attention!
嵐迅で、迅さんのお誕生日話二つ。 それぞれ、幼馴染シリアスと女体化ギャグなので全然別の話です。









俺のために生まれてきてくれてありがとう
※幼馴染設定でシリアス



迅悠一がこの世界に自分が存在していると自覚したのは、確か三歳の時だった。
今となってはそれほど広いわけでもない保育室で一人きり、ぼうっと天井を見上げていたというそれも曖昧な記憶。
生まれつき未来視という希少なサイドエフェクトを持った迅は、良い意味でも悪い意味でも聡い子どもだった。視界を開いているだけで与えられる情報量は成人より遙かに多く、自然と迅の脳は活性化を促された。明らかに同年代の子どもとは視えている世界が違い、大人びた現実をどこまでも突きつけられたのだ。そして頭ではある程度理解していても、子どもの体というのはどこか噛み合わず、ぎこちない思いを何度もした。幼い子どもに本物の悪意はなくともだからこそ残酷で、まだ自分をうまくコントロールできなかった迅はよく周囲の輪から外れた。別にそれでも構わないという悲観さが既に迅には備わっていたので、仲間外れにされることにさして重大に感じてはいなかったが、それさえを包み込んでくれる今思えば少しおせっかいな幼馴染がいた。
嵐山准という名の同い年の少年からすれば、迅と友達となったことなど当たり前のことだったのかもしれない。それでも迅には明確に視えてしまったのだ。今後の彼に用意されている、その輝かしい未来を。前途有望な、偽りのない真っ直ぐな地平線の彼方を。今はまだあどけなさが残るし、皆が気がついているわけもないだろうが、成長をするうちに誰もが彼を放っておくことはないだろうと。きっと、誰よりも万人に惹かれる人間になるだろう。
それを、本人より、彼の家族より、誰よりも先に…迅は知ってしまった………それが最初の罪。

「じん。きょう、たんじょうびなんだってな。なにかほしいものってあるか?」
忘れもしない―――
その日は、二人が出会って初めて迎えた迅の誕生日だった。嵐山の誕生日は数ヶ月後だったから、順番的に迅は先に年を取ることになる。もちろん未来視で、嵐山がこうやって尋ねて来ることを予め迅は知っていた。だからこそ、用意していた言葉をその時は無邪気にも後先考えずに、伝えたのだった。
「じゃあ…おれ、あらしやまのことがすきだから、つきあってくれない?」
恋とか愛だとか男とか女とかそんな確実な認識が標準的に芽生える前に、誰よりも先に早く姑息にも迅は自分の気持ちを素直に告白した。してしまった…のだ。
嵐山は、当時から酷く優しい人間だった。だから自然と一番の友達である迅の頼みならと、喜んでそれこそ笑顔を浮かべてそれを了承したのだ。そうして、約束の指切りさえも果たした。確かにそれは、その時の嵐山の揺るぎなく間違ってはいない気持ちだったのかもしれない。それが、本意も真意も何もかも含まない子どもの遊技の一つだったとしてもだ。
そうして、その関係が十数年以上も続いている………





◇ ◇ ◇





「嵐山さん!好きなんです。お付き合いしてもらえませんでしょうか?」

今日も、ラウンジの一角でそんな告白劇が繰り広げられる。自分だってそうしたくせに、安いテンプレートみたいだなと思って、迅はまた己を軽蔑するのだ。
斜め横で起こったその悲劇を、迅は視界に入れる勇気はない。それでも缶コーヒー片手にそうありありと俯くわけにはいかないので、顔の位置はそのまま。そうしても視界の端にはチラリと人影は映ってしまうもので、こういう時は一番に自分の能力を恨むものだ。ああ、オペレーター志望で新人の…と、その華奢で可憐な女の子の情報が勝手に脳裏へとやってくれる。嵐山に淡い恋心を抱く女子なんてボーダーでは両の手では数え切れないとはいえ、それを知る度に毎回チクリと痛む。
本当に迅は、自分が酷い人間である自覚がある。
「ごめん…俺、付き合っている人がいるから」
そう、いつも嵐山はこう答える。相手が年上だろうが年下だろうが一切関係なく女の子からの告白を、ただ断る。何度も…それをそれこそ数え切れないほどに繰り返して、終わる。それ以上でもそれ以下でもない。
申し訳ない顔をした嵐山以上に、肩を落とした女の子は震える声で騒ぎ立てたことを謝罪し、何とか頭を下げてその場を後にした。潔い子だ。本当に良い子なのに…
またこれなのだ。迅は、ずっとそれを横でこうやって何度も何度も見てきた。この子は新人だから知らないのかもしれないが、この間違いもなく人気者な嵐山が誰かと付き合っているのは、もはやボーダー内では周知の事実だった。その相手が誰なのか。上の年代がどんなに茶化して聞いても、嵐山は絶対に口に出さなかった。迅の方も、嵐山と仲がいいからと問われて、でも未来視で知っているから教えるのはフェアではないと口をにごせば、相手も引き下がる。言えるものか。馬鹿馬鹿しすぎる。それが、子どもの頃の他愛のない相手で、しかも未だ一番の親友顔をして隣にのうのうといる迅悠一だなんて。自分の事ながら、迅は皮肉にも泣き笑いたくて仕方なかった。
嵐山は約束を破らない。人を裏切らない。嘘をつかない。親の教育がいいのか本人の気質なのかわからないけど、それだけは確実だった。一番近くでずっと見続けていたからこそ断言できる。だからこそ…あんな、いろはもよくわからない子どもの約束を、分別がついた今でも義理立てている。
付き合って欲しいと言ったのは迅だったが、二人は本当の意味でいわゆる恋人同士でもなかった。そういうものは迅が即座に拒絶したので、それこそ指一本さえ触れたことはない。未来視ですべての可能性を振り払ったのは、誰でもない迅だった。そこだけが友達関係としても不自然で許されない事だから、せめてと線引きをした。一番隣の空席を望みつつも、卑怯な手段でそこに居座る迅に愛される資格なんてある筈がないのだから。他愛のない話はよくするし、困った時は頼みごともする。はたから見れば、嵐山と迅は同い年で良い友達程度の認識で、実際嵐山もそう思っているのだろう。それから先などはないし。迅だって別に誰かと付き合うつもりもない。どうしようもない。とても仲のよい友達と言って多分外野から見ても間違いないだろうが、こんなので付き合っていると言えるわけがない。二人の中では、そういう認識ではない。それでも嵐山は迅に深い言及は一切せず、この茶番に付き合い続けていてくれた。
迅は間違いなく嵐山が好きだった。もしかしたら、最初に付き合ってと懇願したときはまだすべての運命を甘受していなかったのかもしれないが、今なら確実に言える。この男が好きだ。愛してる。狂おしいほどに。嵐山の方は確実にそうではないとわかっているからこそ、余計に。
自分がこの状況を招いてしまった事は、身に染みて理解している。きっと同情されているんだろうと、その事は何度も思ったが、だからといって迅の方から別れようなんてとても言えなかった。そうしたらまたいつものように、誰かの告白を受けてしまう。嵐山が誰かのモノになってしまう。それだけはどうしても嫌だった。耐えられなかった。未来がわかるからこそ、そんな未来は迅にはとても選べない。迅のわがままで、嵐山の恋愛を束縛しているのは重々承知だ。二人は、子どもの頃から変わらぬ関係がずっと平行線上にいた。それが壊れるだなんて今更到底考えられなかった。先には進めない、でももう後にも引けない状況を何年も繰り返すだけ。

「席を外して悪かったな」
「別に。いつものことでしょ?」
面の皮が厚いと思われても、得意のポーカーフェイスを崩さない。これが子どもの頃から比べて、一番得意になったかもしれない。嵐山はそんなことを咎めたりする性格はしていないから、迅ばかりが後悔の嵐だ。
「それで…話の続きだが」
「あ、ごめん。ちょっと考え事してて、何の話してたんだっけ?」
「今年の迅の誕生日前後の空いている日のスケジュールなんだが…」
ああ、そういえばその話題だったかと、少しの記憶の巻き戻しが起こる。よりにもよって、なんてタイミングが悪いんだ。
互いに忙しい身ではあったが、例年嵐山と迅は互いの誕生日を祝って軽い食事程度を奢りあっていた。まあそれくらいなら普通の友達でもやるだろうと、迅は線を引いている。本当は何よりも嬉しいことのくせに、上辺には平然を装っていなくてはいけない。感づかれてはいけないのだ。
「…おれの方が自由が利くから、嵐山の空いてる日に合わせるよ」
「せっかくの迅の誕生日なのに、ここ最近すまないな」
「大丈夫。大丈夫。それに、いつも嵐山が連れてってくれるお店、すっごく美味しいから…それでチャラってことで」
軽く労わる手を上げて、笑って言う。嵐山は広報をしているだけあって、三門市のローカルグルメにとても詳しい。きちんと口コミだけではなく味も確かで、それできちんと迅の好みで…ホントそういうところはどこか選択肢というあやふやな部分もある迅の未来視なんかよりよほど正確だ。
「それで、迅。今年は何かプレゼントをしたいんだが、欲しいものはあるか?」
その嵐山の台詞に数十年前のエピソードが重なり、フラッシュバックが起きた。あの時より幾分か口調は大人びて、でもその真っ直ぐな瞳はどこまでも変わってはいなかった。虚をつかれて一瞬で眩暈が訪れる。
「………ど、…どうしたの、突然…?」
「次の誕生日で、迅は二十歳になるだろ?いつも食事を一緒にするだけだから、もう少しきちんと祝いたくて」
情けないことに、嵐山に指摘をされて迅は自分の年齢をはっきりと意識した。大学へ進学しなかった迅は同年代と言ってもボーダーでは数少ない本部の隊員やオペレーターと接する機会がそんなになくて、しかも同年代では一番誕生日が早いのでその事実を少し失念していたのだった。子どもの頃は確かにプレゼント交換の真似事のように誕生日にあげたりしていたが、今更この年でと漠然に何も思いつかなった。
そうか二十歳か…と突きつけられたような感覚。嵐山にそんな他意はなく迅が勝手に思ったことだが、そろそろ大人にならないとと感じた。もう、子どもではないんだから、いい加減あのわがままを通し続けるわけにもいかない。いつか…いつかは、とずっと悩んでいた。しかしまるでタイミングも掴めず、でもこうやって明確なキッカケが嵐山のからの声で…そろそろ潮時だとどこかで漠然とそれを感じ取ったのだ。無条件に、ただ受け入れてくれたその関係を。嵐山を解放してあげなくてはいけない。だから、こう言わなくては。
「おれの欲しいものは、もう子どもの頃に嵐山から貰ったんだ。だから特別何かとか、用意しなくて大丈夫だよ」
そう願として言い切った。その本当の意味は嵐山も知っていて、これは互いに深く追求してはいけない話題だと、暗黙の了解として決まっていることだったから。それは、本当の意味では手に入れられないと、どこかで理解しているモノであったとしても。
「たが、な」
それでも…と、珍しく嵐山は渋った。いつもよりちょっと困った顔をされてしまい、違うんだ。最後は、きちんといつもの嵐山でいて欲しいから。
「じゃあ…プレゼントの代わりに一つお願いを聞いて欲しいんだけど」
「わかった。俺が出来ることなら、何でも」
「ありがとう。今はちょっと言えないことだけど、誕生日の時に必ず言う…から」
そういうところが子どもの頃からの約束を律儀に続けた嵐山のいつものことで、こうやって現在もあり続けるという啓示。
そう…この瞬間、口に出したことで迅は明確に決心をしたのだ。嵐山と続く一方的な関係を終わりにしよう…と。一番最初に告白したからこそ得られた、その隣の座を。





さすがに迅の誕生日当日は、加わった新しい後輩を含めて玉狛のみんなで集まって祝うということが決まっていたので、外されたが。運良くも嵐山のスケジュールが空いていたのは、その翌日だった。と言っても、前日のように夕方からまるまるみんなで騒いでというほどの時間の余裕はなかったので、やや夜も暮れ始めた時間帯。つまりボーダーでの仕事が完全に終わった後に、外で待ち合わせることになった。いくら忙しくても嵐山は約束の時間を破ることはしないので、集合は滞りなく落ち着きやや遅めの夕食を一緒に取ることになった。
嵐山が予約した店は普通の大学生にはちょっと背伸びした感じのお洒落な店だったが、完全に個室だったので迅も気後れしなくてすんだ。一応迅は昨日二十歳になったわけだが、まだお酒には興味がないしピンともこないので、普通にいつも通りに嵐山と同じ物を頼んで飲んでいた。運ばれてくる料理に手をつけ、美味しいと何度も素直に口にする。それも、いつものことだ。別に誕生日ではなくても、二人は仲が良いので時間さえ合えば外で食事をしたりもする。
でも、何かが確実に今日は違うと、二人ともどこか感じ取っていたような気が後からすれば思うのだ。合間に挟まれる歓談も、普段よりは明るさが一番落ちているように感じる。そうして…それほど甘くないデザートを口にし、食後のコーヒーを飲んでいたらようやく切り出された。

「それで、迅。お願いって、何なんだ?」
迅は食事中、その話題を一切口にしなかった。いつものように他愛もなく職業病気味でもあるからボーダーの話で盛り上がるばかりで、わざとその話題を避けていたということもある。いい加減、腹をくくらないとと思い、迅はカタリとソーサラーにカップを置いて本題を口にすることを努めることとなった。最後の一口を飲み込んで、テーブルの下のクロスを少しぐっと掴む。
「子どもの頃…嵐山が初めておれの誕生日を祝いたいって言った日の事、覚えてるよね?」
「もちろん。あれから何度も迅の誕生日をお祝いしてきたからな。あの時、勇気を出して声をかけて良かったよ。だからこそ、こうやって今でも迅と一緒にいられると思ってる」
「そう…だね」
駄目だった。どうしても嵐山が迅に対して前向きであってくれることに反比例するように、勝手に心が追い詰められて。嵐山に非なんてまるでない。全部、迅が勝手に…それでも俯いたまま、少し声が詰まった。
「迅。どうした?」
「………嵐山にお願いがあるんだ。あの時、おれ付き合ってって言ったけど………それ、もう終わりにしてくれる?嵐山もわかってると思うけど、あれは子どもの冗談だったんだ。それを何か…今でも律儀に守ってくれてるみたいだから」
何とか顔を上げて真顔に努めてようやく、それを言った。言い切った。何年も前から用意していた言葉のはずなのに酷くぎこちなく感じた。それはやっぱり声に無駄な感情がこもってしまったからだろう。それでも。
「どうして、突然そんなこと言うんだ?」
「もう俺は…冗談が許される子どもじゃなくなかったから。本当はもっと早く言うべきだったよね。ごめん…」
嵐山は嬉しいとも悲しいとも言えないそんな顔をしていて、迅の当たり前の筈の言葉を受け止めていた。ただただ、こちらの真意を確かめないという気持ちは現れているけど。でもこちらは、とてもじゃないけど…今は謝ることぐらいしか出来る気力がなくて。
「そうじゃなくて…迅の気持ちはどうなんだ?」
「おれの気持ちなんてどうでもいいんだ。ずっと嵐山に迷惑かけてたみたいだし。嵐山にも色々思うところがあるでしょ?それを優先してもらいたい…それだけだから、じゃあ」
僅かに視線を外した迅は、感情も理性も涙も押し殺して平然を装い、馬鹿な事をしたと思いながらもやや強引に話を打ち切った。
これでようやく終わった。言ってもまだ、後悔が止まるわけではないが、それでも月日を重ねるほどに想いは折り重なって行った。これで友人関係全てが崩壊するということは多分ないだろうと、それだけは些細に感じながら。我ながら随分と無邪気を装って、偽りの関係を長く続けてもらったものだ。自らが科した肩の荷が下りたはずなのにそんな感じは全然なのは、やはり引きずる思いがあるからで。情けなくとも意気地なくとも、ずるずると引き延ばすばかりで嵐山の気持ちなんて身勝手に度外視していた代償か。
嵐山は、まるで雛鳥の刷り込みのようにだと揶揄するくらい人が良かった。もうその未来を嵐山に返さないと、切に思うのだ。だから彼がこちらを気遣う必要性はないのだ。ずっと無理を言っていたのは昔で、今更清算できるとはとても思えないけど。嵐山は、十分に迅に尽くしてくれた。その感謝だけで終わらせられれば、どれだけ幸せかわからないとしても。往生際が悪い、潔く諦めろと警鐘を鳴らす。
伝えて…その場にのうのうと居られるほど、迅の心は強くない。がたりと椅子から立ち上がって、足早にこの個室から去ろうと扉を目指す。
「待ってくれ!」
迅がドアノブに手をかけた瞬間、すかさず嵐山も荒っぽく立ち上がって、瞬く間に迅の後ろ手首をしっかりと掴まれた。
今までずっと、軽いフレンドシップでさえ許されない。触れてはいけないのだと決めていたのは迅の方からではあったが、それも嵐山はきちんと守ってくれていた。それが今呆気なく崩れさったのだ。
なんで…このときになって初めてきちんと触れるんだ。卑怯だ………。この男から伸ばされた手を…迅が振り払えるはずがないのに。嵐山の、芯の通った瞳には抗えない。
「迅の言いたいことはわかった。でも、そのお願いは受け入れられないな。最初に言っただろ?俺が出来ることなら叶えるって」
「どうして?別に嵐山が約束破るとかそんなわけじゃないんだ。あれはお遊びだったんだよ?」
「違う。俺だって遊びだと思って受け入れたわけじゃなかった。あの頃から、迅はふらっと一人でどこかに行ってしまいそうだと思って、だから俺の近くに繋ぎ止めたいって思ったから」
「それなら…もう大丈夫。おれは、もうどこにも行くつもりはない。きちんとボーダーにいる決心はついたんだ。だから嵐山が気負うことなんて何にもない」
「確かに迅にはボーダーにいてもらいたい…けど、一番は俺の隣にいて欲しいんだ。
だから、迅。お願いだ。俺の事を嫌いになったわけじゃないんなら…俺の為にこれ受け取って欲しい」
そっと迅の目の前に取り出されたのは、小箱。まさかと何も考えられずにいつつも、そっと嵐山がそのふたを開けると、そこには煌く指輪があって…
それは、迅の二十歳の誕生日プレゼント。迅からの、お願いを聞かないからこそ用意されたものだった。

「………っ、何も…用意しなくていいって言ったじゃん」
「迅は、俺を誰にでも無条件に優しいだと勘違いしてないか?俺は迅が好きだから、一番に優しくありたいと思ってずっと接してきた。そうやってずっと迅との関係を考えていたらこうやって、わざわざ二十歳になるまできちんと告白するタイミングを失ってた男なんだぞ。でももう迅は二十歳なんだから、大人なんだから…俺も我慢しなくてもいいよな?今度は…この指輪で迅を繋ぎ止めたい…」
確かに迅とて嵐山程の頻度ではないが、今まで誰かに告白をされる事がなかったわけではない。そうだった。迅自身だって、誰かと付き合っているからとその告白たちをずっと濁し続けていた身だったのだ。
側に居て欲しいと思ったからこそ、どこまでも繋ぎ止めていたのだ。それは互いに…
「っ、うん。…ありがとう」
「誕生日おめでとう、迅」



そうして迅は、最高の二十歳の誕生日プレゼントを、その薬指に栄冠として得ることになった。それは、本当の願いが叶った日。

今までずっと互いを約束で束縛し合っていた。だから自由になった今こそ、ようやく二人の本当の愛は始まり時計の針は進むだろう、未来へ。









嵐山准限定ラッキースケベ
※迅さん女体化でギャグ



「柿崎…おれと浮気してみない?」
前触れもなく突然、横に座っていた迅からそんな話を切り出されて、柿崎は大いに咳き込むことになった。

ボーダーには同期会という集まりがある。
それは今の本部基地が設立されて大所帯になる前から内輪で行なっていたものが、半ば伝統となり脈々と。つまりそれを始めたのはいわゆる一期生であり、今日はその集まりの日だった。もはや恒例となっているボーダー御用達の居酒屋での、どんちゃん騒ぎ。日ごろ忙しい面々ではなかなか時間が取れないので改めての意見交換という建前上は立派な名目ではあったが、酒が入るととたん無法地帯になってしまうのは大学生が多いからか、それも仕方ないことなのかもしれない。
迅は綿密に言えば一期生ではないものの旧ボーダー組というくくりでは玉狛支部面々となんら代わりがないこともあって、最初からこの集まりに参加しているくちだ。そうして飲酒できる二十歳以上の面々の横に座ると無駄に絡まれるので、未成年組はまとまって端にいるのも、いつもの事で。
そんな中、もはや定番ともなりつつある隣に座った同い年の柿崎に、ふと今思いついたかのようにそんなことを提案したのだが。
「迅。おまえ、酒飲んでるわけじゃないよな?」
食事中。ようやく口に含んでいたものを少しの涙目で咀嚼した柿崎は、多少喉元に違和感があるらしくいがいが声でこちらに尋ねてきた。迅の発言した内容事態より、そっちを気にするのはさすが体育会系の柿崎らしいとはいえ。
「あったりまえじゃん。ウーロン茶だし」
「じゃあ、雰囲気酔いか。おまえなー いくら嵐山がいないからって、そんな堂々と」
嵐山と迅が付き合っている事。別に誰にも隠してはいないし、同い年の柿崎は一番それを近くで見てきたと言っても過言ではないからこそ、少しの苦言が入ってくる。
飲み会が始まって既に二時間。飲酒している面々はかなりの酔いが回っているらしく、座布団の上で横になって寝ている人間さえいる。迅たちが座っている対角線では別の話が大いに盛り上がってはいるものの、さすがにこの距離ではその話に入ることも出来なかった。つまりちょっと暇で…そう迅は少し不貞腐れていたのだ。
だって今この場には、嵐山がいない。それは、この集まりでは比較的よくあることだった。面子的にほぼ全員が隊長クラスで防衛任務やら私用やらある為、それでも集まれる面々は毎回半数程度と言ったところか。その中でも嵐山は参加率が極めて悪かった。でも仕方ない。わかってる。別に参加するのが嫌というわけではなく、いつも広報の仕事が忙しいということが。でも、それ以上の理由が今日の迅にはあったのだ。
だから試しにふと思い立った提案を柿崎にしたのだが、もろちん返事が芳しくないことくらいサイドエフェクト使わなくてもわかる。でも言ってみたくもなる状況なのだ。そろそろ浮気心がわいてもいいかなと…思ったんだけど、いざ口に出してこう考えてみるとやっぱり嵐山がいいなと悪いが勝手に一人で納得してしまうけど。
「だって、嵐山がいつまで経っても手出してくれないから。おれ、どうすればいいと思う?」
ぐはっと本日二度目、柿崎は盛大にむせた。先ほどの余韻がようやく直ったところでの、迅からの追撃のような爆弾発言は不意打ちにも近かったのかもしれない。
「…っ、なんで、男の俺に聞くんだよ?」
二度むせた影響か、頭が痛いという様子をありありと見せながらも、柿崎は困惑する声を出した。
迅はまあ、未来視なんて能力持っているせいか差しさわりのない範囲内で他人の恋愛相談に乗ることも多いので色恋事を隠されても大抵知ってるしと明け透けないが、柿崎はあまり慣れていないのだろう。同年代の中でも、特に一つ年下世代に一番頼りにされているとはいえ。
同い年で高校が一緒だったせいで柿崎には、嵐山との恋事であれこれと今まで世話になった経緯があった。迅にとってはほぼ二人の関係を全て知り、気軽く気安い相談相手だということだ。つまり…いくら仲がよいと言っても、柿崎としたら女の迅は男の嵐山の彼女だからという目線が強いのだろう。いつの間にかというか、明らかに迅の猛アタックによりくっついていたこのカップルをそれ以上に何かあるとは思っていなかったらしい。嵐山から持ちかけられるならともかく、女性は女性同士で話をすればいいんじゃないか?という目を向けられるのは当然でもあった。しかし、残念ながら今日この場には防衛任務な三輪隊に所属する月見はいないし、切羽詰った迅は普段特別女性扱いされているわけでもないから、とりあえず隣に聞いてみて何の問題が程度の認識だったのだ。
「だって、おれたちもう付き合って四年だよ。手出されないのおかしくない?」
「…まあ、そういうのは人それぞれとはいえ…相手はあの嵐山だからなあ」
「おれだってそう思ってたよ。でもさ。じゃあ、いつになったらってなるじゃん。おれたちが、手をつなぐのさえ二年かかったんだよ?このペースじゃ、とても期待出来ないんだけど」
それさえも紆余曲折いろいろあった。ずっと付き合ってるけど、生真面目な嵐山相手に何段階踏んでほんの少しずつ関係は進歩しているようなしていないような。元々、嵐山と迅は同姓の友達のような仲良さだったから、所詮その延長でちょっとって感じじゃないかと今でも思う。迅とて、別に嵐山のことを聖人君子だと思っているわけではないが、亀ほどの進みじゃないかと思うのは、やはり平均的に同年代の男女に比べて比較をしてだ。
「そう…なのか。わりと、おまえらベタベタしてね?」
「ほとんど、おれが一方的に嵐山にくっついてるの。彼女持ちでもやっぱり嵐山狙ってる子いるし。けん制含めて」
嵐山にその気がないことは重々承知だが、彼氏が他の女に告白される未来を視て迅が気持ち良いとはとても思えないわけで、だったら最初から芽を潰しておいた方が精神衛生上、楽だ。予防線を張っているのは少し心が狭い認識あるけど。嵐山が人気あるのは嫌じゃない…けど、やっぱりちょっとと思う部分もありどこか複雑だ。
「あーそういえばそう…かもな。しかし、普通の女ならともかく迅の性格なら直接嵐山に言えばいいだろ?」
「とっくの前に言ったって。そしたらさ。迅が大人になってからなって、やんわり断るんだよ?だからそれはいつになったらって思うわけじゃん」
やれやれと…あまり他人の情事に足を突っ込みたくないのか柿崎には潔く言い切られたが、今更すぎた。それもわりと定期的に言ってる伝えている。が、その度に大人になったらなと、ぽんぽんと頭を優しく撫でられた。いやまあそれも好きなんだけど。毎回、まだ早いと節度を持って言われると、少しの引き下がる気持ちが湧いてくる相手でちょっとずるいなとも思う。その優しさにどこか、ほだされてしまうのだ。
「さすが嵐山。紳士でいいじゃないか」
「まあ確かにそういうトコ好きになったからいいんだけど…いいんだけど。物足りないというか。でもホント、嵐山っておれがどんなに隙を見せても動じなくて………」
「なにやってんだよ。おまえは…」
「別に。恋人同士なら普通だと思うけど………嵐山が来るタイミングをおれの着替えの最中にしたり、シャワールームで偶然を装ってバッタリ鉢合わせたり、生身の時にわざと転んで嵐山に抱きついたり、ブラのホック止めてもらったり………」
そうだ。あれやこれやと今まで努力はしたのだ。どこか一筋縄ではいかないと見知ったときから、未来視のビジョンを有効活用して回数にしたら、もはやこの両手さえ数え切れないほどに。しかし、反応は見事なまでになしのつぶてだった。明らかに今のは、あざとかったよなと迅自身が思うことでさえ、全部スルーされた。
自分たちが、間違いなく両想いなのはわかる。好き合っているんだけど、なぜか嵐山はそこが全く揺るがない。ぶれることのない、模範的スマートな対応があり続けた。
「す、凄いな。というか、未来視の無駄遣いすんなよ」
「さすがにホントにヤバいことはしてないって。ラッキースケベの範囲内っていうか」
「嵐山の忍耐力も相当だな…」
「って、最初は思ってたんだけど………なんだろう。最近、むしろおれの方に問題があるのかなって。魅力ないのかな… この男言葉とか、やっぱり直した方がいいかなって」
「嵐山は、そういうの気にするタイプじゃないだろう。迅の言葉遣いなんて最初から変わらないんだし。それ含めて付き合ってるんじゃないのか?」
「そっか。じゃあ、おれの何がダメなんだろ………柿崎は何だと思う?」
やはりここは男目線が必要と、だからわざわざ相談したわけだが。自分の外野意見なんてわからないから、嵐山と同い年で男という柿崎を買って迅は聞き迫った。
「え、それ言わなくちゃダメか?」
「………あ、もういいや。言わなくて。わかった。サイドエフェクトで」
「ホント、こういうことには容赦がないな。どんだけ粘った未来があるんだよ………ああ、そうだよ。おまえ、少し胸が小さいなって思ったよ。悪いな、コンプレックス刺激して」
不利益を被っているのは迅の方なのだが、それでも柿崎は見通されたことに少し不貞腐れた表情を出した。ここで押し問答を実際しても面倒だし、視えたならそれでいいやと迅はけろりと返したつもりだったのだが。
「無理やり聞き出したのおれだから、別にいいよ。そういえば柿崎に言われたのは初めて…だけど、他の同期にはそーゆーセクハラは結構容赦なく言われてるし。だから、今更気にしてないつもりだったけど…」
「おい…胸の大きさは個人の努力ではどうにもならないんだからな。思いつめるなよ?」
「わかってる。その未来は四年前から知ってるし、もう成長見込めないっていうのも理解してるから…多分普通の人よりはジタバタしなかった。でもそれが悪かったのかな。やっぱり貧乳だから、大人じゃないと思われて手を出されないのかも。大人になりたい………」
何だか勝手に全てが繋がったようで、迅はばたりとテーブルに沈んだ。どうも前途が明るくないのだ。それは下手に未来が視えてしまうからこそで。
確かに迅は、女性の平均よりは大分背が高いし、好物のぼんち揚をあれだけ食べてても特に太らないから油断していたのかもしれない。発育が身長に注がれてしまったのか、どう努力しても貧乳の未来は変えられないと。
嵐山に、忙しいの差し置いても十分に愛されている自覚はある。それは素直に嬉しい。昔から男所帯にも近いボーダーで嵐山は、男勝りになりそうな迅を尊重しつつ一番女の子扱いしてくれた。一緒に歩けばさり気なくエスコートしてくれるし、大丈夫だと言っているのに遅くなれば可能な限り送ってくれるし。だが、肉体的接触が微塵もないプラトニックなお付き合いに一抹の不安を感じないほどの年齢ではなくなったのだ。もう両親はいないし、一人暮らしではないけど玉狛でしっかり自立して大人でいるつもりだった。気持ちだけは。だからそれなりに、いちゃいちゃだってしたい。

「そういえば、おまえもうすぐ誕生日じゃなかったか?一応、それで成人するわけだし…世間的には大人って言って間違いないだろ」
「っ、それだ!」
はっとした瞬間、迅の中の頭の組み立てが色々繋がった。
別に自分の誕生日を忘れていたわけではないが、勝負を仕掛ける時がきたと確信したのだ。いや、たかが二十歳になっただけじゃ嵐山は簡単にはなびいてくれない。芯が通っていて、どこか辛抱強いから。それ+αをどうにかしようという発想が自分の貧相な胸を見下ろしながら、思い立った瞬間でもあった。





元々アットホームな玉狛は、それなりに大人数で誕生日パーティーを行なう。基本ボーダーの面々に限るとはいえ、支部外で仲の良い人間もクラスメイトだったりするとこの集まりに誘われることが多い。今年は、玉狛第二の若き面々が新しく入ったこともあり、その規模は更に増えていた。そんな中でようやくやってきた。決戦の日、迅の誕生日が、だ。
迅にサプライズは通用しないせいか、演出よりも料理や騒ぎが重視された。かえって未来視があるからこそ苦労がわかる、手作りの飾りつけはとても温かった。みんなから貰ったプレゼントボックスを両手で抱え込むと、じんわりと嬉しさがこみ上げる。主に木崎が中心となって作ってくれた美味しい料理はいつものことだが、手が込んでいてみんながあれこれと四苦八苦してくれたのもわかる。修、遊真、千佳の三人が迅の為に歌を揃って歌ってくれたとき、不覚にも少し涙ぐんだくらいだ。
ようやく二十歳になったということで、林藤からは調子よく酒を勧められた。ようやくこの土台にあがったということは、これから酒の席ではあっちサイドに回るわけかと少し感慨深い。わかっていたけどビールは苦くて、直ぐには慣れないという苦手意識。度数高いけどまだ、甘くある日本酒の方が飲めるなと思ったくらいだった。もちろん今日の主役は迅なので、次々と晩酌される。ああ酔うってこういう感じなのかと、未来視で知ってはいたような気持ちが感覚的にようやく追いついた。

「迅。あまり無理に飲むなよ。日本酒なんて、初めてなんだろ?」
「ヘーキ、ヘーキ」
隣に座る嵐山が心配して、何度か定期的に声をかけてくれる。多少、慣れないアルコールに目が回ったがこの布石が今日どうしても必要なので、過剰に心配されるくらいがちょうどいいのだ。
「あ、三雲くん。折角来てもらったのに悪いが、もう迅に注がなくても大丈夫だ。俺がやるから」
「そうですね。迅さん、さっきから随分飲んでるようですし」
「おーメガネくん。わざわざ、ありがとう。そういえば今日は、玉狛に泊まっていくんだって?」
「はい。ちょうど明日朝から任務ですし、空閑も千佳も泊まっていくって言ってるので」
「そっか。もういい時間だもんな。遅くまで付き合わせて悪いね。…そうだ!嵐山も泊まっていけば?」
ぽんっと、まるで今閃いたかのように明るく提案する。
明日嵐山は防衛任務ではないが、彼氏のざっとしたスケジュールくらいは把握している。明日も広報の仕事で、朝一番から本部詰めだ。寝るだけのためにわざわざ家に帰るよりは、ここに泊まるほうが余程建設的に思えるような声色に、だ。
「玉狛に、か?」
「客間空いてるし、たまにはいいじゃん」
「いや。突然で、迷惑じゃないか?」
「メガネくんたちが泊まるっていうから、ついでにレイジさんが客間のシーツも全部洗濯してたみたいだし、一人ぐらい増えたって大丈夫だよ。ね?」
「…わかった。じゃあ、泊まらせてもらうから…家に電話かけてくるよ」
少し考えた嵐山もその方が合理的と判断したようで、ソファから立ち上がった。真っ先に林藤と木崎に声をかけて確認する律儀さ。それから、場の雰囲気を崩さないようにとわざわざ外に電話をかけに行くため席を外す。その姿を、ひらひらと見送った迅は、よし成功だと確信した。
ありがとう、メガネくんのおかけだよと、にんまりと笑いながら目の前の三雲に最大の感謝を伝えたが、当の本人は…え、あ。はい…とキョドっていた。もちろん、なぜ迅にお礼を言われるのかさっぱり理解していなかった。まあ、わからなくていいんだけど。さあ、ここまでは順調に進んだ。これから先が…本番なのだから。



宴もたけなわ。
全ての料理が粗方消化されて、人数分にしては随分と大きいケーキも無くなり、パーティーが終わりの様子を見せると時間的にも自然とお開きとなった。三雲たちは翌日、防衛任務があるから先に迅に挨拶をしてから就寝についたし、元々玉狛住み込みではない面々も帰路があるからと、それなりの時間には玉狛を後にした。今日は迅が主役だったわけで、まあでも外の人間である嵐山だけを働かせるのはどうかと思うので、手伝い半分片付けもざっと終わらし、しつこい鍋の汚れなどは水に漬け込みこれで、いつも通り。各々、普段どおり就寝の準備につくのだ。

「そろそろ…かな」
そして、午前は零時をとうに回った。
壁時計の針を見据えた迅は、これからの準備を終えて腰掛けていたベッドの縁から立ち上がり、自室を抜け出した。あれこれと迅の誕生パーティーに費やしたせいか皆、疲れているらしくこの時間まで起きている人間はいないだろうとはいえ、わざと廊下の照明はつけない。未来視で誰にも会わないとは知ってるが、それでもあえてもだ。それは、少しの緊張もあるからで、でもよどみなく迅は進むのだ。
暗闇の中でも、その部屋を間違えたりなんてしない。一つの客間の前で、迅はピタリと足を止めた。用があるなら早く入ればいいのに、そう簡単には颯爽と進めないのはこれから先の未来がそう簡単なものではないと知っているからこそ。
一つの勇気を持って、ドアノブを握った迅は別段ノックもせずに、音を立てないように静かにそろりと扉を開いて入室した。もちろんその室内の電気もつけない。ただ、ゆっくりと歩み寄る。そのベッドサイドに、だ。外は今頃月明かりのはずだが、カーテンも隙間なく締め切っているので、顔がよく見えないのはやはり残念だと思って、そろりと近づく…その穏やかな吐息が聞こえるくらいこちらの顔を近づけて。眠っていても、その端整な寝顔をもっとよく見たいから。
そのまま掛け布団の一部をゆっくりと外して、すかさずベッドの中に入り込む。
「ん…誰………って、迅?」
さすがに耐え切れず、ぺたりと彼の頬に触れたのは不味かったのか。眠っていた嵐山の意識が、感覚にて瞬く間に覚醒される。それでも、一瞬すっと目を細めたものの、これだけ近くに擦り寄っていればその正体はおのずとわかるものだ。
「嵐山…ごめんね。起こして」
「どうした。酔っているのか?ここは迅の部屋じゃないぞ」
嵐山の寝起きは決して悪くない。まだ就寝について浅かったせいか、寝ぼけの頭ではなくわりかしきちんと少し上半身を上げて身を起こした。このまま起き上がれては目的が果たせないので、迅は掛け布団をもう少し寄せてこれ幸いとその腰の上に乗っかった。
「うん…おれ酔ってるんだ。嵐山に…だから熱くて」
それを言い訳に出して、迅は羽織っていたパジャマの前ボタンをぷちぷちと外してから、一気に脱いだ。
そう…迅は夜這いに来たのだから。この為に準備した。全部。恥も外聞も捨て去って。
「突然。どうしたんだ?」
「…嵐山。おれ、二十歳になったよ。もう大人なんだ…だから、嵐山ときちんと大人の関係になりたい」
くつろげた胸元を彼の視界に晒す。続いて後ろ手をブラのホックに回して、ぷつりと外す。
今更わざわざ見なくても、貧相な身体だってわかってるけど、それでも迅に出来る精一杯出来る限りの色香がコレで。そのまま、ドキドキしながらぺたりと嵐山にひっついた。豊満でもふくよかでもない胸を押し付ける。心も体も、もう十分に成長したのを見せつける為に。
だけど嵐山は―――
「迅。いくら熱くても…そんな格好じゃ、風邪をひくぞ」
こちらに負担をかけないようにと柔らかに押し返されて、空いた掛布団を春になったばかりで少し震える迅の肩にパサリとかけてくれた。そうして、あやされた。ただ、それだけ。それは至極真面目で、眩暈がするほどストイックだった。
………だよね。知ってた。もちろん未来視で。どんなに煽っても、良くも悪くも想定内のこの反応。か細い可能性でも、それはないってわかってるでもやらずにはおえなかった。そうじゃないと、いつまで経っても二人の関係は進まないから。優しさに甘えているだけじゃきっと駄目だ。そうだ。迅の真の目的は目の前のコレではないからへたれている場合じゃない。だから、その先の…
「わかった、今日は引き下がるよ。嵐山が、いつまで経っても手を出してくれない理由を教えてくれたなら…だけど」
顔を上げた迅は、はっきりと言い切った。誠実すぎるのも困りものだ、と。もうのらりくらりとかわされるのを、甘んじて受けるつもりはなかった。もうこの機会を逃さないと気に距離を詰めるようにと、ずいっと嵐山に迫ったのだった。それは一線を越えた、その先の先までも知りたいから。未だに恋人繋ぎだって滅多に出来てないからこそ改めて、空いた嵐山の右手をぎゅっと意味深に握る。
迅は待った。二十歳まで待ち続けたのだ。今が駄目なら、もう後には引けない。納得できる理由がないと、迅だってここまでした手前、引き下がれないのだから。だったら、可能性の薄い未来を自らの手でもぎ取らなくてはいけない。迅は、常に未来を見据える。
「…今日、迅は初めて飲酒しただろ?やっぱり冷静じゃないと思うんだ」
「お酒の勢いじゃダメなの?」
「ダメだ。俺は迅を大切にしたいんだ。それに迅は確かに今日で二十歳で大人になったのかもしれないけど、おれは誕生日まだだし。きちんと責任が取れる一人前にならないと、亡くなった親御さんに申し訳が立たない」
まあ大方そんなことだろうと思ってはいたが、きちんとした模範解答を嵐山は述べた。迅の置かれている身辺状況が嵐山みたいな円満状況ではないというのは、よく理解していて…いつも気をつかってもらっていた。自立しているようでも本とはボーダーで、玉狛で、扶養されている立場である。でも、それだってもう義理立てするには十分すぎるほどだと思う。だから、確約になるであろう言葉を続ける。
「ってことは、次の嵐山の誕生日には期待していいってことだよね?お互いに、二十歳になるわけだし」
「え?あ…困ったな。そういうことになる…のか」
嵐山もさすがに照れたもののまんざらでもない顔をされたので、とりあえずオッケーだ。
ようやく言質をとった迅は、心の中で小さくガッツポーズをした。未来への道をようやく取りまとめて一本にするということ。普段なら慣れて筈いるのに、大好きな相手にはどうも試行錯誤してしまい、それでもようやく…一筋へ。これが今の迅に出来る最善で、とりあえずは嵐山の誕生日待ちということになったのだ。
望んだ未来への布石を手に入れた迅は、肩の荷が降りたかのように少しぐったりした。そうして、脱力したまま本当の意味で軽く横たわる嵐山の方へとこれはわざとではなく倒れ込んだ。それを嵐山もそのま受け入れてくれた。それが何よりも嬉しくて。今までラッキースケベを装って接触したことは何度もあったものの、直ぐに身体を離されていたわけだし。嵐山の腕の中はどこまでも温かく…ちょっと優しすぎるけど、やっぱり大好きだから心地いい。次の嵐山の誕生日までの三ヶ月と半月ちょいお預けを食らうわけだし、少しぐらい好きな男を堪能したって許されるだろう。
ああなんか、緊張の糸がほぐれたら急に張り詰めていた意識がぷつりとして、途端に頭の中が勝手にぐるぐるして思考が無作為に交差する。得体の知れない何かに、占領されてしまうような不思議な感覚。
「う゛…なんか。気持ち悪い」
「やっぱり酔ってるんじゃないか?ほらっ、頬が熱い。水でも持ってこようか?」
僅かに指先で頬を触れられる。これが本当の意味で酔うって感覚か、なんかぐらぐらしたりふわふわしたりする。それは多分酒のせいでもあり、嵐山のせいにもだ。
「いい、大丈夫。だから今は、そばに居てくれる?嵐山…」
きっと、それが迅にとっての一番の特効薬。そう、思えて。

今日の事があったからこそ移り変わる未来、それに期待をして…そっと迅は瞳を閉じた。





外が朝だと小鳥が冴えずっているので、明るさも感じて薄らと瞳を開ける。パチリと視界に入るのは、見慣れた風景。布団も、天井も。その目覚めはやはりイマイチで、頭の不思議な場所が多少ガンガンして、ついで胸焼け気味な気だるさ。仕方ない。さすがにそこまで酷くアルコールは残っていないだろうと検討はついた。これもきっと慣れだ。
いつの間に自分の部屋に…と迅は少し考えたが、誠実な嵐山のことだ。男女が一緒に寝ているなんて他の人間に気取られてはいけないと思って、迅が眠っている間に連れて来てくれたのだろう。もちろん肌蹴たパジャマも元通りになってる。今までを考えれば、一緒に寝てくれただけでも大進歩とはいえ、やや強引に散々わがままを言ったようなものだったし、色々迷惑をかけてしまったとちょっとの後悔もあるにはある。
少しけだるい身体を起こし、伸びを一ついれる。この部屋に嵐山がいないのは当然としても、もう先に起きている…時計を見ればそんな時間だった。ベッドから下りて、カーテンを開くと一気に光彩が入って眩しかった。それはいつもの事のはずだったのに、一つの違和感も視界に飛び込んでくる。
キラリと揺らめく輝きが追加されたのだ。その場所は、単純な外ではなく迅に新しく得たもので…何だろう?と視界を斜め下に。自分の、左手に僅かに視線をやる。

「あっ、え………?」
そこで見つけた…自分の薬指に付けられている指輪を見て、慌てることになるのだ。
そういえば、昨日は自分の事に必死で嵐山からの誕生日プレゼントの存在を忘れていた。失念していた。箱をもらったまま、部屋に置きっぱなしにしていたのだ完全に。
だからって…これはなかなかに反則過ぎた。こういうことを平然とやってのける嵐山はやっぱり迅より上手で…ああ、嬉しすぎる。毎年色々有り難く貰っているものの、これ以上はないと言う幸せに包まれた。二十歳と言う節目のプレゼントは、これ以上ない喜ばしいモノだった。
思いがけない贈り物に、迅は慌てて着替え始める。それはもちろん、早く彼に会ってこの気持ちを伝えたいからだ。

それに次に嵐山に会った時に視える未来は、きっと迅が望んだものであるような気がするから。





迅 さ ん の お 誕 生 日 話 二 つ