マグロソードが添えられているとかいないとか。



















確 定 天 井 タ ル タ リ ヤ と リ セ マ ラ デ ィ ル ッ ク さ ん と