attention!
嵐迅で、弟妹双子を追いかけて、嵐山さんと迅さんが冬コミに行くというトンデモ話。 弟妹双子がオタクという酷い捏造があるので、どんな話でも大丈夫という方のみ閲覧をお願いします。
もうすぐ冬コミだ!→エア新刊作りたい→折角だから有り得ない現代パラレルにしよう→冬コミに行かせよう→どうしてこうなった…という流れで出来た副産物。









「迅、相談があるんだが…」
「なに。また、双子の事?」

嵐山准の人生は順風満帆である。それなりに恵まれた容姿、生活環境、家族…と、きっとネイバーが侵攻なんてしてくる三門市に生まれてこなければもっと良かったのかもしれないが、嵐山はそういった負の要素でさえ正へと変えることが出来る人間だった。もちろん周囲に流されるばかりではなく、必要な努力を怠ったこともない。それを踏まえての嵐山の人生はとても満たされている…はずだった。そう…ただ一点を除くにおいては。
神様はそう簡単に完璧な人間など降臨させるわけもなく、嵐山にはたった一つの弱点が存在していた。そう…それなりに付き合いの長い嵐山が迅に相談することなんて毎度コレしかないのだ。だから慣れたものとはいえ、さすがに今回ばかりは予想外の連続だった。
「あ、ちょっと待った。今、何か変なの見えた」
玉狛支部の開かれたリビングで、まるでソファーの上で正座しそうな勢いで深刻な顔をして張り詰める嵐山を見た瞬間、迅に到来した未来視はそれこそ鮮明ではなかったものの、うっと頭の中を混乱させるには十分な内容だった。思わず顔を下へと背けて、右手で制止の形を示した。そう…明確な内容を読み取ったわけではないが、それでも一瞬垣間見れたモノは十分に妙な光景だった。
「やっぱり、佐補と副に何かあるんだろうか。どうしよう…迅!」
リビングに二人しかいないことを良いことにか、規則正しい姿勢でソファーに座っていた嵐山はがばりと身を乗り出して容赦なく騒ぎ立てた。軽くわめいている。
「いや、おれもまだ断片しか視てない…というか、ともかく。状況が掴めないから、一応順序だてて説明してくれるかな」
未来視というものは、他人が思うほど便利にあれこれ知れるというわけではない。ピンポイントに見たい未来があるならある程度は的を絞らないと厳しい。しかもどうやら嵐山が迅へと相談することで、その未来はうねっているようで余計に色々と視えて面倒くさくあった。
「実は、年末に佐補と副が東京に行くと言い出したんだ」
すっと一つ息を吸ってから、ようやく嵐山は本題を切り出した。少しは冷静になったようで、神妙な面持ちで語り始める。そんなに深刻な内容ではないとは思うが、毎回。
「東京…か。まあ中学生くらいになれば、都会に興味も沸くよね。冬休みだし、いいんじゃないかな」
嵐山の心配事項は何ともわかりやすいものだった。可愛い可愛い双子が二人きりで遠出をするとなれば、気に病むのは容易に知れたものだ。確かに三門市から東京まではそれなりに遠いが、別に冬休みに行くこと事態は不思議なことではない。結局はいつも通り、嵐山が物凄く過保護なだけだという発言となった。
「でもあんな人がいっぱいいるところに…佐補と副は可愛いから、攫われたりしないだろうか………」
そんな簡単に誘拐事件は起きないと迅は心の中で速攻で突っ込んだが、本人がマジなので何とか喉元で抑える。日本は平和ボケしている国ではあったが、そこまで物騒ではないのでそうやすやすと事件に巻き込まれたりはしない。確かに双子は兄に似て整った顔立ちと性格はしているが、下手するとこの兄とは違って意味でしっかり者だ。嵐山がいつも口うるさく言うから、確実に反面教師となっている。
「一人ならともかく二人で行動するんでしょ?大丈夫だよ。おれのサイドエフェクトもそう言ってる」
ここで極めつけの太鼓判の台詞を伝えた。迅の能力を知っている人間には、極めて有用な未来への啓示を、だ。嵐山を諫めるために出した馴染みの台詞ではあったが、その事に関しては決して偽りではない。兄がどう動こうが、全く二人に身の危険などないのだから。
「そう…か。迅が言うなら、大丈夫なんだろうな」
嵐山からすると迅の言葉は励ましにも聞こえたのか、少しだけ明るい顔を見せるが、まだ不安は残る様子だ。嵐山は迅のことを信頼している。それは疑っていないとはいえ、やはり兄として心配が払しょくされることはきっとないのだろう。
「で、さ。なんで、わざわざついて行っちゃうわけ?」
もうっ、はっきりくっきりと明確に視えまくっているその未来に先に突っ込んでおく。ここでいくら迅が説得して押し問答しようが、もうここに来る前から当日の新幹線のチケットまで準備してある嵐山を止めることは出来ない。ボーダーで忙しいというのに貴重な休みをソコに使うとは、さすが自他ともに認めるブラコンシスコン。そもそも嵐山の未来を視て双子の動向が確認出来るって時点でお察し下さい…なのだが。身内じゃなかったら…というか普段爽やかで通っている嵐山じゃなかったら…完全にストーカーである。
「そう…か。やっぱり俺はついて行ってしまうのか。駄目なんだ。どうしても心配でっ」
まさかの無意識かよ。制止出来ない自分が不甲斐ないというように、嵐山は苦悩する言葉を出す。自覚はあるけど、やはり無理なのだろう。嵐山准は誰にも止められない。本人でさえ止められない。もしかして、さながらはじめてのおつかい東京Verとでもいった感じを嵐山の深層意識は捉えているのだろうか。
「もうどうしようもないなら、堂々と三人で行きなよ」
半分呆れた声を出して、迅は提案する。きっと嵐山が引率の先生みたいになるだろうけど…絶対。それが一番嵐山にとって幸せな構図に思えた。
「それはもちろん最初に提案した。でも断られてしまったんだ。兄ちゃんは邪魔だって… そこまで言われて、ついて行く事がバレたらきっと嫌われる」
どうやらその時の光景を思い出したのか、嵐山はわかりやすく、しゅん…としおらしくなった。馴染みの黒い羽もぺたりと沈んだように見えるほどに。
「おれが同じ立場でも、忙しい兄にはわざわざ着いて来て欲しくないって気持ちはわかるよ。
で…双子は東京のドコ行きたいの?なんか、それが未来視でもおかしくて」
ここまでの一連は嵐山とのやりとりは何も未来で視るまでもなく予想通りだったが、どうにもこうにも双子がチョロチョロと移動している場所が不可解だった。迅にはあまり興味がない場所のせいか、どうにも意味がわからない情景が過ぎる。
「どうやらコミックマーケットという場所に行く…らしい。それも二人が隠すから、何とか両親から又聞きして」
そこまで明確にその場所の名前を聞いて、うっと迅は少しかがんだ。それは嵐山の未来が少し揺れ動いたのと、同時に迅が知っている知識の一つがどこかでリンクしたからだった。
「どうした!迅。やっぱり佐補と副に身に何かあるのか!?」
「いや…むしろ嵐山の身の方が危険というか。………ねえそのイベントの事、嵐山は何だか本当にわかってる?」
思わず震える声で、念押しの言葉を加える。まだ迅自身も頭の整理がうまくついていない。
「ああ。インターネットで少し調べたら、アニメ?とか漫画?とかのイベントらしいな。さすが東京は色々な催しをやってて感心する」
軽い物言いだった。あ、もしかして企業や出版社がやる催しか何かと勘違いしていないかと思った。だが、知らぬが仏という言葉もあるし、説明するのも難しい。そもそも迅とてそのイベントに対してはざっくばらんな知識しかない。それも自分で調べたわけではなく、他人の未来視の中で垣間見たことがあるという程度だ。世の中には色々な趣味やら性癖やらが存在していることを迅はよくよく知っている。他人の頭の中を覗き視ているような能力でもあるので、それに関して基本的に迅は公言はしないし、わりとどんなものでも慣れているつもりだ。つまり、あまり興味がない分野の趣味は、ああそんなものもあるんだな程度の認識でしかない。だが、このイベントに関して多少でも頭の中を掠める要因があるのは、それが自分たちボーダー隊員にもほんの少し関係があるから…で。
「あーうー ま、間違ってはいないね。確かに。
あのさ。どうしても行くの止められない?嵐山が行くと、もしかしたらとんでもないことになる可能性もあるんだけど」
無理とはわかっているが、それでも一応留める声を出す。ここまで切羽詰まった嵐山からすると、もう東京に行くことは確定事項でどうしようもないとはいえ、忠告はしておかなくてはいけない。
「佐補と副じゃなくて、俺がか?」
「そう。双子は顔バレしてないから平気だけど、そのイベントには嵐山の顔知ってる人間いるんだよね。だから少なくとも変装はしてって」
「わかった。気をつけるよ。三門市の外で変装するなんて不思議な気分だけどな」
こくりと頷いて、素直な声を出された。嵐山とて双子に見つからないために注意をするだろうから、確かに有言実行するだろう…だが、それでも不十分だ。やっぱり。双子を前にすると嵐山は止まらないからな、ホント。
でも、だからと言って大元の双子に東京に行くなとも言えない。簡単な芋ずるが成されるので、それが一番安全だといえ、とても強要できない。だって、わかってしまったのだ。双子がお小遣いを必死に溜めて、東京に行くのを楽しみにしているのを。これは迅とて心打たれる。それを嵐山もわかっているから、心配でもきっと無理には引き止めてはいないのだろう。それでも後を追いかける気満々ではあるが。
そうして、むしろ一番の問題は嵐山本人になってしまった。よりにもよって多分あの日に東京で一番足を踏み入れてはいけないイベントに、どうして。死活問題だった。嵐山本人にその気がなくとも、あの会場にボーダーの顔がプライベートでいるってだけでも大問題だ。事情を知っているというに止められなかった迅がもう存在していて、こんなことバレたら根付さんに何を言われるかわからない。だから―――
「決めた。おれも嵐山について行くよ」
それが一番穏便にすませられると判断して、思い立って直ぐ言った。はらはらと心配して嵐山の未来を覗き見ているよりは、実際に迅が行動して未来をマトモな方向に動かす方が建設的だと思ったのだ。
「本当か?迅が一緒なら頼もしい。いつも迷惑をかけるが、よろしく頼む」
その突飛とも言える提案に、嵐山は案外率直に賛同し、素直に喜ぶ姿を見せる。
そういえば双子絡みの相談から結局こうやって迅が巻き込まれるの、もう両の手の数を越えてはいたが、慣れ過ぎていてもはや今更という関係になっていた。





そうして迅悠一は、生きていくのに必要ない同人知識を手に入れた!

もうっ、ホント。このコミックマーケット、略称冬コミだったか?に対する迅の認識は甘かった。
ちょうど迅や嵐山が双子の年齢の頃には第一次大規模侵攻があったりしたので、いわゆる娯楽的なものにあまり興味がわかなかったせいか、自分はこういうものに疎いだけかと思っていた。今の若い子にはこれが一般的に普通の趣味として持ってたりもしているらしい。そもそも嵐山からその単語を聞いた瞬間、まあ彼が言うように漫画だとかアニメだとか迅たちには縁の少し遠いサブカルチャー程度の知識しかなかった。それでもどこかヤバい未来視ばかり見えたので、忙しすぎる嵐山と違って迅はきちんと情報収集をした。そうでもないと慌てふためく未来が視えたから。それはインターネットだったり他人の未来視だったりと色々だが、知れば知るほど頭を抱えるほど厄介な内容だった。独自の専門用語が多いため、最初はちんぷんかんぷんだったがそれをざっくばらんに知ると、どうにも迅には理解しがたい趣味の世界だった。他人の趣味をああだこうだと言うつもりないが、これはちょっと……… 本当はまるで興味もないのにここに来ている迅にはそんなことを言う資格もないから、黙ってるけど。これで少しでもボーダー隊員かかわっていなければ、スルー出来たのになと後悔が少し。
朝一番の新幹線に乗り東京駅に降りた双子をこっそり追いかけることになった嵐山と迅だったが、まっすぐ向かったイベント会場の広大な駐車場?らしき場所で密集して並ぶこととなる。それはもうたくさんの人と共に。そりゃあ三門市に比べれば東京は人が多いなとはわかっているが、尋常ではなくおしくらまんじゅうでもしている気分になれた。もうすぐ開場時間の十時とはいえ、ほぼ年末である十二月の真冬に外で立ち尽くすには少々厳しい気温。天気はそれなりに良いものの、気温は誤魔化せるものではない。それでも嵐山と迅の位置から五列ほど前に並ぶ双子は若さゆえかずっと楽しそうにおしゃべりをしていて寒さなど微塵もみせていないが、ややテンションの低い迅には少し辛い立ちっぱなしだった。
「迅、大丈夫か?寒くないか?」
毎度のことながら、こうやって付き合わせてしまったこと、本当に申し訳なく思っている嵐山は、何度もそう迅に問いかける。さすが双子が近く…いや、五列先だけど…それでも見える範囲にいるからこそ、シスコンブラコンモードも安心のせいか緩和されており、他人を心配するいつもの嵐山准がそこにいる。
「厚着してきたから、寒くはない。てか、嵐山の方が寒いでしょ。そこ風当たってるし」
埋立地に出来た会場のせいか、入場者の待機場所の横は容赦のない海である。東京湾の内海であるから荒々しく波が立つというわけではないが、障害物もなくひたすらこちらに吹き抜けている。さりげなく風下に立ち、迅にその寒さが届かないようにとガードする嵐山は男前であった。
「でも耳が赤くなってる。ほらっ、俺のマフラー使って」
そう言いながら、さらっと暖色系のマフラーをこちらの首に巻いてくるからやっぱり憎い男だ。迅とて、十分寒さ対策はしたつもりだったが、ボーダーだとあまり外で生身でいることがないから、そういう面では広報している嵐山の方が一枚上手だということだろうか。
それにしても寒いが、来るのが冬でよかった。嵐山は何を着てもイケメンオーラはそう簡単には隠せないが、それでも変装と言う観点からすると太いフレームのメガネやらニット帽をしていて着込みまくっていても、この場なら違和感はゼロである。ふと見渡せば、それくらい周囲も準備万端だ。もこもこだ。これなら…変に目立たなければ嵐山が身バレすることはないだろう。
「ん、ありがと」
「さっき自販機を見かけたから、何か温かいものを買ってこようか?」
「いや、多分全部売り切れてるし…ここで男性用トイレ探すのも大変だから、平気」
「そうか。何かあったら言ってくれよ」
こんなちょっとギラギラとした購買意欲を隠しきれていない集団に囲まれていても、嵐山は変わらずの爽やかさだった。眩しい。いや、この場にいる人間全員がそういうものを買いに…多分来ているのだろうけど。見た目だけじゃ、わかんないし。混乱するから他人の未来を視たいとも思わないし。ただ、だいたいみんなイベント会場での買い物に命をかけているから嵐山に気が付いていないのは大変ありがたい。

そうしてようやく入場時間の十時となったわけだが、パチパチと拍手が流れた後でもしばらく列は動かなかった。そんなに早く会場に着いたわけではないから、先頭集団が入場するだけでも相当な時間がかかるのだろう。根気よくみんな待っているので、迅もそれに習う。
ようやく本当に意味で会場内に足を踏み入れたのはお昼近くになっていた。建物の中なら温かいかと思いきや、天井は異様に高いしシャッターは容赦なく開いているし、あんまり気温は外とは変わらなかったが、それでもこの場を纏う熱気は格段に上がっていた。走らないで下さいというスタッフとおぼしきコスプレをした人たちの声を聞いてか、大体の人は早足で進んでいる。双子も、宝の地図片手に案内柱を目印にずんずん進む。もちろん嵐山と迅もその後を追うことになったのだが。
「ストップ、嵐山」
まるで大型犬へと言うように、迅は制止の声をかけた。
「どうしてだ?佐補と副を見失ってしまうぞ」
一応迅の言葉を受けて足を止めたものの、いまだに嵐山は双子を目で追っていた。嵐山なら…双子感知センサー付いているからもしかしたら見失うことはないのかもしれないが、もっと重要なことが迅にはあるのだから。
「大丈夫。二人はこの周辺で買い物するから。きっと目に届く範囲くらいにはいる。あの机が並んでいる中に入るとバレる可能性あがるし、何よりここ女性ばっかりだから男二人で入ったら目立つ」
「そう…だな。じゃあこのあたりで」
納得して一つ頷いた嵐山は、迅に習う。本当は立ち尽くしてよい場所ではなかったが、二人はフロア壁にそって背を置いたのだ。嵐山を制止した表向きの理由はもちろん先ほど言った事項もあったのだが、それ以上にあまり詳しくこの情景を視界にいれるのはヤバいと迅が判断したのだ。この今双子がいるエリアが会場内で一番ヤバい。これが、最初に未来視で視た暗雲立ち込めるモノたち。
そう…自分たちボーダー隊員をモデルにした同人誌が陳列されているエリアだった―――
迅とて世間一般にそう疎いというわけではないから、まあ漫画だとかアニメだとかのいわゆる趣味の本というものがあるんだなーという程度の認識はあった。だが、さすがに実在の人物をモデルにする本があるとは知らなかった。そもそもいくら三門市ではボーダーは有名とはいえ、この日本中の人たちが一同に集まる場で何で需要があるんだ?と思った。広報している嵐山隊はともかくとしても、他の隊員は名前くらいしか広報サイトに載っていないわけだし。そんな名前とかだけで身バレしてないだろうと。その疑問を解決してくれたのが、身内にいた。そうだ、三門市民だ。それこそボーダー隊員と同じ高校に通っているだとか、ご近所さんだとか、野良隊員だとか、元隊員だとか、ホント知らないところでたくさん情報が収集されていたのだ。守秘義務はどうした?と思ったが、いちいち記憶操作するわけにもいかないし、確かに限界はあるだろう。うん。だからといってボーダーに今ところは直接迷惑かけてるわけではないからと、根付さんはきっと知ってるけど撲滅しようとかなんてしない。彼女たちもボーダーを支援してくれる人間なのだから…と。そんなわけで、ボーダーはローカルヒーロー扱いされていてそれなりに人気らしい。当人からすれば、嬉しいような悲しいような。
「迅。今、副が買ったのって同人誌っていう物か?」
「えっ、…あの。嵐山も知ってるの?」
どこまで知ってるんだと、思わずぎょっとしてしまう。最初にコミックマーケットについて調べたと言っていたから、まあ同人誌即売会っていう認識くらいはぼんやり持っているとは思うが。
ちなみに今、副くんが購入したのは嵐山隊のギャグ本らしきものだ。その内容のマトモさに、ほっと肩を撫でおろす。
「少しだけ、どな。前に俺宛に届いたファンレター一式の中に入っていたんだ。その後、根付さんが検疫し忘れたと言って慌てて没収されてしまったんだが」
「そうなんだ…」
誰だよ。よりにもよってボーダーに送ってしまったのは。いや、それはさすがに健全な内容だったと固く信じたい。
「ここに並んでいる本もそうだが、みんな絵が上手いんだな。よく特徴を捉えて描かれてる。ほらっ、あそこの賢の表情なんて美大生が描いたみたいだ」
そう言いながら、端っこのスペースに張られたでっかいポスターを嵐山は指差した。間違いなく素直に喜んでいる。
う、うん。確かに上手いね。ただ、その絵の中の佐鳥の顔がほんのりと赤くついでに肌色が多くなければね。なんでかなー 確かにボーダーは男が多いよ。うん。だけどさーどうして男同士の友情?がああなるんだろう。この場にいても未だに理解出来ない。しかし、ホントこの位置はジャストだった。いくら嵐山の視力が良いとはいえ、対角線エリアに存在する女性ボーダー隊員のあられもない破廉恥ポスターを見たら暴走するに決まってる。やはりここに頑としても留めておかなくては。
「三門市の外でもこんなにボーダーのファンが多いなんて、感動だな」
あいっかわらずどこまでも前向きな嵐山は明るく、その場を観察してじーんと頷いている。
ファン?いや、確かにファンであることに違いないけど、ちょっと純粋とは違うような。彼女たちは直接ボーダーに対して有害なことしているわけではないから、いいけどさ。やっぱりどうもズレてるな。
そうこう悲嘆にくれていたらあっという間に時間は過ぎ、分担して買い物していたらしい佐補ちゃんが戻って来て副くんと合流したようだ。両手にはいっぱいの薄い本がほくほくのご様子。その内容から考えると複雑な気持ちだ、正直。迅からすると苦笑するのが精いっぱい。
「あ、迅。二人が移動するみたいだ」
「え…あれ、何でだ。こっち帰り道じゃないのに…」
「トイレに行くんじゃないか?さっきまですっごく並んでいたし」
男性用トイレが消えうせてしまったようだったが、女性用トイレに切り替わったそこを目指して双子は進むので、もちろんが如く嵐山も一目散に後を追い始める。
「ちょっ、待って。そっちは、嵐山!」
嵐山があろうことにか、双子を追って島中を突っ切ろうとしている。ヤバい。ヤバい。ヤバい。非常に不味い。
先ほどまで二人が留まっていたのは、オールキャラギャグだとかグッズ販売だとか相当健全なスペースだったが、その先はボーダー隊員が男同士で仲良く?くんずほぐれつしている本が販売しているエリアだ。そんなところを横切るだなんて…と思って、思わず叫んでしまったがそれも不味かった。【嵐山】という名前の単語にスペースに座る女性たちがビクリと反応して、こちらを凝視し始めた。正体がバレるのはもっとヤバいので、顔を伏せて速足で迅も嵐山の後を追う。
「はぁ…はぁ。双子は?」
ようやく人ごみの中を追いついて、先ほどとは対面のシャッターがあるスペースの壁で休憩をかける。眩暈がしそうだ。迅の未来視はそう簡単に制御できるものではないから、この場にいる女性の未来が不純すぎる。いくらどんな下世話方向もある程度見て来たことあるから耐性があるとはいえ、それが自分やら嵐山に向けられている物となると話は別だ。多分、慣れるのは無理だ。
「やっぱり二人ともトイレに行ったみたいだ」
「そう。じゃあ…ここ離れよっか。って!何、見てるの?」
何とか乗り切った…と一安心したところだったが、ふと嵐山が凝視している先にあったモノ。あろうことにかこのエリアで一番ヤバい物を嵐山は見ていた。
「佐補がこのポスターを見ていたんだ。でも、18歳になっていないから買えないって、寂しそうにつぶやいていて」
ああ、佐補ちゃん。完全にアウトだ。
嵐山が見つめていたのは、あろうことにか嵐山と迅がいちゃつきまくっている肌色成分が多い特大ポスターだった。なんでシャッターの前にこんなの張ってあるんだ?と今冷静な突っ込みが出来る状況でもなかったが。迅だってさっきからちらほら視界に入っていたが、わざと見ないようにしていたのにここまで圧倒的な存在感だともう忘れることも出来ない。きっと。
この状況であまり嬉しくないのだが、広報やっている嵐山隊についで迅は一般人にもそれなり有名人らしい。玉狛支部は市民とのふれあいはやっていないとはいえ、どうしても迅はサイドエフェクト的に人を助ける機会が多いし、大学にも通ってないから自由になる時間も多く、外の人間を見なくてはいけないというので、それなりに顔を知れているらしい。ただそれだけだったら他のA級隊員も該当するのだが、問題は嵐山自身にもあった。そう…嵐山は広報でも迅の名前出しすぎなのである。同い年がいくら少ないとはいえ、他の隊員の名前そんなばしばし出すなと、でもこれが嵐山だから仕方ないかと留めていなかった弊害が今、目の前に。自他ともに認めることになった親友ポディションやってるから、ほらっ…腐ったお姉さんにはそう見えるらしい。ホントどこまでもたくましい妄想である。しかも、よりにもよってポスターの右下にはばっちりとR18の文字があるじゃないか。一体どんな内容だか、全く知りたくない。どうせ、そのピンクな表紙以上に中では絡まっているのだろう。詳しく考えたくもないと、茫然とする。
「俺と迅が仲が良いと、みんな喜ぶんだな」
うわっ、前向き。これをみても前向き。もはや迅悠一は、嵐山准という人間が怖くもあるほどだった。
「………そう、…みたいだね」
もはや何か言う気力もなく、それでも一応棒の様に賛同してみたが、その迅の言葉に感情は一切入っていない。
「迅。俺、ちょっと買い物してくるから、佐補と副が戻ってきたら見ていて欲しい」
よしっとまるで決心したように嵐山はこちらに伝えてきた。
「へ?何、買うの?一体」
会場内の自販機もコンビニもホットスナックもどうせ売り切れてるに決まっている状況で、他に嵐山が買うもの…と連想できるのが、今一つ。まさかという悪寒とともに、今更着込んだコートの下の背中に迅は汗をかいた。
「佐補が欲しい本。俺なら18歳以上だから買えるからな。佐補が18歳になったらプレゼントしてあげれば、きっと喜ぶと思うんだ」
明るく―――まるっきりの善意で、嵐山はとんでもない発言をした。
「駄目。駄目駄目駄目駄目、絶対駄目!」
子どもが只をこねるかのように迅は連呼した。だって、嵐山はその本の内容絶対わかっていない。上辺しか見てない。なんなの?あの本の中で、嵐山と迅が仲良くプロレスでもしてると思ってるの?違うよ。確実に。
この場で専門用語に知識のない嵐山が少し羨ましかった。伏字わかってないのかは定かではないが…どうみても、嵐山攻めとか迅受けとか書いてあるのだ。しかも自分が女役…受け入れるほうなのかと、余計に憤死しそうだ。おれが一番恥ずかしい!だから、駄目に決まっている。断固としての否定を迅は強く主張した。
「どうして、駄目なんだ?」
それでも嵐山は、本当に不思議そうに首をかしげるから余計に性質が悪い。まさか、おれとおまえが乳繰り合っている本だなんて言えない。とても言えないし…
しかし、弟妹大好きな嵐山のことだ。きちんと理論的に納得させる理由がなければ、引いてはくれないに違いない。どうしよう…もうすぐ双子だってトイレから戻ってきてしまう。何とか、何とかこの場を。
回らない頭と未来視での最善がぐるぐると迅の頭を旋回する。未知な道はいくつも存在しているが、そのどれもがろくでもないもので。だからこそ、すがるような気持ちで今瞬間に摘み取るとしたら…もうこれしかないと思ったのだ。
「…お、おれが買ってくるよ。ほらっ、嵐山の家じゃ隠しておくのも大変だろ?だから佐補ちゃんが18歳になるまで、おれが預かるからさ」
「そう言われてみると、そうだな。助かるよ。ありがとう。じゃあ、これで買ってきてくれ」
いつ間にか用意されていた500円玉を手渡されて、軽く手を振られて迅はこの場から送り出されることとなった。
嵐山自身にバレるのは回避したもののとんでもない試練が今、迅の目の前にやってきてしまった。頭痛い。何か悲しくて自分がモデルのエロ本を買わなくてはいけないんだ。これ、初めてコンビニでエロ本買ったときより100倍緊張する。だけど、後ろから感じる嵐山の視線。今更無理ですなんて、とても言える雰囲気ではない。それでも進まなくてはいけないのだと、しくしく感じる。
どうやらこのポスターは販売スペースの裏側だったらしく、重い足取りで開きっぱなしのシャッターの脇から外に出る。もうとうに昼を回っているせいか、列はそれほど長くは伸びていなかった。だが、もちろん並んでいるのは全員女性でアウェイ感半端ない。やっぱりちょっとじろじろと見られている気もするし。これに関しては自信過剰とかではないと思う。すみません…おれは男ですけど、読むのは女の子なので並ぶの許して下さいと念仏のように口の中で唱える。すんっと鼻をうずくめるように嵐山に巻いてもらったマフラーで顔を少し隠す。ここで正体がバレたら、迅だって死んでしまうきっと。それだけは回避しなくてはと。いっそ換装してコスプレだとする方が自然なんじゃないかと悟りさえ開きそうだ。
販売スペースの手際がよいのか、二列になっていた先は予想以上にトントン拍子で進んだ。一歩、二歩と着実に売り場に近づいて行く。そうしてようやく迅の番。どうぞーと明るく、スペースの向こうの女性に声をかけられた。ずらっと並ぶ本に恐れを成したのはこれが始めてだった。張ってあったポスターは一種類だったが、いざ販売スペースにいくと色々な本が並んでいたのだから。そのどれもこれもが、嵐山と迅と思われる人間が肌色大目でくっついていているえっぐいなー。そして全部R18だった。あ、不味い。わからないのだ…その本の見分けが。見慣れていないせいかもしれないが、大体…二人が頬くっつけてるか、手つないでるか、抱き合ってるかと、迅には全て同じに見えてしまった。えと、さっきのポスターはどういう構図だったっけ?タイトル横文字ばっかだし。とにかく…この一番端にある汁だくまみれな本ではないことは確実だが。そんな記憶は脳裏にない。
そうして泣く泣くここ一番の未来視を駆使して、正解を当てる。おれの未来視、こんなことに使う為に存在しているんじゃないと思うんだけどな。
「…すみません。これを一冊」
ようやく選別が出来て、裏声を使って人差し指で示して、500円を即座に渡した。
「はい。ありがとうございます」
明るく販売する綺麗なお姉さんが………と思い、はっとする。こ、この女性。最近B級にあがった、まだチーム組んでない隊員じゃなかったか、と。身内に敵がいるとは…ヤバい。バレると、迅は焦る。あわてて差し出された本を掴み、お金を手渡して…颯爽と駆ける。
「すみません!年齢制限ありますので、身分証明を!」
机があるから追いかけられないのをいいことに、完全に迅は逃げた。
本当にすみません。身分証明なんてとても出せないですけど、確実に18歳以上なのでと内心で謝り続けた。





「つ、疲れたー」
極度の疲労しかなかった東京への旅路。それは数日前のことではあったが、未だに迅は引きずっており、こうやって誰もいないとわかっていても玉狛の自室で声に出すくらいだった。そう簡単に回復できるような内容ではない濃さだった。あの出来事は夢であって欲しかったとは思うが、それでも嵐山から預かっているという形になっているいわゆるR18嵐迅本がこの部屋に鎮座しているのだから、あれは現実だ。もう、そこらのエロ本なんかより厳重に絶対に誰にも見つからないところに隠してある。嵐山にはああ言ったが、迅だってあんな恐ろしい物が見つかれば家族会議ならぬ玉狛一同で会議だ。まあさすがに未来視があるので、無事に18歳になった佐補ちゃんにこの本を届けられる未来は視えている…が。あんまり嬉しくないな。うん…
ともかく大変ではあったが、何とか本当の最悪は回避した。嵐山も迅も怪しまれたもののその正体はバレなかったし、双子は欲しい本が見事に買えたし、嵐山もそんな双子を見守ることが出来て喜んでいたし、万々歳だ。ただ一人迅がちょっと切磋琢磨して疲労困憊しただけなら、いいだろうこの結果でも。
でも思い出すとまた変な汗をかくような気がする。冷蔵庫からお茶でも持ってくるかと、よっとごろごろしてたベッドから立ち上がった迅はキッチンが併設されているリビングへと向かった。
「誰もいない…のに、テレビが付けっぱなし。陽太郎だな…」
瞬時に察した犯人の名前をつぶやくように出す。もしかしたら、ちょっとトイレに行っているだけかもしれないが、一応消しておくかと迅はテーブルに置かれたリモコンに手を伸ばす。
「ん?」
その画面を視界には入れていなかったものの、スピーカーから聞きなれた声がして迅は一瞬びくりとした。顔をあげてモニターを見ると、三門市のローカル番組に登場する嵐山隊の姿が見えた。さすが新年、どうやら生放送である。新年早々、めでたいくらいはきはきと嵐山は女性リポーターにマイクを向けられてインタビューに答えていた。ホント相応しい感ある。まあこうやって目立つから、あんな本がわらわらと作られるんだろうが。人気者の弊害という奴である。でも出来たらそこに迅は混じらせて欲しくなかったなと切実に思うが、仕方ない。

《………なるほど。今年のボーダーも更なる躍進ということですね》
《はい。市民の皆さんのために頑張ります!》
《しかし、嵐山隊長。いつも忙しそうですが、年末年始にはお休みきちんとありますか?》
《ええ。一足先に先日、一日だけ。俺は東京に行ってきました!》
《東京とは結構遠出ですね。ちなみに、どんなところに?》
その不穏な台詞を聞いて、軽く聞き流していた迅はがばりとテレビにかじりついた。生放送!生放送だから、くれぐれもどこ行ったとか言うなよと、念を送る。頼む。本当に。あれだけ画策した迅の努力が水の泡となってしまうのだけは避けてくれと祈った。
《そうですね。あ、すみません。でもちょっと、迅が》
《迅…というのは、嵐山隊長がよく話される迅隊員のことですか?東京にはお二人で?》
《はい。俺と迅はすっごく仲いいので。だから、どこで何をしたかは………秘密です》

その瞬間、きゃあっと外野の女性の黄色い声がテレビの音声に混じった。まさかそんなところにも…いるとは。
あれ…もしかして、もう迅は嵐山から逃げられないんじゃないかなとさえ思うしかなかったのだった。





冬 コ ミ に 行 く こ と に な っ た 嵐 山 さ ん と 迅 さ ん の 話