attention!
嵐迅で、月/刊/少/女/野/崎/く/んパロ。中の人繋がりの配役があったりするので、ご注意を。 きっと既にどなたかが書かれていると思うので、教えてください。消します。あと元々、冬コミエア新刊として書いていたので、色々ぶつ切りです。すみません…








「じ、迅っ 俺、実はずっと前からおまえのことが気になってて。ファンというか、それよりもっと…」
夕暮れ時、他には誰もいない教室でたまにぼうっと夕焼けを眺めている迅を見かけて、嵐山はこれ以上のチャンスはないと思った。だから今日は、わざわざ手紙で呼び出したのだ。そして…ぎゅっと勇気を振り絞って、とうとう言うのだ。友達からの…その一線を越える為に。
そうして他人から見ても、酷く切羽詰まった様子で大告白の言葉を紡いだわけだったが。

受けた側の迅は一瞬きょとんとした顔をしたものの、いくばくか視線をぐるりとした後に、ぽんっと閃きを含めた様子で軽く手を叩いた。そうして…どこからか取り出した色紙?に、さらさらと何やらの名前を書き始めたのだ。
「なーんだ。嵐山、言ってくれればもっと早く渡したのに」
嵐山准、この時16歳。好きな人に告白したらサインを貰いました。
確かに男が男を好きだと直接言うと重いと思われると思い、軽く誤魔化すためにファンとは言ったが…何か違う。しかもさり気なく、ボーダーの広報担当としてサインの書く機会の多い筈の嵐山より手慣れている様子にどうしてだ?と直ぐに頭が働くわけもなかった。
「いや、そうじゃなくてだな。そのっ、迅ともっと一緒にいたいというか」
一瞬の沈黙後、周囲を纏う謎な雰囲気に直接的な言葉を出すのも躊躇ったが、それでも自分の微かな望みを何とか嵐山は口にした。確かに迅からサイン貰ったことなどないからこれはこれで大切にするが、今大切なのはそれではないから。
「一緒に?じゃあ、さっそくおれの部屋に来てくれよ」
瞬時に破顔し喜んだ迅は、とても軽く嵐山の誘いに応じたというか非常に積極的だった。それはいつもの…嵐山が好きな朗らかな笑みを浮かべて応えてくれたことに違いはなかったけれども。
玉狛支部の迅の私室は何度か行ったことあるし、それ自体は今更なのかもしれない。しかし…この状況でわざわざ学校から部屋に行くなんて、なんだ。何をするんだと思うばかりだった。



あれこれと悩むより先に、ぐいっと手を引っ張られて急ぎ下校した二人は、よどみなく目的の地である玉狛支部にやってきた。迅からすれば馴染みの裏口からさくっと入ると、そのまま皆が集うリビングも通らずに迅の私室に連れ込まれた形となった。思わずあれよあれよとついてきてしまったが、以前見た時はありきたりだったはずのなんてことのない迅の私室が勝手に色めいたものにさえ見えてしまい、ドギマギする結果となる。
「良かった。嵐山なら器用だから、安心して任せられるなって思って」
どこまでも戸惑う嵐山の反面、迅からもたされるのは期待に満ちた安堵の言葉であった。軽く右手を握られ、安心しきった瞳を向けられる。
まさか…そんな。迅も一緒にいたいと思ってくれるのは嬉しいが…いや、さっき告白したばかりだぞ。もう? あまりにも突然すぎるが、でも迅が望むなら…と。
「迅!俺、頑張るから!」
気合を入れて、嵐山は精いっぱいの男気を示す意気込みを声に出した。

「じゃあ、そこ。ベタよろしく」
いつの間にか…迅の部屋のほぼ中央には正方形のラグが敷かれており、その中心にはちょこんと小さめの作業机が一つ。促されて靴を脱ぎ、机の前に正座をした嵐山は、目の前に差し出された少し厚手の原稿用紙と向き合うことになった。馴染みの薄い大きめな原稿用紙には、これまた今まであまり縁のないキラキラとした可愛らしい絵柄の簡単なキャラクターが存在していた。
×印を黒く塗ってねと迅に指示された嵐山は直ぐに状況が掴めなくはあったが、それでも何か聞こうにも肝心の迅は自分の机に向かって何やら必死に作業を初めてしまったので、声をかけるタイミングを失い、とにかく言うことをやってみようという気になり用意された筆ペンを手にする。



「嵐山。追加で、ここも。おっ、さすが上手いなー 初心者が、はみ出しゼロなんて凄いっ」
わけがわからないまま、もくもくと無心で目の前の原稿に向かう嵐山ではあったが、時々迅から次の原稿が廻ってきたり、インクの補充のアドバイスを貰うなど声はかかった。そうして粗方の作業が終わったのか、ようやく迅が背伸びをして一区切りついたらしいと判明した時、この場で感じた一番の疑問を嵐山は口にすることになる。
「…もしかして、迅って漫画家だったのか?」
「えっ。知らないで、2時間ベタ塗ってたの?」

これが、この二人の不思議な関係の始まり―――



後々に詳しく話を聞く機会を得て、ようやく嵐山はその全容を知ることになる。
嵐山の疑問のとおり、迅は月刊誌の少女漫画家であった。貰った迅の名前ではないそのペンネームなサインにほんの少し記憶があると思っていたら、妹の本棚にその漫画があったので、またとても驚いた。迅は元々未来視のせいで人間観察が半分趣味だったせいか色恋事に興味が沸いて、そこから何かどうにか転じてこうやって少女漫画を描くようになったそうだ。どうして今まで黙っていたのかと聞けば、迅いわく別に隠していたわけではないが言っても大抵信じられないから、聞かれるまでは特に誰にも言ったことはない…らしい。
友達をしている二人はそれなりに長い付き合いではあったが、高校に入り嵐山が選択した科目が美術の授業だったせいでその腕前を見て、前々から迅はアシスタントになってくれないかな〜という淡い期待を持っていたらしい。そこまで事情を知ってしまったこともあり…それ以来、嵐山はアシスタントとして少女漫画に必要不可欠な花と小物と効果を担当するようになった。
おかげで迅と一緒にいる時間は確かに増えたが、二人の距離は全く縮んではいなかった。学校・ボーダー・少女漫画家←NEW! 元々、迅はとても忙しそうではあったがこのスケジュールでは確かに隙間なく恋愛などしている時間はなかったのだ。
そうして、瞬く間に3年の月日が経過してしまった。





◇ ◇ ◇





コン コン コン
「今、取り込み中」
堅く閉ざされた迅の私室をノックすると、冷たい言葉が室内から短く放たれた。受けた嵐山は一瞬、心の臓をざわりと撫でられた寒さを得るが、それでもとぐっと前向きに声を紡ぐこととなる。
「迅、俺だ。開けてくれ」
途端に扉の向こうから椅子のようなものがガタンッと倒れるような音が響き、もたつくような足音が響いた後に、閉ざされていた扉が盛大に開いた。
「嵐山!…ぁあ、嵐山!! あ゛らし゛やま〜」
そのまま嵐山に抱きついた迅はずるずると地面に崩れようとするので、慌てて引き上げる形となる。ともかく廊下で盛大に倒れ込まれても困るので、ちょっと引きずるような形になりながらも中へと入室して、片手で椅子を正しく立たせてその上に脱力した迅も座らせる。
「墨、差し入れに持ってきたぞ。どうして〆切が間に合わないのに、俺を呼ばないんだ…」
修羅場真っ只中な迅は、予想通りの引きこもりとなっていた。半分泣き気味なその顔を覗き込むと、明らかに単に疲れているという段階は超越している寝不足な様子。少し漂うシップの匂いからするに、いつもの慢性的な肩こりを発病しているようだ。そして利き手である右手は、腱鞘炎一歩手前。それでも絶対に換装しないのは、公私の区別がついているからだろう…しかし生身はもはや限界であった。
「だって、嵐山ずっと広報の仕事で忙しそうだったし…」
「俺は逆に迅が三日間連続で任務を休む予定だったから、気が付いたんだぞ?毎回、そういう時は原稿に追われてるじゃないか」
「う゛… 確かに今、〆切2本抱えてて。連載の方は何とかなりそうなんだけど、短編の方がヤバい。今のこの段階でネタ出しさえ終わってないのは、確実に死ねる」
改めての現実を実感するように迅は、恐る恐る壁に貼られている大手のカレンダーを見る。つられて嵐山も視線をそちらへと映すと、モノトーンの業務用カレンダーには赤丸で大きく期日が記載されていた。それを見る迅は、やはりどこか虚ろな目をしてきた。しかし彼がこれほど切羽詰まるという事は、未来が明るくないということだ。あくまでそれは現実世界と言うよりは、掲載雑誌の紙面上の事とはいえ。
「わかった、わかった。終わるまで手伝うから、とりあえず俺は何をすればいい?」
もはやすっかり馴染みとなった漫画道具一式を作業机にカタリと置く。いつのまにか愛用の道具が出来てしまった時は若干驚いたが、それでも迅の役に立てるなら一番だと思う。最初は戸惑っていたものの、こうやって弱った迅が頼ってくれるのは本人には直接言えないが、やはりちょっとうれしくもあって、ある程度器用で良かったとは未だ感じている。
「まず、この見開きが一番の大ゴマだから、見せ場のヒロインの後ろに艶やかな花描いて。花言葉は嵐山に任せる。それが終わったら、他のページのヒーロー登場場面のいくつか点描があるから、悪いけどそれ含めて一時間で終わるようにペース配分して」
「一時間?いや、十分に可能だが…それが終わったら何かあるのか?」
ペン入れが終わった何枚かの原稿を並べられながら、テキパキと迅は指示の言葉を出してきた。さすがプロ。焦ってはいても的確だ。しかし切羽詰まっているのはわかるが、それにしても時間が具体的だなと、それは珍しくあった。ふいに部屋にかかっている壁時計に視線を見やることになる。
「こっちの残っているトーン作業が一時間くらいかかるから、それが終わったらおれは凄く嵐山と一緒に本部に行きたい。ネタ探しの為に。
引きこもってても、いつも同じ話しか思いつかないんだ。高校生がざくざく居る本部が一番話思いつく可能性高いから手っとり早いし」
嵐山が助けに来たことで少し頭が切り替わったのか、前向きな言葉を迅は出した。が、直ぐにまた机に戻り、腱鞘炎に痛む右手をやや抑えながらバリバリと作業を進める。この原稿モードになった迅に話しかけてはいけないと、もう数年になるアシスタント経験で嵐山は理解している。だから、今は自分の出来ることをしようと作業机に向かうことになった。
必死な迅につられて、嵐山も少し腕まくりをして脳内にある花言葉から、この原稿のヒロインのシーンに相応しい可憐な花を連想する。そういえば先日、意を決して迅に花束を渡したが、資料用だと勘違されて真直に受け止められなかったことがあった。そうしてその後、ドライフラワーとしてこの部屋に飾られている。ミモザの花だ。それは迅の誕生花で花言葉は、友情…そして真実の愛。迅の部屋の本棚には漫画を描く資料用として花言葉辞典があるが、もっぱら嵐山が花担当になったため、きっと読んではいないだろう。確か…ミモザはまだ一度も描いたことがなかった筈だ。このために用意したわけではなかったが、結果的には役に立った。そう…どんなに嵐山が恋愛がらみで迅にアタックをかけても、少女漫画脳となってしまった迅には見事にスルーされていた。未だファンだと思われていて、わかったと頷きながらさらさら書かれた色紙やサイン本が嵐山の自室に積み重なっているのであった。



そうして次の舞台は、ボーダー本部のラウンジを見渡すことのできるガラス張りの中二階へと移る。嵐山は迅の未来視の有効範囲がどれくらいかは詳細には知らなくあったが、それでもある程度の視界に入れることが出来ればこうやってガラス張りでも効力を発揮するとよく知っている。それは、こうやって迅の人間観察に付き合ったことが何度かあるからだ。迅と嵐山が揃って人が集まるラウンジに降りるとどうしても注目を浴び、且つ見知った知り合いから声をかけられる機会が多すぎた。平素はそれで全然かまわないのだが、今求めているのは不特定多数の人間を視ることなのでガチで人間観察をする際、いつも迅はここにやってくるのだ。そうして迅はガラスに近づき、目が充血になりそうなほど目下の若い隊員たちを凝視している。一時間と少し前にようやく連載用の原稿に目途をつけたとはいえ、凄いバイタリティーだ。眠くないのか大丈夫かと嵐山は迅が倒れないようにと見守ることとなるのだ。
迅の言う通り、ボーダーは思春期である高校生の宝庫であった。迅の描いている少女漫画雑誌の主軸は高校生である。少し前までは迅自身も高校生だったため、学校に行きさえすればそれなりにネタが転がってきたらしいが、生憎進学をせずにボーダーに永久就職してしまった昨今では弟妹のいない迅にはそう簡単に高校生ネタを掴むことは困難であって、一応現役大学生の嵐山も大学に連れて行ってみたりしたのだが、何か違う…と言われた。何が違うのか嵐山にはわからなかったが、自分も迅に恋心を抱いたのは高校生の時だし、そういう恋愛を求めるのは大学に入ると変化するのかなとも思った。初恋もまだという迅は、それを外に求めている。
「前々か思ってたんだけどさ。どうしてボーダー内ってカップルが成立しないの?危険と隣り合わせって、吊り橋効果絶大なのに…」
ここに来て三十分が経過した。どうやら望むようなネタを提供してくれる隊員が見つからなかったらしく、迅は愚痴り始めた。確実に焦り始めているようで、少し無理がある理論を出してくる。そう…迅は青春を求めているのだ。
「本部所属の隊員は特に忙しいから、恋愛をしている暇がないのかもな」
仕方なく、なだめるようにフォローの声を一つ入れる。支部所属と言えど学生は学生なりに忙しくあって、彼らは部活などやっていないがそれよりなによりボーダーにはやろうとすれば数多くのプログラムが存在しており、志が高い人間は余計にその傾向が顕著であった。
「嵐山は本部内でも十分モテてるじゃんっ 
んー。仕方ない、最終手段使おう。嵐山、ちょっと誰かに告って来て」
「は?」
確かに迅は、誰か告らないかなーと常日頃からつぶやいているとはいえ、まさか自分に火の粉がふりかかるとは思わず、ぎょっとする。
「正直言うと、今まで結構嵐山のボーダーの王子様っぷりをネタにしたことはあったんだけど、告られてるシーンばっかり視てきたんだよね。だから今回は、カッコいいヒーローが告白する胸きゅんシチュエーションが見たい。相手の反応も気になるし」
きっと迅は疲れすぎていてあまり正常ではないのかもしれない。かなり気軽に無茶ぶりを頼まれた。こ、これもアシスタントの仕事なのかと戸惑う。
いや、しかしと…はっと、嵐山は冷静になった。これはもしかしてチャンスではないかと。いつも迅が忙しくて、きちんと告白?のようなものをしたのは最初の一度きりだった。あの時は、結局はアシスタント希望と勘違いされたけど。だがここで、迅がこれが告白だときちんと認識した上で嵐山がアタックすれば今度こそきちんと伝わるのではないかと閃く。もう一回。きちんと嵐山の気持ちを伝えればきっと…
「わかった」
迅は未だにこちらを物語の王子様に対するような目で見ているけど今、それを変えて見せる。それでも迅が望むようなドラマチックな演出は出来ないけれど、これを逃すわけにはいかない。
この3年間、こうやって漫画でも頑張ってる迅をずっと見てきた。そうして、ますます好きになったのだから。
すっと迅の前に向き直って、その綺麗な瞳を嵐山はぐっと見据えた。

「俺が好きなのは、迅なんだ」
その言葉は、誰もいないフロアに凛として響いた。ようやく言い切った。これは間違いなくはっきり伝わった筈だ。これであとは、迅からの返事を待つだけとなった。のだが。

「うーん、残念。おしい。それじゃあ、押しが弱いな」
迅からもたらされた返答は、きちんとしたYESでもNOでもない不思議なものだった。
「えっと…結局、俺は駄目だったのか?」
未だどこか考えごとをしているような仕草をされて、虚をつかれたまま嵐山は恐る恐る尋ねる。振られるのでも仕方ないが、なんだかまだよくわからないのだ。迅の本意が。
「あ、ごめん。嵐山が貴重なネタ提供してくれる為に、おれに告白してくれたのは感謝してるよ。でもね…王子様が好きなのは実は長年の親友っていうのは割とありきたりなんだ」
すらすら解説をしてくれるように考察が並ぶ。
そうして瞬時に悟るのだ。あ、これは失敗したと誰が聞いてもわかる解釈を、だ。
「あ、ありきたりか…?」
呆然としながらも嵐山はその単語を繰り返すくらいしか出来ない。そんなによくある…ことなのか?
「うん。うちのレーベルは純愛だから見かけないけど。姉妹雑誌とか、ドラマとかで案外あるよ。そのオチ」
「………そっか。なんか色々悪かったな…」
悲しみに暮れつつもとりあえず謝る。結局いつもと殆ど同じ反応の冗談だと思われたわけで、迅との関係を保つためにはそう言った方がまだ自分が傷つかないような気さえしたのだ。
「いや、そんなことないよ。嵐山みたいなイケメンがなびかない理由、難しいだろし。あっ、でもオチで少しは使い古され気味だけど。ヒロインが最初からわかっていて惚れてて、それがキッカケでって膨らませて、その壁を乗り越えて。あっ、何か閃きそう!」
何やら思いついたらしく、迅はぐるぐると頭の中考えてはじめたようで、少しその場で右往左往とし始めた。
「えーと、迅。大丈夫か?」
「よしっ。ネームやりたいから、玉狛に戻る。ありがとう!嵐山、おかげで助かったよ。下書きまで終わったらまた呼ぶから、ヨロシク」
そう言いながらも、空いたこちらの手をぎゅっと両手を握りしめて感謝を伝えてくれて、瞬く間に迅は去っていってしまった。



残念ながら今回も嵐山の想いは伝わらなかったわけだが、それでもキラキラと漫画へと向かう迅の姿も嵐山は好きなわけで惚れた弱みだから仕方ない。
また、迅からのアシスタントをお願いする電話を楽しみに待つかと微笑むに、今は留めるのであった。





月 刊 少 女 迅 悠 一