attention!
セックスしたい降谷としたくない御幸のゆるい話。最後まで致してはおりませんので、エロはぬるいです。













後から思うに、自分はそれなりに恵まれた環境にいたのかもしれないと御幸は考えた。
キャッチャーミットに魅力を感じて、それ以来いろいろな投手と組んできた。上級生が多かったけど同級生、そして下級生とも。クラブチームではそれが当たり前だったし、人の入れ替わりも多かったから一期一会と思う部分もあって。それこそ、ありがたくも別のクラブチームの投手から声がかかることさえあった。そうして野球強豪校の青道高校に入って、また様々な投手と対峙する。
その頃には、色々な投手を相手出来るのは、捕手冥利に尽きるなとそんな錯覚さえ感じていたのだ。



「あ、御幸一也!」
「どーした。沢村?ていうか、フルネームやめろ」
「さっき降谷が探してましたよ」
「またか。約束はしてなかった筈だけどな」
「じゃあ、俺はクリス先輩が見てくれるっていうんで、室内練習場行ってきやす」

今年の後輩投手は、特に生きがいい。良くも悪くもエース向きなタイプが揃っている。
その中でも一番元気がよく、ちょっとうるさすぎる気さえする沢村が軽く会釈した後、御幸の横を忙しく駆けていく。もう夜だというのにこいつ、いつもこんな感じだな。
投手だって相性があるのだから、色々な捕手を相手する方がいい。両成敗だ。それが当たり前すぎて、だからあまりにも。

「御幸センパイ…」

一人の投手からどこまでも渇望されるという事態に、御幸はどうしても慣れなかった。
ざぁっとざわめく一陣の風が横切っても、得意な球種と同じな真っ直ぐで重い視線で、降谷はこちらを射抜く。

「よう、降谷。なんか用?もしかしなくても球を受けろって言うのか?もう風呂の時間だろ。今日はだめだぞ」
「いえ。もちろん球も受けて欲しいですけど、あの」

普段から無口系統な降谷だったが、確実に言いよどんだことがあったので、どうしたどうしたと御幸は一歩近づいた。
野球では最低限コミュニケーション取れてるつもりだけど、未だに御幸は降谷の把握が難しいと思っていた。何事も真摯にぶつけられる訴え、のらりくらりかわしていける自信が最近ないのかもしれない。それは…あまりにも、見据えられるからだろうか。少し目線の高いその澄んだ意志の強い瞳に。

「僕、御幸センパイのことが好きなんです」
「え…」

御幸の頭が、さぁっと真っ白になった。
野球だったら、どんなピンチだって最悪の想定を予め立ててあって順応するパターンを最低三つは用意しているというのに。なんだ、本当に焦ると人間って思考が全く働かない。役立たずだ。どうすれば、いいんだと。考える事は諦めて、ただ普段通りにすることに努めることが精一杯だった。
降谷は投手でボールをこちらへ全力で投げる。だから御幸は捕手でボールをしっかり受け止める。そんな当たり前の事を―――

「うん、わかった」

もしかしたら、そのとき御幸はこくりと軽く頷く仕草を入れたのかもしれない。きっとそれが、降谷にはこの世界全ての肯定に見えたのだろう。
あっという間に気がついた次の瞬間には、がばりと降谷に抱きしめられていた。事態は瞬く間に悪化した。ただでさえ、ろくに動かない頭なのである。そんな極限状態で、上手い方向を考えろというのは色々と無理がすぎた。

「待て待て待て、降谷」
「嫌です。離したくない」
「わかった。そのままでいいから、少し腕の力緩めろ。逃げないから」

長身でもある降谷の手長すぎ問題が、野球ならメリットでもこの場で遺憾なく発揮された。
苦しい。熱い。ただでさえ頭を働かそうと無理に熱くなっているのに、これでは余計にだめだった。一端、冷静にならないと。

「御幸センパイも、僕の事を嫌いではないですよね?」
「そりゃあ、まあ」
「じゃあ、好きですか?」

すとんと落とされる言葉。降谷自身も自信があって問いかけているわけではなかったかもれしないから、少しの疑問の口調。でもどこか有無を許さない音程で、またじっと見つめられて。右にも左にも後ろにも、もう御幸の行く先はないように前を求められて強烈に。
今まで、これほど誰かと実直に向き合ってきたことなんてなかった。最初は求められても、御幸がのらりくらりと曖昧な仕草を入れれば毎回それに諦められてしまっていたからだ。でも、降谷は最初から御幸相手にブレずに、どこまでも。きっとそれは変わらないという確信があった。
顔が、最大限に赤く熱くなるのが自分でもわかった。だからってその返事が出来るほど、まだ受け止めはうまくできなくて、御幸はただ降谷の胸に顔を埋めた。

「御幸センパイ…」

熱くなった御幸の頬を、降谷の少し冷たく大きな手がふわりと触れる。そのまま顎に指をかけられて、ゆるく持ち上げられた。御幸はぎゅっと目をつぶったまま、流されるように唇にふにっとした感触が与えられて。
あ、コイツ…手を出すのもストレートだなと、考える狭間だった。

そのキスが始まり―――





◇ ◇ ◇





「御幸センパイって、あったかいですよね」
「そうか?自分じゃわかんねぇんだけど」

ぬくもりに餓えた子どものように、降谷が御幸の寮室のベッドに潜り込むようになってもう何度目だろうか。降谷の方が御幸より背が高いから、ベタベタするって感覚とは少し違うような…とりあえず隙あれば引っ付いてくることは多いけど。
数は少ないけどストレートな物言いに、裏表のない感情。そしてオーラでの自己主張。どこか多少ひねくれてしまった自分では到底出来ないことをしてくる。それが人間の行動として当たり前な筈だが、御幸は野球で捕手として一歩引いて見ることが当然だと身体に染み着きすぎていた。

「降谷、今日はまだ眠くないのか?」
「はい。昼間、寝ましたし」
「それ授業中だろ。ほどほどにしろよ」

たしなめる言葉を一つ入れてもあまり降谷には響かないらしく、布団の中でぎゅっと御幸を抱きしめたまま、空いた片手で後ろ髪の先を緩くするりと撫でられる。
今のところはスコアブック読むのに邪魔じゃないから別にいいけど…というか、亡くなった母親には本当に小さい頃しかそんなことして貰った記憶ないし、不器用なあの父親からはそんな記憶皆無だ。揺れる襟足をいじられ、どこかくすぐったいようなむずがゆいような、ふわふわした感情が沸き立つと段々と集中出来なくなる。
降谷といったらそんな遊びに飽きたのか満足したのか、元々腰に回されていたもう片方の手がそろそろと動かされる。

「っ…おい」
「わき腹くすぐったかったですか?」
「別にくすぐったくはないけど、何で触ったんだ?」
「センパイがあったかいから」
「もしかしてお前、少し基礎体温低い?」
「冷たかったですか?」
「いや、そんなに冷たくなくて気持ちよかったけど」
「もっと触りたいです」
「うーん。ま、好きにすれば」

あばら骨のある素肌をゆるゆると触られて、最初は驚いたが別に考えるほどのことではないかと、御幸は結論に至った。
北海道出身の降谷の夏の暑がりは理解してるし、気温の変化には過敏なんだろうな多分とその程度の認識。熱でも出ない限り、誰かに触れたことがなかったから自分が暖かいとかそんなことはわからなかったけど。
了承を得たことによって降谷の動きは活発化されて、御幸の寝間着の中を緩くわき腹付近を触っていた手が前に回されていつのまにか腹の前へ。野球をしているから別に太っているわけでもないし、そんなところ触られても何も感じなかった。普段から降谷にはユニフォーム越しに、勝手に腰に手を回されたりしてるし。ひっつくのが好きなのか?
ただ、徐々にせり上がっていくその右手が御幸の胸を意志を持ってくるりと撫で回した時、ぞくりと背中を駆けめぐるものがあって身体がわずかに震えた。

「…降谷っ」
「センパイ。こっち向いて…」
「ん…、」

抗議のために振り返ったのを都合の良い解釈をされ、そのまま音をつぶされるように口づけされる。直ぐに唇を割られて、息つく間に困惑する舌がからめ取られる。ぺちゃりと容赦ない水音が責め立て到来するのだ。
マイ枕にがっちり後頭部を押しつけられるキス…今までもしたことがないわけではなかったが、たいてい降谷は咥内を数分蹂躙すればそれで満足してそのまま寝てしまうので、まあそれくらいの酸欠ならいいかと御幸はすましてきた。でも、今の降谷のキスは激しさを増すばかりで唾液までも許されないほど、そのまま御幸の身体を明確な意図を持って触る手も止まらないのだ。既に着ていた服はめくられ、露出した胸部に好き勝手に撫でられていることがわかる。そこに揉むほどの価値がなくともだ。
さすがの御幸も、これは不味い方向に流されている…とキスでぼうっとしつつある頭で理解した。そして。

「っ…待て」

言葉と共に、何とか降谷の右手首に制止を促すために軽くつかむことに成功した。それは降谷が、御幸の腰ズボンに片手をかけたからこそのセーブ。
元々は唾液が交わい合うキスの狭間に出来た空間だったが、会話をするためにようやく少し降谷の顔が離れて目がぱちりと合う。そうして胸の鼓動と息が一段落した後に。

「お前、一体どこ触る気?」
「センパイの全部に触りたいです。嫌でしたか?」
「嫌だとは言ってないけど、びっくりするだろ」
「わかりました。でも、もういいですよね。全部触るって言いましたし」

一瞬待っての了承を得たと勘違いした降谷は、また止めていた手を意気揚々と再開しようとした。顔を下へと落とし、今度は胸元に直接のキスを一つ軽いリップ音を立てる。続いてぺろりと舐められると、先ほどまで絡めていた舌の熱さを思い出して、連想してしまう。何より決断が早い、早すぎる。
その震えた弾みで、腰骨でかろうじて止まっていた御幸のズボンがずり落ちそうになる。

「ちょ…全部って、なにする気だよ」
「だって僕、センパイのこと好きですから」
「それは知ってる。わかってる、て」

最初からそう言われたし、もう何度も耳にした。
無口で無表情だと世間では評判な降谷が、御幸の前では様変わりする。そのキッカケは野球だってわかっているが、それ以上に慕ってくれて求めてくれて。それが本当に自分だけに向けられる感情なんだと思うと悪い気はしなくて、だから別段と拒否の姿勢は見せずに応えて来たけども。これは。

「僕、御幸センパイとセックスしたいんです」

「絶対ダメ」

明け透けなく詰め寄られた言葉に思わず、反射的に即答してしまう。
だって、そんな。これだけは揺るぎないから、さすがの御幸も頑なだった。びっくりする暇もない。この妙案を、全く予想をしていなかったといえば嘘になる。それほど鈍いわけでもなく、だからといってそのまま流されるほどではなかった。



「どうしてですか」

下降する明らかな不機嫌がわかる。おかげでさすがに手を止めてくれたのが唯一の救いだろうか。多分、野球を除いたら一番荒れていると言っても過言ではない、降谷の問いつめだ。
本当はこっちの方がさんざん聞きたいことがあるというのに、見事に吹っ飛んだ。
そもそもがだ。御幸は仕方なく、健全な男子高校生としてまあそういった界隈話に義務的に混ざることがあってもうまーく取り繕ってきた。男しかいない部活にガチガチの寮生活。忙しすぎる練習が終わった後のたまの寮室での会話が同年代の男が集まればそういう話題なるのは、必然的だろう。彼女がいる奴なんて冷やかされまくった後に殺される勢いだし。もちろん興味津々な奴もいれば、からかわれて格好の餌食になる奴もいる。
そんな中で降谷はどっちにも属さないというか、悟りを開いた暁と揶揄されるほど、界隈話に興味ない態度をとり続けていたのだ。まあ北海道から野球の為だけに一般でやってきたんだから、覚悟が違うんだろうなーぐらいで周囲も自己完結していたわけだ。
そんな降谷の口から飛び出た言葉よ。お前、セックスなんて言葉知ってたのか?と御幸はまず一番に思ったほどだ。別に箱入りで育てた記憶はないが、それでもそっちにショックを受けたよ。

「どうしてですか。なんでダメなんですか」

御幸が唖然に押し黙ってしまったので、じりじりと追撃するように降谷はまた同じ言葉を繰り返す凄み。慣れてる御幸だから機嫌が相当に悪いだけとわかるが、知らない人間が連続でこの重みを食らったら居たたまれないだろうなと思うくらいには、圧があった。
今まで降谷から向けられる感情に関しては、なあなあですませてしまった自覚もある分、それを精算させる意味も含めて御幸は慎重に言葉を選んだ。

「お前は投手、俺は捕手。セックスなんてしたら普段使わない筋肉を酷使して、身体痛める。以上。それが理由」

きっと感情論なんかで降谷は納得しない。
だが、それが降谷の人生とも言うべき野球に関することならばどうだろう。降谷も御幸も今優先されるべき事項は野球で、それは誰がどう言おうと揺るがない。
そうだ、簡単な事だ。御幸は野球に関することなら、どんなことでも狡賢く頭が回るのだから。これできちんと理由付けが出来たから、上手く捌けたと思った。

「…わかりました」
「本当に納得した?」
「はい」
「なら、どうして脱がそうとしてんの?」
「セックスはしません。でも、センパイに触るだけだったら問題ないですよね」
「…そんなに触りたいのか?」
「はい、是非」

別にOKを出したわけでもないのにいつの間にか、露出した腰から尻の上の際どいところゆるゆると撫でられる。自分でだって風呂で洗う時ぐらいに義務的に触れるくらいの場所だから、他人に触れられるとなんだろう。今まで知る必要のなかった感情が少し沸き立った。少しの汗が、あまりよくない感覚であることは察している。
でも御幸はきちんと最低ラインのダメな事は伝えた。これ以上、あれもダメこれもダメだとこれ以上制限をつけるのは、降谷に酷な気がしてしまった。自分よりデカい男相手にどうかとは思うが、なかなか直球で可愛い男だと思うのだ。だから。
後から考えたら甘すぎると当時の自分を叱ってやりたいが、今は絆されるばかりだった。

「触るだけだぞ」
「もし破ったら、どうなります?」
「本気で怒るし…嫌いになる。もうお前の球を受けない」

ここまでしっかりと言いつけておけば大丈夫だろうと、条件反射みたいに警戒した降谷を見て思ったんだ。
こいつはとりあえず野球を盾にすれば、全部解決すると。うっかり御幸は簡単な逃げ道を用意してしまった。





◇ ◇ ◇





野球以外でこれほどまでに求められた事、今まであっただろうか?
御幸の人生はキャッチャーミットに捕らわれたままずっと進んでいた。そのことを嫌だとは思ったことなんてもちろんないし、自分で選んだ道だ。親元を少し離れて好きにやっていた自負もある。だから、野球に関わらないことには頓着がまるでなく、周囲から友達がいないとか性格が悪いとか言われても、全然気にしていなかったのに。
その到来は突然過ぎた。今更かわすことなんて出来もしない。

寮生活で寝食をほぼ共にしているとはいえ、御幸と降谷のこの関係をそう開けっ広げにできる筈もなく。ふとした合間に繰り返される逢瀬。
その中でも、普段寝ている寮室で同室者がいない時にする行為は、特上の秘密にも思えて。こんな事、三年生がいたらとても無理だったろうと思うくらいの。行為は段々と大胆にエスカレートしていった。



「御幸センパイ、気持ちいいですか?」
「見りゃ…わかんだろ…っ、いちいち言うな」
「聞きたいです。声、もっと」
「、なんで」

おかしいと今更考える余地など遅いという警鐘。
それでも最初はまだ理由付けが出来ていたと思う。それこそ、いわゆる男同士の触りっこと言えるものだった筈だ。降谷がむやみやたらと御幸に触りたがるから、どうしたって身体は反応するもので。じゃあ一緒に抜こうくらいの…軽く言うのが限界だった。あとはなし崩しだった。消極的だった御幸はあっという間に主導権を握られてしまった。いやまだ大丈夫だとどこまでも言い聞かせてのレッテル貼り。
それこそ当初は、ベッドの上で向き合って座り込んで性器に指を絡ませてしごくという。健全な男子高校生のルーティーンを、都合がいいから二人でしているだけという苦しい言い訳ですませる筈が。今はどうだ。ご覧の有様だよ。

「は…それ、やめろ。噛むな」
「痛くしたつもりはありませんけど」
「ん、そーいう問題じゃ…」
「じゃあ。まだ慣れませんか?」

震える性器を降谷に握られているのまでは最初と同じかもしれないが、いつの間にかベッドに押しつけられ、そのまま身体のあちこちを舐められたりキスを無造作に投下されるのは、ペースを握られているのと同等だった。御幸は認めたくないから強気でいるように努めるが。
唇にキスされるのは人目を忍んで外でもやっているから、まあ許容できるが、何が楽しいのか男の胸に執着することに理解できる日がくるのかわからない。
ただ、最初は撫でられても生理的に何とも感じなかったが、あまりしつこいと無理にでも引き出される感情があって。その名前は知らないし、まだ知りたくはないと思うのに。

「…痕、残したら。風呂、入れなくなる」
「それはわかってます」
「どうだか。前、そう言っても酷かったことあったじゃないか」
「あの時は、一週間キスもさせて貰えなかったですから、さすがに学習しました」

根に持つのはこちらの方なのに、やや不機嫌気味に降谷は本日初めて唇を寄せてきた。そのまま強く吸われて思う存分に咥内をまさぐるのは、あの時の鬱憤か?
いくら痕跡がそう残らないからって口相手なら何をしてもいいってわけじゃないぞと思うが、既にぬるぬるになった舌を絡め吸われて、後頭部をその大きな手で鷲掴みされてまた角度を変えて、じゅっと。それこそ酸欠になるほどの。
なんでわざわざ喉仏まで触るんだ?自分にもついてるだろ、それ。本当に余すことなく触るの好きだな。
御幸はそれになすがまま対応するだけでも精一杯なのに、降谷はまた利き手を下へとじわじわと下ろしていく余裕があるようで。実に、しゃくだと眉を潜める程度の抵抗しか出来ないことに降谷は気がついているのだろうか。知っていても、どうにもしなさそうなのが降谷だから仕方ないという気持ちにさせてくれる。甘いな、自分。
再び性器を一様に握り込まれて、わかっていたのに期待に胸がきゅうっとなる。いや、期待ってなんだ。どういう意味だと御幸が自己完結したい最中にも、降谷は好き勝手にもはや手慣れたという様子でイジるからたちが悪い。
もうそんな言い訳が出来ないくらい、何度もしているとはいえ、御幸にも年上としての意地があるのだが。

「んぁ…、っ」
「センパイ。なかなかイケませんか?」
「違、う。そうじゃなく…て」

キスも絶え間絶え間になった御幸から、降谷は身体を少しずらす。
立ち上がった性器を乱雑に握り込むだけではなく、巧みな指全てを添えられて指先だけでゆるゆると左右に撫でられる。そういう無駄な技術は、変化球を投げるときに発揮してほしいと一瞬だけ頭を過ぎる。そんな優しいふりだけの仕草の次はもちろん立て続けで、震える性器の先っぽを手のひらで包み込むと、そのまま指を立ててぐりぐりと重点的に扱われる。ちょうどカリ首の部分に爪がフィットして、規則性のない絶妙な動きに息は詰まり、悶絶しそうになる。
自分でするときもこんなことしないのに、他人に良いようにされると恐る恐るの加減なんてされないからダイレクトに伝わる。

「じゃあ、やっぱり。こっちも触りますね」
「っあ!…だめっ、だ」

軽く恐れていた事態に突入したが、降谷はもう容赦ない。
空けたもう片方の手でじわりじわりと侵攻される。性器のさらに下に落ちた手は軽く睾丸袋を揉んだ後に、ゆっくりと蟻の門渡りを名残惜しそうに撫でて経て、尻へと終着する。既にだらだらと漏れ出た御幸の、先走る精液の破末が辿り落ちるその場所にだ。
ぬめりを軽く指先で掬いつつも、何度かその入り口をふわふわと指の腹で撫でられる。じわじわとこの先を思い出して、御幸の腰が正直にぎゅっと震える。長くしなやかな降谷の指。手入れを怠らないようにと揃えられた爪先で軽く、とんとんとその先を示唆される。まだ、ひと思いにやってくれる方が何も考える余裕がなくていいと思うほどのジレンマ。

「大丈夫です。利き手じゃありませんし」
「だ、からって……ん。うぁ…」

ボールを放つ右手だけじゃなくて左手の使い方だって重要なんだぞと、御幸がこの場で野球講義の説教をする余裕なんてなく、許してくれもしない。
そもそも御幸が文句言うのを見越して、降谷はいつも左手でやろうとするから結局は同じだ。最初こそは利き手じゃなかったからこそ、ぎこちなかった動作がもう完全に慣れている様子なのだ。人間は学習する。それは勉学に使え。
何度か軽くその場で円を描くように指の腹で本来の穴の縁を順繰り撫でられると、そこだって順応してしまい、求めるように口を開けようとする。後は勝手に手招きしているのも当然で。それこそ爪の先程度の進入さえ果たしてしまえば、存在する障害などなくそのまま、ぐっと咥え飲み込む形となる。
その瞬間はいつも、ひゅっと息を呑む。

「あれ?やわらかい………」
「っ、おまえが。…いっ、つも、容赦なく、突っ込んでくる…から」
「センパイが準備してくれたんですか?」
「…ケガ、防止の…ためだ」

何が悲しくて。
自分の為に仕方なくやったこととはいえ、降谷は都合良く解釈したのか、いつもよりペースを上げて指を奥へ奥へと実直に進めてきたので、結局はあまり意味がなかったような気がする。ただ降谷の上機嫌を煽っただけだった。
降谷は決して御幸に優しい男ではなかった。もちろんこんなこと、自分以外の誰かにしたことはなかっただろうし、それ以前にただ好きだから全部に触りたいという欲望が第一に先行しているのだ。
最初は嫌悪感が凄くて、尻が上擦り逃げるばかりだった。それでも降谷は無駄に根気強く何回もトライしてくるので、事故防止も兼ねるのは仕方ないという言い訳。

「すごい。もう二本入る」
「ふ、ぁ!…いちいち、言うな」
「きもちいいトコ、あったら教えてく下さいね」
「ぁ…ぜってー 言わねぇ…」
「じゃあ、いいです。勝手に覚えますから」

ゆっくりした疑似的な差し貫きを数回繰り返してある程度の余裕を確認すると、直ぐに入り口の縁から共に差し込まれる二本目があった。増えた重みにギチギチの中がうねるのに、そこをまだ押し広げようとバラバラに指を動かすから容赦ない。そうして、抵抗して押し戻そうとする御幸の中の感触を嬉しそうにその指先で味わっている。
目の縁に溜まりつつある生理的な涙のサイドからチラリと降谷の表情を見るに、かなりわかりにくいがそれでも息を少し乱し夢中になっているのはわかる。
ただこういう頑張りの為に、無表情でローションを追加投入することだけは出来るのが良いのか悪いかは御幸は未だ判断決めかねていた。せめて一声かけろよ。

「この中が、一番温かいから。僕、好きです…」
「…変なっ、こと…ゆうな」
「でもセンパイも良さそうにしてます、よね?」
「おま、えが…。触りたいって、ゆう…から」
「そうです。センパイのことなら何でも知りたいし、触りたいです。全部…」

降谷の素直さは普段から認めているが、こういう状況での雄弁さはモテないぞと口をふさぎたくなる。御幸がそんな状況なのを見通して、好き勝手言うような確信犯だとは思いたくないけど。
ただ切望される。身体を、そして心も全て掬い拾われるかのように侵食されてどうしようもない。
薄っすら目を開けると、少し息を荒げた降谷がようやくズボンの前をくつろげるのが見える。よく考えると御幸は否応もなく乱されてもはやシャツを袖に通している程度という散々なのに、降谷は今まで涼しい顔をしてボタン一つ肌けていなかったことに関しては文句を言いたい。とはいえ…

「センパイ、後ろ向いて」
「ひぁ!入れっ、たまま。っぅ、ごかすな…」
「すみせん。でも腰震えるセンパイが可愛いから…」
「とりあえず…、それ。挿れ、ん…なよ」
「わかってます。ほら、さっきかずっと指が入ってるから無理でしょ?」

後ろに指を突っ込まれたまま、仰向けからうつ伏せへとぐるりと回されて指摘された通りに腰がガクガクしたのはさすがにこの状態の御幸さえわかったが、それに文句を言う余裕はあまりなかった。降谷が指を抜かなかったのも体勢云々より、そこに夢中だったせいかもしれない。
マイ枕に顔を埋めるような体勢は、降谷相手に後ろ全てをさらけ出しているのも同等だった。その恥ずかしさはあったが、赤面した顔を見られるわけではないことを差し引いてのギリギリだった。自分の姿を下半身側から眺めたことないから、あまり想像したくないけど。
後ろからだからこちらが見えないだろうと、御幸に実感させるように、降谷は中に挿れている指をぐいっと動かした。確かに前からよりは格段に扱いやすくなったのか、尻肉を一端寄せられてから改めて割り開かれる。
より奥へ奥へと埋められる長い指の刺激が甲高く伝導して、反射で御幸の尻が上がり角度がすり付く。それが逆効果だとわかっていていても、腹の奥から震えながらやってくる痺れが許してはくれない。
額からにじみ出る汗とだらしなく開いた口の端から漏れる唾液と少しの涙が、枕を濡らす。
思う存分に抜き差しが繰り返された後に、ようやく全ての指がずるりと抜かれて、ほっと一安心した刹那。

「っあ!なに…」
「そのまま足、閉じてください…」

いつの間にか内股に不思議とぬるりとした熱い感覚がやってきて、降谷に強制的に太股を支えられる。
四つん這いに近い状況で足を閉じろと言われても体勢しんどい…思ったが、下手に大股を開くよりは恥ずかしくないかと素直に言葉に従ったのがいけなかった。シーツをたどり寄せるように膝をじりじりと動かして足を狭めると最後にダメ出しのように、ぱちゅりっと閉められた。
その瞬間、明確な股間に加えられた強烈な違和感に動揺して、身体が文字通り少し背が跳ねた。

「おまっ。ぁ…ま、さか。ん、…ぅ や、だ…離れっ、ろ」
「無理です。はっ… 気持ちいい…」
「ひっ!…、ぅ…… ふぁっ あ、…つぅ」

確かに。確かに御幸は、後ろには絶対にソレを挿れんなときつく言った。
それを律儀にというか当たり前だが守る降谷にとって、それは最低ラインだ。でも今やってることはなかなかに最低だ。
何で、後ろから素股されなきゃならないんだ!
内股に割り入ってきたモノは想像外で、無駄にビクつく暇さえ与えてくれない。こんなのほとんどセックスじゃねーかと心の中で抗議をあげても、腰を必死に振る降谷に届く筈もない。それくらいの夢中だ。

「手、押さえ、んなっ…」
「じゃあ、もっと内股に力いれて…ください」
「無茶、…ゆーな。ぁ…」

狭い内股をぬるぬると勝手に降谷の性器が出入りするのが、異次元すぎてこちらの腿を押さえている手をぱちりと払うと、むっとしたのか言葉が落ちてくる。悪いのはどっちだよ。んなことできるかと思ったが、軽くぺしっと叩いてしまった罪悪感があるので、仕方なくできる範囲で内股を狭める。うっ、う。背筋が空く。凶悪なモノが身体の間を出入りしてる。
ていうか、角度的にうっかり見えるんだよ。こっちから他人の性器が切磋琢磨している描写がアリアリと。
別に普段から、降谷の性器の形とか大きさとか知ってるけど、風呂とかトイレとかのふつうのときも、こういうときも、知ってる筈だけど何度も見てるから。こうやって本来なら鈍くあるべき肉の多い場所をこすられると、再確認させられて体感されられると、どうしようもなかった。
さっきは指を無遠慮に突っ込まれていたし、今は内腿を擦られて尻を掴まれて、なんでこう…御幸の柔らかいところばかり狙い撃ちされるのか、と。

「逃げないで…ください」
「もっ、だって… むり」
「腰、揺れてる。限界…近いですか?」
「あ…ん。おまえ…は、やく。イけ…よ」
「センパイだって。我慢、してるじゃない…ですか」
「もっ、う。……や、めっ!ふぅ、っっ」

がしりと浮ついた腰を留められ、その位置を固定されている。
別に降谷を喜ばす為に腰を振ってるわけではなく、ポイントをなんとか外さないと嫌でも当たるのだ。降谷の反り勃った性器と、自分の過敏反応しまくった性器が。
もう腹を汚すように、とぷとぷと先端から白濁を滲み出している。そこに押し入るように堅い降谷の性器が当たり強制的に刺激されると、腰がずるずると砕けそうになるのだから仕方ない。
ただでさえ尻を突き出す格好になっている自覚はあるのに。恥ずかしいとか思う気持ちはどこかに吹っ飛んだかのように、下半身の甘さに痺れて頭が回らなくなる。通常の呼吸の合間に、絶え間ない声が無秩序に漏れる。
せめて、せめてが。降谷が満足するまでのガマンだと、羞恥に耐えるように、と。これが年上の微塵にしかもう残っていない矜持だったのに。御幸がなけなしの力で降谷を先に落とす為に内股をなんとか絞る。
降谷はようやく空いた手で、こちらの臀部を撫でた…と思っていたのに。あっさりとこちらの陥落を目指してくる。

「ふぁ、…あ、…んん。な、に。ゆび…いれて」
「だって…ここ。物欲しそうに誘ってる…」
「っあ、かってに。…きめんな、」
「センパイが、腰揺らすから…」
「、つぁ…おまえ、が… へんに、動かす……から、だろ」
「こえ、抑えないでください。もっとききたい」
「おまっ、もぅ、あ!……だま、れ………っ。はぅ、っん!」

ぐちゃりっと、禄でもない粘着を含んだ水音が後ろから聞こえる。
でも今の御幸に耳を塞ぐ余裕などなく、枕を掴んでバランスを取るのでいっぱいいっぱいだ。あんまり激しく降谷がこちらを揺さぶるから、力を入れないとどんどんと前進してしまう。ベッドヘッドに頭をぶつけるのはもうたくさんだった。
それにしても、降谷からすれば眼下にあったから、また穴に指を突っ込んだくらいなのかもしれないが、された方はたまったもんじゃない。
後ろからという完全な不意打ちだったせいか、不覚にも挿入してきた降谷の指を思いっきり締め付けてしまった覚えさえある。そこの熱は、まだ微塵も引いていなかった事を自覚させられる。
しかも同時だ。御幸の性器は太股含めて降谷の性器にすりあげられているし、後ろはこうやってまた容赦なく指でせめられるという前からも後ろからも全部侵食されて。その下半身の激動は、だらしなくうつ伏せになった御幸のすべてに伝わる。

「ソレ、はっ、…んっ!あっ、」
「あ、センパイ…っ」
「ひっぃ… あ…、ぅ。ん、………だめっ!…イくっ、!」
「…僕、もう!」

ピストンの早鐘が最大級に到来する。
ガツガツと頬張るように勤しまれては、熱い空間でそれに息もできなくなるくらい揺さぶられる。御幸は足をクロスするくらい狭めて、降谷の全てを絞り取るように求めて―――
余裕が消えた降谷が、指を三本まとめて御幸に突き刺した。奥の奥へと進入したそれが、ぐいっと前から攻めるいつもとは違う内側の方向を引っかけるように押し込められる。もうその場を制御する意志も伝わらず、流されるまま、唸る。
ぱちゅんっと勢いよく降谷の腰が入りその反り勃った性器が、御幸の性器の裏筋をゴリゴリと刺激を与えた。

「あ、っ!…ふ、ぁ!……あ、あん!!!ふる、っや……、んっっっ!」
「くっ…、はっ………ん!」

もうどこが境界線かわからないくらいどろどろに解かされて思考が、これは気持ちの良い事だと覚えこまされて、腹の中の熱を吐き出した。互いにびゅくびゅくと性器の先端から、濃い精液を射出する。
我慢したからこそ粘り気のある白濁が、御幸の腹や上半身の内側をめがけて勢いよく汚す。二人分の容量は受け止めきれなかった分が、ぼたぼたとシーツの上へやがて落ちた。なすがままの御幸は、すりつけられた腰を揺さぶられる度に反射的に絶え間ない射精をとぷとぷと淫らに繰り返した。
降谷は、何度も腰を強く入れて最後まで全部叩きつけるように全てを吐き出すまで、それを止めなかった。








ずるりとガタガタと震え気味だった御幸の足がかくんと落ちた。そのまま横方向へとベッドに沈むと、しばらくは息を整える事に専念する。
あれだけ閉じるように強要されたせいで、逆にいつものように足を開く方が億劫に感じるほどだ。ていうか、くたびれた。ようやく仰向けになって、降谷に文句のひとつやふたつやみっつ、いつもより言いたくなる。
それなのに等の本人といったら、先ほどまで見えなかった御幸の顔が見たかったのか、ぐいっとこちらへ身体を向かせた。



「大丈夫ですか?」
「……お前、出し過ぎ。こっちの顔の方まで飛んできたぞ」
「それ、本当に僕のですか。センパイも随分だったと思いますけど」
「どっちにしろ。お前のせいだろ」
「すみません」
「声に心がこもってない」

ぶっかけられた飛沫を拭いなから文句を言うが、きっと降谷は自分が悪いなんて思ってないし、いつもこんなだしまるで改善するタイプじゃないし、困ったものだ。野球もわりと我が強いが、こっちはもっと好き勝手で強引でどうしようもない。
それでもさすがにちょっとは悪気を感じたのか、寄せてしてきたのが深いキスではなかったのだけ進歩したか?いや、こいつ口元についた精液を拭う御幸に頓着しなかったから、自分が放ったのが口に入っても気にしないのかもしれない。御幸は自分のは舐めたくない。絶対にだ。降谷のは……………もう慣れさせられた。
年上の余裕なんてなんのその。最近こんなのばっかりで、ちょっと御幸の矜持に陰りがあるのではとムカッとした。だから、向き直ってからかってやる。

「ふんっ。さすがのお前でも、出した後のふにゃちんは可愛いよな」
「センパイだって同じじゃないですか」
「膨張率のヤバさ言ってんの。お前のマジ凶悪」
「それ褒められてるんですかね?」
「なんで前向きに捉えてんの?ほどほどにしろって言ってんだよ」
「センパイが、えっちすぎるから勝手にそうなるんです」
「俺のせいかよ!?」

対抗するように一度出してすっきりしたのか少しくたりとした降谷の性器を、またぴとっと尻に押しつけられる。
今度は対面しているから前からだが、そこにはさっきまでの威力があるわけではないので、余裕綽々だ。
まあいくら同姓とはいえ、平常時以外の他人の性器など今まで見る機会がそうそうあるわけじゃないから、これが当たり前なのだが。いや、尻の窪みを性器の先でゆるゆると撫でられている時点でおかしいな、やっぱり。執着すごい。
これマジでよくされるんだよな。挿れてはダメだと言ったせいで、まるで挨拶のキスがわりみたいに。軽く頭いたい…

「いい加減、離れろよ。十分しただろ?」
「もう少し触りたいです」
「いや、こっちが無理だからホント。って、また腰掴むなよ。それ以上、当てんなソレ」
「いっぱい出したから、ぬるぬるして気持ちよくないですか?」
「それはお前が、だろ」
「でもセンパイのここだって、完全に閉じてはいないし…」
「お前が指入れまくって無駄に広げたせいだろうが。どう考えても」

そんな御幸の後ろを、今は降谷が蓋するように性器の先っぽが押し当てているが、嬉しくないという気持ち。しかしそこは慣れてしまったようで、程良い心地よさにしっとりと吸い付いている。もはや恨めしいくらい。ふにゃちんのくせに生意気な。
ただ本当はこのゆるゆるとした感じは嫌いじゃなかったけど、なにぶん降谷になんでもかんでも好き勝手されるのは、正気の時は外すものだという自負。

「ほら、離れろ」
「あっ!いまそこに触られると…っ、」
「は?でっかくすんなよっ!」
「センパイに触られたら、こうなるに決まってるじゃないですか!」
「いや…だからって………」

確かに冗談まじりに降谷の性器に手を伸ばして、そこを退くようにと御幸は促したわけだが。そんな瞬時に早すぎるぞ、復活が。さっきまでのかわいいかわいいふにゃちんがあっという間に行方不明。カムバックプリーズ。
しかも、しかもだ。降谷の方もどこまで本気だったかわからないが、よりにもよって軽く御幸の中に押し当ててる状況でむくむくと膨張したのだ。芯を持つ硬さまで舞い戻るのもめくるめく。
自然と閉じ切れていなかった御幸のその場所が、先が…みちみちと割り開かれるのは当然で。
関節のせいで隙間が存在する数本の指を差し入れられる事はあっても、こんな密度も熱も圧倒的な物量を今まで体感した事があるわけがなく。たとえ先っぽだけであろうと、次第にくじくじと浸食される勢いだった。いつもしつこいくらいにぴったりとすり付けられて、意気揚々とぶっかけられたりしても、そこが限界で。
降谷の先走りが、もう御幸のナカに少しずつ流れてきて………この先の侵入の為の潤滑を目指しているかのような錯覚を体感することになる。

「あっ、センパイ。暴れないで」
「っ、だって。おま、っ……それ」
「動く…と余計に、」

ああ、とうとうついにかと御幸も観念の心が到来する。
もう何度も何度もいたるところを降谷に触られて、駄目だ駄目だと言いつけて最後の一線をギリギリ耐えて、でももう心の陥落は認められなくとも御幸の身体が…それを渇望しているのがわかる。
ずるずるとなし崩しとなって、その先を期待して、もう腰が勝手に求めて揺れるのを認めるしかない。
準備なんてとっくに――――

そうしていよいよ、ずるりと降谷の腰が動いた。



「……は、?…なん、で……」
「すみません、きちんと離れましたから」
「いや、なんで挿れねーの? チャンスだったろ、完全に!」

自分でも逆ギレしている自覚はあったが、簡単には治らない。
さっき完全に御幸は流されていた。それを受け入れるために目までつぶって、覚悟を決めて息を詰めた。身体はもちろんのこと、それこそ心さえも後一押しで陥落する自信があった。
今までの、降谷のどこまでも強引な押せ押せの様子からしたらこの引き際は信じられないと、御幸は瞠目する。どこもかしこも好き勝手にベタベタと触りまくって、まくしまくって。それで、今更この期に及んで引くなんてそういうキャラじゃなかっただろ。

「だって、センパイ。したら、本気で怒るって言いましたよね」
「………それ…最初に言ったやつ、?」
「そうです」

ここで御幸は一つ頭を順繰りとして、そもそもの経緯を思い出す。降谷が、セックスしたいというトンデモを言い出して断ったやりとりのアレコレをだ。諸処、押し問答をした。そして一つ、結論づけた。
本気で怒るって確かに言った。それと野球を引き合いにして、もう球を受けないと、取引材料の如く言いくるめた。
ふーん。そう、野球ね。そう、野球だ。投げるの大好きな降谷が、その球をもう御幸は受けないとなると、どうなるかと。それじゃあ降谷は嫌だから、しないとさ。単純な方程式だ。わかりやすい。
………なんだか、ムカムカしてきた。そりゃ、そうだけどさ。あーもうっ。ままならない苛立ちを隠せるほど、もう御幸に余裕はなかった。

「そうだよな。もうお前の球受けないってなるから、困るもんな」
「それも無いわけじゃないですけど」
「俺がそう言ったんだもんな。セックスしないのは、変な怪我しない為って。そうそう、間違ってない」
「センパイ、あの…」
「お前が、俺に触るのも適度に発散する為だろ?わかっ、……」
「少し黙ってください」
「え?っ、んっ、っ!……」

降谷の言う黙らせるというのはキスだったらしく、確かに強制終了を食らった。他人が喋っている途中の明確な介入。
が、それ以上に降谷がめちゃくちゃ怒ってるのが節々から伝わった。顎、乱雑に指をかけて掴みすぎ。息継ぎする合間なさすぎ。なんでだよ。怒ってるのはこっちの方なのに。
いや、きちんと言いつけを守ってセックスをしてないのに御幸が怒るのは駄目だったかと少しの反省はあるけど。だって降谷の態度が納得いかないのだ。お門違いに頭をぐるぐるとさせながらも、とにかく何で降谷の方がお冠なのかと、それは考えても今はわからなかった。
しかし、イラつくぐらいのキスの息苦しさと馴染んだ心地よさの狭間で、御幸の思考がまばらになった頃。名残惜しくも唇が離れる。

「センパイ」
「っ…なんだよ、あらたまって」
「僕は御幸センパイが好きです。センパイの事ならなんでも知りたし、触りたいし、それこそセックスもしたいと思ってます」
「なら、なんでしなかった?」
「嫌いになるって言われましたから。僕、野球以外にセンパイに好かれる要因ありませんし」
「は?俺がお前を嫌いになる?ないから、それは」

別に御幸だって自分が言ったことを忘れていたわけではないが、あれはあのときの言葉の綾というか。今更、そんな事になる筈がない。そんな事、考えたことないし、多分これからも。だからこそ、即座の否定が自然と漏れ出た。
こんな関係になって、皮肉かもしれないが野球以外の降谷をたくさん見た。
ド天然だけど内に秘めるものは深いことを、御幸以上に知ってる人間はいないだろう。あまり自覚のないタイプだから、そのことはもしかしたら本人以上に理解しているかもしれない。
強いところも弱いところも全部見て、それを良しとして受け入れてきたんだ。
確かに、降谷も御幸も今もこれからもきっと野球に捧げていくだろう。なにがあっても。それ込みで見ている面もあるけど、そもそも野球以外全部が嫌いだったとしたら、やってはいけない。それくらい深く取り込んでいるのだ。

まさか…野球が、御幸の人生で一瞬でも足かせになる時がやってこようとは。
ああ、こんな体験させてくれる相手だからこそ………



「じゃあ御幸センパイは、僕の事好きってことですよね」
「………どうしてそうなる」
「いい加減、認めた方が楽になれますよ」

なんだかんだと降谷が懇願するから仕方なくという、建前が崩落する。もうずっと囚われていることなんて、知ってたけど本人に言う義務なんてないしと、言い訳を続けて。
しかし、なんで真顔で聞いてくるのか。都合の良い解釈ばかりではなかったけど。

「センパイは、同情で男に触らせるような性格じゃありませんから。そんなところも好きなんですけど」
「お前、よくそんな好き好き言えるよな」
「本心ですから」

ああもうっ!意地を張るにも限界がいろいろと。あまりにストレートすぎる。これをひねくれた気持ちを建前に出しながら、これからも受け止め続けるなんて御幸にはハードルが高すぎた。
よく考えたら、今までなんでここまで頑なだったんだろう。年上だから捕手だからリードすべきだからと、降谷は全然気にしてない本当に。それを改めて思い知った。そんなところで変にマウントを取ろうとしても全ては無駄だ。
野球でも私生活でも、きっと降谷は変わりはしない。きっとセックスをしてもだ。だから、ようやく観念した。

そうして…御幸からしたら、少し背伸びをしたキスをする。
きょとんとした降谷は瞳を閉じる余韻もないほどで、素早く離れる程度だったけども。

「センパイからキスして貰ったの初めてです」
「そうだっけ?」
「いえ、最中には強請られていますけど。それをカウントしなければ」
「それはマジで覚えてねぇから」

まだまだ、面と向かって降谷本人に御幸の本心をさらけ出すのは無理無理。それでも少しずつでも歩み寄っていけばいいと、思う。





◇ ◇ ◇





いやホント、最初からなんでもかんでも許しておかなくて良かったと思った。

「今度は最後までして良い」ってこそっと伝えた瞬間に、そのままガバリと襲われて………その日の足腰は過去最悪だったから。

野球優先というストッパーが、降谷には必要なことを改めて思い知った。まだまだ足りないモノが多すぎるけど特に必要なのは、降谷をうまく制御して扱うコントロール。そしてしつこさ強引さに対応するためのスタミナか。
スタミナとコントロール。略してスタミナロール。
そこまでの結論に至り、御幸は一度ぶんぶんと頭を振った。いくら野球脳とはいえ、単純すぎる。だってそれは降谷が良く言っている単語ではないか。
だいたい今まで御幸は、コントロールとスタミナを合わせてスタミナロールじゃなくてコンスタって呼んでたんだ。業界用語的にはこっちだと思うし、それが見事に塗りつぶされたけど。
真似して意識しているとは知られたくないから、御幸は内心あえてそっちで呼ぼうと思った。





一度、許可したら見境いのなくなった降谷を相手に、御幸は今日こそはと、頑張って鍛えたコントロールとスタミナの成果を発揮する。
同時に降谷もその二つを鍛えているから、平行線だと気が付くのはずっと後のお話。


























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