attention!
前書いた、過度なシスコンブラコンをどうにかする為に迅さんが嵐山さんの双子の兄になってあげるという設定で、クリスマス話。 多分これ単体でも読めるかと。R18部分は蛇足。











【2014年12月18日 木曜日】



「クリスマスのことで話したいことがあるから、今日…うちに泊まってくれないか?」

嵐山から、そんな内容のメッセージが迅の携帯電話にやってきたので、さくっとOKと軽く二つ返事したものの、内心はとてもうきうきとしていた。
今年の嵐山の誕生日に本当に色々とあって、二人は…まあいわゆる恋人同士ということになった。その云々が嵐山の弟妹含めたご家族を少し巻き込んだものでもあった関係で、迅は嵐山家に新しく加わった兄の一人という不思議ポディションに収まることとなったのだ。家族大好きな嵐山一家にとって、迅一人が加わったこと、さして気にしていないのが未だに凄いなとは思う。そういうことの流れで、迅はたまに嵐山の家に泊まりに来ると毎回大歓迎を受けていた。今回の嵐山からは、相当久しぶりなお誘いだった。晴れて恋人同士になったとはいえ、嵐山が忙しいことに変わりはなく二人にはそんなに頻繁に会えるような時間を取る余裕はなかった。だからこそ互いに会いたいな…と思うと、職場であるボーダーというよりはプライベート空間である嵐山の家でということが多いのだった。
そんな中、今回の誘われた理由が…クリスマスと聞けば迅だってわりと期待してしまうのは仕方ないもので。だって、二人が付き合って始めてのクリスマスなのだから。いわゆる恋人達の三大イベントの一つ…今までイベント事をあまり気にしたことがなかった迅にとって、それはどこかそわそわと浮き足立つかのような単語に聞こえるのは当然だった。二十歳超えてではあるが、年甲斐もなくドキりとしてしまう。もう、クリスマスまで一週間切っている。正直、今年は嵐山と過ごすのはちょっと駄目かなと思っていたからこその朗報だった。
そう…迅もほんの少しだけだが、頑張ったのだ。いくらクリスマスといえど、ボーダー隊員にとっては防衛任務があることに変わりはないので、シフト戦争が勃発する。クリスマスイヴにだけは防衛任務に入りたくないという阿鼻叫喚が若い隊員から出るのだ。どうやら彼氏や彼女がいるというのはまた別の問題らしく、クリスマスに予定が入っていない寂しい奴認定を受けるのが嫌だと、高校生組から迅は小耳に挟んだことがある。ようするに見得を張りたいのだろう。ボーダーの防衛任務は基本、隊単位で行う。高校生隊員が主力を極めるので、たとえ隊長クラスが大学生だとしても隊員の気持ちを汲み取ってクリスマスイヴは休日を必死にもぎ取ろうとするのだ。そんな中で、一人S級な迅は去年まではわりとそのシフトに入っていた。まあ正直予定ないしと、気軽に申し訳なく頼む風間からのシフト調整を受けて入れていた。でも…今年は頑としてフリーだとは言わなかった。そんなこんなで結局あみだくじになって、難を逃れた結果(未来視は使ってません)本部に行く度に交代してくれーと要望する高校生組を突っぱね続けたのだった。だから、夜だけではあるが…クリスマスイヴは嵐山の為に、ばっちり空けてあるのだから。





「お邪魔します」
家族ぐるみの付き合いというわけではないが、たまに兄のように行くことも多い半分勝手知ったる嵐山家に迅が足を踏み入れれば。
「あらっ、迅くん。久しぶりね。別に准が呼ばない時だって、もっと気軽に泊まりに来ていいのよ?大学生ってご飯食べるのか食べないのかわからなくて、ついおかずが残りがちだから。今日も准は遅くなるから夕食いらないって、さっき連絡あったのよ。迅くん、たくさん食べてね」
「迅くん!いやーこの前は助かったよ。ほらっ、電車が遅れるって教えてくれただろ?おかげで大事な早朝会議に遅刻しないで済んだよ。本当に感謝するよ」
「やだっ、迅くんじゃない。来てくれてちょうどよかったわ。この前、迅くんに教えてもらったぼんち揚の新商品。季節限定商品だったみたいで、最近いつものお店に売ってなくて。どこか近場で取り扱っているお店、あるかしら。教えてくれる?」
「わーい!迅さんだー 迅さんだー あのね。聞いて。今日、学校でね」
「ちょっと副!いっつも、副ばっかり迅さんに話聞いてもらってるじゃないっ 今日は私が先に聞いてもらうんだからねっ!」
迅は賢い嵐山家の愛犬の頭を撫でながら、家族みんなが屈託なく話しかけてくれるのに答える。傍目からではなく本当に仲の良い家族で、迅をとても明るく受け入れてくれるから、ついつい甘えてしまう。
端から二人は少し似てると言われることもあったけど、嵐山はきちんと長男気質で迅は一人っ子気質だから。家族が殆どいない迅にとっては他人に対する甘え方だなんてわからない部分もあったが。これが、迅の好きな人を作った環境なんだと思うと感慨深いものがあって、ホームである玉狛とは違ったまた快さをどこまでも感じてしまうのだった。



「た、ただいま。ごめん…随分遅くなった」
ようやく嵐山が帰宅したのは、午前様間近であった。悪い大学生なら深夜に帰宅しても何とも思わないが、もちろん嵐山は遊んでいたわけではないので、かなりお疲れ気味の様子だった。いつもは明るさに満ち溢れているが、今は心なしか声のトーンが控えめだ。
「おかえり。ご飯は、いらないんだっけ?お風呂は?」
玄関から、この迅がいる嵐山の部屋に直行してきた様子を見て、ベッドサイドに腰掛けていた迅は尋ねてみる。
「本部でシャワーを借りてきたから大丈夫」
ありがとうという意味を含めて軽く右手をあげてみせられたが、それも普段から比べると大分満ち足りていない。外ではきっとそんな疲れた姿を見せたりしないだろうから気を張っている部分もあって、ようやく家に帰ってその糸が解けたのだろう。
「てか、ご飯きちんと食べた?ふらふらじゃん…」
明らかな疲労困憊する姿を見て、迅は少し立ち上がって嵐山に近づく。
「一応、移動中に少しパンを食べたんだが」
「どうする?軽く夜食でも作ろうか?」
「いや、今はこっちの方がいい…」
ぐらりと身体が流れるように、嵐山は目の前の迅に倒れ掛かった。大体こうなりそうとわかっていたからこそ、迅は衝撃を支えるようにそのまま二人でベッドに流れ込む。そうしてぎゅっと迅のシャツをつかまれて、顔をうずめられた。
嵐山は本当に抱きつくのが好きだ。何かあったら、下手な薬なんかよりこれが一番効くと本人言ってた。もちろんそれは以前は可愛い弟妹だとか愛する飼い犬だとかそういった相手限定なんだろうが、そこに迅が加わったというわけだ。
「あまり、根を積めるなよ。いくら嵐山の代わりはいないからって…」
ベッドに沈みながらも動かせるのは手ぐらいだったので、ぽんぽんと軽く嵐山の背を撫でながら言う。本当にヤバいときは、それこそ未来視でわかるが、嵐山はしっかりしているのでそこまで体調管理を怠ったりしないから、最悪の事態というのはなかなか見えにくい。それにあまりギリギリな生活を送るのは、もちろん身体によくないことだ。
「年末年始付近の忙しさは毎年の事だから、もう少し頑張れば大丈夫だと思う」
今はこうやって気を抜いているが、広報の仕事中は気丈に振舞っているのだろう。嵐山言うとおり、いつも師走は忙しそうにしている。クリスマス年末年始とイベント続きで、事前撮りしているものも多いとはいえ、雑誌やテレビやラジオとひっぱりだこで、このざまだ。特に今年は、嵐山が成人したからと、体よく思われている部分もあるのだろう。だからほかの隊員を差し置いて、こんな時間になってしまったわけだが。
「今が一番忙しい感じ?少しは休める時間が作れるようになる?」
こんなことばかり続くのでは、本当に嵐山が参ってしまうなと気兼ねしながら尋ねる。
「その事なんだが…」
むくりと顔をあげて、顔の近いところで二人の視線が合う。それこそもう…何度も、もっと近いところで鼻を付き合わせることくらい幾度もしたことがあるとはいえ、やはり嵐山の男前っぷりにはもしかしたら一生慣れないかもしれないと思ってしまう。いつもみたいな元気で一生懸命な嵐山ももちろん好きだけど…こうやって自分とか本当に一部の人間にしか見えないちょっと弱った姿でも、十分に迅を引きつける魅力があってちょっと卑怯だな…とさえ感じた。そうして先ほどとは少し違う真剣で通る声が響く。
「すまない、迅。クリスマスイヴなんだが…突発でイルミネーションイベントが入って、多分家に帰るのもあやうくなりそうなんだ」
わずかに目を伏せて、本当に申し訳無さそうに謝られた。きっと嵐山自身も落ち込んでいる様子が見受けられるほどにだ。
「そっか。…気にしなくていいよ。確か嵐山って、毎年家族で過ごす為に休み取ってたよね?おれより、双子の方がきっと残念がっていると思うけど…」
イベント目白押しであるクリスマスイヴ当日、ボーダーで指折り多忙な嵐山に猶予がある方が本当はおかしいんだ。それでも、今まで家族団らんの為に必死にもぎ取って来たがついに限界を迎えたらしい。年の瀬の忙しさに見事に巻き込まれて多忙を極めることになった。嵐山が、忙しい合間を縫って頑張っていることは迅が一番よく知っている。残念…と思う気持ちがないわけではないけど、こればっかりは仕方ない。同じ職場だからこそ、嵐山の立ち位置の重要性がよくわかるのだ。迅とて暗躍で忙しいとはいえ所詮は単独行動で、でも嵐山は一つ一つの行動に他人が係るものがとても多い。それだからこそ、嵐山一人でスケジュールを全部把握できるものでもないのだ。なんとか空けようと頑張っても外的要因で突然埋まってしまうだなんてこと、今までも何度もあったのだから。
「その…副と佐補の事なんだが」
そうして続けて、嵐山にしては珍しく歯切れ悪く悩む声を出す。
「どうしたの?」
兄が必死で頑張って、それでも忙しいということは双子だってわかっているだろう。表面上では多少ウザがりながらも、本当はお兄ちゃん大好きっ子であることぐらい迅でもよく知っている。だから、嵐山がクリスマスイヴにいないこと。とても悲しむとは思うが、受け入れてくれるとは思ったのだが。
「実は毎年、俺が二人のサンタクロースをしているんだ」
「は?」
何かこうもやっと浮かび上がったのは、リアルで等身大なほっほっほっと笑う貫禄あるサンタクロースではあったが、あまり嵐山の言っている意味がわからなくもあった。どういうことだと不思議がる声しか突発的に出ない。
「二人が寝ている間に、俺がプレゼントを枕元に置いているんだ」
あ、そういう意味ね。うん、ようやくわかった気がした。だから…サンタ。サンタクロース。しかし、ここで重要な事に気が付く。
「ちょっと待って…つまり、双子は枕元にくつ下を置いて、毎年サンタクロースを待っているって事?」
改めての事象を、迅はきちんと口に出す。当たり前のように羅列する事項であったが、迅にとってそれは随分と記憶が遠い昔のようなことだったので曖昧さがどこか残るのだ。
「そうだ」
そんな迅の戸惑いに動揺することもなく、嵐山はこくりと頷いた。
「もしかして、双子ってサンタクロースを信じてるの?」
まさかまさかの事項を恐る恐る尋ねてみる。ギリッギリ小学生低学年くらいなら微笑ましいその事項ではあったが、来年には高校生という双子の年齢にそれが当てはまるとあまり思っていなかったのだ。
「ああ」
そうして、短く切って見事に当然顔をされた。
「え、えー。えーと、うん。あ、今時純粋だね」
母親を亡くした迅にとってサンタクロースという現実を受け入れたのが何歳の頃だったが、あまり覚えていないのだが少なくとも中学生のときは十分に冷め切っていた、それは絶対。だから嵐山家の成せる技本当に凄いなと感心するしかない。やはり人は環境で作られるのだろうか。そして可愛い妹と弟の夢を壊さないようにと、律儀に毎年サンタしている嵐山も凄いなと思える。
「桐絵も信じてるぞ」
なぜそんなにこちらが驚くのか少しわからないみたいで、きょとんとした顔で嵐山は、その迅もよく見知っているいとこという例を出した。
「あー、小南もか。それは、もう仕方ない…かな」
それはここの遺伝なのかとも思ったが、何だかそう考えると色々と納得してしまう。今更、小南に関してはクリスマスにプレゼントを置いているのは本物のサンタクロースではないと伝えても、それも嘘だと思ってしまいそうなくらい純粋培養されているのだから。今は迅みたいに達観している子どもが多いから、貴重な存在だと思った方が幸せな気がしてきた。
「それで、迅に頼みがあるんだが………今年は俺が二人にプレゼントを届けるのは出来そうにないから、代わりにやってくれないか?」
がしりと両手を掴まれて、真剣な眼差しで頼まれた。
そうだ。別に忘れていたわけではなかったが、嵐山の根本にあるのはシスコンブラコンであることで、よく考えればそれはとても彼らしい。家族大好きな嵐山だからこそ、迅も好きになったわけだし。
「別にいいけど」
一応、前の流れで未だに迅も兄代わりをやっていることに違いはないし、それくらいは何の問題なかった。その役目を担い受けるのは別にまんざらでもない。
「ありがとう。助かるよ。プレゼントはもう用意してあるから」
さすが、どんなに忙しくてもシスコンブラコンな嵐山に抜かりはないようでその部分は準備万端らしい。そうして、迅がその重要な役を引き受けてくれて意気揚々とする声を出した。
「サンタなんてやったことないから、うまく出来るかちょっと不安だけどね」
ふいに視線を隣の部屋へと向ける。嵐山家では、二階は子供たちの部屋なので、並んでいるからだ。
それにしてもサンタか。玉狛支部でも林藤支部長が陽太郎に対してやっているのであろうが、迅は渡す立場はまだやってことはない。去年は確か木崎が玉狛第二の面々に対して配ってくれた。三雲や雨取はともかく、ネイバー育ちの遊真はどうだったっけ?とちょっと記憶を辿るくらいだ。
「迅は俺と背格好も似てるから、もし目撃されても大丈夫だと思う。二人とも寝付きがいいから起きることはないとは思うが」
嵐山家の双子は今時珍しい健康優良児で、部活が終わって今は受験勉強やら塾通い等で忙しいものの別段テスト前とかでなければ九時近くになると寝る準備をするという。あまり早く眠られると、帰宅が遅くなる嵐山はその愛くるしい寝顔をこっそり眺めているだけとなってしまうようだが、それでも十分に幸せらしい。
「嵐山も寝るの早いもんね。てか、大丈夫?嵐山、最近あんまり寝れてないでしょ」
そうわかりやすい寝不足の様子を周囲に披露することはないだろうが、付き合いの長い迅がよくよく嵐山の顔を見れば、満ち足りていない睡眠がわかる。ぺたりと頬に手をあてて顔色を凝視する。
「そう…かもな。でも、明日も朝早いから…もう少し迅と」
そう言いながらも嵐山の声は段々と小さくなりつつあって、疲労を回復するための急速な波に飲まれていくようだった。
弱みは出せないから外で疲れは見せないとはいえ、いつも全力で頑張りすぎなのだ。ボーダーでも大学でも外にいる瞬間は一瞬たりとも気を抜きはしない。常にボーダーの顔として他人の目が付きまとう。本人はそれを嫌だとは思っていないが、だからといってそうボロを出すわけにもいかないから、知らず知らずのうちに疲れが溜まりやすくあるのだろうと思う。
「おれは大丈夫だから、もうおやすみ…」
うつらうつらとし始めている嵐山を促すように、就寝へと誘う声をかける。
「ん…すまない。おやすみ………」
何とかそこまで言うと、迅に抱きついたままベッドに嵐山は深く落ちた。ぱたりと抱きついている手の力が抜けて、重い瞼が綺麗にパチリと閉じられる。本当にギリギリだったのだろう。直ぐに安らかな寝息と僅かな呼吸音が身近で聞こえる。とても穏やかに眠っている。
迅に寄りかかって抱き付いているので人肌としての温かさはあるだろうが、さすがに十二月では外も凍るほどの寒さだ。空いた手で掛け布団を引っ張ってきて、リモコンで電気を消すとちょっと体勢を直してから、迅は改めて嵐山の腕の中に入り込んだ。やっぱりここが一番温かい。二人の関係は最近、ご無沙汰しているが仕方ない。
寝る前に少しだけ嵐山の顔を見ると、その将来が未来視として迅の頭の中に到来する。だが、寝ている人間の未来は少し曖昧だ。クリスマスという家族イベントにやっぱり嵐山がいないということはだけは読み取れて、可哀想だからサンタの代わりくらいは迅が頑張ろうと改めて思う。

温かな…好きな人の腕の中で色々と考えられるほど迅も耐えられるわけがなくて。少しのまどろみの後に、いつの間にか意識はとおのいでいた。









【2014年12月19日 金曜日】



コンコンコンという明確な規則正しい三つのノック音を聞いて、ようやく迅の意識は覚醒した。嵐山と一緒に布団にもぐりこんでいたようなものだったが、カーテン越しに見える外からのはっきりとした明るさを感じ、今が朝だと告げている。
「迅さん!もうすぐ朝食の時間ですよ。開けますよー」
耳に飛び込んできたのは双子の片割れの元気な声で、ここでようやく迅の頭が猛烈にフル回転した。
げっ、内鍵。そういえば、嵐山が帰って来た時ふらついていたのでわざわざ鍵をしなかった。まずい。嵐山と同じベッドで寝ているというのはさすがに見られてよいものではない。そこまで露骨に二人の関係はバレていないからと、慌てて制止の声をかけようとしたのだが、その前に気が付く。
「あれ?」
いつも横に感じる圧迫感がない。布団を軽く跳ね除け、シーツで周囲を探る感覚がさらりとして。その隣に嵐山がいないということに気がつく。
「あ、起きてたんですね」
ガチャリと部屋を開けて、ひょいっと顔だけ出した双子の片割れが声を出す。
「えっと…嵐山は?」
確かに昨日は一緒に寝たはずだと、試しに尋ねてみる。寝起きの回らない頭とはいえ、さすがに幻ってことはないだろうと。おかげで、寝癖になってそうな前髪を隠すようにかき分けながらも尋ねる形となってしまった。
「兄ちゃんは朝に打ち合わせがあるって言ってて、先にご飯食べてさっき出かけましたよ」
「そう…なんだ。ありがとう、おれも支度したら下降りるから」
「わかりましたー」
明瞭に答えてくれたので現状の把握がすみ、納得ともに一抹の寂しさ。そういえば昨日会話の中で朝早いとは言っていたが、迅が起きる前に出かけてしまうとは…本当にそろそろ倒れないかと心配になる。
迅の立場は本部からすれば外野だから、あまり広報に関して口を挟むのは嫌だったが、それでも嵐山の健康が一番大切なわけで、やっぱり一度くらいは根付にスケジュールの確認をした方がいいかもと思った。だって嵐山は、他人から求められれば、必要以上に頑張ってしまう人間だから。こんな大切な日くらいは自分自身を優先してもらいたいという気持ちが少し迅にも芽生えてしまって、節度を持たないとと後悔も同時に。
付き合っているという二人の関係を迅としては公言するつもりはなかったが、なんか前々からというか別に嵐山に恋愛感情として意識する前から周囲には多少思うところがあったらしく、あ…付き合い始めたのかとか言われることがある。同じ職場だからそういう感情をなるべく仕事には持ち込みたくないとわかってるし、気をつけているつもりだ。迅の未来視は、平等に人に使わなくてはいけない。それがボーダーの為。でもやっぱり迅にとって嵐山は特別な…好きな人には違いはなくて、そう割り切って切り離せない厄介でもある。これが本当の恋愛感情なんだな…と改めて思い知った。



トントンと階段からリビングダイニングへと降りると、双子が両手を合わせて朝ごはんを食べ始めようとしているところだったので、ちょっと恐縮しながらもありがたく交ぜてもらう。
食卓を取り囲む姿は、ごくごく一般的な朝食風景。嵐山含めて会社なり学校なりとそれぞれ出かける時間が違うので、これだけ家族が多いと母親は洗い物。祖母は洗濯に取り掛かっていた。この場にいるのは先に出かけてしまった嵐山を除いた、子供たちだけだ。

「二人とも、今日は傘を持って行った方がいいよ」
迅は、それほど朝は量を食べないので、先に食後のお茶を頂いている最中、ふともりもりとご飯を食べる双子の顔と空の調子を見て合わせながら、一つアドバイスを入れた。
「降水確率10%くらいでもですか?」
テレビの天気予報を見て、不思議そうに迅を見上げて素直に尋ねられた。画面には、三門市のピンポイント予想が左上にテロップとして表示されている。
「昼間のうちは大丈夫でも、二人とも今日は塾で帰りが遅いだろ?受験生が風邪ひいたら大変だから」
なんとなくそれっぽい常套句を並べて、促す言葉を込める。天気は人の動きによって左右されるものではないから、ほぼ未来が変動することはない。迅にとってははっきりと断言出来る事項の一つでもあった。
「わかりましたー 傘持ってきます」
そうして、素直で大変よろしい返事が返ってくる。未来視のことを知らない人間も毎回こうやってくれれば迅の暗躍も少しは軽減されるものなのだが、そうも行かないことも多い。やはり心のどこかで迅のことをうさんくさいと思う人間も多いわけで、予知だって100%とも断言出来ないから、それは仕方ないことだが。だから迅は、他人の行動を左右させるのが簡単だと思った事はあまりない。
それでも気持ちのよい双子からもたらされる言葉は身に通る。二人の兄である嵐山なんかがその典型で…昔からちょっと迅の信頼しすぎってくらい理由も聞かずに受け入れていてくれていた。そんなに簡単に他人が言うことを信じて大丈夫かと心配になったりもしたが、別に全員にそうというわけではないようだし、なによりそんな嵐山に迅は救われているのだから、案外持ちつ持たれつな関係だなとも思う。
「っと、そういえば嵐山も傘持っていってなかったかも…な」
まめだから本部に置いてあるかもしれないし、帰宅時間がイマイチ不明瞭だったが、連絡しておこうかなという気になる。目の前の受験生二人に負けず劣らず今嵐山が風邪をひいたら、それこそ大変な騒ぎだ。
「今年は意外と天気悪いですよね。もっと冷え込んだら雪になりそう」
双子の片割れが窓の外のどんよりとし始めた風景を見やりながら、つぶやく。
「まだ今日あたりは雪にはならないと思うけど…もう少し年の瀬に近づいたら降るかもね」
迅の未来視は隣にカレンダーでもない限り、それほどいつがどんな天気なのかと明確には言えないから、曖昧に伝える。
「クリスマスは雪、大丈夫かな…」
ここで少しの懸念していた単語が双子からもたらされて、迅はちょっとびくりとした。
「えっと、二人はクリスマスに雪が降って欲しくないのかな?」
一般的にホワイトクリスマスといえば、ロマンチックだとか言われていて、それは恋人同士のイベントにも聞こえて。嵐山家では往年の日本独自で進化したそういう俗なものではなく、きちんと家族イベントになっている筈だ。特に子供ならば、三門市はそれほどどかどか雪が降るわけでもないので冬休みに突入しているなら家にいることも多いわけで、雪が降る方が遊べて楽しいという気持ちが勝ると思ったのだが、なぜか言葉が少し暗い。
「クリスマスに雪が降ると、兄ちゃんが私たちの部屋に来るの大変じゃないですか。いつもきちんと窓から入って来るんですよ?危ないなって毎回思ってるんです」
あれ?あれ、あれー?何だかとても認識違いな発言が双子の口から飛び出た。いや、それが現実なんだけど…あまりにも昨日の嵐山の話と違うような。
「確認なんだけど…クリスマスイヴに二人にプレゼントを届けているのは…サンタクロースだよね?」
「「はい。サンタの兄ちゃんです」」
見事にハモった双子の声がリビング中に響く。それを受けて、あーやっぱりと迅はガクリと落ち込んだ。
バレてる。やっぱり正体バレてるよ嵐山と、頭の中で回る。常識的に言えば、それが当然だとはいえ、迅が悲しむ番でもあった。
「………二人はサンタの正体、知ってたんだね…」
「さすがに、知ってます。そうだ、毎年二人で相談していたんですけどどうも兄ちゃんに言いだしにくくて、迅さんにお願いしようかな」
「何を?」
「うちの兄ちゃんに、サンタをやめさせることって出来ます?私たちも、なんかずるずると告げにくくてここまで先延ばししちゃいましたけど」
「兄ちゃんも年々ボーダーが忙しくなってて、今年とかクリスマスに休み取れなかったって言ってるくらいだし。プレゼントくらい別に普通にくれればいいなって」
この年齢でさすがに気恥ずかしいのか、少しの照れを見せながらも双子はサンタの労働改善を訴えてきた。
「え、えー」
困ったな…完全に板挟みじゃないか。
い、言えない。嵐山に頼まれて、まさか今年は自分がサンタ役を請け負っているとはとても言えない迅であった。









【2014年12月24日 水曜日】



噂をしていたせいかはわからないが、幻想的なホワイトクリスマスになりそうなくらい、その夜は少しの雪がちらほらと見えてきた。
木崎特製の七面鳥の丸焼きを一匹手みやげに、迅は嵐山家を訪れることになる。料理好きな木崎の要望もあって、玉狛には一般家庭ではありえない大きさの立派なオーブンがあり、そこで作られた物だった。それも例年ならば普通の鶏なのだが、遊真が興味深く思ったらしくどこからか取り寄せた七面鳥の丸焼きにはさすがの迅も驚いたものだ。林藤含めて小南もわりとイベントが好きだから、毎年のことながらクリスマスは気合入っていることだ。そんな今年の力のいれどころはコレらしい。七面鳥だなんて動物園でも見た記憶ないんだが、去年のクリスマスの時に遊真に日本のクリスマス文化を見せようと張り切った玉狛が、来年以降もどんどんスケールアップしそうな未来が少し迅の脳裏をよぎった。
さすがに七面鳥には双子は元より、犬も含めた嵐山一家全員が興味深そうに眺めたものだ。それでも真ん中に存在するのは、どどんっと鎮座する大きなクリスマスケーキ。嵐山家では母親手製が恒例となっており、それも毎年の事なので双子も作るのを手伝ったようだ。生クリームがふんだんに使われた市販のより暖かみ感じられる立派なケーキになっていた。何本も立てたローソクの火を双子が揃って勢いよく消して、始まる。
迅は、ちょこんとそのクリスマスパーティーにお邪魔する形になったわけだが、いつも以上に家族の団欒を感じた。迅が加わったことで八当分する事となったケーキ切りやすくて助かると感謝されたりと、相変わらずの大歓迎だ。毎回感じるのだが、まったく気兼ねされない。双子が選んだというオーナメントによって電飾されたクリスマスツリーは、キラキラと立派に窓際で輝いている。そこの近くで、愛犬にサンタの帽子を乗せて写真を撮る姿は、これ以上はないというくらい微笑ましくあった。
こんなに幸せな空間なのに、この場には長男が不在という物寂しさ。せっかく、嵐山が好きな海鮮手巻き寿司なのに。遠慮しがちな迅を団欒に気兼ねなく誘ってくれて本当にありがたいとは追ったけど、やっぱりこれで嵐山が帰ってきてくれれば完璧なのにな…と少しの心残りの中にいた。

「ちょっと、飲み過ぎた…かな」
ようやく嵐山の部屋に戻ってきた迅は、独りでにそう呟く。たくさん勧められてご飯を食べるのはいつものことだったが、今日はシャンパンも勧められた。二十歳になって数ヶ月経ったが酒を飲むと未来視がどこか鈍るからと、あまりはっちゃけることは今までなかった。それに任務がある日などは基本飲まないから、度数が軽いとはいえここまできちんと飲むのははじめてかもしれない。勧められるがままにコップいくつか飲んだが、あんまり強くないかもと思うくらいには、くらっとした。
きっと嵐山だって迅と同じ事情であまり飲まないから。せっかく二十歳となった息子と飲みたいという父親の意図はよくわかる。生憎と今日は不在だったわけだし、その矛先が客でもある迅に向かうのは当然だろう。度数はほとんどないに近いのかもしれないが、雰囲気酔いだろうか。
「さて…と」
嵐山と色違いで購入したお揃いのパジャマに着替え、後は寝るだけとなったけど、ベッドの上であぐらをかいて目の前のプレゼントボックス並べて迅は向き合うことになる。今、迅の前には三つの箱が鎮座する。そのうちの二つは言わずと知れた嵐山から預かった双子へのクリスマスプレゼントである。さてもう一つ…残りの一つは迅の用意した物。これは迅から嵐山へのクリスマスプレゼントであったが…どうやら今日直接渡すのは無理そうだ。この前の誕生日の時はきちんとしたプレゼントを用意することが出来ずうやむやとなってしまったので、今度こそはと思っていたが、こればっかりは仕方ない。これから年末にかけても随分忙しそうだし、後でクリスマスのって渡しても何だか変だし、また直接は渡せなそうだし。机の上にでも置いて行くかと、迅はメモに簡単にメッセージを書いて置いた。
さて、こっちは解決した。次だ。結局…双子にプレゼントを届けるのは自分だと伝えることは出来なかった。いや、あの和やかムードでそんな水を指す雰囲気ではない。双子は気にしないだろうが、迅の心が痛む。そして忙しい嵐山にもサンタ云々のことを言いだしにくく、結局嵐山からの要望も双子からの要望も保留中なのだ。困ったな。とにかく結構前に双子も自分の部屋に行ってしまったし、嵐山は帰って来ないしもはやこの難題は明日三人が揃ったらまとめて解決する方がよい気がする。ようは一つの案件なのだから、その方が明瞭だ。双方共に悪意はないからこそ厄介だった。
そんなこんなをわりと風呂場でうだうだ悩んでいた結果の長湯のせいで、もうすぐ正午に差し掛かろうとしている。目の前のことをちゃちゃっと終わらせようと迅はベッドから立ち上がった。

よっと、軽く掛け声をかけて、嵐山の部屋にある出窓に迅は足をかけて軽く上がる。そうして隣の弟である副くんの部屋の出窓を見据える。首を横に向けると一直線なのがよくわかる。そして、その向こうが妹である佐補ちゃんの部屋。なるほど…出窓伝いに嵐山は窓から侵入したわけかと納得。はたから見れば泥棒だが、クリスマスだから許されるという感じではあった。そうして、ちょうどいい按排に足をかける場所があるのを視認した。向こうへの距離は、一メートルと言ったところか。身長的に別に無理にジャンプなどしなくとも、足をぐいっと伸ばせばいけそうだ。これなら嵐山や迅くらいの年齢の男子ならばいけるだろうが、運動不足な大人には辛い。嵐山が、父親や母親にサンタを頼まなかった理由がなんとなくわかった。
「意外と寒いな」
極力音を立てないように窓を開くと、びゅうっと夜風が迷い込み迅の頬を冷たく撫でる。雪もまだ本降りではなくちらほらという程度ではあるが、暖房の利いている室内とはさすがに寒暖の差が激しいものだ。雪になるということは外は零下だ。さくっと終わらせるに限るなと、行動を開始する。ひょいっと軽快に隣へ飛び移る。壁伝いに、難なく成功したものの、迅は訓練しているボーダー隊員だからいけるけど、普通の大学生でも厳しいかもしれないと思う程度には大変だった。肝心要のプレゼントの箱を落とさないようにと、それを一番に気遣って副くんの部屋の窓を開ける。
キィ…と少しの音を立てて、窓はゆっくりと開いた。双子はああ言っていたもののきちんと鍵は開けてくれていたようで、そこだけはほっと一安心した。心の中でお邪魔しますと一言付け加えてから、そろりと部屋の中へ入る。とんっと裸足のままフローリングへ降りることが出来た。そこはそれなりに整頓されている中学生の部屋で、引退したとはいえ部活のボールが転がったり、今受験生だから参考書などが本棚に並んでいるし、奥にはもっと学生らしい趣味の物も見受けられるだろう。粗方の予想通り、ベッドではすうすうと副くんが眠っている。寝相がとんでもなく悪いわけではないが、多少布団がはだけていたのでかけなおしてあげる。あどけない…やっぱり少し昔の嵐山を彷彿させるので、懐かしいなと思ってしまう。しかし、長居するとさすがに気がつかれるので、プレゼントの一つをきちんと副くん用だよな?とその青いリボンを確認してからベッドサイトに置く。さて、次の部屋へ急がないと。
副くんの部屋から佐補ちゃんの部屋へ至るのも、先ほどと全く同じ要領で飛びうつることができた。曲がりにも女の子の部屋なので、やはり先ほどより少し緊張気味に入る。それでも迅が気兼ねされたことは今までなかったので、誘われてこの部屋には何度も入ったことがあるとはいえ。さすがに部屋の色は暖色系でまとまっていて、可愛らしいぬいぐるみとかが置かれている。だいたい嵐山がプレゼントしたものだと迅は思い出して、くすりと笑ってしまうのをこらえるが。こちらもほんの少し寝顔を拝借させてもらう。姉らしく弟よりは規則正しく寝入っている。嵐山が天使だと連呼するのもわかるが、別に双子は寝てなくても可愛いものだと思う。癒される理由がよくわかった。年頃の女の子の顔を眺めているのも失礼なので、残ったプレゼントの箱を置いて退散する。これで全て勤めは果たした。ミッションコンプリートだ。
余計な風が入り込まないように小さく出窓を開けて身体を滑り込ませて、迅は外へと出る。気が付けば先ほどより雪風が増している。それでも横殴りではないから、屋根の下でそれほど直接的に雪は当たらないけど。よっと、行きと同じように戻るようにと、佐補ちゃんから副くんの部屋へと飛び移る。行きと違って手ぶらだから、そろそろ慣れて来た感がある。でもさすがに連続はちょっと疲れるな。それでも寝ている人間の部屋でサンタが休むわけにもいかないから急ぐ。さあ…あとは嵐山の部屋に戻るだけだからと、さっさと行こうと前を見据えた。最後の着地点へと足を着き、もう片方の足をやろうとした瞬間だった。
「あっ、」
一瞬で、意識が散漫になる。ずるりとバランスが崩れたのが方向で理解は出来た。何度移動しても安定した足場がどうして突然不安定に?それは雪で濡れたからだ察するにはあまりにもスローモーションになっても遅くて。ぐらりと迅の視界が、横にそして窓の外へと落ちそうになって、あっけなく―――
「迅っ!」
突然ぐいっと、放り出された迅の右手を引っ張る強い力があった。反動のまま思い切りずいずいと部屋の中に引き寄せられる。一瞬身体のバランスを喪失したままの迅は、ようやく部屋に入ってもどこかふらついていて、そのまま助けてくれた嵐山の胸の中に落ちた。その軽い混乱は迅だけが感受したわけではなかったらしく、驚いて息を切らした嵐山と共にベッドの上でぜぇはぁと二人そろって息を整えることとなった。
「…………嵐山、どうしてここに?」
それが一番の疑問でつい口に出す。いや、この部屋は嵐山の自室なんだから居て間違ってはいないが、帰ってきたことに迅は気が付かなかったのだ。
「雪が降って来てイベントが早めに終わったから、帰ってこれたんだ」
「そうなんだ。驚いたよ」
「驚いたのはこっちだ。迅。今、換装してないだろ。どうしてそんな無茶をしたんだ?」
ちょっと怒っているかのように声を荒げて、問い詰められる。一歩間違えば大惨事だったことに違いないから、嵐山の怒りもごもっともとはいえ、頭ごなしに言われたのは珍しい。
「嵐山だって換装してプレゼント届けていたわけじゃないだろうなって思って、つい」
張り合ってしまったのだ。あの距離なら目算で大丈夫だろうなと思って行ったわけだが、それに検討をつけたのは昼間だった。明かりの少ない夜の、しかもこんな雪が降り始めているという悪条件まで考慮しなかった迅が悪いのはわかっている。
「ともかく良かった。迅が無事で…」
ぎゅっと再び抱きしめられる。それはまるで迅の鼓動を確かめるようにしっかりとしたものだった。だからこそ、ああこれが生きているという当たり前を深く感じさせられる。迅も、嵐山に引っ付くように腕を伸ばす。
「きちんとお礼言ってなかったね。嵐山のおかげで助かったよ。ありがとう」
「…そうだな。佐補と副にプレゼント届けてくれて、こっちこそ感謝するよ」
「それはまあ、バッチリ。でも嵐山が早く戻って来るなら、任せた方が良かっ………あ、」
ここでようやく迅は、思い出した。双子から頼まれている事をだ。それなのに嵐山がまたサンタしたら、余計に要望がメタメタだ。
「どうした。何か問題があったのか?」
うーん。やっぱり言うなら今しかないと思った。嵐山の願いは危なかったもののきちんと叶えたわけだし、次は双子の番である。
「えっと、落ち着いて聞いてね」
ちょっと抱きつく嵐山の身を剥がして、その両肩を持って迅はきちんと真正面を向いた。
「実は………双子は、サンタクロースの正体が嵐山って知ってるんだって」
しっかり伝えたつもりだが、それでもちょっと恐る恐ると言った。反応が少し怖い。いくら二人が恋人同士とはいえ、嵐山はずっと双子のお兄ちゃんで可愛がりをしていて、そう簡単に割り入っていいものではないことぐらいわかる。年齢を重ねるとお兄ちゃんとして出来る事少なくなるだろうし。その一つの出来事が無残にも崩れる事、大丈夫かな…と心配だったのだ。嵐山が過保護すぎるシスコンブラコンであることは、家族親戚以外では迅が一番よく知っているつもりだ。だからこそ、これを知った嵐山のその衝撃たるやすさまじいだろうと思ったのだったが。
「そうなのか。良かった…そろそろ二人に明かそうと思ってたから、これですんなり解決だな」
当の嵐山は一瞬だけきょとんとした後は納得して、一つ頷いたかのように明るく言った。
「あれ…残念じゃないの?」
予想していた反応と違うぞ…と、迅の方が軽い衝撃を受ける番となった。もっと盛大な深い悲しみに暮れるかと思った。いや、そうなるとまたシスコンブラコンモードが発動して大変だから、落ち込まないに越したことはないんだけど…。
「そりゃあ少しは寂しい気もするけどな。桐絵みたいに素直すぎるのもどうかと思うし。これも二人が大人になっていくという成長だから、兄としては嬉しいよ」
あくまでも見守るという前向きな言葉が響いた。嵐山にとっては双子はどんな様子でも好きなことに変わりはないし、さすがに変わりゆく成長過程さえも嬉しいのだろう。シスコンブラコンも奥が深いな。
「そっか。そういうものもいいかもね。しかし、嵐山も二十歳過ぎて前よりは過剰に双子依存しなくても大丈夫になった…のかな?前だったら折角のクリスマスに双子に会えなかったら、悲嘆に暮れてたでしょ」
それが良いことが悪いことか。別に病気じみたとまでも言わないが、傍から見てて疲れそうなぐらい双子の動向によってテンションが上がったり下がったりしていて大変そうだったから、少しは大人の余裕と言うものが出てきたのかもしれないと感じ取れた。
「そう感じるようになったのなら、きっと迅のおかげだな。もちろん佐補や副にも会いたかったが、折角のクリスマス…俺はちゃんと迅に会いたかった。だから無理にサンタ役をお願いしたんだ」
「おれも…嵐山に会えて嬉しいよ」
迅は今までイベント事なんて特に気にしたことはなかった。忙しい最中にかまけて、日々は過ぎていって、それが嫌なわけではなかったが、驚くほど一年が過ぎるのも早くて。だからこそ、こうやって大切な日はきちんとちょっと頑張って時間を作るくらいが二人にはちょうどいいのだと思った。そうして、互いの気持ちを確認し合う。
「―――迅、これクリスマスプレゼント」
さらりと男前に、嵐山は横から取り出して小さな箱を取り出して、すっと迅の目の前に差し出した。
「あ…ありがとう」
思わずきょどる声を出しながらも、両手でその箱をゆっくりと受け取った。
「そんなに意外だったのか?迅も用意してくれてあるじゃないか」
まあ恋人同士なら当然というか。ちらりとテーブルの上にメッセージ付きで置いてある箱を見て言われる。置いて部屋を後にしようと思っていただけに、こうやってバレるのはちょっと気恥ずかしい。
「いや、最近嵐山忙しかったからこの未来は見えていなかったというか…この前も直ぐに嵐山寝ちゃったし」
軽くベッドを降りて、自分が用意したプレゼントボックスを持ってきて、はいっと嵐山に手渡す。書置きしたメッセージは無駄になってしまったけど、直接渡せるほうが断然いい。ベッドの上に舞い戻り、互いに一つずつの小さな箱を手に持つ形になる。
「プレゼント…腕時計にしたんだ。迅には未来視があるから、時間はとても大切だろ。換装しているならともかく、いちいち取り出して時間確認するのは面倒かなと思って」
「えっ、あ…嘘。本当に?」
その中身を示唆されて、迅は感謝より先に思わず虚を突かれた声を出した。
「ん?何か都合が悪かったか」
それほど奇抜なものを渡した気はなかったらしいので、迅の反応の方に嵐山は不思議がる。
「いや…そうじゃなくて。おれも嵐山へのプレゼントを腕時計にしたんだ。嵐山の方こそ、時間に追われているからなって思って」
そうして二人は揃った箱を並べる事になる。
「そうなのか。一緒か。それは二倍嬉しく感じるな。ありがたく使わせてもらうよ」
「こっちこそ。ありがとう、嵐山」
その素直な返事に、はにかんで迅も感謝を込める。思わぬ偶然だからこそ、こうやって嬉しいのだ。それを嵐山が与えてくれるのならば尚更のことだった。
自然に二人の顔が近づき、ぱちりと瞬きが閉じたことが合図となり、唇が重なり合う。



きっと嵐山が来てくれたことが何よりのプレゼントだ。二人のクリスマスの夜は、まだまだ始まったばかりなのだから。
迅のその瞳の奥には、一年後も…それから先のクリスマスも二人で過ごす未来が既に見えていた―――






Merry Merry Christmas!!!





END


















【2014年12月25日 木曜日】
蛇足



いつの間にか窓ガラスの縁に、白い結晶が溜まり始めている。続く外の雪は深夜を回ると本降りを目指したようで、粒が大きくなった冷たい雪が次第に増えつつあった。それでも空は全て雲で覆われているわけでもなく、隙間からまれに差し込む月の欠片と外灯に反射した雪がほのかな明かりをもたらしていた。外はとても静かだけを具現する。まだそれほど降り積もってはいないけど、きっと朝方まで続くだろうから、そしたら翌朝は銀世界だ。



「迅。手が冷たくなってる…」
言われて見ると、指先が多少白くなっているような気もする。先ほど半分は外に出たようなものだったから、この気温下では当然か。深々と降り始めた雪が底冷えを促して迅がぶるりと一瞬震えると、ぎゅっと両手を上から重ね合わされる。すんなりと嵐山の温かい手の感覚が迅へと着実に伝わってくる。そうして、じんわりと染み渡るように指を一本一本丁寧に絡められる。
「嵐山がこれから暖めてくれるんでしょ?」
このじゃれあいも好きだけど、ふふっと小意地悪く上目遣いをして言う。
「そうだな。期待してくれ…」
くすりと密かに笑われて再び二人は迫ると、互いに笑いあうように啄むようなキスになる。最初はくすぐり合うかのように軽やかに接触していたが、それも段々と余裕がなくなって深く深くと舌が絡み合い誘われる。舌先同士のちょっぴりとした触れ合いからの変化。吐息さえも簒奪されるような勢いでちうっと吸われると思わず驚いて引っ込めたくなるけど、それは簡単には許されなくて、その息苦しささえどこか心地よくなってしまう。引っ張られて甘噛みをされて、散々好き勝手に口内を堪能され尽くされる。隙間が有れば、満たされるように横からも差し入れて占領されるような圧迫に、口の端から唾液が漏れ出るのも厭わずに夢中にさせられた。嵐山の味で埋め尽くされる。下顎をくいっと掴まれて、もっと大きくと割り開かれて…そのどれもが心地よい。
「、迅……」
「ん、ん…っ」
くたりと迅の身体の力が抜け始めると、頭の後ろごと抱きしめるかのように、一度離れてから角度を変えて、また深く口づけられる。直ぐにお腹の奥がきゅっと熱くなるのは、これから先を期待してかの事か。軽く窒素しそうなのを見図られて、でも結局は散々弄ばれてようやく後頭部の手を支える手が緩むと、とろけきった甘い互いの唇が離れる。それでも名残惜しいようで、離れる瞬間には下唇を軽く噛まれた。ほらっ、瞬く間にかっと迅が熱くしてくれる。それは全て嵐山が与えてくれるものだから、何よりも嬉しかった。
「っ、は…ふ…」
解放されてはくはくと虚ろ気味に息を吸う。そんなこんなのうちに、くらりとした頭のままベッドに背を促されて、優しく後ろへと倒される。
嵐山は、普段から優しいけどセックスの時は底抜けに優しい。だから迅はその優しさに毎回とろけてしまいそうになる。真剣なまなざしを向ける嵐山とは対象的に迅は、ほうっと見とれるばかりだ。だらんとしてきた身体だけじゃなくて頭の中もぼうっとして来ると、未来視はおろかマトモに物事を考えることさえ困難になる。
「寒かったら、言ってくれよ?」
「大丈夫だって。それに、嵐山の手あったかいから」
切られた暖房のリコモンが少し離れた位置においてあるので、タイミング的にわざわざベッドを降りてそれを取りにいくのはどうかと思ったらしく、そろりとパジャマの腰元から手を差し入れられるとゆるゆるとお腹のあたりを撫でながら言われた。確かに室内がそれほど暖かいわけではないが、少なくともさっきのキスで十分迅の頭はぽうっと愚鈍になるくらい温かくなったのだから。
それでも性急に脱がせるのはどうかと考えたのか、嵐山は迅の衣服をめくることはなくパジャマの下の中から這い上がるように手がこちらの胸部へと伸びていく。角度的に詰まった衣服が邪魔をしているので普段よりは幾分かゆるやかに。それがゆっくりと侵食されるかのように上がって来るので、ぞくぞくと寒いわけでもないのに背すじが沸き立つ。迅の焼けることのない肌の感触を改めて確認するかのように、しっとりと伝わされて服の中でもぞもぞとでもピンポイントに迅を高められる。パジャマのボタンを外さずに不安定な触られ方が、何もかもがもどかしく感じて、どこかむずがゆい。
それでもやはりどこか限界を感じたのか。ぷちぷちと上の方のパジャマのボタンをいくつか外されて、必要最低限だけはだけされられる。最初はもちろん首に、次に首筋に近い肩筋に、少し浮き出た鎖骨に、一つ一つ丁寧にキスを施されて、緩く吸われて、うっすらとした痕を残される。時折ふわりと嵐山の鳥の羽根が肌をかすめるので、その柔らかさとほんの少しのこそばゆさにくすくすと迅は笑いそうになった。
「ふ、っぁ…」
そんな余裕な考えを持っていられるのもつかの間の事で、嵐山の吐息が迅の右胸に吹きかかると思わず小さく声をあげることになる。間髪入れずに胸の突起を口に含まれて、ぞわぞわと瞬く間に良くない感情が沸きあがって来る。いつもこうやって簡単にのまれてしまう。少しは余裕なふりをしたいのに、毎回駄目だ。吸い付かれると特に弱い。輪郭を確かめるように舐めとられると、その小さな突起が段々膨らんでくるような錯覚さえ覚えてとても恥ずかしい。単純な嫌とは違う何か説明仕切れない感情。こんなところを触られてもろくも崩れ始めるだなんて、本当に弱点みたいだ。それは嵐山のせいで、彼にしか触らせない…とはいえ、朱は増す。ちょっと口先で引っ張られてから、熱い口内で転がされる。それと連動するように、空いて待っていた左胸の突起が伸びて来た嵐山の手できゅっと、隙間なくつままれて震える。最初にそんな刺激を与えたくせに、次はどこまでも優しく何度ももみしだかれると、乾いた感情が不意打ちのように燃え上がる。
「やっ、…一緒は、ちょっと………あっ、」
同時に刺激されて意識があちこちに飛ぶのが不安定なので制止する声を入れるが、それも迅の建前的なものだとわかっているのか、結局は順次転がされる結果となる。ぬるりと唾液を絡ませて幾度も押しつぶされて、ねたぶられる。わざと軽いリップ音を立てられながら、そこにもキスをいくつも。犬歯を使って軽く突起を噛まれると、びくりと腰先からも震えた。
そうして、ようやく嵐山の顔が上がって解放される。その際にも、空いていた左手で自らの唾液で赤くなった胸の突起をきゅっと摘まれた。それはまるで最後の置き土産のように。それでもこの先を期待して、存在を主張する濡れぼそった胸の突起が立ち上がってぶるりと震える。これは寒さだけじゃない。
「嵐山のいじわる…」
すんっと鼻先を疼くめながらも言う。もはや屁理屈だとはわかっていたが、文句の一つも言いたくなるもんだ。ちょこざいな仕草につい、口を叩きたくもなる。
「気持ちよくなかったか?」
「良すぎるから困るんじゃんっ」
「それは良かった。身体、少しはあたたまった?」
「もう大丈夫だって、心配性だな」
一度は開かれたパジャマの前を合わせられて、律儀に整えられる。嵐山としては自分が無理にサンタ役を頼んで雪の中外に出たせいで、迅の身体が冷えてしまったことを懸念しているのだろう。確かにさっきまではそうだったけど、もうこんなに散々煽られた今では、じわりと背にも汗をかき始めているくらいだ。
こちらが重ねて言ったせいか少し安心したのか、ようやく迅のパジャマのズボンに嵐山の右手が侵入してくる。腰元のゴムが伸びるかもとは一瞬思ったが、寒さを考慮してかやはり直ぐに脱がせる気はないらしい。ボタンは閉じられていないものの上半身も着なおされたし、構図的に本当にイケナイことをしているという感じになる。
嵐山よりは筋肉の付きが薄い太ももをゆったりとさすられていたかなと思っていたら、次第に内股に手がまわり密かに撫でられる。寒さからではなく、ぞくりとした感覚からもたらされたもので身体は勝手に喜ぶように震えて、望んでいる下へと降りて来てくれる事を待っているかのようだった。早く…と、もどかしく感じてしまう。腰を直接刺激されるように、本当はもっと奥を暴いて欲しいのだ。それこそ酷く乱暴にでも。
そうしてその長い指がいくつかととんっと動いて、ようやく迅の下着の上までやってきてくれた。思わずピクリと動いてしまう衝動がやってくる。こちらの具合を見るかのように、嵐山は下着の上から迅の性器の輪郭をゆるりとなぞる。それこそ迅から見れば、とても丹念にじょじょにそれを繰り返すのだ。布越しのもどかしさがこんなに辛いだなんて…中途半端に煽られてやるせない。だから…もっと、もっと…とせがむようにうなるって勝手に腰が浮いて嵐山の手に自身のを押し付ける。その迅のはしたなさに、嵐山はくすりと笑ったかのように見えた。そうして迅が欲していたモノを与えてくれるのだ。
「ふ……、あっ…そこっ…は、」
横からするりと侵入させられて、ようやく直接嵐山の指が迅の性器にかかる。それでも狭い下着の中なので思い切り扱われるわけではなく、撫でるように触られているだけ…とはいえ。どくんっと心臓が高鳴るように下半身と連動する。随分自分も簡単な人間になったものだなんて簡単に理解はせず、ただ快楽を求めて蠢きたくなってしまうのだ。嵐山の温かい手に覆われて、どんどん迅の性器は誇張してくる。さするように、ゆるくすりあげられると途端に下着の中がキツくなる。
「あっ!…はな、して…っ このまま、じゃ…」
そうは口で言いつつも、嵐山の親指がぐっと性器の先端に触れると爪先まで求めるように腰が浮く。思わずほうけていた右手を伸ばして、嵐山の髪の毛を掴もうとするが、迅の小さな抵抗などあっさりとはねのけられてしまう。解放されない熱が汗を生み出して、下着が湿っぽくなるのがわかる。もはや嵐山が心配するような寒い場所だなんて、迅の身体にはどこにも存在してなかった。思わず身をよじると嵐山が重ね合わせてくれたパジャマの上着がぱらりと肌蹴るがそれは熱を発散させる少しの起因になる程度で、どんどん下半身に熱が溜まる。爆発してしまう―――
「…迅、可愛い。………イって、」
「はっ、んっ!あ、…あ、、あっ、ぁっ………ぅん!!」
いつもは清々しい嵐山の通る声が甘く吐息混じりになって促されると、親指と人差し指でカリッと敏感な先っぽを何度も爪を立てて押し潰されて、その衝撃で迅は容易く果てた。どっと、溜まっていた精液が何度かに分けびゅくりと音を立てて噴出し嵐山の右手を、そして下着の中に染み渡る。
「…あっつい………」
正直、今の迅の感情を占めるのはそれだった。
嵐山が、支えるように腰を掴んでいた空いた左手で迅のほてった頬をゆるゆるとさすってくれる。さっきまで温かかった嵐山の手より、今は迅の頬の方が数段熱くなっている。射精した心地よさと下着の中の生ぬるさに少しの気持ち悪さという余韻という普段とは違う違和感が占める。
「随分、たくさん出たな」
未だ手を突っ込んだままで、見下ろされる。そうしてぬめる右手を取り出されて、見せ付けるかのように少しの粘着質で白かがったそれを糸引くように示される。握りこぶしを軽く開いたり閉じたりと、自分の出したものながらその存在感に少しの戸惑いさえ感じる。
「もうっ、嵐山がやったんでしょ?」
確実に下着は汚れたので、少しの洗濯の心配が過ぎる。さすがにシーツまでは染み出てないだろうが、パジャマのズボンもきっとアウトだ。何だ…今日着衣セックスデーなのかと、頑なに衣服を脱がされなかった事に後悔も混じる。
「そうだな。責任は取るよ」
迅が少し茫然としている隙をつかれて、乾いている方の左手でぐいっと下着ごとズボンが下ろされた。ずるりとあっけなく下半身が露出されて、本格的に脱がせにかかった。先ほどまであれだけ頑なだったのに、案外呆気なく脱ぎ取られる。
そうして一度は果てた迅の性器が外へと露出される。くたりとしているのは仕方ないとはいえ、とりあえず迅は、手を伸ばしてベッドサイドのティッシュボックスを手繰り寄せようとするが、嵐山に腰元をがっちりと押さえられているのでそれは叶わなかった。ちょっと苦言を入れようかと口をとがらせようとした瞬間に嵐山の頭が下がってきた。未だ、むわっとしてるそこに嵐山は難なく顔をうずめた。
「えっ、いや。ちょっ、と…」
多少は下着に残ったものの、まだ発した迅の性器にまとわりついたままの精液に、造形の整った嵐山の口が向かわれる。かぷりと性器を生暖かい口内に含まれると、反動で嵐山の髪をぎゅっと掴んでしまう。多少引っ張ってしまったから痛いだろうに、それでも身動きせずにただ集中して、こちらに向かっている。
そんな嵐山の心配をしていられるのもつかの間の事で、熱い口内に包まれた性器からは直ぐにじわりと次に染み出て来るものがあった。それでも嵐山は、てらてらと濡れた一度外に吐き出した精液を舐め取るように、舌先で器用にすくいあげている。迅が好きな、その熱い舌でだ。嵐山の几帳面さがこんなところにも発揮されて、ぬるりと的確に残露を拾い上げられる。厚い舌で、ぺろりと性器全体を満遍なく伝われるのだ。そのあまりにも直接的な刺激に、ふにゃりとくたびれていた筈の迅の性器はまたゆるゆると反応する。芯が蕩けつつも、やはり一度果てた程度では足りるわけがなく、また再び活気を戻すのだ。
「っ…、嵐山。…それ、だめっ、だから」
わざとではないが、思わずぐっと爪を立てるように嵐山の頭の中に刺激を与えてしまい、それで顔がこちらに上がって視線がようやく合う。
「迅。その…何だ。………随分早いが、一人ではシてないのか?」
嵐山とてぶしつけな質問だという認識はあるらしく、多少戸惑いながらも尋ねられる。
ボーダーに安息など微塵もないことを考えると、二人はどこまでも忙しくだからこそ、こうやって身体を繋げるのだってそう頻度の高いことじゃない。同姓同士だからわかるが、男の身体というものは性欲を求めるように出来ているもので、夜とか朝とか容赦なくそれはやってくるのだ。もちろん独り身なら自分で処理をするもので、思春期からしている自慰は大抵の人間なら生理現象だからと手馴れているモノである筈だった。
「たまには、シてる…けど」
「けど?」
やや口ごもりながらのしどろもどろの答えの後を優しく促される。
「嵐山のせいで前を触って抜いただけじゃ、満足出来なくなっちゃたの!だから、割と欲求不満というか…」
仕方なくどこかで吹っ切れるように割り切って、これ以上はないという赤面をして迅は言い伝えた。
「…えっと、………それは、すまない」
ちょっと慌てて困り顔で、やや嵐山も赤くなりながらも言われる。エロいことしている張本人のくせに、完全な悪意がないからこそ迅も余計に困るのだ。
「後ろ…自分で触るのは、ちょっと怖いというか。あー、もうこれ以上言わせないでよ!」
もちろん以前はそれで事足りたのだが、今は駄目だ。もっと違う場所で快楽があることを知って覚えさせられてしまって以来、ずっと物足りなくなってしまった。勝手に怒っているのはわかっているが、嵐山とのセックスの味を覚えた今、一人でして満足なんて出来るわけがない。
「じゃあ、練習するか?」
「は、えっ?」
突然何を言いだすのかと、ちょっとどこかありのままのような言葉に耳を疑う。
「俺の都合で、やっぱりこれからも迅を一人にして寂しい思いをさせることは多いと思うんだ。いつもこう…だと大変だろ」
「だから、練習…?」
ちょっと恐る恐るといった部分も兼ねて、噛み砕くように尋ねる形となる。
「嫌か?」
「いや、なんか改めてっていうのが…」
最初にしたいと言われたのがあっちからだったせいか、わりとセックスは嵐山に任せているから、自分からも進んでいうのが改めて考えると、やはりこそばゆい。
嵐山の言うことは確かに事実で、迅自身も二人で会う時間をそう簡単に合わせて取れるわけではない。いくら未来視があっても、纏まった時間となると些細なものだ。それこそこういう絶対に外したくない日だけは互いに死にもの狂いで確保するが、それ以外でならやっぱりプライベートよりボーダーを優先してしまう気質が二人ともにあった。それでも今は携帯電話があるからちょこちょこと連絡は取り合っているので、そこまで極端に寂しいと思うことはないけど。確かに割と心を同じくしてからは直ぐに身体の関係に至ったとはいえ、回数の頻度はそれほどではなかった。だから、溜まるものは溜まる。
「迅をそうしてしまったのは、俺なんだろ?だから…手伝いたい」
ずいっと懇願するように顔を迫られる。言ってることは素晴らしいが、やることは自慰なんだけど、現に今は迅だけズボンをはいていない状況だし。何だかそのギャップに、ぷっとちょっと迅は笑ってしまう。
「えっと、じゃあ…お手柔らかに」
「任せてくれ」
思わず謎の敬語になってしまったが、自信満々で嵐山は答えてくれたから。ま、いっか。

もう…まず楽な態勢っていうことからどうにか考えることとなったが、色々と思案した結果。迅は、ころんとベッドに横抱きに倒れることにした。それでも単純にその寝る態勢では後ろへ手を伸ばしにくいので、背中にクッションをたくさん置いて、ぽすんっとやや斜めに崩れることになった。そんなこんなしている間に、嵐山はベッドサイドの鍵のかかった引き出しからローションとついでにこの先使うだろうからとゴムを取り出して、そちらは枕元に置いたようだった。渡されたローションを手に取った迅は、いつも嵐山が使う量よりは多めに出して、尻の間に垂らした。そんな使い慣れていないから、まだ少しの冷たさの残るローションにわずかに身震いを感じる。そうして、ぬるつくローションを自分の右手の指にも絡ませて、ようやくポディションを決めると改めて横になってその利き手をそろりと後ろに回そうとしたのだが。
「えっと、嵐山。見るの?」
ベッドのちょっと向こうに当たる迅の足元の方からこちらを少し見下ろすように視線を向ける嵐山に、ついそんな声かけをしてしまう。
「目をつぶってたら、手伝えないと思うんだが」
「…それも、そうだね」
迅、頑張れと応援されるのもなんか違うし、確かに。当初はほんの少しの勇気を後押ししてもらう程度の気持ちだったが、自分はとつてもなく恥ずかしい事をしようとしているのではないかと、今更羞恥心が沸きあがるが、もうここまで準備してしまっては後には引けない。恥ずかしいと思うから、恥ずかしいんだ。取り返しがつかなくなるかもしれないという気持ちもあるけど、もうっなるようになれと思った。深く考えると恥ずか死んでしまうから、先に進むことに専念しよう。既にローションで濡れた尻の割れ目に、そろり手を伸ばした。
「どうした。迅」
つうっと伝う液体の窪みという行先をそのまま辿ろうとしたものの、その程度の段階で止まってしまったままの右手。なかなか先に進まない迅を促すように、嵐山に小首を傾げられる声を出された。
「あの…まずは小指でいいかな、、、?」
思った以上に自分の入口。いや、本当は出口の小ささに悲しみというか複雑な思いを感じて、尋ねる。だいたい位置的に肉眼で目視できる場所じゃないからこうやって触ってみて初めてきちんと、思いぶち当たるのだ。嵐山がいつもどの指を使って来るか、嫌ってほど教え込まれたとはいえ、同じようにはとても出来ないと思うのだ。あまり自分の指をマジマジなんて観察しないが、どう考えても小指がその名の通り一番小さいに決まってる。
「あまりお勧め出来ないかな。使い慣れてない指だと変に動かす事になるから、入れた後が大変になるかもしれないし」
迅の淡い期待は即座に嵐山によって否定された。いや、それは迅の事を思って言っているということわかる…わかるけど、経験者である嵐山の助言を拒否するほど未経験な迅に切り出せるカードはなかった。こんなときでも爽やかな、いつものの言い方なのが逆に辛い。
「でも、さ。中指って小指より一回りくらい太い…よね?」
そりゃ、迅より嵐山の指の方が幾ばくかしっかりしているが、そういう些細な違いも初めての迅には大切なことなのである。
「俺を信じて。ね?」
まるで子どもをあやすように囁かれる。けれど大人の行為をしようとしているのだからどうしようもないとはいえ。ここで押し問答をしていてもよい改善策は浮かばないので仕方ない…割り切って、五本の指の中で中指だけで自身の尻の窪みに密かに触れてみる。ローションが少し溜まっているので、少しのぴちゃりとした水音が響くのが耳に届く。よくよく考えなくとも身体を洗う時だって別に直接指で触るわけじゃないし、なんかもうこれ以上先となると、どこかから躊躇いがあって………
「迅…大丈夫だから」
このままでは埒が明かないと思ったのか、嵐山の手が慣れた様子ですっと迅の尻へと伸びて来た。そうしてそのまま柔らかい迅の双丘を両手で掴んで、ぐっと隠されている中を開いてくれる。
「えっ、!嘘っ、」
やや強引にではあったが尻の窪みが外へと広がり、そのままゆるやかに導かれるように中へと入口が促された。殆ど添えていただけのつもりだった中指が爪の部分まで入ったことを確認されると、嵐山は尻から手を離して身を引いた。閉じた反動で進んでもいないのに、中へ入っていく感覚を強制的に味合わせられる。
「別に痛くない…だろ?ほらっ、そのまま進んで」
次には迅の右手に嵐山の手が添えられて軽く促されるように押されると、ずっずっと少しずつ中への侵入が成される。いくらローションと嵐山の補助を借りているとはいえ、なんてあっけない。あっという間に第二関節付近まで指が押し進んだ。
「う、…っう。逆に痛くないのが怖い」
「もっと先、進めない?」
「だめ…無理」
微かに息をのんで、現状を甘受することになる。自分の身体なのにどこか怖いのだ。いつもは嵐山に割り開かれているから、それを身に受けているだが、自分が進んでするにはまだあまりにも心が備わっていなかった。それなのに肝心の身体は、もうとっくに嵐山に開拓されているわけで、そのアンバランスさに余計に戸惑いが止まらない。
断言しよう。今の、この第二関節までが引っかかってるくらいが迅の限度だと。これより先は自分の領分ではないと中が言ってる気がする。痛いとか痛くないとかそういう問題じゃなくて、とにかく根元までとか絶対自分の意思では無理。
やっぱり自分の指の方が違和感あるように感じてしまう。それは、ここが嵐山によって既に作り変えられているから。嵐山の手で迅の身体が変わるならそれでもいいと思ったけど、なんか違う。慣れとも違う。そんな迅さえも躊躇する場所に、いつも入れてるって凄いなと思う。
「じゃあ、少し慣らす為に動かしてみて?」
「ど、どうやって?」
「まずは、上下に軽く押して」
「…やってみる」
嵐山は随分と簡単に言ってくれるが、このままというわけにはいかないのはわかるから、そのレクチャーに習ってみる。それくらいなら…と、試しに軽くだが入れた指先に力を込めて凹ませてみる。中は割と余裕があって、動かすこと自体がそれほど難解であるというわけではなかった。だからこそ、いいとかわるいとかよくわからない圧迫を自分ですることになる。入口をただ何となくくちくちしているのに過ぎないのはわかってるけど、確かに無理に奥へと押し進むよりはマシだとは思った。内側からと外側からでは感じ方がまた違うのか、先ほどよりは悪さを感じなかった。それでも、おざなり程度にしかやってないつもりだったけど、目の前に嵐山がいるからこそ、彼の指の動きを少し思い出して…
「大分、指が入ったな」
ただ漠然と上下に動かしているだけのつもりだったが、いつの間にか快楽を求めて中へ中へと着実に推し進んでいたらしく、もう中指の根元付近まで埋まりつつあった。
「やっ、……うそ…」
その指摘が信じられなくて、否定する声ばかりがこぼれる。自分がこれをやったのかと。口では、頭では、だめだだめだと言っていても、その先を求めて勝手に本能が連動してしまっていた。
嵐山の目の前なのに、はしたない。これじゃあまるで、いつもやってる一人寂しい自慰ではないかと、かっと熱くなる。夜泣きする身体を慰める行為は、いくら手荒くさわってもどこか物足りなく疼いてたまらなかった。それでも嵐山の事を考えながらすることで幾ばくか身体を繋げた夜を思い出して、余計に切なく。一人でする時に、胸を触るようになったのだって立派に嵐山のせいだ。それまで何も感じてなかった器官がどんどんと開発される。きっといつか嵐山なしでは生きられない身体になる。それを迅自身も望んでいるのだから、もういい。
「どこか、いいトコない?」
「駄目っ…、わかんない。やだっ、これ… どうしよう。辛いっ…」
目尻に薄らと涙が浮かびながらも止まらずに震える。いうことをきかない身体に、どこまでも尻込みが収まらない。いくら指が届いても、そんな簡単に慣れない。迅では快感を全ては拾い上げられなくて、それなのに中途半端に浮かされた熱が何度もやって来て、自然に下っ腹に力が入る未知の感覚だった。
「少し性急過ぎた…な。迅、もういいから。指抜いて」
優しく迅の頭を撫でながら、終了を促された。
「………出来ない」
あまりの羞恥に自分でも耳が熱くなりすぎているのが理解できるくらいだったが、どうにもならなくてそう言うしかなかった。
「え?」
「さっきから、抜こうとしてるんだけど………抜けない。動かせない。どうしよう…」
迅が意識せずに進めてしまった指は、奥でみっしりと肉壁に癒着していた。一度入れたのだから出せるだろうと通常ならば思うのだが、じゃあ改めてと自覚するとどうにも、進むことも戻ることも出来なかった。変な動かし方でしたから、指がそのままの形で固まったかのようなだった。余計に不安が煽られて、あまりの事態に硬直した。
「っと、ちょっと触るぞ」
慣れた手つきで再び迫った嵐山が、迅の右手首を掴もうとした。
「あ、駄目。それ…」
添えられた手からしびれるように感覚が流れて、びくりと中の指が動いた。嵐山は手首ごと引き抜こうとしてくれたんだろうけど、今の迅にはなんとも逆効果だった。振動がダイレクトに中へと伝わって不可を感じる。
「直接触らないと…無理か」
少し考えた嵐山は、最初に迅の指を中へ導いたときのように両手でぐっと尻たぶを左右へと軽く割り開いた。角度的には直接見えないものの、それでも自分が飲み込んでいる中指の様子が嵐山の前に赤裸々に露わになったのだろう。
そうして尻の間に落ちたシーツに染み込み終わっていないローションの水たまりをいくつかすくいあげて、自身の中指にまとわりつかせた嵐山が、中へ入っている迅の指の横の隙間からぐいっと入って来た。
「…な、に………、するの?……ふ、ぇ………無理、」
「大丈夫。俺の指ならいつも入れてるし」
こうして二本目に入ることになったのは嵐山の指ということになったわけだが、先ほど迅が入れた時ほど顕著ではなくそれなりに強引にこちらの指に沿って中へと進んでくる。ぐいぐいと中の粘膜を押しつぶすように容赦ないけど、それはいつもやっているからと程度がわかっているからか、やや逼迫して入って来る。迅の体内で二人の中指が遭遇する。鉢会う。
「、これ……じゃ、…よけいに…抜け…ないっ…」
「俺が中、開くから」
狭まった空間がより迅の指を締め付けてきて、事態が悪化しているとしか思えなくて泣き言を口にするが、嵐山はもっと先へと進もうとしている。そうしていつの間にか、ぐっぽりと嵐山の指が付け根まで埋め込まれた。迅はあれだけ泣いて苦労したというのに、そんなあっさり… いつも嵐山の指を迎える奥が、ようやく来たと歓迎しているみたいだった。
そうしてもちろんのようにそのまま嵐山の指はじっとしているけがなく、くにくにと中で押し開くようにじっくりと動かされる。その度に、端へと追いやられる迅の指先の圧迫が増すのだ。じんじんと疼くことはわかったけど、嵐山は中にゆとりを持たせるために広げようとしているとわかっているから、何とか我慢していた。それなのに。
「っあ、!……そこっ」
「ほらっ、ここが迅の感じるトコ。わかる?覚えて」
ぐるりと中で周回されるように指を動かされ、迅の弱いところへ堅実に促される。いつの間にか迅の指の腹に当たるように移動さられて、一緒に無理やり押される。自分の力だけではない他意が含まれたアンバランスに凸凹な快感が登りあがる。
「ふ、っ、あ、…んっ!もっ、…やめっ………」
何度も緩急をつけてくいくい干渉されると、途端に卑猥にとろける。息の絶え間に反動のように出る嘆声。中も、きゅうっと収縮して、自分と嵐山の指を同時に締め付けるのだった。
「俺は指動かしてないんだけどな」
いつのまにか嵐山の催促は止まっていて、本当に迅に添えるだけになっていた。勝手に良いトコへと探るように動いているのは迅だけで…じくりじくりと痛む。嵐山に散々教えこまされた場所めがけて、自分の指が自暴自棄に動いてしまう。乱れる。ずりずりと腰も使って、淫らに擦り付ける。
でも、それだけじゃイケない。迅は、まだ後ろだけでどうにかなるほど溺れ切ってはいないから。もどかしくて、嵐山にも動いて欲しくて、でも………次の瞬間。ちゅぱっと淫乱に音を立てて、するりと求めていた指を抜かれた。
「…は、…んっ、……ど、して?」
既にかき回して中に連動するように、入り口が少し開ききっていた。共に引き抜かれたわけではなかったが、ぐちゃぐちゃに入っていた迅の中指も一緒に漏れ出たローションの流れに沿うように外へと出て、ぱたりとようやくシーツの上に落ちた。
「すまない。迅を手伝う余裕が無くなったんだ」
迅の痴態を見ての限界を訴えられた。ああ、これが本当の意味で望んでいた―――ものだ。
嵐山が、自身の服を手早く脱ぎ始める。それなのに迅は、早く早くと思ってしまう。くすぶっている身体がそれを内側からたまらなく訴えているから。
そうしてようやく、ぴたりと身体を押し付けて優しく抱きしめられる。迅だってずっと嵐山に抱きつきたいと思ってたから、身を寄せてもっとその感覚を味わう。嵐山が迅を抱きしめるのはいつものことだけど、この癖もしかしたらこちらにもうつったのかもと思ってしまう。向こうもそう思ってるように、こちらもどこまでも抱きごごちがいいのだから。
それでも煽られた身体ではそれで満足できるわけもなく、少しもぞもぞと動く物がある。そうも余裕はなかった。嵐山もそれを感じ取ったのか、迅の頭の向こうにあるゴムに手を伸ばそうとするのが見えて、留めるようにその手を出し軽く掴んだ。
「迅?」
「いい、しなくて」
ふるふると頭を弱々しく振ると、横髪の一房がベッドにぱさっと落ちる。
「けど、今日は本当に余裕がないから、中に出してしまうかもしれない。家族みんないるからうちの風呂じゃ、俺が迅に後処理するの難しいし」
「大丈夫…さっき後ろのやり方おしえてもらったから、自分でどうにかするから、おねがい…」
躊躇う言葉を入れる嵐山を精一杯見つめて、訴える。いつも事後処理を心配して大抵ゴムをつけているが、今日はそんな気分じゃない。どうしても一番近くに嵐山を感じたかった。
「本当はお願いするのは俺の方なんだけど な」
「ぁ、ん…」
横に転がっていた状態から真正面を向かされて、太ももの裏筋をすうっと撫でられて軽く持ち上げられた。体勢の入れ替わりに小さく声を出して、次を期待して。そうしてついに待ち望んでいた、嵐山の完勃ちした性器をじゅくりと宛がわれるのだ。さっきたくさんかき回した中へと続く入り口に、直に触れる。ヒドく熱くて硬くて太くて立派な嵐山の性器が、どこまでも迅を翻弄しようと今外で待ち兼ねているのだ。それだけでずくりとお腹の奥が疼いて、たまらない。
シーツの上で滑って勝手に迅が後ろへ行かないように、迅も少しも腕を突っ張って用意する。嵐山の全て受け入れたい。それこそ一ミリも余すことなく。彼がもたらしてくれるそれを、どうしても欲しくて、そうするしかなのだ。
外から中をそれこそひたりと馴染ませるように、何度か性器でキスを施されるように当てられて入口の具合を確かめられる。もうさっき散々解かされたのだから、そんなのいらないのに。今すぐに早く飲み込みたい。さっき自分の指一本でもだらしなく怖がってたのに、遙かに凶悪なこれの方を求めるっておかしな話だとは思っているけど、ぐずつく身体ではもう何もできないのだから、逃げられない。セックスに溺れるなんて子どもじみたことを今更食らうなんて知らなかった。じりじりと堕ちていくのがわかっていても、ただこれから先にもたらされるとのの事で頭がいっぱいになるのだ。それが、後でひんひんと泣くことになっても、もうその理性は焼き切れているのだから。
届かないもどかしさに、癒着している腰が勝手に嵐山の性器めがけて渦めく。じくじくと疼いて痛いんだ。だから、後先考えずに今の迅だけを見て欲しい。
「きて…嵐山のちょうだい?」
「迅、やらしいな…」
普段の余裕なんてあっけなく吹き飛んでしまうから、これだけはと、ひたむきに誘う。そんな迅相手に嵐山は、不敵に笑ったかのように見えた。
軽く腰を揺さぶられてから、ちゅぷりと先端が押し入る。めいいっぱい中を暴く為にだ。
今日は迅が中途半端に自分の指で煽ってしまったので、確かに中の用意が準備万端というわけではなかった。普段は、もっと丹念に嵐山の指で中を解されて、それは迅が痺れを切らしてしまうくらいだった。いつも大切に大切にとされているのはわかる。でもこうやって性急に乱雑に扱われるのだって嫌いじゃない。だから、早く繋がりたくて仕方なかった。
待ちかねて荒くなってしまった熱い息を何度か吐いて、嵐山の腰の動きに合わせる。ずっっ、ずっと、進もうとする角度を定めるかのように、幾ばくか飲み込んだところで先端がいったん止まる。やっぱりいつもよりは中が開けてなく狭いから、後ずさり気味の迅の腰をがっちりベッドに固定されて、少しずつ侵食されていくその感覚がたまらない。
次第に大丈夫だからと、迅の身体の中から誘ってくる。にゅるにゅると、気持ちよく迅を解放するように訪れてくれた。ぎっちりと性器が入ってくると、とんでもない圧迫なことに代わりはないけど、その分満たされている感が激しい。ずちゅんっと軽い勢いが加わると、迅の涙が一つ生理現象的にぽろりと目の端からこぼれ落ち、ようやくすべての楔が収まり切った。
どくどくと嵐山の性器が血管が脈打っているのがわかる。指とは圧倒的に違う質量を嫌というほどに思い知らされて、それくらいぴったりと良い案配で具合よくハマっているのだ。
「…大丈夫か?」
その大きい手が迅の額に伸びて来てくれて、乱れて汗に濡れた前髪の一部を軽く払ってくれる。嵐山の前髪も同じように少し落ちて目線をいくばくか遮っているというのに、迅ばっかり…だから嬉しい。
「ん…へい、き。だから…」
早く動いて?と、その圧倒的な存在感相手に身体の奥が勝手に誘う。びくんっと内側が躍動し、そのまま後ろはきゅんっと嵐山のおっきくなった性器を締め付ける。
迅の呼吸がある程度落ち着いた頃に、嵐山がゆっくりと腰を引く。普段より多少強引に挿入された性器に釣られるように中の肉が引っ張られたが、ぐいっと。そしてまた押し帰る。嵐山の性器が縁まで抜けて奥めがけて、舞い戻る。腰を引かれると僅かな喪失感が毎回やってきて、でも次にやってくる腰くだけを期待して、何度でも繰り返しだ。嵐山に導いてもらわないと、もう迅はダメだなのだ。ただ快感を受け入れるためにと、どこまでもぐずぐずになってしまう。そして、腹の中に熱すぎる興奮は溜まっているのに簡単には吐き出せないジレンマに狂いそうで。
「ほらここ、さっき指で弄ってたとこ、わかる?」
指し示す声を混じらせながら、嵐山が同じ場所ばかり、ぐいっと執拗に抉ってくる。それこそ、ねちっこいほどに。それが、先ほどの自慰を嫌でも思い出させられて、泣きそうになる。
それなのに迅に意識させるために、片手を外から下腹部に持っていかれて、薄い皮膚の上から同時に押される。ずくんと重く負荷がかかる。中からと外からの刺激に素直に反応する身体に、迅は夢中になってよがる。
「ひ、…今の…きも、ち…いいっ、ん、ん、んっ、あんっ!」
だらしくなく口の端から喘ぐだけの詰まった声ばかりを生産する。嵐山の動くリズムに準じるように、迅の口元から甲高い嘆声ばかりが漏れる。鳴られている。
そんな迅の反応に快くして、ぱちゅんっとリバウンドの反り返して戻って来る。知ってるその悦びをまた、何度も何度も絶え間なく与えてくれるから、嫌でもしっかり感じてしまう。あっという間にこうなってしまった。本来持っている迅のいやらしさを余すことなく暴かれたのだ。そういう性癖にされた。
「、すまない。少し…声を………」
ピストン感覚を多少緩めた嵐山が、前かがみになりながらそっと迅の耳元で呟く。
そうだ…ここは嵐山の部屋だった。二階で…真下は誰もいないリビングだから多少ベッドが軋む音が響いても差し支えはないかもしれないが、隣はきちんと双子の部屋だ。互いにベッドの位置は対局にあるとはいえ、こんな静かすぎる夜にいくら寝つきがいいとはいえ、無暗に喘げば起きてしまうかもしれない。
虚ろになりつつあった理性がおぼろげに戻って来て、ぽたりとシーツに落ちていた右手で迅はおざなりに口元を覆う。だが、それも弱々しいもので力が強くは入らずぴったりとは合わされない指の隙間から、高い音だけがピンポイントに抜け出る。
「……ふ、ぁ… んっ」
「ほら、手貸して」
そんなうわごとのように甲高い声を重ねる迅に対して、丁寧に折り重ねるようにと口元を隠す手を汲み取って指を折り目正しく一つ一つ全部しっとりと絡めてくれる。そのまま開いたもう片方の手で肩を押されて、抱きつぶされる。
そして迅の口を塞ぐように、柔らかいキス施してくれるのだ。零れる吐息を救い上げられて、開けっ放しとなりつつあった唇の縁にあった唾液を絡め取られ、柔らかい頬の内側の感触を堪能される。
互いの舌はとても熱くて、それなのに身体も重なっていて、外が雪だなんてとても思えないくらいの熱気に包まれてしまって、息苦しいばかりだ。最初に懸念された寒さなんてもはやとうの昔に過ぎ去ってしまった過去となった。張り詰めた空気の中で、二人だけが熱い。
身体重なったことで二人の腹筋に挟まれることになった迅の性器がまた、小さくとぷりっと精を吐き出す。位置的に不条理に擦られて、もう何度も軽い射精を繰り返し続けていて、とめどもなく漏れ出でるようになって自制がきかない。あられもない醜態を晒していることはわかったが、これは頭が馬鹿になっても許される行為だからと、感じきってることを示している。
「あ…らし、やま………、すきっ」
ぐらぐらと容赦なく頭が揺らいでも、これだけはやっぱりどうしても伝えたくて、絶え間絶え間に伝える。
どろどろにキスで甘やかされるのも、刻み込まれ続けている中も、すべて。愛しさが止まらない。
「…俺も、…迅が好きで好きで、仕方がないんだ」
嵐山も、狭い体勢の中で腰をずんっと、よじってさらに迅を求めてきた。互いに、止められるはずもない。
二人の距離が密着して縮まったことで、より奥まった場所まで嵐山の性器が侵入される。それでも先ほどよりは大きくストロークできるわけでもなかったが、逆に迅の身体が小さく跳ねるところばかりを攻められる。小刻みに深いところだけをずっとごりごりと弄られるのだ。それがあまりに良すぎて、快楽を決して逃しはしないとひきつるかのようにびくびくと断りなく内側が動く。その自分が起こしている緊縮にさえ、ぞくぞくと発熱が頭の中まで駆け抜ける。
「迅のなか、すごい吸い付いてる…」
「い、…ゆわないでっ…………」
「奥…誘ってる?もっと深く入れていいよな。ここをこすると、いつも可愛い声だし」
「…ちがっ、かってに…」
羞恥に朱がさし、かあっと血気が膨れ上がる。多彩な熱情の渦にどこまでも巻き込まれてしまう。駄目だっ、全部感じて…嵐山に身も心も全て壊される感覚、それが絶妙すぎて迅の人間としての軸がぶれ続ける。だから、否定する言葉とは裏腹に、もっと占領されたくてたまらなくて、うなるのだ。
激しい律動と共に、ない筈の迅の胸もふよふよと揺れるので、いつの間にか嵐山にこねくり回されている。赤く熟れった果実が不規律に弄られて、とろとろに身体ががたつく。
「はっ、そんな、いっきに…はげ、しいのは…ダメ、だからっ!」
「なんでダメ?」
限界まで貫通されそうなほど奥深くまで与えられると、引き絞ってすべてを受け入れる。同じ迅の弱い場所ばかり狙われるのに、それでもぐいぐいと角度をつけてまた違う感性を迅に与えてくるから、治まらなくて救いもない。もはや、ひくつくことしか出来なくなった器官を、こつんこつんと突かれる容赦ない攻めで、どこまでも流される。それでも快感だけは的確に拾い上げるこの致仕方ない体躯を、ずるずると持て余す。
しつこいくらい重点的に擦られると、その度にどこかに意識を持って行かれそうになった。それでもやめないでと、身体のあちこちが縋り泣く。迅も嵐山を追いかけようとひくりとうごめいて、どうしようもなく感じてしまう。それが卑猥に誘っているのはわかっても、もう止められないのだ。どうにかなってしまう、どうにかなってしまえという、瀬戸際でぐらぐらと迅の意識はふらついた。自意識が喪失しそうになっても、もはや厭わなかった。
「っ、ぁ、あ…、…あっ!…あら、し…やま… たすけ…て、っ」
名前を呼びたいのに結局はわめき声のようになってしまうように、嵐山の母音ばかり口からついて出る。嵐山に求められて、容赦なく犯されるという事態が何よりも迅の感情を高ぶらせるのだ。
きっと嵐山も、もはや止められないのだろう。返事なく、ただ迅に重なったキスをもっとより深く深く、どこまでも。
ぎっ、ぎっ、とベッドの軋む音さえ、雪の音で全てをかき消されろと、互いの動きを寸分の狂いもなく合わせた。とうにぐっぽりと受け入れているというのに、より高見を目指すために。骨がぶつかるほどに。
「っ、ぃっ…ひゃ…んっ…!…そ、こ……ばっか。…んっ、だめ………! こえ、がまん…できっ、ないっ!!」
「っ!…俺もっ………くっ!!!」
より一段と、最奥を手加減なく上にしゃくられた瞬間に、迅の体内を満たし続ける熱い射精が嵐山によってなされた。
一気に狭い迅の胎内を包み込ように、びゅるびゅると注がれ続ける。射精中もぐっぐっと何度か最深部に性器をなすりつけられて、がくがくと無秩序に迅の伸びたつま先まで快楽が踊り、突っ張られた。それを息さえ吐くのももったいなく思って、残さず甘受した。
視界の奥でちかちかと星が散り…へたりと身体の力が抜けても、迅は留めのない透明な精をだらだらと流し続けていた。





「迅、大丈夫か?すまない、無理をさせたな」
しばらくしてようやく瞳の焦点が戻ってくると、とんとんこちらの反応を確かめるかのように楽な体勢にされてベッドに倒してくれた。激しい動きに乱れた迅の髪を、撫でるように丁重にすいてくれる。
また悩ましい顔での気遣いだ。いつものこととはいえ、身体を繋げた後は過剰さが増す。確かに受け入れる側のこちらに負担が多いとはいえ、いっぱい欲しがったのも迅だしおあいこだと思う。
「ん…もう平気だって。相変わらず、嵐山は心配性だよね。おれの前くらいは、過保護なお兄ちゃんモード発動しなくてもいいのに」
「確かに、本当に兄弟だったら…こんなこと出来ない、な」
少し苦笑しながらも、ふっとフレンチキスを一つ入れてくれる。この心地よさが何よりも愛おしい。
「そりゃ、そうだ。でも…クリスマスって本当は家族で過ごす日らしいからね。だからおれも混ぜてもらって本当に楽しかったよ。ありがとう」
「来年は、おれもきちんと参加できるように努力するよ」
「そうだね。来年は双子に堂々とプレゼントを渡す…そんな嵐山の未来、もう視えてるよ」
一つ微笑みながら、迅は幾多も見える未来の一つを示唆する。その隣にはもちろん迅も存在していて、来年もきっと楽しい。

さあ、明日に備えて少し寝ないと。
振りつもった雪に外はすっかり銀世界で、愛犬と共にはしゃぎ回る双子に加わる嵐山と迅の明日の光景も全てが…輝かしく思えた。





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