attention!
プロ設定で、御幸の試合を降谷が観戦しにいく話。降谷と御幸が同じ球団に所属しています。無駄に同棲設定。











『9回の裏。2アウト、ランナー1塁。この場面で登場するのは、キャッチャーの御幸一也選手です』
『点差は現在1点、最低でもヒットが欲しい場面ですね』



バッティングボックスに立つと実況の声は届かない。それでもテレビかラジオでは、きっとそういう場面なのだろうと集中しつつも御幸は思う。
ホーム三連戦最終日。
相手のエースが好投した為に、今日は投手戦となっていた。ロースコアでの点のやり取り。
セオリーなら7回8回と決まった中継ぎリリーフが登場し、9回には抑えという流れだが、今日のボールの調子からいけると判断されたのだろうか、相手の投手は未だ3本しかヒットを許していないので、最終回まで任せられたようだった。
そのうち辛くも1本のヒットを許したのが、御幸の二つ前を任された選手だった。うちの投手も1点を許して7回で降板してしまったものの、十分に好投していたんだ。なんとか勝ち星をつけてやりたいと思うのは捕手だからこそ余計に思うもので、向き直る。
いくら好投しているとはいえ、9回まで投げきるスタミナにも限界があるだろうと今まで相手が放った球数の計算を頭で巡らす。こういう苦しい場面でこそ、得意の球を放り投げたいモノ。ボール球を選球し、際どいコースはファーボールが行動倫理。そして、昔から甘めの失投狙いは得意だった。
きたっ 手袋越しに握ったグリップに力を込めると共に、木製バッド独特の衝突音。

『打った!真芯で捉えたか。伸びるー伸びるー ぐんぐん伸びる――― 』
『入った――― ホームラ―――ン!!』
『サヨナラ2ランホームラ―――ン!!!ホーム三連戦最終日をサヨナラで飾りました!』
『バックスクリーン近く。ライトスタンドの中ほどまで飛びましたね。見事な一打でした』

確かな手応えそのままにスタンドに突き刺さったことを安堵しながら、御幸はホームベースを踏みしめつつ、しっかりと走り回った。
ベンチに戻ると、歓喜するチームメイトに多少もみくちゃにされる。そのフレンドシップは年を重ねるごとに過激になっていくような気がするが、それもチームに馴染んでいる証拠ということだろうか。
そうして何個目かのマスコットキャラの贈呈がされて、小脇にかかえることになる。気分良くそれをスタンドに投げ込むほど、まだ御幸は大物になったわけではないけど。
今日は十分に仕事を果たした。チャンスには強いと言われているが、重要な場面できちんとお膳立てのまま勢いづくことができて良かった。
ホームだからこそ、勝利の花火が打ちあがる姿をしばらく眺める。そんな心地の良い日で今日は終わると思っていた。

『ヒーローインタビュー、ヒーローインタビュー。本日は皆さんお待ちかね、御幸一也選手の登場です』
『ありがとうございます』
『いやあ、最後のサヨナラホームラン。もしかして狙っていましたか?』
『いえ。あそこまで上手くいくとは思っていませんでしたが、結果が出せて良かったです』
『安心した様子ですね。それではリプレイをハイライトでご覧になりましょう』

一端インタビューの中断が成され、大型バックスクリーンに最終回打席が映し出される。御幸は初球打ちをしたので、バッターボックスに入る瞬間からの巻き戻しだ。テンポの良い投球からの、ジャストミート。すくい上げられた打球は高く上り詰めて、ぐんぐんとスタンドへ向かう様子をカメラが追い続ける。スタンドへ入る瞬間は少しスピードをコマ送りにされて、その瞬間を鮮明に写しだした。
ライトスタンドはホームファンの外野席だ。当然、所属球団のファンが一同に介する場なので投入されるホームランボールの争奪戦になる。こういった場所は案外大人子ども問わず騒ぎ立てるものではあったが、そのボールは長身の男性がそのまま受け止めたようで、案外あっさりと場は盛り下がったようだった。
その…肉眼では遠すぎて本来は見ることができないその光景を見て、思わず御幸は驚きの声を出す結果となる。

『え?』
『どうかしましたか?御幸選手』
『ああ………えーと。入ってますね』
『そうですね。見事な一打でした。御幸選手はこれでホームランが通算………』

ヒーローインタビューは壇上で形式通りに続く。盛り立てる周囲に気後れしたわけではなく、ただ御幸は先ほどみたバックスクリーンの光景に頭が混乱して、いつもより歯切れ悪く受け答えしてしまう結果となってしまった。一番の花盛りの場であるのに、性格が悪いと言われる内心はともかく外面の対応は良いと定評がある方だというのに自分でもそのぎこちなさがわかるほど。
ベンチに戻った後、チームメイトからは調子に乗りやがってと笑いながら軽く小突かれてしまうほどではあったが、心ここにあらず。一刻も早く確認したいことがあったのだ。
試合後の軽いダウンとミーティングが終わると、シャワーもそこそこにして御幸は速攻で電話をかけた。
でない…でないか?いや、あいつなら御幸の電話には絶対でる。

「はい」
「降谷。お前、今どこにいるんだ?」

ユニフォームから着替えつつも、半分携帯電話を持ちつつ焦る口調で御幸は問いかけた。電話先の相手降谷はこちらの上擦った気持ちなどに対応はせず、いつも通りの様子で抑揚なく返答する。

「さっきバッティングセンターの横を通りました。もうすぐ信濃駅の横断歩道橋に差し掛かります」
「お前、やっぱりさっき外野席に居ただろ!?」
「はい。試合見てました」
「てことは、もしかしなくても。俺のホームランボールを取ったのは…」
「僕です。今、手元にありますよ」

確定的なことを本人の口から聞いて、御幸はくらりと目眩がした。見間違いなんかじゃなかった。やはりさっきのバックスクリーン越しに見た、やたらと長身の目立つサングラス男は降谷だったのだ!こんな衝撃を受けて、マトモにヒーローインタビューを答えられる男がいるもんか。
降谷暁は、うちの球団のエースピッチャー様だ。
昨日、先発ピッチャーとして堂々と完封をし投げたから今日は休息日の筈で、誰があんなとこに居ると思うだろう。降谷の性格をよく知る御幸以外では、想像もつかないであろう事態。少なくとも、今日試合の為にマンションを出た際、降谷は普通に寝てた。

「とりあえず、お前。クラブハウスへ戻れ。話はそれからだ」
「無理です。人混みの波がみんな駅へ向かってますから」

本日は日曜日。特に白熱した投手戦という試合だったため、時間もズレ込み。今日は途中で帰る観客も少なかったらしい。それは喜ばしいことだが同時に、ナイター戦ということで帰宅する駅への道中がどうしようもなく混み合うことを意味している。国鉄と私鉄で逆方向の駅へと客足は分かれるとはいえ、満員御礼のスタジアムから全ての観客を運び出す混雑っぷりは知れている。夜の幹線道路を警備員が示唆し、赤信号を渡らないようにと交通整理だ。試合がある時は、電車もピストン輸送をするが、それにも限界があることを知っている。
元々人混みが苦手な降谷も、現状あまり気分が良いわけではないことが電話の声の様子から伺いしれる。クラブハウスは球場の横にあるから、今からの逆走が無理なことは安易に連想出来た。これはとりあえず説教をしている場合じゃない。そもそも本当は昨日投げ込んで疲れているから休むべき日であって、仕方ない。

「わかった。とりあえず、マンションに戻れ。ファンやマスコミにバレないように気をつけろよ。俺もこの後、戻るから」
「わかりました」

ピッと、会話終了のボタンを押すと通話が途切れる。ふぅと息を一つ吐き出すことだけが今の御幸に与えられた猶予だった。試合で身体を酷使した後は、ゆっくりクールダウンしたいというのに…
とにかく早くこのクラブハウスを出なければと、先輩から誘われた飲み会だとかキャバクラとかを音速で断り、選手専用の車が鎮座する駐車場まで御幸は駆けることになった。





「戻りました」
「お帰り。とりあえず色々と聞きたいことがあるんだけど、まずは着替えろ」

右往左往したものの結局先にマンションへと戻ったのは、日曜夜の首都高を車で爆走することになった御幸の方だった。本当は道中に車で拾った方が良かったかも知れないが、マイペースな降谷には目的は一つだけ与えている方が扱いが楽だから。途中で人混みに気分が悪くなって休んでいたんだか、マスコミやファンにつけられたのだかはわからないが、とりあえずマンションのセキュリティだけは第一に決めた立地なので、ここに戻ってこれたってことだけはひとまずの決着だった。
だからこそ、一番頭痛くなったその服装に関して開口一番に苦言することになるのだ。

「試合の時よりは汗かいてないですけど…」
「そうじゃねぇよ。俺が居たたまれないの。その格好、なんだよマジで」
「何って、御幸センパイのレプリカユニフォームですけど」
「見りゃわかるよ!何で俺のなんだよ?」

そうなのだ。一番の大問題がソレなのだ。よりにもよって降谷の格好と言ったら、背番号もロゴも完全に御幸モデルなのだ。
そりゃあ御幸だって、レプリカの試供品どころか本物を持ってるさ。何枚も。って、そうじゃない。降谷が今かぶっている帽子も御幸モデル。首からぶら下げているタオルも御幸モデル。うちの球団独自の点数が入った時に使う応援傘さえも御幸モデルという万全ぶり。ユニフォームだけならライトファンでギリギリ言い通せるが、よりにもよってフル装備。これじゃあまるで御幸ガチ勢じゃないかと。恥ずかしい以外の言葉が出てこない。
球場でならばこの格好していても誰も気にとめるわけがないが、この場での違和感ハンパない。浮きすぎていて、ふつうに会話できる自信がなかった。

「応援したい選手の格好をするべきと思って、グッツ売場で買いました」
「そりゃあ、お前が自分のユニフォーム着て外野席に座ってたら、本当に殴ってたかもしれないけど」

そっくりさんコスプレどころか、それは本人である。瞬く間にもみくちゃにされただろう。あるいは。
降谷は私服にそれほど興味ないから本当になにも考えてなかったら、その可能性さえあり得た。実にもったいない。スタイルが良いから、ある程度なにを着てもさまになるのが憎らしいくらいなのだが。

「そういえば、僕のレプリカユニフォーム着た人をみかけませんでした」
「昨日先発したんだから、今日お前が投げる可能性ゼロだからな」
「多分、この格好していたから僕だってバレなかったと思います」

降谷からしたらこの格好がカモフラージュなのかもしれないが、違和感激しいぞ。しかし、本当にそれだけは良かった唯一の救いだろう。降谷は人目を引く長身に姿勢も良く、すらりと長い手足の持ち主だ。そうそう一般人には見えるタイプではない。
元々何かにつけて塩対応なので、声をかけにくいキャラではあるが、まさか昨日登板したばかりの選手がよりにもよってこんな他選手推しガチガチな格好して座っているわけないと、自分でも思うと御幸は嫌に感じる。いや、もしかしたら察したファンが勝手に退いたのかもしれないが、そうだとしたら感謝の言葉しか思いつかない。降谷の鉄の意志ならば、多少見つかってもプライベートですので開き直るって怖いとはいえさ。
御幸の不機嫌を感じ取ったのか仕方なくといった様子で、降谷は取りあえずさっとクローゼットから普段着に着替えてはくれたので、ようやく一息つける。どっと疲れの出た御幸は、本来なら純粋に座り心地の良いソファにぐだっと腰をかけた。降谷も、もちろんその横に座る。

「で。どうして、あんな席に座ってたんだ?試合見たいなら、他にいくらでも手段あっただろ?せめて内野のボックス席とかシート席とかさ」
「思い立ったのが昼だったので、席が残ってなくて」
「あー今日。満員御礼だっけ」
「もう御幸先輩は練習している時間でしたし。ネットで調べたら、ファンクラブ会員?なら余ってる席を当日券で買えるって書いてあったので」
「だから外野の、あんな中途半端な場所だったのか…」

最近は全席指定が多いが、降谷がいたのはいわゆる立ち見さえ出そうなベンチから一番遠い席だった。
普通に所属選手なんだから、ギリギリだっていろいろとチケット手に入れる伝手があっただろと御幸は思うが、降谷には球団関係者に連絡をとるという頭はなかったらしい。そんなことしたら、その時点で休めと止められているだろうからこんなことが起きるわけがないが。
そういえば、前に降谷の家族が北海道から試合を見に行きたいと連絡を貰ったときも、降谷自身はあまりピンとこなかったせいかチケットの手続きをしたのは又聞きした御幸だったのを思い出した。あの時は、バックネット裏だったか。
というか御幸にもだが、昨日投げたばかりなのに帯同でもなく球場に来るというのは誰だって反対するだろうから、もしかしたらそれを察したのかもしれないが。こちらに一声かければ、当日登録してなくともベンチの裏の後ろからだろうが、どうとてもなるのに。わざわざ観客と同じ席とは常人の発想ではない。

「僕、はじめて外野席に行きました」
「いや…高校の時に行ったことあるぞ。稲実の試合を見に行った時とか」
「そうですか。みんなについていっただけなので、あまり記憶が… 同じ場所だったんですね」

はじめて…というにはおこがましいほどで。御幸が記憶している限り、それなりの回数、降谷は外野席に足を運んでいる気がするのだが。ただ自発的に行くというわけではなく、いつも連れだってどころか誰かに連れられてという様子だったから実感が薄いのだろう。はじめて降谷が自分の意志で、その足でという限定をすれば、確かに本人の言う通りだろう。
そもそも高校の時は第二球場の方が試合はメインで使っていて、こっちは開会式閉会式と本決勝ぐらいか?きちんと来たのは。選手として来場しているから観客席にご縁がないのは仕方ないのかもしれないが、なにぶん記憶が曖昧すぎる。
まあ少しの昔である高校時代の話はさておいても、今。今である。プロになってからのホーム地。いくらビジター試合が半分を占める大前提はある。先発投手だから1/5しか基本は登板しないとはいえ、普段練習やらミーティングやらをする職場なのに、この興味の薄さよ。

「ていうか、去年の秋のファン感謝祭に、お前も俺と一緒に観客席にサプライズ出現したよな。それは覚えてるよな、さすがに?」
「あのときは…人混みに酔ってそれどころじゃなかったです」

一年とはいわないが、去年の秋のことさえ忘れてしまったのかと。降谷はドラ一投手だから人気もあり、ファン感謝祭は毎年参加している筈なのだが。
試合には最大限に集中するが、それ意外なことには相変わらずさっぱりである。

「だってお前。本当は恒例のゲーム大会に参加するはずだったのに、パワプロの操作が弱すぎから。ああいうのに回されるんだ」
「でもセンパイのかぶりものは可愛かったです」
「お前もかぶってただろ…なんでうちの球団、コスプレすんの伝統なのかな」
「お揃いで良かった………」

それだけは覚えていたらしく、降谷はその時のことを思い出してほわわんとした表情をした。
コスプレといっても着ぐるみレベルの大層なわけではなく、ただ球団マスコットキャラをモチーフにしたぬいぐるみの被り物を頭にしてファンの前に登場しただけなんだが。そんな程度でも金切り声と共にもみくちゃにされて、そうそうに退散した記憶は確かに御幸も忘れたいかもしれない。子供相手ならまだ微笑ましいのだが、大人に詰め寄られるとガチだ。
確かにあの時、降谷は人に酔っていて足取りも虚ろだったから、先導したのは御幸だった。

「そういえば今日、外野席から内野席に行けなかったです。センパイに声かけた方がいいかなって一応は思ったんですけど」

一応気遣いをするつもりあったのかと、少しだけ御幸は感心した。
うちの球団は珍しくブルペンがグラウンドの端にある。高校野球では当たり前なそれも、プロだとボールが飛んでくるから危ないと言われていて。たいていの球団は全然別の少し離れた場所にあって、観客席から見えたり見なかったりそれは色々だけど、登板があるといわゆるブルペンカー及びリリーフカーに乗って向かうというのが定番な球場もある。
まあうちの球団も宗教法人から借りてる場所じゃなかったら、他に作りたいんだろうなという話は小耳に挟んだ。安全性と、あとグラウンドに近いからこそそこを売りにした特別な観客席を作って収益を云々。
内野席からは外野席に行けるが、逆は無理というのも単純にお金の問題だ。

「前々からそういう構造だぞ。ちょっと迷路みたいだからお前、覚えられないのか。
ファン感謝祭の時は、グラウンドから内野席に向かう階段設置されてるからなあ」

選手がファンのいるスタンドに馴染みがないように、ファンは選手のいるグラウンドに上がる機会はそうそう多くない。
その一つがファン感謝祭で、普段はホームとビジターの席で基本は両チームのファンが半々集う球場に、その日はホームチームファンがいっぱい集まるのだから特別な場と言えよう。ロングパイル人工芝の大部分はステージ扱いになるとはいえ、土の外野部分はファンが降りて歩くこともできるし、あの場でグッツ販売をしたりもする。色々な企画の中でファンサービスを込めて色々な選手が野球以外の部分をさらけ出す場でもあるというのに、降谷は変わらず塩対応だから出来ることが限られすぎていると毎年言われている。
特にゲームをプレイするのはスポンサーさまのご意向で、若い新人選手の洗礼の場だというのに。降谷は高校時代からゲームに興味なかったから、あそこでパシリばっかしないで、少しみんなに揉まれるべきだった小湊弟とか倉持とか。毎年変わるゲーム内での自分の査定にわりと選手みんな右往左往しているのを、気にしなくていいというのは羨ましいが。御幸もプロのキャッチャー査定のシビア差に、球界の頭脳は何年後だろうと虚ろに見ている。
とにかく降谷は、そういう役回りがこないせいで、日々のファンとの触れ合いなどない。だから今日の試合みたいに、オープン戦でも交流戦でも消化試合なんでもない試合日という日常を外から見たことなんてなかったのかもしれない。

「ふつうの日なのに、みんなお祭り騒ぎで楽しんでいるのに驚きました」
「プロ野球は興行だからな。そりゃファンクラブ入って年間シート席買ってるようなガチなファンもいるけど」
「僕、プロ野球を見たのはじめてだと思います」
「お前、中学まで北海道だったもんな。まあ、俺も学生の時は自分でプレイするのが忙しくて球場まで足を運ぶ機会そんななかったけど」

昔は東京圏と関西圏が中心ではあったが、今はさまざまなプロ野球の球団が地方にあり、地域の活性化に役立っているが、自分の近くに球団がなければさっぱりという人も大多数だ。地元だから応援しなくてはいけないとは御幸は思わないけど、ここ東京より団結力はあるなと感じる。
ドームや設備が良くなったので、雪が降る地域での興行も成功するようになったのはとても良いことだと思う。ただ、別リーグのオープン戦で小雪がチラついたときはマジかよと思ったけど。あとは、特に四国は独立リーグ人気が根強いから、あそこに支配下球団が割入るのは難しいと言われているし。
昔より民間でのテレビ中継も減って、逆にCSやらBSなど野球専用チャンネルなどでみる人が多くなかったから多様化だと思う。

「色々なご飯が売ってたのが一番驚きました。たくさんあるんですね」
「球場飯か。うちの球団だと、ウィンナー盛とか有名だよな」

よくスタンドでファンが買って食べているのもが垣間見れるのを思い出す。スタジアムカレーとか、匂いまでこちらに漂ってきそうなくらいなボリュームなモノも多い。ふつうのチェーン展開しているファーストフード店とかも入っているし。外の出店の数も尋常ではない。
うちの球団ではあまりみかけないが、地方球団だと地域色が出るのでそういった面でも特色があるらしい。

「御幸センパイのチャーハンを食べました」
「は?」
「球場で」
「あー選手とのコラボ飯ね」
「僕が、家で食べているのとは違う味なんですね…」
「そりゃそうだろ。俺が完全監修してるわけじゃないし、プロが作ってんだから」
「チャーハンの上に乗っている海苔が、メガネでした」
「選手みんな目が悪くてもコンタクトだから、特徴あっていいだろ?」

御幸は野球以外にあまり趣味的なものがないので、インタビューとかで応える時に特技は一応料理ですと言ってたら、コラボ飯もその方向性になった。といっても、忙しいからそんなガチで本格的なモノを作っているわけではないから、チャーハンくらいならと軽く言ったら採用された。いいのかな、それで…とは思ったけど。
ちなみに降谷のコラボ飯は白クマかき氷である。屋根のない暑いグラウンドでの売り上げは女性人気もあってか、No1らしい。ここでも稼いでいやがる… 本当に降谷は、金銭に無頓着なのに勝手にお金が降り注いでくるのである。お金は寂しがりやだから、持っている同じような人間の元に集いたがるのか。
それに球場のスタンドで買える飲食といえば…

「そういえば、ビール売り子から買った?」
「いえ」
「可愛い子いただろうに」
「ナンパされている売り子の人いましたよ。ビールをたくさん買って飲みもしないのに連絡先聞いたりして」
「負の面は見たんだな…」

たしか今日って、月に一度のビール半額デーじゃなかったか?だから余計にそういう事態に陥るとはいえ、もったいないことをしては駄目である。
野球は興行。本当にファンに対してなにもしない日などはなく、ユニフォーム配布デー作ったり、球団の試供品を試飲で配ったり、地方とコラボして花束贈呈したり、始球式で芸能人を呼んだりといろいろと努力している。
その結果が、一時期の球界再編の暗黒期を乗り越え今ファンも増員数も増加の一途というわけだ。

「ファンクラブのポイントカード?も使ってみました。入場したときの。結構、並ぶんですねバーコードリーダーの前に」
「えっ、俺それやったことない」
「ポイントを貯めると御幸センパイの限定グッツを貰えたりするみたいです。僕これから頑張ろうと思います」
「いやいやいや…それ俺サンプルとして貰ってるから、どっかに締まってあるって」

もはやしまいきれないほど色々とサンプル品が溜まっているので、今度衣装部屋ではないがそういう用途として倉庫でも借りるかと思っているほどだった。
だいたいそれは御幸だけのモノではない。降谷だって十分そういったグッツがたくさんあるが、本人まるで無関心な為仕方なく御幸がまとめて管理しているので二倍あるのだ。そろそろ二人暮らしの空き部屋に詰めるの限界を感じる。

「なんか…センパイから直接貰うのは違う気がします」
「それはわかるけど。もしかして、また行くつもりか?駄目だぞ、見つかったら騒ぎになるし」
「じゃあ、今度は一緒に見ましょう。行きたいです、センパイと二人で」
「それってうちの試合をか?投手のお前は投げない日があるからギリありかもしれないけど、俺は基本ベンチ登録されてるんだけど」

降谷はふつうにデートかなにかのつもりで二人で観戦と言い出したのだろうが、お目付役としても御幸と一緒に行く方がまだマシというのはわかった。
だからって特になにもない二軍の試合見に行くのもな。若い連中に発破かけてるみたいだしと、降谷の提案に悩む。御幸も久しく二軍に落ちてないから、若い頃に独身寮生活で近くていいと思った事以外は、全然一軍と環境違うからと戸惑ったんだが。だいたい、グラウンドが都内じゃないからマンションからも遠いし。
でも降谷は一度言い出すとわりとキリがないというか、納得しないとまた勝手に外野席にいるかもしれない。今度はホーム席ではなくうっかりビジター側に登場するかもしれない。昔よりはマナーよくなったとはいえ、敵のヤジ、それは怖い。いい加減、うちの球団歌を変な替え歌にするのは止めて欲しい。

「あ、そうだ。そうだ。いいこと思いついた!」

敵というか、いろいろと腐れ縁というか、そのあたりをぐるぐると連想したら名案を閃いた。
早速その試合日程を調べる為に、御幸はパソコンへと向かうことになった。





◇ ◇ ◇





「楽しかったです!」
「そうだな。俺も久しぶりに純粋に楽しめた気がする」

ほくほくと満足そうにする降谷が隣にいたので、見事に大成功だ。
白熱した試合が終わった後。御幸と降谷はまだしばらく外野席にいた。降谷が望んだ観戦者として。足早に球場をでると目立つのと、人混みが激しいとまた降谷が不調を訴えるからだ。
自分が登板するわけではないとはいえ、グラウンドから伝わる熱気にしばし余韻を楽しむように、二人は今日の試合結果の内容についての談笑をしていた。
ふいにポケットに入れていた御幸の携帯電話が震える。大方の予想もあったので、会話を中断して相手を確認するとピッと通話ボタンを押した。少し、受話器から耳を遠ざける。

「何だよ一也!偵察?それとも冷やかし?オーロラビジョンにうつってるって」
「鳴。お前が、謎の鳴ちゃんグッツを見せつけて送ってくるから、使ってやったぞ」

にたにたと笑いながら、電話の先にいる成宮に言葉を返す。
そうここは、降谷と御幸が所属する球団のグラウンドではない。他リーグに所属する、成宮の球団のホームグラウンドであった。対戦相手もうちじゃないから、かえって気楽にみれるのが良かった。これなら二人で一緒に野球観戦が出来て、降谷も大満足している。
成宮も先発投手だからそのローテーションで、だいたい登板日が察せられるので、見事に的中して見に行くことができて良かった。別に成宮本人に見に行くとは一言も伝えていなかったが、カモフラージュ目的で身につけた鳴ちゃんグッツが功を奏したようだった。ホーム先発投手の活躍で回が切り替わる度に、観客席の推し選手を身につけたファンをカメラがすっぱ抜くのは当然で。うちの球場よりはるかにでかいオーロラビジョンを二つも持つ球団だ。大方、御幸の姿がそちらにうつったのだろう。ひらひらとわざとらしく手を振っておいて良かった。
まあ、降谷は鳴ちゃんグッツつけるの嫌がったんだが。御幸が他の男の応援をするのも癪らしいから、帰宅したら脱がされるだろうな。きっと。
その原因となった男が、また受話器の向こうで騒がしくしゃべる。

「百歩譲って一也は許すとしても降谷も一緒とか、ないから」
「ああ、そういえば。二人とも沢村賞候補だもんな」

他リーグとはいえ、ライバルはずっとだなと感慨深く頷く。
ちょっと怒鳴るくらいの勢いの成宮の勢いではあったが、「おーい鳴、何してんだ。ミーティングはじまるぞ」と電話の奥からチームメイトとおぼしき声が混じる。試合が終わったばかりたというのに、そうそうにこっちに電話かけてるくからこうなるんだよ。
いや、御幸も降谷を外野で見かけたときにやったけどさ。

「一也。今度会ったとき覚悟しとくんだな」
「今度って、リーグ違うから交流戦か?」
「いや、もちろん日本シリーズで」
「上等」

言い捨てるよう、電話が切れる。
御幸・降谷が所属する球団と成宮が所属する球団。どちらもクライマックスシリーズを勝ち抜かなければ遭遇できない高みの話だ。
スピーカーにしておいたおかけで、降谷の耳にもその言葉は届いたらしく、ごおっと燃えてる。オーラでてる。コラコラこの場では終え。相手のホーム地だぞ。しかも手持ちぶたさとはいえ、持ってきたボールを握るな。野球少年かよ。

「お前、他リーグの選手なんてろくに覚えてないからな。実際に見ると勉強になって、良かったかも」
「………僕は、御幸センパイのリードを信頼してますから」
「自分でもちゃんと考えろよ」
「…はい」

それこそ成宮の言う交流戦やら日本シリーズやらで、対戦する可能性があるんだ。御幸任せにされるのは降谷にとってよくない。あっちはDHだから打撃力もあるし。
ここのところうちのリーグは他リーグから首位の座を強奪されっぱなしだ。元から調子ずいている成宮の出鼻をたまには挫いてやらないと。



「今度は、結城先輩の試合を見に行きましょう、二人で」

意気揚々と、また燃えだした降谷の闘志を収めるのはなかなかに大変だった。
結局、ある程度は御幸が舵取りをしてやらなくてはいけないのだが、この世話女房的なのは嫌じゃない。
何より半分仕事みたいなものとはいえ、二人でいろいろな場所へと出かける必然があることに、御幸自身も喜びと楽しさを感じたのだった。









そんなこんなの順繰りで、降谷と御幸が色んな球場の外野席にセットで登場するようになった。

毎回、仲むつまじいを越えたイチャついた様子を巻き散らかすので、あの二人の邪魔をしてはいけないと、どこの球団のファンも暗黙のルールと化したのだった。






















モ ー セ の ご と く フ ァ ン は 避 け る