attention!
嵐迅で、高校の文化祭に、嵐山さんが執事服、迅さんがメイド服を着る話。もう盛大にネタ被りしているとは思いますが…内容はぬるいエロです。








政令指定都市でもない三門市の、それもただの共学である公立高校なのに、嵐山が通うこの普通高校は数年前から文化祭の入場が招待によるチケット制となった。外部の人間が文化祭を訪れるには、生徒に配布されるチケットしかないというシステムだ。それも生徒一人につき枚数がそれほど多いというわけではないので、大抵は家族全員に配り終えれば終了となるくらいだった。この制度が導入されたのは、もちろん何らかのトラブルがあったからという経緯で嵐山は詳しくは知らないが、自分が参加していれば自ずとわかるのは、この高校がボーダー提携校と認定を受けたせいだということを、今身に染みて感じていたのだった。

「嵐山ー おつかれー」
椅子に座ってがくりと肩を落とし、疲労の色を隠しきれていない嵐山は、肩を叩かれてようやく顔を上げた。
「柿崎か。すまないな、後片付け手伝えなくて」
ちょっと本当に今は無理だったので、心なしか普段よりテンションが落ちた声で謝罪を入れる。
「いいって、いいって。嵐山のおかげで大盛況だったんだからさ」
対して柿崎のテンションは嵐山に反比例するように高かった。そう…ようやく終わったのだ。文化祭の出し物がだ。
嵐山の通う高校の文化祭の出し物は、三年生から順に選択することになっている。同じ出し物が被らないようにという配慮からだが、つまり今三年である嵐山のクラスが好きな物を選ぶ権利を持っているということだった。そして同学年の誰よりも早く、うちのクラスの実行委員は並々ならぬ気合で、この出し物をもぎ取って来たらしい。「うちには、あの嵐山くんがいるんですよ!うちのクラスが一番最適に決まってます!!!」という力説があったとかないとか、その場にいなかった嵐山は知らないから、ただの風の噂だと思いたい。そうして、今嵐山もそして目の前にいる柿崎も出し物として着る服が決まったわけだった。この執事服とモノクルにだ。
クラスの出し物が執事喫茶に決まったことで、特に女子は歓喜した。放課後になると、意気揚々と文化祭の準備に明け暮れたのだった。そうして男子は着せ替え人形兼給仕マナーを教え込まれて、今に至る。
「俺は、みんなと違って準備に全然参加出来なかったんだが、あれで大丈夫だったんだろうか?」
ボーダーで忙しい嵐山は、正直今年は文化祭に参加できないと思っていたのだ。最近広報の仕事も増えて、通常の授業も休みがちとなっていた。そこにクラス一丸となっている文化祭の準備に全く協力出来ないことは目に見えていたので、そもそも学校のイベント事とは少し疎遠になっていた感があった。だけど、クラスの女子が「嵐山くんは当日来てくれるだけでいいから!」と何度も念押しされたので、その言葉に甘える形となったのだった。
「いや、十分だろ。嵐山は普段から物腰柔らかいとこあるし、平気だったって」
フォローするように明るく柿崎が言う。柿崎もボーダー隊員とはいえ、嵐山よりは時間的に余裕があったようで、たまには事前の準備には顔を出していたらしく、給仕マナーもそれなりの形となっていた。嵐山は、それを見よう見まねでやっていただけだった。
「そうか。なら、良かった。しかし、まさかずっと立ち続けるとは思わなかった」
先ほど柿崎が言ったとおり、嵐山のクラスの出し物は大盛況だったとは思う。だからこそ、ひっきりなしにお客が来ると言っても過言ではなかった。おかげで休憩時間もろくになく、それでも応対して客としゃべらなければいけないから、裏で軽く水分補給するのが関の山だった。嵐山からすると、なぜか自分がよく指名されるが、それはボーダーの顔として最近広報で忙しいから、堂々と隊員の姿が見られるのは貴重なんだろうなとも思った。特にうちの学年はボーダー隊員が少ないので、余計にこの三年生のクラスが集まる最上階は自分が目立つのだろうとは最初は思ったけど、そんな悠長なことを考えている暇など与えてくれないほどだった。当の生徒たちは慣れているものの外部から来る人からはボーダーの嵐山として見てくれて話しかけてくれる面もある以上、無碍にもできず学校なのに広報で培ったスマイルを常に発しなければいけないという状況に陥っていたのだった。結局、あれよこれよと祭り建てられていた気がする。
「あー、嵐山。結局、他のクラス見に行けなかったんだっけ?」
同情するような声を出して、柿崎は労わってくれた。
「そうだな。一度も教室から出られなかった…」
悲しいことに、もうとうに文化祭の終了時刻であり生徒はともかくとしても、外部の人間は全く校内にいない。結局嵐山はクラスに引きこもりとなってしまったが、ふと窓の外を見れば正門から玄関へ続くプロムナードには外に出されている露天屋台の様子なども見える。
「俺は一周ぷらりとして来たぜ。ああ、そういえば結構他校のボーダー隊員も見かけたな」
確かにありがたいことに、こちらへと顔を見せてくれる隊員がいた。それは、もう一校のボーダー提携高校しかり、卒業生である大学生や来年入学するかもしれない中学生もと、わりと幅広い年齢層がやってきてくれた気がする。
「結構ボーダー隊員はチケット持ってたみたいだな。うちの隊の隊員は綾辻を除いて全員中学生なんだが、揃って顔を見せてくれたぞ」
執事服だなんて見慣れない服装に身を包んでいると、対面する人間の反応はいろいろだったが、さすがに自分の隊の子たちは素直な称賛の声で称えてくれた。ただ、嵐山隊がクラスに勢ぞろいした瞬間に、まるでモーゼのように人混みが開いてしまったので、遠慮した隊員たちはそそくさと別のボーダー隊員がいるクラスに赴いてしまったが。
「そう考えると、何だかんだと隊員結構いるからなぁ。嵐山のトコみたいに家族が来るって方が少ないんじゃないか?おれも、家族には興味ないって言われたから隊員とか他の友達とかにチケット配ったし」
ちなみに嵐山の弟妹が来たときは、嵐山が弟妹にかまけて仕事をしなくなったため、嵐山隊よりもっと早く逃げられたから、結局は悲しい結果に変わりはない。
「そうか。一年や二年のボーダー隊員も顔を見せてくれたから、こちらから顔を見にいかなくて良くなったとはいえ、やっぱり俺も軽く見て回りたかったよ」
そんな時間の隙間を女子が許してくれなかったのだから仕方ないとはいえ、やはり後悔の念は残るので、苦汁の言葉を出してしまう。
「そうだなー うちの執事喫茶も悪くないけど、結構面白い出し物してるクラスもあったぜ?ほらっ、迅のトコとかさぁ〜」
「迅?」
寝耳に水の名前が飛び出た。嵐山・柿崎と、迅とはクラスが離れており、嵐山としては自分のクラスの出し物にさえあまり協力出来なかったので、他人のクラスの出し物に気を割く時間がなかったことは確かだったから。
「そういえば、迅は顔を見せに来なかったな。あの格好じゃ、気持ちはわかるけど」
うんうんと独りでに納得しながら、頷く仕草を柿崎はした。
「顔を見ないから、てっきり今日はいないかと思ってた。迅も参加していたのか?」
迅は嵐山とは違った理由でそれほど真面目に高校には来ないし、こういうイベントには基本不参加なタイプだった。一応、学校行事の際はその学校に通うボーダー隊員に防衛任務が当たらないようにとシフト調整は成されているが、玉狛はそれも独自だったし、迅はS級隊員だからとわりと学校に通うのも不定期だった。
「え、知らなかったのか?あいつのクラスは女装メイド喫茶やってたんだよ。チラッと様子見て来たけど、なかなか面白そうだったぞ」





「迅!」
先ほどまで極度の疲労で混濁していた嵐山だったが、執事服のままで颯爽と廊下を闊歩し、ガラリと迅の所属するクラスの扉を開けると、人目もはばからずその名前を呼んだ。
「げっ…嵐山」
同じくあちらもお疲れ気味の様子で椅子にぐだりと座っていた迅は、瞬時にびくりと肩を震わせて罰が悪そうな顔をしたが、普段よりはそれは和らいで見えたのは、迅が今身に付けている服がメイド服とヘッドドレスだったからだろうか。
突然の嵐山の登場に迅のクラスの女子はきゃあっとかいう黄色い声を上げたような気もしたが、今の嵐山にそれを気にする余裕はなかった。こちらのクラスも喫茶をしていたから、テーブルは概ね片づけられていた。嵐山は教室の中央を堂々と横断して、迅が座る椅子まで詰め寄った。
「な、何?」
「ちょっと来てくれ」
やや強引に挙動不審な迅の左手首を掴んで、その簡易な椅子から立ち上がらせた。ふわりと迅のエプロンスカートが花開くの横目に、そのままぐいっと引っ張ってずんずんと進んで教室を出ていく。
「ちょ…、嵐山。痛いって…」
後ろであれこれと文句を言う迅のより後ろで、クラスの女子たちが勝手にカメラを構えてパシャパシャと二人を撮影している音が聞こえたような気がした。



やや大きな音を立てて、普段は使われていない資料室の扉を開け、迅と一緒に入るとカチャリと嵐山は内鍵をかけた。ここはいつもなら物置のような部屋だったが、今回は文化祭の準備に使われていたせいか、ベニア板の切れ端やらペンキやらがまだ片づけられずに置かれたままのようだった。だが、おかげで普段なら多少ほこりっぽく感じられる空間がいくらか換気されて、掃除も行われているようだった。この資料室の存在を最初に教えてくれたのは迅だった。ボーダー隊員は早退や遅刻をすることが多く、途中から授業に参加しようとしてもピッタリとした時間にちょうど良い時に学校に着くわけでもなかったから、前の授業の終わりまで時間を潰す部屋として、こっそり教えられたのだ。
「それで、これはどういうことだ?」
ようやく二人きりになれたところで、嵐山は詰め寄る声をかけた。
「どういうことって…クラスの出し物だけど?」
迅ちょっと開き直っているように言ったが、それでも視線はやや泳いでいるのでこうなった自覚はあるように見えた。
「俺は迅にきちんと言ったぞ。うちのクラスは執事喫茶をやるからって。でも、迅は俺に何も教えてくれなかったじゃないか」
そうだ。そこが不満だったのだ。嵐山が自分のクラスの出し物の話をしたときの、迅の返答は己のクラスに対していくらでも何か言うタイミングがあったものの、スルーされた。嵐山が執事服着るといったら、迅はへー楽しみだね的なことを言っていた筈だ。だからこそ嵐山は、迅が文化祭に参加しないんだろうな思って、それ以上詳しくは話を止めたのだった。だが、結局ははぐらかされたのだと知る。
「おれは悪くないもん。だいたい…嵐山のせいで、こうなったんだし」
「俺のせい?」
こちらが問い詰めているというのに、なぜか責められる形になった。
「だって、嵐山のクラスが執事喫茶するっていうから、うちのクラスの女子が対抗して女装メイド喫茶やるってことになったんだよ。で、普段おれこういう行事逃げてるけど、嵐山が参加するんだからそれよりは忙しくないだろうって言われて、無理やり…」
ちょっと不本意そうな顔で口を尖らせて、迅は事の発端を口にした。
なるほどそういう経緯があったのか。実際、迅の方が嵐山より暇というわけでは単純に言い切れないが、暗躍しているからこそ表に出ないこともあって、一般人には迅はただのボーダー隊員で通っている。
「そう…だったのか。でも、事情があるなら予め一言くらい教えてくれても良かっただろ?」
この格好もまあどうかと思ったが、この際出し物が何だろうとそれならそれで無理にでも時間を作って迅のクラスに見に行っただろうに。全て事後だとは、やはり嵐山としても釈然としない。
「嵐山がうちのクラスに来たら大騒ぎになるじゃん。さっきは片づけの時間で人も少なくなってたから、あの程度だったけどさ。
それに…やっぱりこの格好。見せるにちょっとは恥ずかしいし………」
最後のほうは少し小さい声になってしまい、迅はふいっと顔をこちらから俯けたが、耳まで赤いのは隠せない。
「普段は、もっとあられもない姿でイチャイチャしてるじゃないか」
先日の熱い夜を思い出して、ちょっと笑いながら答える。嵐山としては何を今更感があった。
「それとこれとは違うよ。大体おれ普段は学生服か隊服くらいしか着ないから、こんな服、絶対似合ってないし」
「そんなことはない。普段もだけど、今の迅も可愛いよ。ただ、出来るなら他人に見せたくなかった」
この姿の迅を嵐山が知らぬうちに不用意に周囲に振りまいていたと思うと、それはそれで頭が痛かった。
「そう言うと思ったから…言いたくなかったんだよ。絶対、反対して…じゃあ自分も執事服は着ないとか言いそうじゃん。嵐山のクラスの出し物ふいにしたくなかったし」
もごもごとしながらも、迅はぽつりぽつりと本心を吐露し始めた。
「…そうだな。そう言ったかもしれない。わかった、もう怒らない。でも、やっぱりこれ以上人目に晒すのは嫌だから、脱ごう」
そう言いながら、通路側の壁に迅の身体をどんっと押し付ける。ごんっと軽く、迅の背中が当たる音がして、二人の距離が密着する。そうして嵐山は、迅のメイド服の前掛けになっている白いエプロンに手をかけた。
「ちょっ…脱がせる気?」
迫られたことに焦って、迅は赤いままの顔を即座に上げる。
「ああ。着替えの学生服は、俺が迅のクラスまで取りに行くから」
「またそんな目立つことするの止めてって。さっきので超注目されてるんだから、おれはあのクラスで平和に卒業迎えたいの!」
「どういう構造になってるんだ、このメイド服?一体型じゃないのか?」
迅の叫ぶ言葉を軽く無視して、嵐山は手繰る動きを進める。ワンピースの首元にある赤いリボンの下に黒いボタンは見えるが、手前のフリフリとしたエプロンが邪魔なのでまずはそれを取ろうとした。
「わっ、引っ張らないで。これ変に一回解いたら、また元の形みたいに綺麗なリボンの形にならないから、絶対」
くるりと後ろの大きなヒモで結わえられた白いリボンに手をかけたところで、迅から慌てて静止する手がかかった。
「うーん。じゃあ、下から脱がすか?」
迅の前で、ちょっと中腰になった嵐山は向き直る。そうして、迅の膝から眩しいほどに白を示すホワイトオーバーニーソックスを下からなぞりあげて、段々とその太ももに詰め寄って撫でたのだ。普段の迅は大体ズボンだから、こうやって生足の露出している部分があるってだけで、少し感覚的にいつもと違う何かを覚えてしまう。伝ってせり上がるとビクリと動かれるので、なるべくゆっくりと進んだ。分厚いスカートの層になっているフリルをかき分けてウェイト部分まで指を持って行くが、予想以上にカッチリ着込んでいるようだった。見た目以上に防備があると言っても過言ではないだろう。試しにもう片方の手も反対側に突っ込んでみたが、指一本程度なら入る隙間はあったが、そのまま上に持ち上げて脱がすのは困難に感じた。意外と身体の線にフィットするようになっているという感心をしている場合ではないとは思ったが。
「無理だって。そんなんじゃ、脱げないって」
脇を触られてくすぐったいのか、少し笑いながらも否定の言葉が出た。
「これ、女性モノだろ?よく、迅が着れたな」
嵐山と迅は全く同じ身長だったし、体格もそう違いはない。近くでこうやって布地を触ってみれば、このメイド服は量販店のパーティーグッツとは思えない出来だった。
「だから、結構ギリギリだからうまく身動きとれないんだって。クラスでゴスロリ?が趣味な女の子がいたみたいで、なんか喜んで貸してくれたのはいいんだけど」
喫茶と言っても単にケーキや飲み物を運搬する程度だろうが、給仕をするにはある程度服に余裕があった方がいい。もしかしたら、先ほど迅が嵐山に連れられるままにここにやってきたのも、動きにくかったというのも要因だったのかもしれない。
「やっぱり女性モノだと丈が短いんだな。下着はどうしたんだ?」
どうもただのメイド服より素肌が見える部分が多いと思ったのは、それが原因かと納得いった。一応、ミニスカとまではいかないがそれなりに長身の迅のような男が着れば、手足の長さが合わないのは道理だった。だからせっかくモノトーンカラーのクラシカルなデザインのエプロンドレスなのに、まるでフレンチメイドみたいな丈になっていた。多少動く程度ならば構わないが走ったりしたら、その中まで見えてしまいそうだと危惧する。
「えっ、ちょっと駄目だって。普通のだから。別にいつもと変わらないから」
ここで迅から一番の抵抗を受けた。ひらめくスカートの裾をキッチリと持って、完全にガードしている。
「いつもと変わらないなら、別にいいだろ?」
何をそんなに慌てるのかわからず、迅が答えるより先に、指を解かせてからぺろりとスカートをめくった。フリルレースがふんわりと開くと、あっさりとその中を露呈させた。
迅の言うように、下着はいつもの黒のボクサーだった。白く蔓延するフリルの中に、それとは正反対な様子が映し出されているという光景。嵐山はそのアンバランスさに軽く眩暈がしたが、今重要なのはそちらではなかった。
「迅。もしかして、勃ってる?」
股間の布地を押し上げるものを見つけて、嵐山は目ざとく問いかけた。
「…嵐山の触り方がエロいから、こうなったんだからね!」
キッと少し睨みつけながら、文句を言われる。本人は怒っているつもりなのだろうが、ほんのり赤い顔をしてしかもこんな格好では説得力が薄い。
「いや、別に他意はなかったんだが…」
単純に、これ以上人目に触れないようにメイド服を脱がせようという一心だった筈だ。そこに邪まな気持ちはなかった…と思いたい。
「なんかいつも以上に足、まさぐられた。もしかして、嵐山って足フェチだったの?」
未だ左手でスカートをめくり、右手で迅の曝け出した太ももを触ったままの状態だったので、追撃するように言われる。
「そういうわけじゃない。俺は、迅フェチなだけだ」
弁明になっているとは思わなかったが、変に誤解されても困るので、慌てて言葉を繕う。
「なにそれ…とにかく離して。トイレで抜いてくるから」
ばっとスカートを元に戻されて、迅は少し目の前の嵐山を押しのけるように壁から背を離した。
「その格好で男子トイレに行くのか?」
迅の顔は未だ火照っているので、とても誰かに見せられないし、第一メイド服姿で男子トイレに行くというのもどうかと思った。
「…もしかして、嵐山ついてくるつもり?」
いぶかしむように、疑惑の声があげられる。
「当然だ」
短く切って答える。嵐山の格好が目立つから嫌だと迅は言うが、男子トイレなら男しかいないのだから、女子に騒がれる心配はないだろうと、そう思っての言葉だった。
「はぁ………嵐山、今ゴム持ってる?」
少し考えた後に溜め息をついて、いきなりの爆弾発言が迅から投下された。
「は?…いや、さすがに持ってないが」
突然どうしたと驚いた声を出しながらも、嵐山は答えた。迅と身体を繋ぐ関係になってから、スキンの管理は互いにしているが、さすがにこんな仮装している時まで持ってはいない。
「トイレで襲われたら困るから…するならここでしようか?」
観念したかにように、迅は提案の言葉を出した。
「えっ、いや。そんなつもりはなかったんだが」
本心だった。さすがに…そこまでの下心はなかったとは思う。さっきまでは。それでも、どくんと勝手に心臓が唸った。
「だって、嵐山も勃ってるでしょ?」
ずいっと迅はこちらに近づいた。急に迫られた後は、迅の生足が嵐山の足の間に割り入りその股間を軽く蹴られた。ぐっと押し付けられると、確かにこっちもじんわりとしていた。
「迅…」
少しおろおろしながらも自らの現状を認識した嵐山だった。迅のことばかり気になって、自分のことを考える余裕がなくなっていたと知る。
「おれ、ゴム一個持ってるから。とりあえず一回、しようか?」
互いのこのまま状況では教室には帰れないと、迅は言葉を続ける。
「…随分と準備のいいメイドさんになったな」
「嵐山もスマートに執事らしくしてね。おれのメイド服は借り物だから、汚れないようにしてよ?」
そうして二人は、キスから始まった。



「…なにそれ」
とろけるキスに一通り時間を費やした後、ばさりと床に広がる布地を見て、迅は素直に疑問の声を出す。
「多分、うちのクラスが使っていたハロウィンマントの余った布地だな」
そう言いながら、嵐山はそこに迅に横たわるように促して、腰を落ち着かせた。机の上に片づけがすまないまま乱雑に置かれていたから、少し拝借して敷物替わりにしたのだ。
「そっちは、執事喫茶じゃなかったの?」
「時期的にハロウィンでもあるからな。執事服の上に、この生地で作ったインバネスコートとシルクハットをかぶったりもしてたんだ」
女子の気合の入り用を思い出して、くすりと笑う。まあ学生がやることだから、ハロウィンが多少ちぐはぐでも良かったんだろう。
「うわっ、何それ。結構すごいなあ」
想像をしたようで迅からは感嘆の声があがる。結局、迅は嵐山のクラスに来なかったが、何を想像しているのだろうか。
「迅のクラスだって、随分色々なメイド服がいたような気がしたが?」
一応、駆け込んだ時に真っ先に迅に向かったわけだが、まだ着替えていない生徒もいたので、そのカラーバリエーションは様々だった。執事服は基本黒一色なので、見た目的な華やかさはメイド服の方に軍配があがるだろう。だが、迅のクラスは女装していることに変わりはないので、いくばくか全く似合っていない男子も見受けられたような気がしたが。迅は似合っていると思うのは欲目だけではないと思う。
「おれのメイド服。これでも一番マシだから」
そう主張するように、迅のエプロンワンピースは色も黒と白だけの配色でシンプル。デザインも丈に目をつぶれば古典的と言っても過言ではないだろう。まあそれでも本場では使っていないのだろうから、日本独自ということには変わりないと思ったが。
「そう…かもな。迅、頭気をつけて」
「ん…」
腰を落ち着けた迅の上半身を後ろに倒すように促すが、その頭はただの床であることには違いないので、ごつんとぶつけないように補助する。そうして、迅はマントの上に完全に横たわった形となった。嵐山が前に膝をつくと、おずおずと迅は足を開き、その反動でスカートの中身が露呈する。自然と重力方向に捲れるパニエがちらちらと揺れる。先ほども軽く見たとはいえそれは立ちながらだったから、こうやって目と鼻の先で眺めると迅も恥ずかしいようで、軽く空いた右手で視界を覆った。半勃ちしている卑猥な中心は、先ほどより増しているようだ。迅が嫌がるから上は一切脱がせられないので、下半身だけいじるみたいな構図になる。とりあえず流れるように腰の後ろに手を差し込んで上げさせて、下着だけ足を通してするりと抜き取ろうとしたのだが、ヒールの高い黒のエナメル靴を通すのは普段より少し手間取った。そうしてスカートの中は性器が外に露呈するだけになる。既にとろとろと先走りが薄くにじみ始めていた。
「どうする?一度、先にイくか」
ふるふると震える迅の性器に手を付けるまえに、確認をする言葉をかける。
「駄目。服が汚れる… 一応、クリーニングして返すって約束だけど変なシミ残したくないし」
そこだけは死守しなければと、迅は必死に主張をかけた。嵐山とて手荒な真似はしないから迅の気持ちを汲み取った。
「わかった。じゃあ、こっちだな」
迅もそうだかろうが、こちらの執事服もかなり動きにくいので、嵐山は自身のジャケットの二つボタンを両方とも外す。続いてその生足が露出したところを持ち上げた嵐山は、折り曲げて迅の身体に迫るようにして、尻の間のくぼみに指を軽く押し付けた。
「あ…無理」
瞬間的に悟ったようで、声が漏れ出でる。迅はゴムを持っているとは言ったが、さすがにローションの代わりになるようなものはここには存在していない。二人が繋がるには容易な事ではないと思ったのだろう。
「そうだな。じゃあ、迅。少し我慢をしてくれ」
片手だけ支えるようにして足を持ち上げていた体勢を取り外して、嵐山は迅の外の空気に触れて少し落ち着いてきたその性器の根元を遮るようにぐっと左手で握った。その瞬間、予告はされたとはいえ、だからといってどうにでもなるわけではないらしく、びくんっと迅は背中を少しのけぞらせてた。そのまま反対の手でぎゅっぎゅっと絞り出すように、嵐山は迅の先走りを手のひらに集めた。零れてメイド服を汚さないように、指を丹念に絡める。
「ちょ……と、待って。それ、あ…っ、!」
快感を奥から緩やかに引き出されるその感覚に慣れないのか、嵐山が迅の性器を握る度に口元から小さく甘い声が漏れた。同時に、ひくんひくんと軽く呼応するように腰が揺れる。
そうしてある程度集めたじわりと漏れ出た迅の精液を、零さないように迅の後ろのくぼみに塗りつける。迅がイかないように少しずつ少しずつ、慎重に繰り返す。嵐山の中指に十分に精液がまとわりついたことを確認すると、くるりとくぼみの周囲を撫でてから、つぷりと一番太い指を入れ込む。最初が一番厄介なので、じわじわと第二関節まで入ればそのまま付け根までは容易に入った。
「大丈夫そう…だな。もう一本、入れるぞ」
「う、ん」
先ほどのように直接性器をいじられるよりはまだ硬い体内をいじられる方がマシなのか、止んだことにほっとしたような返事が帰って来た。やはりこれ以上、性器を触ると圧し留められなかったらしい。
迅の反応を受けて、嵐山は二本目の指を軽く唾液で濡らして、軽く横に押し広げながら一緒に差し込んだ。やっぱり先ほどよりは幾ばくか狭いが、全く動けない程ではない。圧し潰さないように慎重に中を進む。嵐山の指の形を認識させ馴染ませるように、少しずつばらばらに中で動かして押し広げるのだ。爪を立てないように配慮しながら、迅の身体が揺らぐ部分に重点を置きながら刺激を与える。
これ以上の潤滑油は望めないから、現状でどうにかしなくてはいけない。もう一本いけるか?とやや強引な自覚はあったが、もう急き止められないので入口を何度かくるくると刺激した後に、三本目もぐいっと入れる。「ひっ」と軽く迅の喉を鳴らす声が聞こえた。そうして何とか三本入れたものの、中は隙間なくかなりぎちぎちだった。それさえも嵐山の指を求めるように、うごめいている錯覚に陥る。次第に、じゅくじゅくといやらしい粘着質な水音を立てるようにはなった。だが迅の腹部を軽く押して呼吸を合わせてても、中で動かして疑似的に抜き差しするのは少々厳しかった。いつもより時間をかけてちくちくと大分ほぐしたが、どうも心元ない。
「っ、だめ。きっと…、おれが無理。…イッちゃう」
絶え間ない息を吐き出して、はあはあと荒い呼吸を隠さずに迅は言った。ぎゅっと目をつぶって、口元は安易に閉まらず、うわ言のように無理を繰り返す。額には、ぽつぽつと汗がにじみ出ていた。それでも人差し指を軽く咥えて、背筋を通る快感をやり過ごそうと耐えている。
「迅。いつもより早くないか。どうした?」
ここでやめるというのも今更無理なので、少し顔をこちらに向けさせて尋ねる。
「…だって、嵐山がそんな服着てる…から」
うわずった声で切なげに言われる。
「これ…か?」
今更ながらその執事服を指摘されて少々驚く。もうすっかり馴染んでいると思ったから、動きにくいことの他は忘れていたくらいなのだ。
「本当は…学校を休もうとすれば、…休め…たんだ。でも、折角…嵐山のカッコいい姿を直接見る機会だった…から」
つまり嵐山の執事服を見る為にわざわざ自分はメイド服を着たということか…だから迅も普段より少し興奮しているような様子だった。だが、嵐山とて動きにくいせいもあるのか、余裕がもうなかった。
「迅、すまない。俺もお前の可愛い格好を見て、止められそうにないんだ。ゴムを出してくれないか?」
多少の無理はわかったが、そう焦らされて待てるほど今の迅のあられもない姿にもう我慢は出来そうになかった。嵐山の股間も大分苦しくなっている。折角迅が見たいとは言ったが、もう十分だろう。首元のブラックタイを少し緩めて、ウェストコートの下のボタンをいくつか外し、スラックスから嵐山は自身の性器を取り出した。
「…ん。ちょっと、…身体起こさせて」
迅の言葉を受けて、軽く背を抱いて身を起こさせてあげる。相変わらず肩で息をするをやめてぱおらず少し苦しそうな顔を見せてくれる。その眉間にキスを一つ落とせば、少し寄っていた眉が緩和されたように見えた。
そうしてエプロンスカートのポケットから一つのコンドームを取り出したから嵐山受け取ろうとするが、迅がフィルムの縁を離そうとしない。
「迅?」
いぶかしむ声を出してその名前を呼んだ。
「…服、汚れちゃう…から………これ、おれが…使う。…嵐山は、中で出して?」
「え?」
そう言いながら今持てる精一杯の力で迅は、嵐山の両肩を強く押した。そのまま流れにそって、嵐山は見事に後ろに倒れる。まさかそんなことされると思わず、軽く頭をごちんと床にぶつけてしまった。おかげで寝そべったまま、軽く頭が働かない。多少の痛みに混濁する中で、迅が口でコンドームのフィルムを切っている姿が見えた。そうして、それを自身の震える性器に何とか装着するものの、直接捲くれるように触れることが進むたびに快感に覚えて、悶えているようだった。
「迅。何をするつもりだ?」
これで何とか迅の精液が飛び散ることの保障はされたものの、そのまま嵐山の腰の上に乗っかってきたので、何事かと少し声を荒げた。
「っ、嵐山……じっと、して…て」
震える膝を立てて嵐山の股間にまたがった迅は、そのまま嵐山の性器を固定させて自身の後ろのくぼみに宛がった。そうして、じわりじわりと先端を馴染ませると、ぐっと息を詰めながら少しずつ腰を落としてきたのだった。それはとても辛坊強い事だった。指でもキツかったのに、誇張した嵐山の性器を相手にするにはまだまだ慣らしが足らないはずだ。何とか指を三本突っ込んで広げたものの、普段からすればローションの助けもなく拙いもので、それでも無理やり迅が押し進めようとしている。やはり、力の抜き加減が難しいらしく唇を噛み締めて少しずつずぶずぶと体内に埋め込んでいくのだった。
「迅。腹筋の力を抜くんだ」
余計な力が入らないようにと促す。嵐山が不用意に動けば、それは迅に負担になるということになりそうだから、アドバイスを入れて迅の安定していない足を支えるのがやっとだった。それでも、苦しいらしく呼吸の合間には絶え間なく嘆声があがる。
ようやく嵐山の性器が三分の二ほど埋まったというところだっただろうか。あと少しのところではあったが、膝立ちの限界を迎えたようで、ガクガクと震えていた迅の膝が突然糸が切れたかのように、かくんっと落ちた。
「…ふ、……もぅ…ム………リ…!…あ、………あ、ゥ…んん!!!」
一気に根元まで落下した迅は重力に逆らうことなく、嵐山の性器が迅の体内を縦横無尽に侵食することになった。内壁をえぐるような鋭い衝撃に迅は限界を迎え、スカートの端を持ち上げるようにたくし上げる結果となったその性器がびくん、びくんとコンドームの中で果てて放たれているのが見えた。同時に嵐山にも相当なうねりが訪れたが、余裕が全くなかった迅ほどではなかったので、くっと声は漏らしたものの何とか押しとどまる事が出来た。
「…大丈夫……か?」
がくんと、頭と腕が項垂れた迅に声をかける。かろうじて嵐山の方に倒れ込まなかったことだけでも迅が頑張った結果だろう。一度もイかないで随分と焦らされていたようなものだったから、それを甘受する衝撃も相当なものだったと思う。
「だ、…だいじょぅぶ。でも、ごめん。ちょっと、このままで居て」
射精の余韻で、とろんとした虚ろな瞳を向けながらそう言われた。激動の快楽に溺れ、未だにちょっと焦点が定まっていないようだと。未だがくがくとする足の体勢を立て直しながら、動悸の収まりの終息を待っているようだった。
―――このまましばらくの安寧があると思ったのに、まさかの邪魔が入る音がこの二人だけの空間に鳴り響いた。本来ならば僅かにしか響かない振動音が、地響きのようにこの部屋に静かに鳴り響いたのだった。
「す、すまない。ポケットにスマホを入れっぱなしで」
ちょっと失念していたので嵐山は慌てて声を出す。マナーモードにしているので、さすがに音は鳴り響かないが震える振動だけはどこまでも続く。張り詰めた空気が深々と周囲に広がった。
「それ…何とか…して。ちょ、無理かも」
機械的な震えに迅は、生理的な嫌悪感を示した。確かにわずかな振動ではあったが、スラックスのポケットに入れていた為、位置的にはちょうど迅が乗っかっている場所の真下ということになる。射精後の敏感な今に、不用意なグラインドは邪険だろう。乗っかっている迅ごと少し腰を浮かせた嵐山は、何とか薄いスマートフォンをスラックスから取り出して寝転がったまま手元に手繰り寄せた。そのまま電源を落とそうとしたのだが、つい手が滑って普段の癖で応答のスライドをしてしまった。
『おっ、繋がった。おいっ、嵐山』
「柿崎?」
角度的に相手の名前表示がよく見えなかったのだが、クラスメイトの柿崎からの電話だったようで、馴染みの声が耳に飛び入る。そういえば、迅がメイド服を着ていると話を聞いてから何も言わずに教室を飛び出してしまった。片づけなどはしなくて良いと言われていたとはいえ、随分と時間が経っているから心配されてもおかしくない。
『今、どこにいるんだ?』
「ああ、すまない。ちょっと、他のクラスを見て回っていて…」
言い訳と言うか、嘘をつく。少し前に、他のクラスを見て回りたいと嘆いていたことは確かだったから。
『おまえ、迅のクラスに行ったんだよな。今、迅も一緒か?』
「え、迅?」
びくりしながら、今、性器を挿入したまま馬乗りになっている迅の名前を出されて、微かに震える。
『いや、なんかさ。さっき迅のクラスの月見が来て、嵐山が迅を連れて行ったって言ってたからさ。一緒かなと思って』
「あ、ああ。一緒だ………って、迅。何やってるんだ!」
あろうことにかこちらは今外と電話中だというのに、少し復活したらしい迅はずるりと嵐山の性器を半分だけ引き抜くと、かくんとまた重力に任せて抜き差しをし始めていた。それは随分と乱雑な動きではあったが、踊るように飛び跳ねているようにも見えた。ぐずぐずと勝手にこちらの芯が溶かされていくように感じて、思わず柿崎と電話をしているのに、ぎょっとしてそちらに声を飛ばしてしまう。迅は嵐山が叫んでも止めずに、スカートをはたひらめかせて続けている。それでも涙が薄く目の端に滲むので、かなり無理をしているのはわかった。
『やっぱり、一緒か。わかった。月見には伝えておく。じゃあなっ』
嵐山が迅の名前を出したことで察したらしく、柿崎は手短に通話を切ってくれた。危なかった…今度こそしっかりと電源を切って、スマートフォンを軽く邪魔にならない横へと置いた。
「…だって……嵐山が、直ぐに…電話切らないから」
息をつめてながらも、迅はむくれた顔をしてこちらを煽っている。かまけて欲しかったのだろう。そうして、もじもじと次を望むようにぎゅっとこちらの性器にきつく締め付けを加えられるから、思わずごくりと息を呑んだ。
「悪かった。今度こそ、めいいっぱいするから」
「ん…早く」
嵐山の飛沫がメイド服に飛ばないように、迅はぺろんと両手で膨らむスカートの裾を開いた。それはまるで、この行為を堂々と見せつけているようさえ思えた。
律動に合わせてひらめくまばゆいホワイトブリム。ふんわりと揺らぐパニエ。露出しているのは下半身だけで上半身の着衣の乱れは一切ない状況で、嵐山も迅が望むまま成すがままに揺さぶりをかけたのだった。





そうして、迅のメイド服の汚れは死守されたものの、嵐山の執事服が無残な白濁に汚れると、互いが知るまで…あと………





執 事 と メ イ ド と