attention!
嵐迅で、ご都合トリガー話。







「雷蔵さん、久しぶり〜」
「迅。まーたオレに何か用か?」
本部の中でも行き着けに近い開発室へ、その日の迅は足を運んでいた。
未来視を使っての暗躍には色々な要素が必要とはいえ、結局は具体的な力がなければどうしようもないのも事実で、その最先端がもちろんココだ。玉狛支部にも自慢のエンジニアであるクローニンがいるにはいるが、現在はあいにく出張中。それに、わりと凝り性というか独創性に溢れる部分もあるので、汎用を考えるなら本部に来るのが一番だ。
そんなこんなで顔馴染みすぎるチーフの雷蔵へと顔を通すのは、当然のコト。平均年齢がボーダーで一と称される開発室でも雷蔵はもちろん年齢的には若手ではあったが、他でもない防衛隊員あがりでここにいることもあって、現場のこともわかる優秀なエンジニアとして重宝がられていた。
「そんな嫌そうな顔しないでよ。だいじょーぶ、だいじょーぶ。今日は、別に無茶を頼みに来たわけじゃないから。ちょっと、うちの遊真とメガネくんを探しててさ」
忙しい玉狛第二のメンバーではあったが、目下のランク戦を勝ち抜くコト。そしてそれ以外の事にも忌憚する訓練はもちろん。遊真はそのサイドエフェクトを買われて、ときどき開発室にいるエネドラッドと対峙するように要請をされていた。それは迅が望んだ…ヒュースを玉狛支部に置く交換条件でもあった。そして未来へ。だからここにいる可能性が高いと踏んで来たわけだが、ざっくりごちゃごちゃした開発室を見渡しても姿かたちもなかった。
「あー、玉狛の二人か。おしかったな、少し前に出ていったぞ。支部に帰るとかなんとか」
「あれ?まさかの入れ違い。実力派エリートがこんなミスするなんて、まずったかな」
「そんなに重要な用なのか?」
「いや。今晩の料理当番おれだから、リクエスト聞こうと思って。ま、鍋の具材なんだけど」
「迅の作る料理?今は冬だからいいけど…真夏に鍋はやめろよ。元から胡散臭く思われる後輩からの信頼を、更に失くすぞ」
「酷いなー 雷蔵さんも、別にレイジさんが当番じゃない日だって気軽に食べに来ていいんだからね」
「鍋が食べたくなったら、考える」
そう言いながら、雷蔵は横に置いてあるファーストフードのポテトを手に取った。簡単な栄養補給。いや、簡単すぎるからこそ…迅が初めて雷蔵と出会ったときと今では随分と体型が違くなってしまった。このトリオン体の後遺症とも言える現象。うーん、迅も好物が一つなわけだし気をつけないとなと思う。それでも今日が鍋なことに変わりはないし、好物を食べ続けるのも止めないけど。
さて、それにしても。せっかく頑張る後輩たちに活気をつけるために、二人にはリクエストを聞いていつもより少し豪勢な鍋にしようかと思っていたけど、捕まえられなかったから。ま、水炊きでいいかと。お肉屋さんで少しグレードのよい鶏肉を使えばよいダシが出るだろうしと、そんな考えを回していたのだが………視線がふいに泳いだ先に。

「あ、えっ!雷蔵さん!………そ、れは?」
もはや迅に興味が薄くなった雷蔵は、進めていた作業に手をやってきていての最中。いきなり机の上に出されたものに迅は、非常に瞠目した。
指輪…指輪だ。間違いなく。もうそのだれから見てもそう思えるほどの。その程度なら何も迅がこんなに驚く必要性はない。しかし、迅はその指輪に非常に見覚えがあったからこそ、有り得ない的な驚きの声を出したのだ。
「ああ、指輪型のトリガーだ。オレの作った」
「…そうなんだ。びっくりしたよソレ。遊真のにそっくりだからさ」
多大な危惧がソレだ。ついさっきまで遊真がいたこともあって、余計に驚いた。
あの黒い指輪がどういうものか…迅は直接、遊真から聞いた事はない。だが、未来視で知っているからこそあえて聞くようなものじゃないと思っている。自分だって師匠の形見として持っていた黒トリガーがあったからこそ尚更に、口を閉ざす。
「エネドラッドにアフトクラトルのトリガーホルダーを聞いたら、向こうの世界には色々な形状があるみたいだからな。ちょうど作業中に目がついたから、模倣しただけだ」
恐らく雷蔵は遊真の事情は知らないだろうから、本当にたまたまなのだろうけど、迅には少し心臓に悪かった。
ボーダーのトリガーホルダーは、最初からわりと規格化されている。それはもちろん量産化するのに、本体が一定でないと融通が利かないからだ。中にはめ込むトリガーチップもそれを基準に作られている。だが、それを作った最初からあまり変化がない。時代の流れは小型化で、やろうと思えばこうやって縮小することも可能なのだろう。さすが凄い。現場のプロに対して今更そんなこと言うほうが失礼なんだろうけど。
もちろん今のトリガーホルダーにだってメリットはたくさんある。ちょうどいい大きさなのでポケットなどにしまいやすい。迅は腰に装着した専用のホルダーに差し込んでいたが、あれは風刃用でもあったからまた考えないとと思ったし。それこそあまりに小さければ紛失する。いくらトリガー事態に追尾機能がついているとはいえ、隊員事態の意識の問題もあった。まあ、確かに指輪ほどの安定性はないから、ふいに落としたりすることがないとは言えないが。あ、レイジさんみたいにレイガストで殴るには最適のサイズだと思い続けているけど。
「凄いねー これ、普通のトリガーと同じように使えるの?」
「まだ試作品だから、いろいろと条件があるけどな」
「へー面白そう」
未知の形状のトリガーに、迅の好奇心だって刺激されない筈がない。今、よくA級隊員が各々で使用している試作トリガーだって完成度は相当に高く、そのうち凡庸化が約束されているようなもので、話を聞くのはとても面白いのだ。
だからこれだって…と思い、台座にはめ込まれているその指輪をひょいっと持ち上げた。
「おい、迅…勝手に触るな」
そうは言われても、目の前にリングがあればはめてみたくなるもので、はいはい〜と軽く返事をしながら右手で持ったまま左指のいくつかに通してみる。何の変哲もないありふれた大きさなので、それは緩かったりキツかったり。それでも、ボーダーは男性隊員が殆どだから一応、男性用か。ようやくピッタリとハマったのはその薬指だった。
「おっ、ちょうどいい感じ!」
ちょうどいい按排に満足した迅は、指輪をはめた左手を少しすかすように掲げた。開発室はそう太陽が満遍なく入る構造にはなっていないとはいえ、一瞬煌いたかのように感じた。
遊真のトリガーは黒トリだからもちろん黒で塗り固められているが、これは銀色。その方が、ファッショナブルとして自然という配慮だろうか。通常のトリガーは見せびらかすようなものではないとはいえ、これならそう違和感はないと納得しつつも。
「…はめたのか!?」
「ごめんって。直ぐ、外すから」
ちょっと雷蔵がびっくりした顔で椅子に座ったままこちらを見上げたから、言葉と共に迅は指輪に指を当てて引き抜こうとしたのだが………
「………あれ?ちょ…な、…外れない?どうなってるの?」
入るときはスムーズに指の付け根に収まった指輪が、どういうわけかビクともしなかった。押しても引いてもそのままの位置で固定されて、まるで揺らがない。
「だから、触るなって言ったんだ。そのトリガーは、対で装着するものなんだ」
明らかな溜め息とともに、引き出しから先ほどと全く同じ指輪を雷蔵は少し乱雑気味に取り出した。おお、紛れもなく今迅がしている指輪と一緒の輝き。もう一つあるとは少し不思議な感じさえある。
「もしかして。そっちと合わせて、二つで一つのトリガーって扱いなの?」
「そうだ。そもそも、トリガーは利き手と逆手で作用するからな。指輪の形状が小さいこともあってチップを装着する箇所を補填するためにも、二つセットにしたんだ」
ちょっと指を刺しながら尋ねる答えだったが、想定外だった。なまじ前提が遊真の指輪なイメージだったから、なんでもそれと一緒だろうと勘違いしていたのだ。確かに、合理的に考えれば大きさ的にそうなるのはおかしくないことだ。が。
「で、どうすればこの指輪抜けるの?」
「片方だけを装着して抜けなくなるのは、設定した安全装置のせいだな。だから、こっちの指輪もはめて一度トリガーを起動すれば、どうにでもなる」
そう言いながら雷蔵は、もう一つの指輪をコトリと迅に手渡した。
ということなら単純に逆の指につければいいかな…と思った。左手の薬指にはめてしまった為、雷蔵の言うように正確にトリガーを起動させるには、それが良いような気がして。それこそ対になるように自身の右手の薬指に持っていった。
「なんか…入らないんですけど………」
悲しいことに、指の第二関節を越えたところで指輪はむぎゅりと途中停止した。
「だろうな。迅、おまえ右利きだろ?使用頻度から考えても、左の方が指が細いだろうからな」
こういう面倒なことが起きないように、とりあえず既製品のサイズにしたんだと軽く頭を抱えながら雷蔵は続けて呟いた。
「えっ、!じゃあ、これどうするの???」
「だから、試作のトリガーだと言ったじゃないか。元々、両利きの隊員で指のサイズを確認してから実験しようと思ってたところだ。誰か、その指輪をはめてトリガーを起動してもらえる人間を探すんだな。ちなみに、うちの開発室は誰も適合する人間はいないから予め伝えておくぞ」
半分呆れ顔で全てを雷蔵はこちらへ投げた。元々、勝手に触った迅が悪いとはいえそこまで重要なことと思っていないらしく割り切った様子だ。

そうして、とても呆気なく―――
とにかくこっちは忙しいんだ。帰った帰ったと、雷蔵にそっぽを向けられてしまった。残された迅の手元には、二つのリング。その一つは、自身の左手の薬指に揺るぎなくはまったまま。自業自得とはいえ無残にも取り残された。
ともかくここで呆然としていても、何も解決はしない。
迅は、とぼとぼとしながら開発室の外に出ることとなった。



「困ったな…」
どうやらこの指輪型トリガー。半分でも装着していると、何らかの外部から干渉がかかるらしく、いつも使っているトリガーホルダーで換装しようとも出来ないということに気が付いた。まあ、風刃を使いながらノーマルトリガーを起動できなかったことで半分は理解していたつもりだったが、今の迅は生身な筈なのにやっぱり面倒なことになったという認識しかない。
仕方ないが、やはり片っ端からそこらへんの人に声をかけて、指輪をはめてもらうしかないか…と思った。軽く不審者なんだけど。
「おっ、迅やないか。ちょうど良い。ぼんち揚、持ってへん?訓練明けで口寂しいんや」
運のいいことに、向こうから望んだ声がかかって来た。曲がり角の向こうからやってきたのは、同い年の生駒だった。どうやらわかりやすく迅は、ぼんち揚補給源とみなされているらしい。確かに間違っていないけど、ちょっと今はその余裕がなかった。
「残念。支部に帰るトコだから、ちょうどおれも今は持ってないんだ」
「そういうこともあるんやなあ〜 よう考えたら、迅にはいつも貰ってばっかりやから、たまには俺から用意したるわ。今度、新作が出たら一番に実家から送って貰うから、待っとき」
「ありがと、期待しとくよ。ところで、生駒っちさ。お願いがあるんだけど」
「なんや、オモロイことか?」
ちょっとしたわくわく感を訴えられる瞳を向けられる。そんな期待に添えなくて申し訳ないが。
「いや、そういんじゃなくてね。とりあえず、この指輪をちょっとしてみてくれない?」
ポケットから取り出したもう一つの指輪を軽く摘んで、キラリと眼前に見せた。
「これは………俺には指輪に見える!」
そんな自信満々に言われても…と思いつつも、迅はかいつまんで自分がおかれた現状を簡単に説明した。これが指輪型のトリガーであるということ、迅が装着して抜けなくなってしまったこと。そこまで聞くとさすがに、ちょっと興味深そうに指輪を見やったので、そのまま生駒に手渡した。そうそう。一番の目的はそれだ。
普段、指輪なんてせえへんから…これつけながら弧月振り回すの違和感ありそうやな〜とかつぶやきながら、両手の指全てに付けたり外したりしてる。一応、その動作だけは真面目にやってくれたが。
「駄目やな。俺には全然合わん」
あっさりと割り切った声が出るので、そっか協力ありがとうと軽く目配せをしつつ、もう一方の指輪を返してもらおうと、迅は右手を差し出したのだが。はてさて、少しの考え事の様子を見せる。
「迅。おまえ、この後に他の隊員にも声かけてくつもりなんだよな?」
「そうだよ」
「いちいち、一人ひとりに頼んで行ったら、けったいやろ?俺にオモロイ方法があるから、任せとき!」
明るく通路の真ん中でそう叫ばれた瞬間に、その揺るがない未来が迅の視界に鮮やかに広がる。
いやーそこまでしなくてもという言葉を飲み込むほどだったが、本人とても楽しそうだからいっかなと半分諦めモードにもなった。こういうテンションの生駒を制止するのは、迅には少し難しかったから。



そして、あれよあれよとラウンドの一角が必要以上の騒がしさがもたらされることになった。
つまりこうだ。生駒プレゼンツ、ラウンジにいる隊員に片っ端から指輪をしてもらうコーナー!である。なんかとてつもなく大げさな様子になっているのは、気のせいでないと思った。まあ、いちいち迅の事情を話すことはなく生駒の勢いで指輪をしてみるって流れになっているから、確かに迅としては楽なのだが。楽すぎた。本来ならば渦中の人間な筈だったが、特にやるべきこともないので…そちらの指輪は生駒に任せて迅はラウンジの逆サイドでその隊員の塊集団の様子をぼうっと眺めることになった。
それこそ最初は生駒隊が呼びつけられてワイワイしていただけだったが、一つの隊が集まればその知り合いが同じ学年やら同期やらポディション絡みの知り合いやら、いつのまにかわらわらとその集団は増えていった。ボーダー隊員は大抵、大学生・高校生・中学生という学生である。そして男性隊員が多いせいか、特に指輪なんてつける機会ないせいか、ちょっとおもちゃになっているような。元々、トリオン体に換装する問題で指輪含めた装飾品やピアスなどを再現するまでではないせいか、余計にものめずらしく感じられているようだった。つまり完全に楽しんでる…
迅には未来視があるから、注意深く観察していれば誰が指輪をきちんとはめることが出来る該当者かわかるののかもれしない、通常ならば。しかしあまりに一つの指輪に隊員が群がっているという人の生垣。わりとわちゃわちゃしており乱雑だから、そこまで詳細に掴めなくあって。でもさすがにコレだけ人がいれば当たりもありそうだなーくらいに漠然と視線を送っていた。

「迅。あれは、なにをしているんだ?」
ふいに横から聞きなれた声が横から飛び込んできた。ボーダーの耀く顔、嵐山の登場だ。
軽く視線をあちらの集団にやり、同じく遠巻きに見ている。どうやら他の隊員のように面白いことやってるからとりあえず集合!と連絡を貰ってやってきたわけではなく、本当にたまたまラウンジに来たようだ。だから進んで事情も知らず賑やかな集団に混じるよりは、明らかに脱力気味に観察している迅へと先に声をかけたようだった。
実はね…と、大げさになってしまったその光景を眺めて、迅は改めて嵐山にどうしてああなってしまったのかという経緯を、自分がしている指輪をサンプルとして見せながらかいつまんで語る。
トリガー絡みのトラブルは、昔に比べたら少なくなったとはいえ、一期生である嵐山はさすがに動じず。うんうんと聡明に頷く様子を見せた。その後に。
「まだ、該当者が現れないのか?」
「意外と判定がシビアみたい。あー、足の指にはめようとしてる!無理だって」
いくら切羽詰っているとはいえさすがにそれは…と思った最中、取り仕切っている生駒もさすがの諦め顔を見せたようだった。周囲も無理を悟り、半ばやけくそ気味になっている。確かに起動させなければ、傍目ただの指輪だからな、つまらないとはいえ。
「俺が言ってくるよ」
「あ、そう?」
淀みなくそちらのグループへと歩み寄った嵐山の手際は、なかなかのものだった。さすが人ごみに慣れているというか。突然やってきたボーダーの顔の姿に、あっというまにモーゼのように道は開かれたのだった。場の中心人物である生駒も同い年で比較的仲の良い嵐山が来たことで、話の話題がそちらへと向いたようだった。しばらくすると、あっという間に迅の指輪のことなんて忘れ去られてしまったかのように、人ごみは薄れて行った。そうして見事なお手並みのまま、嵐山はこちらへ戻って来たのだった。

「待たせたな。しかし、残念だが誰も指輪が合う隊員はいなかったみたいだ」
「そっか、数撃ちゃ当たると思ったんだけどなぁ。わざわざ、ありがと」
ひょいっとお手でもするかのように、迅は嵐山の前に手のひらを差し出した。それは、もちろん嵐山が回収したもう一つの指輪を返してもらうためだったんだけども。
「俺もこの指輪が気になっていたんだ。してみても構わないか?」
てっきり嵐山はまがりもなにもトリガーが遊ぶような雰囲気になっていたから、取り戻してくれたのかと思いきや。意外と真に迫る声できちんと許可を求められた。さすがに、少し驚く。
「別に全然いいけど、どしたの?」
「確かこういう探し人をする童話があったから、気になってな」
「もしかして、それってシンデレラ?それで嵐山が王子様役とか、うわー出来過ぎ」
冗談交じりに言ったもののそういうことを真顔で言えるのは、さすが嵐山だと思う。それもあんまり動じてないし。
ちょっとたじろぎながらもそんな話をしつつ、流れるような仕草で嵐山は自身の左手の薬指にそのリングをはめた……… うん、なんだ。これは、意外と前振りもあってか背徳的だなと察するものがあり、思わずその動作に見入ってしまう。
「―――すんなり入ったが、これでいいのか?」
ピタリと静止が成されて、指輪は本来の場所にきちんと収まった。そう傍目からさえも、そう見えた。
「ホントに?」
今まで幾人が付けても駄目だったリバウンドか、ちょっと疑うくらいの声を迅は出した。が、確かに迅のそれと同じように嵐山の指輪も押しても引いても抜けない状況になった。想像以上に揺ぎ無いように二つの指輪の姿が重なる。
「俺と迅は年齢も身長も一緒だし、元々指のサイズも近いのかもしれないな」
「そっか。無暗やたらと誰にでも声かけないで、初めからその線に絞って探せば良かった」
今更ながらの深い納得の声を迅は吐き出す。だから嵐山も最初から、迅と同じ左手薬指なんて意味深な鬼門からチャレンジしたのかと。うん。少し、ほんの少し胸をなにかが霞めたような気がするけど。なんだ、これ。
えーととりあえず探し続けていた指輪の適合者は見つけたし、このまま一つのトリガーを二人でトリガーオンするのも色々とヤバい気がするので、きちんと雷蔵に尋ねて解除方法を導き出さなければ、と。頭を前に動かす。

「嵐山。忙しいところ悪いけど、ちょっと雷蔵さんトコまで付き合ってくれる?」
「別に迅の為なら、構わないさ。それに、思わぬ収穫もあったしな」
「え、なに?」
「たまには、俺だって迅に秘密を持ってみたいんだ」
「そう?まあ、じゃあ後で気が向いたら教えてよ」
嵐山にしては不思議と後味を引く物言いをされたような気がして、その指輪越しの未来がちらりと迅に到来して見せ付けようとしたのかもしれない。折角の嵐山の秘密の未来は視たくはない、と。
だけど、まさかな。とこの時は、脳裏に過ぎったその光景を。この直ぐ後に起こる出来事だろうと迅は思った。迅だって、ただ未来に身を委ねることはあるのだ。



同じ指輪交換をしている二人の姿は、今よりももっと幸せで輝いていた。
それは、もう少し未来のお話。










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