attention!
嵐迅で、迅さんが嵐山さんにふさわしい女の子を紹介しまくっている話。明確には登場しませんが、嵐山さんの過去に彼女がいる描写がありますので、苦手な方はご注意を。








嵐山准には、常に付き合っている相手がいる――― それがボーダー内の共通認識。



トントン…トンと、やや規則正しさからは外れた包丁の音が鳴り響く。それは、玉狛支部のキッチンから普段ならよどみなく聞こえる調理音のはずだったが、今日だけは不規律で少し乱雑。それをもたらしている事、今包丁の主となっている迅にはあまり自覚がなかったから…だから、合間には溜息がやや混じる。
「迅さん。包丁持ちながら考え事は、危ないですよ」
そうして、いつの間にかキッチンの入り口に顔を見せてきた烏丸に思わず声をかけられる形となるのだ。
「あ…そう、だよな」
ようやくほんのりと自覚を得て、迅は手を止めることになる。まな板の上にはみじん切りするためのキャベツがいた訳だが、多少ぼうっとしていたため必要以上に細かく切り刻んでしまったかもしれない。じわりと水分が染み出ている。
「今日の料理当番って迅さんでしたっけ。何、作ってるんですか?」
どうやらこちらを心配する気持ちもあるようで、烏丸は覗き込むようにキッチンの中へとやってきた。だが、迅の手元にあるキャベツのみじん切りだけでは本日の夕食の内容が把握できるわけでもなく、尋ねる形となったようだ。
「一応、餃子かな。前に遊真たちをラーメン屋に連れて行った時、お腹いっぱいになったから餃子を食べられなくて残念がってたから」
餃子という本日のメインメニューが、自分でも手作りとしてはやや珍しいラインナップだとはわかる。あまり作らない…というか、きちんと作ったことはない。玉狛の料理番である木崎は何でもそつなくこなすが、迅はそれほど料理上手ではないと思っている。ただここが食事当番制をしている為、かろうじて人様が食べても差し支えのないレベルの普通のご飯を作れるだけだ。まあ、比べる相手があの木崎になってしまうから余計にそう思うのかもしれないが。
別にせがまれたわけではなかったが、折角作るのなら可愛い後輩たちが喜ぶメニューにしようと思うのは当然のことだった。この形と味をご家庭で?と興味深く喜ぶ未来が迅にはすでに視えているから頑張ろうかと。あまり直接指導する時間のない後輩たちに、少しの先輩としての姿を見せたいということもあった。
「中途半端に時間空いたから、俺も手伝いますよ。包丁、貸してください。これ、みじん切りでいいんですよね?」
手早くシンクで手を洗って烏丸はさくっと、割り入って来た。年齢の割に烏丸は器用だ。それも少し心ここに在らずであった迅を気遣い、自ら進んでの包丁となれば、ありがたい申し出だった。
「あ、うん。じゃあ、頼むかな。おれは餃子を包む皮作るよ」
餃子の皮と言えば専らスーパーで売っているが、それこそ今みたいにぼうっとしていてうっかり買い忘れてしまったのだ。このまま餃子のたねから肉団子スープにしてもいいが、折角そこまでやるのならきちんと焼餃子にすべきだろうと思った。
薄力粉と女性陣がストックしている菓子用の強力粉を少し拝借して、電気ケトルから熱湯と少しの塩を入れて迅はボウルの中でかき混ぜ始める。
「それで、何悩んでたんですか?迅さんが、ガチで考え事してるの珍しいですよね。そんなに厄介なことなんですか?」
大方、いつもの迅のことだと自身が持つ能力である未来視のサイドエフェクトによるものだろうと見当をつけられたのか、重大な事かと心配含めて烏丸に問われる。思わず変に深読みされてしまったようだが、それが市民の命だとかボーダーの存続危機だとか、そこまでではない。だけど。
「いや…そうだな。あー、これは京介にも言っておかないと駄目だよな。
―――嵐山さ、彼女と別れたんだって。ほら、あの…京介がバイト先で紹介してくれた女の子と付き合ってたんだけど」
それは実に数時間前の出来事であった。迅も嵐山も忙しい最中ではあった。その隙間を縫うようにほんの少しだけ出来た二人の会話内容がソレだった。最初は烏丸経由であったものの直接彼女を推したのは迅だったから。すまない…と、ちょっと困った顔をして嵐山に丁寧に謝られた。迅は、別にいいよって軽く返したけど、大元の烏丸にも一応話を通しておかなければいけないと義理立てする声を出した。
「そうですか。俺は話を通すように頼まれただけですから、気にしてませんけど」
本当に興味がないようで何ともないと顔の表情を変えないまま、そっけなく言われた。
烏丸は紛れもないイケメンだが、家庭の事、学校の事、ボーダーの事、バイトの事と忙しすぎてまったくそういう恋愛沙汰には気を回さないようだった。羨ましいくらいだ。まあ烏丸くらいの男前なら何も高校生で焦らなくともこれから先いくらでも彼女の一人や二人。
そう…そうだ。烏丸と同じくらい嵐山だって、そうなる筈なのだ。だが、しかし………この身近なイケメン烏丸をスルーして嵐山狙いというなかなか根性ある女の子を迅も買っていた…買ったのに、結果はこうだ。無残にも終わりを告げたらしい。
「なあ、京介。知り合いに、嵐山が極度のブラコンシスコンでもボーダーと大学で忙しくても付き合ってくれるような、可愛くて頭良くて器量も性格も良い女の子いない?」
その条件をずらずらっと並び立てる。それが、迅の思う譲れない最低限であった。
「それ、尋ねるの何度目ですかね。迅さんが毎回聞くから、この前あの子を紹介した筈ですけど…」
烏丸には全く悪気がないしこちらから攻める気もないが、あっさりさっぱりと言い終わられる。そう簡単にほいほいそんな好条件に当てはまる女の子がいるわけがないと暗に込められた。表情には出さないが、きっと半分呆れられている。元々、その子を紹介したのも迅がしつこくて…本当はあまり興味なかったがしぶしぶと言った様子だった筈だ。そういえば烏丸経由で、嵐山に女の子紹介したのも二度目だった。
「だって、おれもそろそろ伝が限界というか…」
万策尽きたかと…丸くなった小麦粉の塊に沈みかける。ボーダー一顔が広い自負があったがそろそろ限界だ。そう…迅は知り合い全員に漏れなくコレを聞いている。烏丸はまだそうではないが、そろそろ露骨にまたその話かと嫌な顔さえされ始めた。それこそボーダー内はもう駆り尽した感がある。オペレーターにあれだけ美少女たちが揃っていても、そう条件にあてはまるのが100人単位揃っているとかそういうわけがないから仕方ないとはいえ、友達の友達は友達ではなかったのだろうか。案外少ないな…と。嵐山はこの三門市で収まるような器ではないとはいえ、ボーダーに対する理解はこの市に住んでるなり通学している子じゃないと難しいし。
「前々から思ってたんですけど、何でいっつも迅さんが嵐山さんの付き合う女の子を斡旋してるんですか?嵐山さんならわざわざ探さなくても、わらわら女の子くらい寄って来ますよね」
そんな内容の質問をしつつ、続けてニラを粗みじん切りしながら聞かれる。なんか烏丸の頭の中で女の子の様子が多少ズレているイメージのようだが、まあ事実そうであった。
嵐山は誰もが知ってるボーダーの顔、三門市の有名人で。下手な芸能人なんかより顔も名も通っている。それでもって容姿端整。加えてあの爽やかな裏表のない性格は誰をも惹きつけるのだ。だから、こそ。
「だって、親友の彼女が性格悪かったら嫌じゃん」
ここで…だんっと音を立てて、耳たぶに近い硬さとなったこれから餃子の皮になる小麦粉の塊を丸くまとめてから、勢いを込めてボウルに落とした。思わず力がこもってしまった。
そう。烏丸の指摘の通り、迅は…あなたに彼女を斡旋しますと業者ではないというか嵐山限定でやっているのだ。そして、毎回嵐山にぴったりなとびきりの彼女をピックアップして、紹介している。ここまでが一連の流れだった。
なんといっても、嵐山に彼女がいないと大変なのである。だって隙あらば、告白されまくっているから。彼女いればまだいいが、嵐山がフリーだと噂がたてば待ちかねていた女子たちが騒ぎだす。あれは…まだ高校生の頃であったが、見事にみんなの前で盛大に告白された。それも一人ではない…女の子が並んで想いを浮かべる大告白大会となったのだ。もはや通過儀礼みたいな有様だった。あのシュールな光景をもう迅は見たくない。きっと彼女らは自分の恋が叶うとは思っていないのだろう多分。憧れの嵐山准に告白する自分に酔っているなと傍から見て感じた。特にまだ学生の時の話だから、恋に恋しているというアレだ。きっと。逆に大学生となった今は、ガチで結婚だとかそういうのを求める女性が詰めかけるから相当嵐山が大変になってしまうだろう。それじゃあ、可哀想だ。だから、嵐山が今まで何回別れようがまた次の条件に当てはまる女の子を迅は紹介してきた。それが嵐山にとっての平穏でもあると迅は思っている。
「気持ちはわかりますけど…それって、嵐山さんの為というより迅さんの為………ですよね?」
「えっと、まあ。そういう部分もあるかも」
他人に指摘されて明確となると、少しドキリとする。
迅とて、女の子を紹介はするものの…別に無理に付き合えと言っているわけではないつもりだ。それでも嵐山は律儀で真面目だから…迅が勧めてくれるならと前置きを述べて、とりあえず付き合い始める。そして別れる。この繰り返しを何回やっただろう。迅も少し躍起になって次を…と、その鋲螺。推し付けているつもりなんてなかったが、他人から見れば謎な流れに思えるのはわかる。
「あっ、思い出した。相応しいかどうかはわかんないですけど、嵐山さんに好意を寄せてる好条件の女の人の話、この前聞きましたよ」
「えっ、誰?」
ちょっとしょぼくれていて段期待していなかった状態だったからこそ、ばっと顔を伸ばした餃子の皮から上げて食い入るように烏丸の顔を見た。そうして、その公明に胸躍る。何より烏丸がそう言った瞬間、迅の未来が動いたのだ。そこから流れて嵐山へと続く次のターゲットだと明確に。もう今まで何人紹介したっけ…別にキープとかいないけど、新しい女の子に会うとどうも嵐山の彼女にどうかな?視点になってしまう今、そのセンサーは素早かった。
「実は、今まで付き合ってた彼女が俺経由だってどっかで聞いたみたいで、根付さんにちょっと絡まれたんですよね。その時に、三門市の市議会議員のお嬢さんが嵐山さんに気があるって聞いて」
「え………」
それは少しの予想外をはらんでいて…同時に迅の気持ちの中に、僅かな暗雲をもたらす内容だった。





最初は、嵐山は忙しいから…と善意で仲人のようなものをやってるつもりだった。
大体、迅は未来視のサイドエフェクト持ちとしてのプライドだってある。一応、完全に嵐山の未来が暗くなる相手はさすがに推奨してない。ただ、そんなところまでは未来視で視えていないというか、自主規制してるのかな、やっぱり。未来視ってホント万能ではないと思い知らされる。恋愛っていうのは人の感情の中で一番曖昧で些細なことでいつも左右されてブレるのだ。だからこそ、嵐山の彼女が最終的に確立しないのは仕方ないと…それを言い訳にしていた―――



「えっ、と…迅?珍しいな…こんなところで」
メディア対策室の廊下で完全に待ち伏せしていせしていた迅を見て、嵐山は少し飛び跳ねるように驚く声を出した。同時に、ぴょこんとその羽根のような黒い髪が一房、動いたようにさえ見える。
「…ちょっと時間大丈夫?」
伺うというよりもそれはもはや確定事項のように告げる。迅の能力的に駄目な相手とわざわざ交渉なんて滅多にしない。しかもそれが親友の嵐山であるなら尚更の出来事であった。
「ああ。ちょうど良かった。俺も今、相談したいことが出来て」
いつまでも出て来た部屋の前で立ち話もなんだからと、二人は少しの歩みを進める。ここは上層部エリアの一角でもあるため、平隊員が出入りするような場所ではないが、一般職員はそれなりに歩いている。行きかう見知った知り合いに軽く会釈をふまえながら二人は廊下を進んだ。エリアごとに設けられている休憩ラウンジへと赴くと、時間帯が中途半端なせいか人影は驚くほど少なかった。先行した迅は、その見渡せるラウンジエリアの一番奥の一角まですたすたと足を進めた。日当たりが少し悪いし入口やトイレからも遠いせいか、周辺にわざわざ座っている誰もいなかった。

「迅、もしかして機嫌悪いのか?」
黙って進んで来たことをけぶったのか、多少戸惑うような声色をされる。
「別にそんなつもりは…多分、ない。………えっと、嵐山。おれに相談したいことがあるんでしょ?先にどうぞ」
まあその内容が自分の聞きたいことと大体同等だとわかっていたが、迅から聞きただすのも少しもやっとしたので進めてもらう。
「ああ、そうだった。その…何だ。いつも迅は、俺に女の子を紹介してくれるだろ?だから、またそうなのかな…と聞きたくて」
いつもからすれば随分と気の早い話だったが、確実に思い当る出来事がさっきメディア対策室の中で繰り広げられていただろうから、その嵐山の戸惑いも納得する問いかけだった。
そういえば嵐山に最初に紹介した女の子の名前と顔を…もう迅は覚えていない。申し訳ないともあまり思っていない。別に最終的に交際を断っているのは迅ではなく嵐山なのだから、それこそ迅は悪くない筈だ。でも…どこか引きずる気持ちがある。自分で紹介しているのに、嵐山はまたきっとこの彼女と長く続くことはないだろう…なと、それを知っていても紹介する迅は酷い人間だと、本当はそれを知っていたけど目を背けて。
「そう…だね。今までずっとそうしてたよね。この前は聞かなかったけどさ、京介のバイト先の女の子。どうして別れちゃったの?」
今、すごく嫌な聞き方をしたと分かっていたが、勝手に迅の口からそう出てしまった。
実は迅が、嵐山に詳しく内容を聞くのは初めてだった。あれだけ女の子を紹介しつつも、迅はそれ以上先へと深入りするのを避けていた。嵐山もだからと言ってデートの内容だとかを逐一迅に報告するほど暇でもなかっただろうから、でもさすがに別れた時はキッカケをくれたのは迅だからと申し訳ないと言葉を重ねられて、それが何回も。
最初こそは嵐山だって人間だから、合わない子もいるだろうとその程度の気持ちだったのかもしれない。でもそれが何度も続いて…本当ならこれは嫌だと思う筈なのにどこかほっとしながらも次の女の子をまた探して、その繰り返しにどこか迅は安堵していた。自分ならもっとうまく嵐山と言い話せる間柄になれるけど、女の子にはそんなに難しいのかと。
よく考えたら、完璧な女の子ばかり宛がっていた迅が悪かったのかもしれない。嵐山のエスコートはうまい。それこそ迅と一緒に歩いているだけでもわかる。さりげなくいっぱい気を使われていると後で気が付くことが今までも何度も。だから、嵐山の彼女という位置についた女の子相手は、より丁寧に接しているだろう。それでも駄目なのかと、その疑問が払しょくされるとは今までなかった。でも、聞きたくはなかった。でも今はそれを凌駕する事態が嵐山に迫っている事、それを迅は知っているから。
「迅が紹介してくれる子は、みんないい子で…感謝してる。でも、俺が悪んだ。いつも…俺がふられて………」
女の子に非はないと嵐山はきっぱり言い切った。それは紹介してくれた迅に気を使ってではなく、きっと事実なのだろうとはわかる。しかし、心の中では理解できない。なんだ…どうして嵐山は振られるのだ?あの嵐山准を振るというのがステータスでももしかして流行ってるのかと変に思うくらいだ。ミーハーな女の子なんて選んでいない筈なんだが。
「その原因って…いつもの弟妹自慢だとか、ボーダーが忙しくて会う時間が取れないせい?」
その許容範囲が広い女の子を選んでいたつもりだったが、さしあたるところの嵐山の問題点などそれしかない。迅としてはそれは仕方ない事だと思っているし、その欠点もよく考えれば美点だとは思うのだが。
「いや、多分俺がどこか上の空だったのを、毎回見抜かれていたんだと思う」
「嵐山…別に女の子とか苦手じゃないよ…ね?」
「女とか男とか、そういうんじゃないんだ。紹介してくれた迅には悪いと思うが…一番に好きにはなれなかった」
嵐山の言う事は、別に変な事ではない。この世界には何十億という人間が存在していて、そのうち半分が女性と考えても膨大な人数で。運命の相手とまでは言わないが、本当に自分に合う人間と出会う方が難しいと。それでも嵐山のような気の良い人間がそう言うのだから、何かあるのだろう。
いや、それは迅の基準をきっと押し付けていたから…だ。そういえば嵐山の意見をマトモに聞いたことがなかった。どんな子がタイプ…なのと。でもそれを聞くのも何か嫌だったのだ。結局は迅の都合ばかり押し付けていた。その当たり前の事、抜けていた。好き嫌いあるだろうと。好奇心がないわけではなかったが、聞くことの方が怖かった。それは多分迅が求めているものとは違うのだから。
「…もう、やめるよ。嵐山に女の子紹介するの。だって、ずっと迷惑だっただろ?」
気が付くのが遅すぎたとはわかっている。でも…もう終わりにしようと諦めた。
いつも嵐山は気良く迅が紹介する女の子を受け入れてくれていた。親友からの厚意を簡単に断れない…という面ももしかしたらあったのかもしれない。でもきっとこんなに何人も紹介されるとは思わなくて、断るキッカケがないとかそういうなのだ。だから、迅からそう終わりの言葉を告げるのが務めだと思った。
「なんでそんな事言うんだ?」
明らかにぶっきらぼうな迅による口調とその内容に、嵐山は訝しむ声を出す。
「だって…今度お見合いするんだろ?いいとこのお嬢さん…と」
ぐっと迅の右の拳が勝手に握られて爪が立って、でも言う。まるで自分を傷つけるかのように。その確定的なことをついに言ってしまうのだ。さっき、嵐山が根付に嬉々として呼ばれていた内容。別に聞き耳を立てていたわけではなかったが、ソレだと見当はついていた。
お見合いというのは形式的なものだ。そこまで堅苦しいわけではないが、大人が介入するそれをそう表現するしかない。嵐山は今年19歳…わかりやすい縁談は早いかもしれないが、その立場からすれば引く手あまただ。前もこういう話が来ていた。あの時は確か、市役所の道路交通部長の娘さんと会う話だったろうか。それは嵐山の歴史の中に確かに存在していたけど、今まで見た未来視を手繰ればきりがない。そう勝手に友達の恋愛関係調べて介入して…迅は自分が嫌な奴な自覚あるってわかってる。
それでも付き合っている女の子がいれば今まで断っていたこと、迅は知っている。でも今は断る理由が特にないのだ。だったら嵐山は受け入れるに違いないと思った。
「それはサイドエフェクトで知ったのか?」
「単純にそれだけじゃないけど、色々と…」
烏丸に情報貰ってから色々調べたのだ。そして確証も得た。それは、嵐山を視た未来という一つを。
でも、根付に直接止めるようにとはさすがに言えなかった。だって、それはずっと迅が嵐山にやっていたことだから。他人が嵐山の付き合う相手に干渉するのが嫌だというのは、それこそ我が儘だ。それに彼女は迅が今まで提示してきた女の子の条件にも合っていた。それプラス政治的兼ね合いという部分がどういう方向に左右するかはわからないけど。嵐山をそういった政治やら権力やらの世界に巻き込みたくない…という気持ちはあったけど、それも迅のお節介だ。本当に、嫌な女だったら良かった。そうすれば躊躇いもせずに根回ししたかもしれないのに、そうじゃないから…余計に。
「もし迅が嫌だって言うなら、俺は見合いに行くつもりはないぞ」
そんな迅の埋めく考えを吹き飛ばすかのように、嵐山は曇りない瞳ではっきりと断言してきた。
「何、それ…」
何だその理論は…と、迅は二の足を踏むような声が出て来てしまう。受け入れるつもりだったのに。それこそいつもみたいに太鼓判を押して、後押しするつもりだったのに揺らぐ。
「簡単な事じゃないか。知らない女性の機嫌を取るよりは、目の前の迅の機嫌を取りたいに決まってる」
迅が色々と紆余曲折していたこと、もうとっくに嵐山にはバレていて気を使われる声がかかる。
「でも…待って。すっごい性格の良い子だよ。父親が代議士でも鼻にかけたりしないし、ちょっと嵐山より年下だけど、今あっちに彼氏いないのが奇跡くらいで。もちろん抜群に可愛いし。実際会ったら、一目で好きになるかもだよ。それでも?」
何だかこんな状況に陥ったからこそ馬鹿みたいに月並みな言葉を並べて、会ったこともない未来視でしか垣間見てない女の子を褒め称える。本当はこんな事をいう事が迅の本心ではないと、どこかが叫んでいても勝手に。
「迅がそう言うなら、そうかもしれないな」
「じゃあ、やっぱり行きなよ…」
でもやっぱり素直に歓迎できない言葉になってしまっていることはわかっている。でも、なぜかこういう言い方しかできないのだ。
「本当に?本当に、迅はそれでいいんだな?」
最後の確認とも受け取れるような強い念押しが到来した。だから、ついカッとなって。
「おれの事はいいの!嵐山の事なんだよ?何でいっつも、おれの意見ばっかり取り入れて…」
思わず叫んで、はっとする。自分のやってることが、屈折して矛盾していることはわかってしまったのだ―――
今まで押し付けた女の子達…そのどれもが、迅が嵐山を諦める為の子だったのだ。迅では絶対に敵わない美人だったり可愛いかったりする女の子。その子たちと嵐山がくっつくのなら、と我慢が出来るようにと、この胸の内にくすぶり続ける恋心を隠し通せる相手を選んでいた。建前とは違う今更気が付いた酷い気持ち。なんて自分勝手なんだ…と。自分こそ…そんなに出来た人間ではないくせに。いつも頑張って嵐山にふさわしい女の子を探していた…つもりだった。美人だし、可愛い、頭いいし、正確いいし、家柄もいいし、と…彼女らを選んで、迅を諦めさせて欲しかった。
自分で言ってて、もはや迅は泣きそうだった。そうだ…迅は嵐山の彼女の基準に、迅がそのままべったり友達として存在していも否定しない………その子たちを選定していたのだ。それこそ無意識に。気に入らない女の子はつぶしていたに違いない。
本当は嵐山が、誰かと付き合うなんて嫌だった。それでも自分から言い出すことで無理にでも緩和させるようにと。自発的に嵐山が見つけたわけじゃない…迅が紹介したんだから、潔く諦めろと。どんな女の子が相手でも、納得出来もしないくせに。でも、今更焦っても遅い。嵐山をそういう土台に押し上げたのは、迅自身が原因なのだから。
「すまない…迅。俺は、多分恋愛に少し疎いんだ。だから迅に任せていた。でも…一つだけずっと前から変わらない事がある」
迅が沸き叫んだことで嵐山の方は逆に冷静になったようで、しっかりと言葉の芯が通された。
「な、に?」
未だ自分の酷い気持ちに占領されて考えたくはなかった部分もあるけど、それでも何とか前を向いて尋ねる。
「やっぱり俺は迅が一番大切なんだ。これが、好きって感情だってそう思う。今まで色んな女の子と付き合ってきたけど、やっぱり迅がいいんだっていつも思ってて、だから…お願いだ。紹介して欲しい。今度は迅悠一を俺に…」
それは、凛として確かな言葉として響き、迅へと訪れた。
「…おれ、を。嵐山に?」
いつものように。女の子を紹介するように……… 選べと言われた気がする。
そう…今度は迅自身の番だった。嵐山准を好きな迅悠一を伝えなくてはいけないのだから…このプロデュースの結末の良し悪しは未来視でわかっていなくとも、勝利が確定しているようなものだった。
それでも、震える唇で迅は告げるだろう。自分も彼と好き合いたいの、だと。言う為の場は十分に出来上がったのだから。
ぎゅっと勇気を振り絞って、さぁ。



嵐山准には、常に付き合っている相手がいる――― それがボーダー内の共通認識。
そこに迅悠一の名前が加わる瞬間は、この後直ぐに訪れるだろうから。





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