attention!
ホークスさんとエンデヴァーさんと焦凍くんの三人が押し問答する話。致しておりません。ホー炎?なので焦凍くんはただの巻き込まれ。








『セックスしないと出られないラブホのロビー前へようこそ』



その表題を見た瞬間、あっと全てを悟ったホークスはそのまま押し黙った。





たとえ時計があっても、響き渡るこの轟音がいつになったら止まるのか、ホークスにはまるでわからなかった。
ただひたすらにロビーの出入り口と思われる個所に熱射を噴射するエンデヴァーさんと、この狭い空間の酸素濃度と室内温度を調整する為に右手をかざして氷の生成を成している息子のショートくんが、奮闘をしていた。

「ホークス!貴様も手伝わんか!」

怒り心頭なエンデヴァーさんは、いつも以上に声を張って怒鳴った。その叫びに連動するかのように灼熱の炎が増したので、またかという表情をありありと見せた様子でショートくんも氷の出力を上げがざるを得ないようだった。

「俺が出来ることはもう十分にやりましたよ」

そうなのだ。突然、この不思議な空間に閉じ込められて(敵の個性が原因なことはわかっている)最初はきちんとホークスだって、脱出の為に得意の個性を使ってあれこれ試行錯誤したのだ。だが、ものの見事になしのつぶて。
空想具現化。
心象風景を形にし、己の願望を達成させるという空間自体に干渉する個性の存在は前々から薄々知られていたが、ワープなどと同じく希少扱いだった。それが、きな臭い方向でヒーローたちにもたらされたのは最近のことで。残念ながらこの有様だ。犯人からすればトップツーヒーローを狙ったのかもしれないが、そこにトップヒーローの息子も巻き込まれたのはきっと計算違いだったろう。

「根性が足りん!」

そうは言われても、この怒り狂っているエンデヴァーさんへの助力などあとは自分の羽根を加えて無駄に火力を上げることだけで。もうそれは必要ないほどに無理だろうなって思う。

「一旦、個性使うのやめませんか?どれくらい効果があったのか確認したいですし」

そのホークスの鶴の一声を受けて。確かに一理あるなという様子で、ようやくずっと燃え栄えていた炎が収束を迎えた。
目覚めて頭の痛い表題を見て一通りここからそう容易に抜け出すことができないと悟った後、そのままの勢いでずっと唯一?の脱出口だと思いたいロビーの扉を怒りと共に燃やし続けていたのだ。燃焼系NO.1ヒーローが。その効果のほどはいか程かと、見るまでもなかった。だって変化があれば燃やしている最中に何かしらのリアクションがある。それがないということは、つまり。自分たちの個性はこの空間にまるで干渉できないということであった。

「ショートくんも、お疲れ」

父親の暴走を止められるわけではなかったが、彼がいなかったらこの場にいたホークスは熱さでどうしようもなかったかもしれないしと。素直なねぎらいの言葉をかける。
あまり口数が多い少年ではないようで、ショートくんはどうもと軽く頭を動かした。

「貴様!勝手に、焦凍に話しかけるな。情操教育に悪い」

ええぇぇぇ…なんだかいつも以上にこちらの扱いが悪い。風評被害だ。
というか、ホークスはショートくんとほぼ今回が初対面なのである。確かに体育祭の後に名指し指名をしたが、彼は結局自分の父親の事務所に行ってしまったし。自分が指名したことさえ覚えているかどうかって程度の接点の薄さだというのに、なぜだ。

「クソ親父、少し黙れ。うるせぇ」

炎による轟音という妨害もないのに同じテンションで叫ぶ父親を鬱陶しく感じたらしく、いくら個性を使っても変化がなかったことに対する疲れも交じってか、ぶっきらぼうにショートくんは言い捨てた。エンデヴァーさんの方をわざわざ見ないで言うのもなかなかにポイントが高い。
おぉ…これが噂の轟親子の仲かと、ちょっと感心するようにホークスは眺めていたからいいけど。傍目から見ると、どこかほほえましくも感じてしまうのはなぜだろう。本人たちにそんなことを言ったらキレられる自覚はあるが。

「まあ、まあ。少し冷静になりましょう」
「貴様こそ、もう少し慌てふためく素振りくらい見せんか」
「俺のキャラじゃないですし、ねぇ」

まさかこの二人の柔軟剤として立ち回ることになるとは思わなかった。生きているといろんなことがあるんだなって。
まあ正直なところ、この場所の仕組みを頭で咀嚼するかのように理解したところで一旦諦めたのだ。物理的な破壊行動という方向性については。個性というものには相性がある。ここにいる三人の能力はどれも強力だが、現状円満に解決するだけの力が足りないというわけではなく、情報が何もかもが足りていなかった。

「救助を待つしかねえか」

高校生にしては達観早くショートくんは、ロビーの隅に置いてあるやっすそうな簡易パイプソファーに仕方なく腰かけた。
先ほどホークスが工作作業をする二人を見守っていた位置だ。結局、どんなに燃やし続けても扉に変化は見られないし二人は無駄な体力を使ってしまったことになると、これ以上の狼藉も馬鹿馬鹿しく感じたのだろうか。
もちろんエンデヴァーさんは未だに諦めが悪いが。というか、矜持だろう。NO.1ヒーローが他人に助けられるのを待つだけというのは、プライドの塊であるこの人に我慢ができるわけもなかった。それはわかる。

「駄目だ。ここは焦凍の教育に悪い。何としてでも出るぞ」

あ、問題はそれなんだ…とちょっとホークスは驚いた。
確かになー 成人している自分たちならばともかく、高校生にこのシチュエーションは確実にアウトなことをちょっと忘れていた。
頭上に掲げられた脱出条件と思われる一番の問題な表題を一旦置いておくとしても、いやおそらく本物ではないだろうが、すべてがチープなラブホの仕様そのものである。いや、今の若い子にはファッションホテルか?そんなこと言ったらエンデヴァーさんの年代だとモーテルか?口に出しては言わないけど。18歳以下が本来は入れる場所ではない。まだロビーだからセーフじゃないかともホークスは思ったが、親心も含めて普段より更にキレ気味になるのも仕方ないのかもしれない。

「出るっつてもな」

具体的にどうするんだと思いながらショートくんは、あの問題の表題を見上げた。が、エンデヴァーさんは教育に悪い!と叫んで即座に視界を遮る。
まあ、その通りだ。いやなんかこの場で誰もがあえてふれていなかったソレにきちんと向き合おうとしたのが、ショートくんで大変申し訳ない気持ちになった。これホント。

「うぜぇ…何が教育に悪い?だって。俺だっていつまでもガキじゃねぇんだよ!」

今度はとうとうショートくんの堪忍袋の緒が切れたようだった。この怒り方、さすが親子である。苛立ちの様子を隠せない姿はそっくりだ。そんなことを呑気に観察している場合じゃないということはわかっているけど。
いつまでも子供のままであって欲しいという親の願望はわかるが、押し付けられた当人の不満も気持ちもわかる。というか、昔からきっと轟家の教育方針ってそういうのだったんだろうなって。でもここで不可抗力とはいえ、大人の階段を踏み出すのは悪すぎることだけはさすがにわかった。
三人中、二人が怒っていられては収拾がつかなくなる。さて。

「あのー じゃあ。とりあえず俺が一度部屋の中に入って様子を伺ってくるんでいいですか?」

なんか…この場でまるで発言権ないし。控えめな挙手と共にホークスはようやく一歩踏み込んだ提案をした。
そう、何を隠そう。ここはまだロビーなのである。この場でしろというわけではないのがまだ救いなのか?いやもうマトモな度合いなど吹っ飛んでいるが。どんなギミックがあるかわからないにしろ、奥に続く道が存在していると思われる以上、この場を脱出するのに残された手段は嫌でもそれしかない。先遣隊は得意だからもういいけど。

「どうやって中に入るんですか?」
「あー、多分これのどれか押せば開くと思うけど」

目を覆いたくなるほどの数あるのは、ロビーの背面壁にずらっと並んだ部屋選択パネルたちである。
部屋の内装の写真と簡単な設備の説明(概ね18禁)が、ドギツい色で主張している。ご丁寧に料金の書かれたご休憩宿泊時間をも選べるので、ワンタッチである。ワーオ。

「この30人部屋とか何に使うんですかね?」

それはきっと純粋な疑問。ショートくんは一番上の大きいパネルを見上げながら、こてりと不思議そうな声を出した。

「撮影とかに使うんじゃないかな乱こ、…!いや、女子会とかで流行ってるらしいよ。はは………」

普通に途中までしゃべりかけた瞬間、横にいたエンデヴァーさんの火力が増大に波状した。
焼き鳥の危機を感じたので、慌てて軌道修正。おかげさまで、その炎は壁一面を覆い隠すだけに使われることになったわけだが、危ない危ない。いくらどうせこの空間にどんなに物理的に干渉しても無駄とある程度悟ったとはいえ、火の壁となっている眼前はなかなかに壮観であった。消防法ガン無視である。
もっとヤバいことを口走らなくてよかった。

「貴様…無駄口叩いてないで、行くならさっさと行け」

あ、もう俺が行くこと確定していんだとホークスは悟り。自分で提案したからいいですけど。
ではと、ショートくんが目を離した瞬間に弱められた火の壁だったパネル一面から、火傷しないように火力の弱い部屋のボタンをグローブ越しに押した。本当は一番簡易で無難そうな部屋を選びたかったが、もうなんだかわからない。
しかしとりあえず、無人のフロントの横にあるスライド式扉が機械音を立てて開いた。成功だ。例の表題の真下である。
この謎な空間にやってきて初めての物理的な変化に、ショートくんはちょっと目を見開いたような気さえする。
じゃあ行ってきますーとわざと軽く告げて、ホークスは開いた扉の前に向かうことになる。疑似とはいえ、ラブホの部屋にたった一人で入るのを見送られるのってどこか悲しくもあったが仕方ない…半分生贄になる気分でその扉をよどみなく潜ろうとした。

「っ、て!あれ…?」
「扉が閉まった?なんでだ」
「どういう仕組み?あ…離れたら、また扉は開くけど。入ろうとすると、また閉じる?」
「おい、ホークス。個性を使ってみろ」
「はいはい。って……………ダメですね。俺の羽も通過出来ません」

ここにきてまさかのお手上げか?と頭を捻り、無残に地面に落ちた自分の羽を見下ろす。
嫌々ながらも指示にしたがって入る素振りを見せたというのに、入室を拒否られるとはどういうことかと理解が及ばない。適当に部屋を選んだのが悪かったのか?いや、だからと言ってこの仕様は…
いつもみたいに軽く俯瞰したくなって、でも高さなんて望めないから仕方なくホークスは一旦その扉から離れて眺める形となる。その間、エンデヴァーさんとショートくんも何とか向こうへ行こうと扉の前で試行錯誤し始めたが、あまりにも何度も扉が開いたり閉まったりするのを単純に繰り返すばかりでエンデヴァーさんあたりなど軽くご立腹な様子が見て取れるが仕方ない。人物を変えてのチェレンジも利かず、またじゃあ試しに燃やそうとするのをショートくんが苦言を刺そうとした瞬間だった。
よく見ると、あの問題の表題が二人の頭上でチカチカと点灯しているのに気が付く。そして…

「あ…!」
「なんだ?」
「すみません、二人共。ちょっと扉の前に並んで立って貰えますか?」
「別に構わないが、貴様。目的の主語を言え」
「いや、すみせん。ほらっ、二人の位置からちょっと見えにくいんですが… 上の表題、二人でそのロビーマットに立つとWelcomeって表示に切り替わるんですよ。ってことは…」
「二人でなら中に入れるってことか?」

ホークスが言いにくそうにした部分を一番にショートくんが理解して口に出してくれて、また大変申し訳ない気持ちになった。
そしてエンデヴァーさんも、ああそういえば最初からそういう下らない仕様だったなって思ったかのようでボウッと燃えた。それはショートくんの左側だったから、熱さを感じないのが良かったのか悪かったのか。
とりあえず二人が瞬く間に、その扉から距離を取ったことは言うまでもない。
さすがのホークスだって轟親子をそのまま向かわせる程心は強くない。いや、不味いでしょって。一番の部外者だからこその目撃者になってしまう。

「中の調査は諦めますか?」
「ふざけるな!一刻も早くこんな場所から出るぞ。悠長に待ってなんぞおれん!」

エンデヴァーさんの意見も最もでもあったが、じゃあ具体的にどうやって…と言ってもなかなかに足を踏み出しにくい雰囲気が流れてしまった。余計に。
この厄介な部屋。どうしても、どうやっても、表題を遂行させたいらしい。もはや執念さえ感じる。熱意の強さの方向性が嫌らしすぎた。
しかしこれ、一人で放り込まれたら本当にどうするんだ…ってなるから、逆にまだ選択肢が残されているほうが残酷にも感じる。人間の判別をするなら、性別の判別もしてほしいような気もした。何をどう考えてもこの場には男性が三人しかいないのだから。無理を言いすぎている。

「もしかして、これって3人でも中に入れるんじゃないか?さっき30人部屋とかあったし」

まさかの奇想天外な爆弾発言を落としたショートくんは、独り言のような口調だった。きっと深い意味などないのだろう。そんな恐ろしい発想が出るのは、表題を強く意識していない清い心だからに違いない。若いって素晴らしいと思ったが、それはそれでいろいろと不味すぎる。
さすがのホークスだって、一瞬頭を抱えたくもなる。

「駄目だ。焦凍が中に入るのは俺が許さん!この中は間違いなく危険だからな」
「…じゃあ俺はここで待ってるから、プロヒーロー二人で調べに行ってくれ」

危険の方向性に悩むものの、確かにショートくんにこの先を進ませるのは倫理的に問題があるのは間違いなかった。そうなると…もはや消去法しかない。
少し不貞腐れ気味にショートくんはパイプソファーに舞い戻り、さっさと行けばいいと父親と同じくぶっきらぼうにこちらへと発破をかけた。そんなところまで似なくてもいいのに…
まさかの息子にまでそういわれて、エンデヴァーさんもむぅ…とちょっと唸った気がする。嫌な形で背中を押されたことには違いない。
ショートくんを、この場一人で残すのもどうかとも思うが、とりあえずロビーにいるだけなら別段と何かしら危害を加えてくる様子はないし。まあ圧倒的に中のヤバさよりは、ロビーのほうがまだマシとエンデヴァーさんは判断したようだった。

が。行くぞっと軽く短く切って、最初から選択肢なんて与えられなかったホークスをずるずると引きずるとも思わなかった。思い立ったらさすが行動が早い人だ。躊躇ない。
今更渋ってもどうしようもないことだけは確定しているので、そのままようやく室内に入室する為に少し重く足を動かした。

あくまで、『調査』という名目を掲げて―――





◇ ◇ ◇





やっぱりなぜか都合の良い構造となっていて、扉の向こうは廊下や階段なども存在せず、パネル選択したと思われるその部屋にさっさと入室が成された。

「あー、やっぱり。一度中に入るとさっきのロビーに戻れないみたいですね」
「なんだと?貴様、なぜ予め言わなかった?」
「まあまあ。ロビーに居るならショートくんも大丈夫でしょ」

離れた瞬間から噂のショート患いになられても困る。ホークスは一番最初に予防線を張ることにした。
とにかく入ってきた扉は二人の入室が確認されると、スライドは硬いままもううんともすんとも言わなくなった。さすがラブホ部屋よろしくきちんと出入り口には精算機が備え付けられていたが、現金だろうかクレカだろうが入れようとしても反応はない。ただのオブジェクト。
観念したエンデヴァーさんも仕方なく最初の名目であった調査ということで、室内を見渡すことにしたらしい。
別に好き好んで選んだ部屋ではなかったが、それにしても非常に狭い室内であった。
うれしくはないが先ほどロビーに掲げられていた表題がほんの少し切り替わっていて、その入り口には『セックスしないと出られない部屋』とギラつく謎ネオンでアピールしている。チカチカするのが目に痛い。
それに連動するように室内の内装ももう少しどうにかならないのか?と思うくらい安っぽい年代を感じた。ピンク。ドピンクだ。パステルカラーなんて女子向けのかわいいもんじゃなくて、紫がかった謎ムーディーさの眩しさに天井のミラーボールが拍車をかけている。下品だなってエンデヴァーさんは内心思っていそう。互いに感想などとても言える雰囲気ではないが。とりあえず確実に目に悪いので本当は照明オフにしたいが、電気が全部消えそうでそれもそれで調べるのに不都合が出るから仕方ない。
調査と言っても、ワンルーム。どう見ても四畳半程度の広さがいいところ。通路もないくらいの大きさのキングサイズのベッドが部屋いっぱいに鎮座していて、最低限の応接セットもないくらいである。あとは普通にトイレと浴室。以上。正直、この入口くらいしか棒立ちするスペースは許されていない。

「どうだ。何か見つけたか?」
「いえ、特には」

手分けして部屋を物色するといっても限られすぎている。
ベッドに乗っかって、本来は窓と思しき黒いフィルムをはがそうとしてももちろん無理。外界の空気なんて微塵も感じられない。天井付近を確認しようにも部屋が狭すぎて翼を全て広げて往々にとはいかないので、個性を使ってに留まるが変化はない。ホークスはいつも飛び回る青い空々が少し恋しくなった。別にここが甘い空気であるわけではないけど。
仕方なく無駄にでかいテレビの下の収納にある、ラブホ独特のグッツの山を物色したがソレ目的以外の何物でもありはしなかった。やっぱりなって。ゲーム機とかもないし。
そうして、エンデヴァーさんも何も収穫がなかったらしく声をかけてきた。

「これは何だ?」
「タブレット端末ですね。テレビつけたりルームサービス頼んだり…って、何付けてんですか!?」
「む。これはどうやって消すんだ?」

さすがに慌ててエンデヴァーさんからタブレットを取り上げた。
おそらく確認の為にテレビを付けただけだろうが、この場にチャンネル権など存在しておらず映し出されたのは初期設定されたAVであった。なんで初っ端から絡んでるシーンが映し出されるのかと突っ込む余裕は今のホークスにはなく、とにかくスライドして画面を消すことに専念する。普段ならともかく、何が悲しくて隣にエンデヴァーさんがいてベッドの上に正座してAV鑑賞をしなくてはならないのか。その気になるほうが難しくなっている。
それにしてもタブレットに対してのこの反応、なんか絶対エンデヴァーさん使ったことないだろうなコレってわかる。ていうかそもそもこの人、ラブホに来たことがあるのだろうか… ないだろうなと勝手に心の中で決めつけた。
―――なんだかもうどうでもよくなってきた気がする。抵抗している方が馬鹿みたいだって悟って。

「貴様。何故くつろいでいる?」
「だってお手上げでしょ。俺の個性も役立ちませんし」

観念してバタリとホークスはベッドに転がった。ギブアップ。他には立ち尽くすスペースしかないのだ。部屋いっぱいのベッドに横たわるくらいしか、もはややることはなかった。
それでも諦めの悪いエンデヴァーさんはもはやこちらを見捨てて、浴室探索に向かってしまった。そんな…エンデヴァーさん一人が入ればギリギリいっぱいの場所に何かあるとはとても思えないけど、じっとしていられないのだろう性格的に。こればっかりは仕方ない。

だいたい部屋に内部干渉が出来ない以上、ヤることヤって出るか、救助を待つかの二択しかない。
前者が無理な以上、ホークスは無駄な体力を使わないように休息を選んだだけのつもりだ。



ザアァァァァ…

さすがにうつぶせで寝たいわけではないから、少し顔を上げると浴室で試行錯誤するエンデヴァーさんがシャワーのコルクを捻った水音がした。
浴室もこちらから見えるスケスケのガラス張りだから、何をしているのか丸わかりだ。いや、向こうから見たらもしかしたらマジックミラーなのかもしれないが、この際どうでもいい。必要とされているのは解放感とは別のものなのだろうから。ご丁寧にどんなにシャワーの熱で湯気が立ってもハッキリと中が見える仕様のようだった。こんなチープな内装のくせに唯一のハイスペックがここか。
エンデヴァーさんは、簡易な作りのユニットバスを点検するかのように逐一凝視している。無駄ですよ。変わったものなんてスケベ椅子とマットぐらいですよって言う冷やかしの元気もない。それをもきちんと確認する姿がシュールだ。背徳的だ。
暇なので横になりながら、ぼうっとそちらを眺めるみたいとなる。まるで初めて彼女がシャワーを浴びているのをベッドで待っているやる気のない男の構図になっているが、見間違いが起きないほど自分より何周りか体格の良い男性であるエンデヴァーさんは。ワガママボディには違いないけど。

昔は…子供の頃は、よくこうやって第三者的立場でこの人を眺めていたな。それが当たり前で。
それを目標に邁進してきたとはいえ、もうガラス一枚越しでこの人を眺めるなんて…今はちょっと手を伸ばせば生身で存在していて、掴めそうだ。まるで。
こんな二人きりだけの空間では余計にそう感じてしまうのは仕方ない… そう仕方のない筈だって。
掴んで?
何だ、それ。掴んでどうするっていうのだ、自分は… それ以上、なにを。
あれ?なんだ。何で自分は今、別に悪くないって思ったんだろう―――
この胸のざわめきは。…状況に気持ちが引っ張られている?
まさかいくら敵の個性とはいえ、空間に干渉している以上そんなところまでどうにかする能力はない筈…だ。多分。
だって今までそんなことを考えたこともなかったからこそ、強制的に一度でも考えると微かな可能性が過ぎって―――



「おい!」
「は、はいっ!何ですか!?」

超絶驚いて、条件反射のように肩を震わせながらホークスは返事しつつベッドから飛び起きることとなる。
勝手に開いた背中の翼が、狭い室内にバサリと瞬く。軽い風が巻き起こる。揺らめき抜けた古い羽たちが数本ベッドの上に落ちたのも気にならないくらいに、ビクついてしまった自覚はあった。

「貴様も手伝え」
「え、何を?」
「俺が灼くから、貴様はそこのシャワーの冷水で調整しろ」
「…まだ諦めてなかったんですか」

若造の声など聞こえていない。ホークスの意見など無視をして、エンデヴァーさんは手ごろな浴槽の横の壁に向かってさっさとそのお得意の個性を発動させた。だからこちらも追随するしかない。
またも破壊活動の再開であったが、ロビー前でショートくんとタッグ組んでやっていた時より目の充血も落ち着いているし、苛烈さはないような気がする。
浴室だからこそ頑丈に作られているような気もしないではないが、エンデヴァーさんの素の燃焼能力を考えれば場所は大差ない。本来ならば。別段壁が薄いわけではないとは思うけど、試してみる価値はあると。確かにショートくんがいる方向でもないし。
それにしても狭い浴室だ。エンデヴァーさんが大振りで技を出すアクションするのも窮屈なレベル。いや、本来は二人程度が入っても支障がなくすべきだと思うが。ここで文句を言っても仕方ない。

ホークスは伸びたシャワーホースヘッドを持ちながら端っこで縮こまるが、それにも限界がある。
肩が触れるのも何だかダメだと思った。

「貴様… 珍しくいつもみたいに無駄にベラベラとしゃべらないな」
「…そう言うエンデヴァーさんは、ショートくんの心配ばかりですね」
「当然だ。まさか、貴様の心配でもしろというのか?」
「いえ、あなた自身の心配もしないのかなって…」
「何を言っている…」

さあ…ととぼけると、エンデヴァーさんはすぐに本来の目的である壁破壊に集中してしまった。もうこちらなんて見向きもしない。
狭い浴槽に響くのは、火焔による衝撃音しか存在しない。しかしそれも無駄だと、傷一つつかない様子はこうやって傍目から見ててもわかる。壁は壁のままただあり続けるだけだ。
それでも諦めない。
だからこそ、俺はこの人のことを… ああ、どうしようかな。

「………エンデヴァーさん、そんなにここから早く出たいですか?」
「今更、何か策でもあるっていうのか?」
「簡単な方法があるじゃないですか」

きっとエンデヴァーさんの念頭には微塵も存在しない事象を、ホークスは口にしようした瞬間だった。





!!!!!

灼ける破壊音とは明らかに違う何かが崩れ落ちる音が、頭上から訪れた。その衝撃とエンデヴァーさんの火炎が混ざって軽いテロみたいに現場なった。見事に吹っ飛んだのだ。
咄嗟に本能が反応するかのように防御へ回る為に羽たちが一堂に舞い上がり、包む。羽毛布団クッションのごとく衝撃の吸収を成しえた。何とか間に合った。

そうして、跳躍するストンプ音と共に聞き馴染のある声が飛び込む。

「ようっ!エンデヴァー、ホークス。敵はどこだ?」
「ミルコさん!?」

やはり外からの破壊要因が一番。内側からエンデヴァーさんが頑張ったのも、これはこれで無駄でなかったのかもしれない。結局最後には、往生際の悪さに感服した。とりあえず外からの個性という干渉が外れた結果、本来の構造のような脆さが露見する。天井どころか壁も床も、元来どんな部屋だったのかわからないくらいの跡形もない粉砕。
ラビットヒーローのミルコさんが突入してきて、すべてをぶち壊した。圧倒的だったせいか、ホークスはしばしの呆気にも取られる。

「中に敵はいないぞ。それより焦凍は?」
「ん?ああ、アンタの息子か。とっくに出てきたぞ」
「そうか」

やはりエンデヴァーさんはショートくんが一番で、それを確認すると、圧砕されたこの瓦礫の山たちから這いずり出てさっさと行ってしまう。あと腐れなどまるでない。さっきまであんな場所にいたのに切り替えが早すぎる。羨ましい。もしかしてヒーロー歴長いからこういうのも慣れているのだろうか聞く。ことなんてとてもできないけど、少し心がざわめく。
結局、本当に余裕がなかったのは自分の方だったと気が付いた。

そんな最中。ミルコさんはミルコさんで、敵がいないなら用はないという体裁でまた跳ねて行ってしまった。

取り残された一人として。少し助かった…とホークスは、そのまま瓦礫の上で少し胡坐をかく。
場に流されるタイプではないとはいえ、あまりにも異常すぎた空間にあれ以上留まっていたら、どうなっていたかと。不穏としか思ない事象。
いや、こればかりはホークスが若造である事が原因ではなく、エンデヴァーさんにも問題があると思いたい。責任とってくださいと軽く言いたくなるほどの…





「おい、ホークス!犯人を探しに行くぞ」

ショートくんの無事を確認したエンデヴァーさんはゴオッと加熱して、こちらへと再び叫ぶ。
早速の催促。リベンジに燃えて、こちらにも発破をかけてきたのだ。きっとこんな目に合わせた相手を、自分の手で捕まえなければ気が済まない。一度でも不覚をとったとは認めたくないだろうし、だから自分の手で捕まえる。貴様も同じ気持ちだろう、ぼやぼやするなと言っていた。確かにこれで敵を捕まえればチャラであるのかもしれないけど。
今のホークスにはそれだけではない… 今はまだ一方的すぎる感情が、憧れの屈折として沸いたのかもしれないと胸に。

今度はガラス越しなんかじゃなくて、きちんと手を伸ばすことが出来る。今はまだ並び立つことを許されるのならば、それはそれで悪くないと思うほどに。
あの人に名前を呼ばれる事が少し前より嬉しくなったホークスは、バサリとその翼を高く広げるのだった。

「今行きますよ」



だって、チャンスは自分で掴むほうが性に合っている―――

厄介な人間に好かれたことに気がつかないエンデヴァーさんが悪いと、勝手に都合良く思った。









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