attention!
嵐迅で、付き合ってる設定。今更ながら、スマッシュボーダーズネタ捏造。






いつものように嵐山隊の作戦室を訪れた迅は、目の前の光景に目を疑うことになった。

「あ、迅さんだー ラッキー」
「良かったです。迅さんが来たのなら、一先ず安心ですね」
「私も一応考えますけど…迅さんの考えを取り入れるのを検討するのも悪くないかもしれませんね」
「それでは、迅さん。嵐山さんをよろしくお願いします」
「「「「お疲れ様でした」」」」
嵐山隊の隊長を残した隊員の面々が方々に口を揃えて似たようなことを言うと、迅と入れ替わり立ち替わりという形で、隊室から出て行った。

「えっ、ちょっと何?」
まるで事態を飲み込めない迅は、わずかに右往左往する言葉を出しつつも、入口を入って直ぐにあるテーブルにちょっと困った顔をして座っている嵐山を見やった。
そう。最初に迅がこの作戦室に入った違和感。それは、嵐山の頭の上に猫が見事に乗っかっているという現状だった。なんだ、これ。
「迅。来てくれて助かった」
いつもならば恋人である迅と対面すれば直ぐに立ち上がって歩み寄る勢いなのだが、さすがに今日は猫が鎮座しているせいかそれはせずに、反対側にある椅子に同じく座るようにと右手で促されたので、大人しく座る。
「どゆこと?」
対面の椅子に座れば同じ身長の嵐山とは目線が一緒になるから、それはそれで迅は好きなのだが、さすがに今はちょいと頭の上の猫と視線が合うのか?と思ったらそんなことは特になかった。別に猫の目線はこちらへは向いていない。迅の事など、どうでもいいらしい。
「迅のことだから、わかっていて来てくれたんじゃないのか?」
本当はこくりと首を傾げたいのかもしれないが、またも頭の上の猫のせいで正しいリアクションが出来ないらしい嵐山は目線を泳がして見せた。
「いや、これは全然。ちょっと別件で気になる未来が視えたんで来ただけだったから、予想外すぎた」
おかげさまで、最初に嵐山に確認したかった用件が瞬時に吹っ飛んでしまったくらいだった。まあ、それはちょっと気になった程度だったから、後でいいかな…と思えるくらい目の前の状況がぐるぐるしていると言っても過言ではない。
「そうか。ここに来るまでに他の隊員に会わなかったのか?」
迅でも知らないことがあるんだなという顔をしつつも、質問を投げられる。
「うーん。隊員には会わなかったかなぁ。総務の人とかとはすれ違ったけど…」
今日、本部に来た目的は嵐山だけだったので、わざわざ人が多い隊員が集まるエリアを横切らないで嵐山隊の作戦室へ続く最短距離を一直線で来てしまった。今は、先ほど嵐山隊の隊員が退室したのが頷けるくらいの時間帯である。未成年の多いボーダーで特に18歳以下の隊員は早めに帰宅することを推奨されている平日なのだから、隊員とすれ違わなくても別に何の疑問も感じなかったのだ。
「そうか。玉狛にはまだ話が伝わってなかったかもな」
納得するように嵐山がその形の良い顎に軽く右手を持って行くと、頭の上の猫がもぞもぞと動くのが視界に入った。
「で、なにそれ。ていうか、猫…だよね?」
改めての確認だったが、当たり前みたいにその動物の固有名詞を迅は口にして軽く指をさした。何度瞬きをしても見間違いをするわけもなく猫であると物体認識はしていたが、嵐山の頭の上にいる必要性をまるで感じないので疑問形になってしまったのだ。正直、迅はわりと猫をよく見る方だった。そもそも防衛任務をしていると、人間がいないからと警戒地域内で猫が人のいなくなった住宅の隅をねぐらにしているという姿を見かけるのはいつものことなのだ。同じペットでも野良犬は飼い主がきちんと登録していたり、注射の問題があったりするので、パトロール隊員が保護したりすることも多いのだが、野良猫は犬に比べたら自由だしそもそも体格が小さいのですばしこく、なかなか捕獲出来ないという状況だった。まさに警戒区域は猫にとって絶好のすみかなのだった。今、嵐山の頭の上に堂々とふんぞりかえっているのは、そんな野良猫に迅には見えたのだ。
「ああ、この猫はトリオンで出来ているんだ」
軽く頭の上の猫を示して、嵐山は真顔で言った。
「もしかしてトリオン兵?」
動物型のトリオンと聞いて、真っ先に思い浮かんだのがそれだった。三門市を襲うトリオン兵のだいたいが動物型をしており、似ている動物の名前で自分たちも呼んでいる。それは関連する名前の方が覚えやすいという理由があるのだが、だから新型トリオン兵が登場すると何の動物に似ているかな…と迅とて割と考えてしまう方だった。
「いや、冬島さんが作ったから違うな。扱い的にはオプショントリガーになってる」
「えっ!オプショントリガーに猫?それ一体、何に使うの???」
ますます意味がわからなくなって迅の頭の中にハテナマークが増える。オプショントリガーといえば、近年のトリガー開発の花型である。アタッカー・ガンナー・スナイパーのそれぞれ三つの基本トリガーはここ数年確立を得て長い。その不動の均衡を揺るがすのは新たな基本トリガーではなく、次々と開発される新しい多彩なオプショントリガーなのだった。その華々しいオプショントリガーの一つに、この猫が?と思うと迅の頭が混乱するのも無理はなかった。
「他のオプショントリガーのような有用なトリガーじゃなくて、逆かな。訓練の為のウェイトとして作られたんだ」
嵐山が言うように、ズシリと重みを感じさせるように、頭の上の猫はその場を座りなおしている。確かに重そうだ…体格的に完全な成猫というわけではないのだろうが、頭からはみ出ないギリギリの大きさでピタっと居座っている。これがトリガーだというのならば、今嵐山はトリオン体であろうから、生身よりは猫のウェイトの負荷はマシなのかもしれないが。それに一応、貴重な枠が一つ消費されるデメリットも存在する。
「その発想はなかったな。ていうか、冬島さんって猫好きだったっけ?」
ここでぽんっと開発者の顔が浮かぶ。迅とて逐一他人の趣味を把握しているわけではなかったが、そんなイメージはなかった。ウェイトとして作るのなら納得だが、リアルに猫型にする必要性があるのかと疑問が沸くのは当然だ。
「冬島さんじゃなくて、当真が猫好きと聞いた」
ここで嵐山が模範解答をよどみなくくれる。驚きすぎて隊員まで気が廻らなかったが、そういえば当真はよく猫のように本部で昼寝をしていたなと迅は思い出す。
「だからって…しかし、これ凄い出来だな」
いくらトリオンが自由自在だとはいえ、迅とて初見は本物の猫と見間違えたくらいだった。圧倒的存在感として、嵐山の頭の上にべたりと張り付いているが、どこかそわそわしているようにも見える。なかなか生々しい。
「その猫には、モデルがいるらしい。俺も賢から聞いた話だから詳しくは知らないんだが、当真が狙撃訓練の時にたまたまそのモデルの猫を頭の上に乗せて狙撃をしたらしく、面白いからと猫の取り合いになったらしい。その猫は気まぐれで全員の頭の上に乗ってくれるわけでもなかったから、ウェイトという名目で冬島さんが作ったと聞いた」
そこまで詳細に事情を聞いて、迅とて思い当る先があった。後輩の雨取千佳の友人がいつも猫を連れていることをだ。そうなれば、猫好きの当真が興味津々となるのは当然のことなのかもしれない。それにしても冬島の気合いが凄いなと思った。
「事情はわかったけど、どうして嵐山が今その猫を乗せてるの?」
いくら自室にも近い作戦室とはいえ、嵐山が遊びのように猫を頭の上に乗せ続けている理由がわからなかった。この猫がオプショントリガーということは、具現化しているだけでトリオンを消費しているということで、生真面目な嵐山が訓練でもないのにトリオンを無駄遣いするタイプには思えなかったのだ。
「実は今、この猫を乗せてチーム戦をするのが流行っているんだ」
「へーそうなんだ。まあ新しいトリガーが開発されるとみんな最初は試したがるからね」
ふむふむと納得の声を出す。人間の習性というか、基本ボーダーの人間はだいたい新しいもの好きなので、あまり馴染みのないポディションのオプショントリガーでも、相手がランク戦で使って来る可能性があるということで、一度は試してみたりする。この猫は有用性がないのだが、まあ見た目が可愛いと言って大方間違いないこともあるので、本部で流行るのも無理はなかった。戦闘時にはどんな時にも冷静沈着にを求められているわけで、さすがに戦闘中に突然猫が到来するって事はないだろうが、単なるトレーニング的なウェイトよりは学生の多いボーダーには受け入れやすいだろう。
「それで、うちの隊も全員猫を乗せてチーム戦に挑んでいるんだがな。普段より勝率が悪くて…それでどうしたものかとみんなで相談してたんだ」
さり気なくちゃっかり嵐山隊全員に猫が乗っかっているイメージをくれた嵐山だったが、本人はいたって真面目だった。
「あー、それをおれが邪魔しちゃったわけね」
ここまで話してようやく嵐山隊の面々のあの反応に合致がいった。
「いや、違うぞ。迅なら何か良い考えをくれるんじゃないかと、みんな期待して俺に任せてくれたんだ。正直、時間も時間だし、話も行き詰っていたからな」
どうやら相談を持ち掛けたいらしく、嵐山は迅に向き直った。真剣な顔なのに、頭の上にやっぱりいるのは立派なお猫様なので、そのアンバランスさにどうも迅はまだ慣れない。
「そう言われてもな…相手チームも頭に猫乗せてるんでしょ?条件一緒じゃない?」
誰が相手しているのか知らないが…いや、相手に寄っては確実に迅は今この場で想像で笑える。嵐山隊の面々は…まあ贔屓目に見ても猫が一緒でもまだ違和感が薄くなるが、中学生などの若い隊員ならともかく、どう考えてもそんな可愛らしい生物を頭の上にオプションとして乗せて似合わない隊員はいくばくか存在するから。
「そう…なんだが、この猫少し自我があるみたいでな」
嵐山が言うように確かに猫は最初本物の猫と見間違えたのに相応しいがごとく、先ほどから嵐山の頭の上でいくばくかのリアクションを起こしていた。さすがに本物の猫ならばずっと人間の頭の上に居続けるなんてことはないんだろうが、そこはオプショントリガーとしての最後の砦と言ったところだろうか。そのあたりは使用者の命に従っているようだ。
「もしかして、レプリカ先生みたいに多目的トリオン兵を目指して、冬島さん。作ったの?」
トリオンで出来た自我物体として今一番に思い当った相手を迅は口に出す。
「あそこまで高度なモノはいくら冬島さんでも簡単には作れないだろう。モデルの猫はそれなりに人慣れしているらしいが」
いくら開発部上がりといえ、冬島も今は防衛隊員の隊長で色々と忙しいから、どちらかというと片手間で作ったに違いない。まあ、当人としてはニッチ的需要を満たすため程度の気持ちで作ったのかもしれないが、思わず本部で流行ってしまったということだろうか。
「おれ、モデルの猫見た事あるけど…こういう柄じゃなかったよね?じゃあ、隊員によって猫も違うってこと?」
今、嵐山の頭の上に乗っかっているのは、白地に黒ブチのいかにも日本猫という感じの柄だった。そこの首元には首輪の代わりのように可愛らしいリボンがあしらえてある。その柄は、嵐山隊の隊服とお揃いのようだった。
「基本はモデルの猫をベースにしているらしいが、一応猫の柄は隊に寄って違うみたいだな」
ということは、血統書付きのお猫様とかはいないのかと迅も納得する。迅も動物を飼ってるわけでもないから興味が薄く、そこらへんの猫見ても全部同じ顔に見えるわけだが。
「隊ごとか…、冬島さんもマメだなぁ」
さすが遊び心にあふれているというか、開発部ってどこかお茶目な部分があるから、冬島もきっちり引きずっているなと思う。そして、やるからには本気出すタイプなのだろうが。
「何なら、迅も起動してみないか?オプショントリガーの予備チップをセットすれば、冬島さんが迅にどういう設定したかわかるぞ」
「確かに興味ある…かな。ちょっと、セットしてみるよ。貸してくれる?」
さすがにこの部屋に入ってからずっーと嵐山の猫と対峙していると、自分のも気になってしまうものであったから、迅はありがたくその提案を受け入れることにした。
迅の言葉を受けてようやく立ち上がった嵐山は、ちょっと待っていてくれと声をかけてそのまま奥の部屋へと向かったので、迅は椅子に座ったまま待つ。しかしホント凄いな、あの猫。嵐山が立ち上がってもそれほど驚くそぶりを見せずに、ごろごろと動いただけで安定位置を確保したらしく、がっちりと乗っかったままでいる。愕きのくつろぎよう。嵐山もトリオン体だから気にしていないのか、とても自然に見えた。しばらくするとトリガーチップを管理するケースを持ってきた嵐山がこちらに戻って来て、収められた一つのチップを迅に示した。猫を乗せている嵐山にチップを脱着する精密な作業に従事させることは出来ないから、迅は付随する専用の工具で自らのノーマルトリガーを開くと空いている場所の一つに、そのチップをセットしたのだった。よしっと。

「トリガーオン」
いつものように換装する言葉をかける。迅は基本隊服で行動しているため、服装設定は特にかけていないので、別に見た目は変わらない。だが、いつものようにスコーピオンではなくオプションの猫だけを発動させると、想像通りに頭の上に重みを感じた。
「割と重い」
それが率直な感想だった。経緯はともかくとしても、本部への申請はウェイトとしてのオプショントリガー。それが何の因果かちょっと猫型になっただけなので、重さを感じるのは当然だったのかもしれない。
「迅、可愛いな」
いつも、まんまるとした瞳を向ける嵐山が少し目を細めてこちらに言った。
「えっ、猫が?」
「猫も可愛いが、猫を乗せてる迅はもっと可愛い。いや、迅は猫がいなくても十分可愛いんだが」
ほうっと、こちらを見つめて惚れ気を語り始める嵐山がとても恥ずかしかった。これ、かなり素で言っているから余計に手が追えない。
「ちょっ…、今頭動かせないんだから、可愛いとか連呼しないで。ていうか、おれ見えないんだけど」
頭の安定性がないところでわずかに赤面が始まってしまうから、気恥ずかしさを見られないように右手で顔を隠したくなる。
そうしてようやく迅も気が付いたのだが、自分の頭の上にいるとどんな猫だか迅自身からは見えない。不用意に頭を動かすことも出来ないから、目線を上にやってもいくばくかの限界がある。
「ああ、すまなかった。みんなそういう反応するから、綾辻が鏡を置いていってくれたんだ」
そう言いながら、テーブルの端に折りたたんで置かれていたスタンド式の女の子らしい花柄の模様が入った鏡を迅の目の前に差し出してくれた。角度を合わせると、その姿がようやく視界に入る。
「あー、ホントだ。おれの猫は黒猫…かな?」
また随分と日本猫らしい猫だった。モデルが一緒せいか、嵐山の猫と同じ表情をしているし、たしっとした存在感を示して頭の上から梃子でも動かない感があった。さすが居座る気満々であるのは気合いがあるなと、トリオンだけどね。
「リボンはおそらく…玉狛第一と一緒だと思う」
検討をつけてくれながら嵐山がしゃべる。嵐山は他の隊の猫も見ているわけだから、特徴的に思い当る節があるのだろう。
「あー、おれは隊組んでないから、小南たちと一緒か。こいつら、雄かな。雌かな。嵐山、ちょっとこっち来て」
自分ではまだ慣れていないので下手に動くのはどうかと思い、嵐山を近くに呼ぶことにした。ちょいちょいっと右手を上下に振って呼びつける。
「言われてみると性別を気にしたことはなかったが…どうするんだ?」
嵐山はモデルの猫の性別も知らないらしく、不思議そうに声を出す。
「ちょっと、こうやって…」
近づいてきた嵐山の頭の横に迅は右手を伸ばして、まだら模様になっている猫の尻尾の根元に触れようとした。が。
「いてっ」
今までそう機敏に動かなかった猫だったから、油断していた。迅が尻尾に触る前に何を察したのか、大きくスイングさせた立派な尻尾で、その右手をぱしりっと叩いたのだ。ぶわっと尻尾の毛が逆立つのを確認したのは後のこと。トリオン体であるとはいえ柔らかな毛に覆われている尻尾の力など、そうたいした事はないのだが、何となく痛さよりその反動に驚いて声が出てしまった。
「何をやってるんだ…」
ちょっと驚いたかのように、こちらを見て言われた。
「いや、後ろ見れば性別わかるかなって」
さすがに自分の頭の上の猫を乗せたまま確認するのは難しいから、嵐山ので挑戦しようと思ったが、残念な結果に終わる。やはり気に入らなかったらしく、あちらの猫はぶすりとした表情を見せてくれる。
「俺の猫にむやみに触るのはやめておいた方がいいぞ。どうやら、他の猫より落ち着きがないみたいだから」
そう言われるように、嵐山の猫は尻尾の位置を良い按排に直しているようにさえ見えた。さすが、自由きままだから…おさわり禁止か。そういえば、猫パンチより猫キックの方がヤバいという話くらいは聞いた事ある。げしげしとされたら、それなりの威力だろう。
「そう…なの?ああ、そういえばおれの猫あんまり動かないな」
初めてトリガーオンして呼び出したから緊張でもしているのかと思いきや、迅の頭の上の猫はずっと大人しくしていた。生きてる…よね?
「一応、少しは自我があるらしいから、猫にも居心地の良し悪しがある…みたいなんだ。迅は俺と同じ髪型だから反応も一緒かなと思ったんだが…」
ウェイトとして、ずっと頭の上に乗っているということは確かに居心地の問題があるのだろうと、納得に少し迅は頷く。嵐山と迅は、対になる髪型だった。そういう部分もあってか、嵐山隊の隊員が迅の蓬莱を歓迎したという要因もあるんだろう。
「てことは、髪型によって猫の対応が違うって予想なの?」
「ああ。うちの隊だと、多分賢の猫が一番馴染んでいるかな。ただ、もちろん戦闘となると動くことになるから、アクロバティックツインスナイプがうまくいかない」
容易にその様子が想像できて、申し訳ないが迅はちょっと笑った。元々この猫は当真が頭の上に乗せていたということだろうが、スナイパーは狙撃をするときに基本的には頭が安定してある筈なのである。だが、佐鳥のアクロバティックが成功するには簡単な重さなわけがなかった。
「猫が乗りやすい髪型?ってあんまピンとこないんだけど、例えば時枝ってストレートだったよね?」
あんまり他人のしかも男の髪型なんて気にしないが、先ほどすれ違ったストレートの髪型が過ぎって、思い浮かんだ。
「ああ。充の髪はちょっとストレート過ぎて、猫にとってはしがみつきにくいらしい。おかげで、気にしていつもよりサポートに回るのが少し遅くなってな」
「あー、そういうものか。でも、時枝って猫好きじゃなったっけ?残念だね」
多少くせっ毛の気もある迅からするとパーマではなく素でアレということは羨ましくもあったが、思わぬ問題も出てくるものだなと感じた。折角、当真と同じく猫との相性がいいというのに、まさかのリーゼントの方が安定とは。この分だと、スナイパーナンバー2の奈良坂も似たような毛質だし駄目なのでは?と思う。それに奈良坂は精密射撃を得意としていた筈で、感覚派である当真とは違い、やっぱり猫がいたら駄目そうだなとも思う。
「冬島さんが意図したのかはわからないが、うちの隊の猫は充が飼っている猫と柄が似ているらしいから、相性は良いみたいなんだが」
「んーと。木虎は、猫飼ってなかったよな?」
「そうなんだが、やっぱり木虎も女の子だからな。猫が頭に乗っかっているとどうも集中力が欠けるというか、あまり露骨には出さないが…見えないところで物凄く猫を可愛がってるのを隠したりしてる」
猫好きな隊員を狙い撃ちかと思いきや、思わぬところで効果を発揮しているようだった。さすがツンデレは猫に対してもツンデレかと。そして感覚派が強いかと思いきや、案外精神が試されている。まさか本部や冬島がそこまで考慮して、このウェイトになったとはあまり思わないが。
「あー、それで猫有りだと嵐山隊の勝率がダメダメってことね。それで肝心の嵐山は?動物、好きでしょ」
ご当人が目の前にいるからそう聞くのは当たり前で。それに嵐山の場合、嫌いなものなんてない筈だと記憶してる。家族だとか動物だとかみんなに優しいお兄さんやっているのだから。
「俺はどちらかというと犬飼ってるから、猫がいても動揺するってことはそんなにないんだが。どうしてか、俺の猫は落ち着きがなくてよく動くんだ。もしかして犬の匂いが染みついているから嫌がっているのかな」
そう示唆するように、さっきから嵐山の猫は何やらもぞもぞと動いている。確かに迅の猫とは大違いだ。尻尾を動かさないと死ぬんですか?的に呼吸と同じく動いているのだ。そんな様子の猫とは対照的に、嵐山は真面目に少し隊服の匂いを嗅ごうとしているが、トリオン体がそこまで再現するとは思えなかった。
「それはないんじゃない?嵐山の清潔感に勝るものなんてないし。しっかし、それで嵐山も戦闘に集中できないか…」
だから訓練じゃなくても、猫を出しっぱなしにして慣らしてるのかと合点した。
「それで、迅のサイドエフェクトは猫には有効か?と思って」
そうして、いくばくかの迅を頼る声が出た。猫の気持ちを知りたいということだろうか。
「残念。猫相手はわかんないや。というか、若干おれ動物苦手かも。人間相手ならサイドエフェクト通じるって余裕もあるけど、動物はイマイチ未来の行動がわかんないんだよね。そこは陽太郎の領分かな」
動物相手ということで、迅はこの場にいない玉狛のお子さまの名前を出した。
「確か…動物と会話出来るサイドエフェクトを持ってるんだっけ?」
おぼろげながらも、嵐山は言った。確かに、玉狛を訪れても堂々と発揮するところを見せるわけでもないからいくらボーダーで馴染み深いサイドエフェクトとはいえ、ピンとこなかったのだろう。
「でも、意志疎通できるだけ…なんだよね。ホント。もう少し陽太郎が大きくなれば、うまく使いこなせるかもしれないけど。それに動物の感性って人間と違ってそこまで多彩じゃないらしいから、ざっくばらんにしかわかんないみたいだし」
子供の言っていることだから、どこまでが本当かは知らないが陽太郎曰く他の動物は人間ほどボキャブラリーがあるわけではないようだ。しかし現状、玉狛で飼われているカピパラである雷神丸とのやりとりの様子を見る限り、あまり希望を持たない方がいい気がした。
「この猫は本当に生きているわけじゃなくて、トリオンで出来ているしな。確かに微妙だ…」
サイドエフェクト自体がトリオンに関連しているおかげで、迅のサイドエフェクトはトリオン体である人間相手にも変わりなく反応することが出来るが、確かに人が作ったトリオン動物相手で陽太郎のサイドエフェクトが発動する可能性は低く感じた。
「そういえば、一応俺だけじゃなくて太刀川さんの猫も結構動くらしい」
何かのヒントになるかもしれないと思ったのか。嵐山は突然、一つ年上の太刀川の名前を出して来た。
「えっ、太刀川さんと嵐山の髪型に共通点なくない?」
どこをどう見てもまるで違うと、迅は驚いた声を隠さずに出した。はてなと考えるが、逆に共通点なさ過ぎて困るくらいだ。
「だから、俺も猫が動き回る見当がつかないんだ」
猫の身体からすれば狭いと言っても過言でない嵐山の頭の上で、相変わらずどこか落ち着かなくそわそわとした様子を見せ続けている。
「ふーん。おれの猫はずっと大人しいのかな…」
そろそろ首の安定も慣れてきた感があるので、迅もチャレンジしてみようと思った。試しに首を左右にこてりと倒してみるが。
「いでででで」
さすがの猫もバランスが悪くなったことに顔をしかめたのか、迅の髪の中に爪を立てられた。頭の中だなんて普段、シャンプーするときに自分が触る程度だから、力の加減が効いていない猫の爪が立たれると急所をつかれている感がある。それに頭にかかる負荷も相当なものだ。直ぐに爪を立てられたから、あわてて迅も頭の位置を真正面に戻したが、猫の重みでそのまま首がぐぎっと回るかと思った。
「動くなら痛覚設定をもう少し落とした方がいいぞ」
ありがたくも警告をもらう。痛覚設定はどうにかなったとしても、ウェイトとしての猫の存在はどうにもならないから、まあよく考えるとうまく出来ている。
「…これで本当にうまく戦闘の立ち回りなんて出来るの?」
思った以上の厄介を感じて重い言葉が出る。まあその為に作られたんだが、枷としての有用性を思い知った。ひたっとひっつく、ずしりとした肉球はなかなかのものだ。心なしか先ほどより重みが増した気さえする。
「太刀川さんは猫が暴れるから難しそうにしているが、風間さんは通常通りに動いているぞ」
「えっ、風間さんの動きめっちゃ素早いのにすごいなー まさか髪型が有利?」
アタッカーの中でもアクション激しい隊員の名前をあげられて、素直に驚いた。佐鳥みたいにスナイパーなのにアクロバティックを披露する隊員は基本いなくて、大体そういうのはアタッカーの役目なのだ。
「いや、風間さんの髪は短いから猫にとってもそんなに居心地よくないらしく、あまり良い関係を築いてはいないらしい…でも、相手も不自由な思いをしているのだからこちらが我慢するのは道理だって聞いた」
「さすが、風間さん…」
猫相手にもイーブンな男前を見せつけてくれた。さすが趣味、自己鍛錬。自己鍛錬組にとってこのウェイトはただの遊びではなく案外マジなのかもしれない。
「俺もそう思いたいところなんだが、どうも猫がジタバタしてな。やっぱり俺は髪型を変えた方がいいんだろうか…」
なかなか上手くいかないものだと、嵐山は困った顔を継続された。上の猫はそれを誇示するかのように、相変わらず前足をふみふみしたりしているのが、たちが悪い。
「うーん。そうだなぁ…じゃあさ。おれと猫乗せて戦ってみて、負けた方が髪型変えてみるってどう?猫が良い感じになるように」
嵐山が悪いわけではないのに彼だけがリスクを背負うのがどうも釈然としてみなかったので、提案してみる。嵐山は広報をやってるから許可なく素の髪型は変えられないだろうが、小南のようにトリオン体の時だけ訓練で髪型変えるのなら別に問題ないだろう。それこそアフロだとかモヒカンだとかの神の啓示はだめだろうが、さすがに。
「いいのか?」
「うん。ていうか、俺もウェイト乗せて訓練してみたいし。というか、これがここに来たの。元々嵐山と訓練したいからだったし」
都合よかったと、その事情を話す。
「そういえば、俺の相談ばかりしてしまったな。迅は、どうして俺と訓練したいんだ?」
何かと忙しい嵐山とはいえ、己の時間が開いていれば基本的に何でも受け入れている。だが、わざわざそのためだけに迅が本部に来たこと、疑問に思ったのだろう。
「うーん。一応、未来で視たからちょっと気になって。まあ、戦えばわかるかなぁと思って」
それは嘘ではなかったが、迅の中でもまだ不確定な部分も視えたので、-んに考えるくらいなら有言実行するに越したことはないと思ったのだ。
「そうか。じゃあ、折角だから一戦してみよう」
そう言う嵐山の頭の上で、猫は未だにジタバタしていた。

入室前にデフォルトのトレーニングルームの設定を確認する。元々仮想戦闘モードはトリオン無限だから、猫を乗せていても消費自体は問題ない。もちろん重さはそのままだったが、さすがウェイト。
一体一の対峙から、開始の自動アナウンスが出ると迅は馴染みのスコーピオンを直ぐに具現化させた。自身が開発したわけだし、小回りが利くからやはり重宝する。だが、今回は切り込むより先に迅は少し嵐山から一先ず距離をおいた。やはりウェイトありだと勝手がよくわからないので、ひとまず様子をみようと決め込んだのだ。嵐山の方はもう何度か猫を乗せて戦っているので多少は慣れているらしく、構えたアサルトライフルの乱射をけん制代わりにこちらに仕掛けた。銃撃のリバウンドは嵐山の身体を伝わり、その上の猫にも振動を与えるらしく、先ほどよりさすがに激しく尻尾を振るっているように見えた。それでも単純なアタッカーの方がアクション激しいから、全身で動くよりは銃撃を選択する方が幾分マシなのだろう。迅とて、嵐山の散弾をかわしているのだが、いつものように身体を捻ったりすると猫が必死に頭にしがみつくのでなかなかうまくいかない。迅の基本戦術はサイドエフェクトによる回避を前提にして、その隙に切り込むことで成り立っている。猫を乗せればやはり頭を使うサイドエフェクトの集中力は切れるし、何より動きに普段のような機敏さを求めることはできないわけで、かなり動きを制限される気がする。それでも迅の頭の上の猫はずっしりとのっかっているだけで、嵐山の猫のようにむやみやたらと変に動かないだけいいのかもしれないが。だがこれは、長期戦すると迅の方が経験的に無理だなと悟った。一瞬だけではないが、一アクションくらいは猫と自分も我慢をして行動して決めた方がいいと判断したのだ。
「よしっと」
迅は平行を保っていた身体から、ぐっとブーツのつま先を踏み込んで、嵐山との距離を積めた。向こうは今、中距離中心なのでこちらとしては一気にアタッカー有利の間合いを得たい。銃撃の隙間を未来視で読みとり、駆け抜けていく。走ると猫の重みという振動が普段より重くのしかかるが、仕方ない。迅が急速に接近を迫ってきたところで、嵐山も左手でスコーピオンを発動した。さすがに迅の方が幾ばくか対応早く、嵐山の受け払いはバランスが悪いものになった。ガンッと受け太刀をする角度も嵐山の方が若干、分が悪い。そのままでは押し切られると判断したのか、嵐山はそのまま迅のスコーピオンの刃をサイドに流した。がくりと迅の体重の比重がそちら側に流される。思い切り身体の重心を外すと、頭の上の猫がずり落ちそうにぶらんと下半身が頭から落ちたのだ。
「ヤバ…」
別に猫が落ちたらゲームオーバーということではないが、危機を感じるのは違いないわけで、思わず声を出すが、それでもこれから先の嵐山の動きは未来視で確認できたから、迅は素早く身をあげた。避けなくてはいけない。
未来視通り、嵐山は態勢の崩れた迅から素早くテレポートを発動させて少し後方に距離を取った。まるでジャンプしたみたいに弧を描くように宙に浮く。やはり生粋のアタッカーである迅相手に猫を乗せてスコーピオンで挑むのは勝機がないと感じたからだろうか。そのまま空からの角度をつけて、アサルトライフルを直撃させるつもりだと迅には視えていた。視えていたのに…
「あ…」
顔をあげて、嵐山の姿を認識したときに、それに気がついてしまったのだ。
そして、次の瞬間には迅の胸に集中砲火された銃撃が直撃していた。瞬く間にトリオンがだだ漏れして、そこで嵐山の勝利が確定した。

「どうしたんだ、迅。らしくなかったな」
一戦の切りがつくと、瞬く間にトリオン体が修復されて元通りになる。嵐山は、その場でしばらく考えむように尻餅をついたまま迅の腕を引っ張って立ち上げてさせてくれた。
「あ、いや。いろいろとすっきりして」
ようやく腑に落ちたというか、どうも微妙な反応を返してしまう。
「やっぱり猫が乗っていると、いろいろ難しいか?」
何戦かこのウェイトを乗せて戦いをした嵐山も、この戦いの反応に慣れているらしく、そんな質問が飛ぶ。
「えと、単純にそうじゃなくて………」
確かに猫がいると、思うような戦いが出来ないということはこの身を持って体感することが出来た。それは、もう。今の迅の頭にはその大体想定していた現実は受け入れられたのだが、それ以外の考えがぽわんとあり続けていたのだった。それこそ今猫を頭に乗せていなかったら、照れ隠しに少し頭をかきたいくらいという感じの。
「何かわかったのか?」
「うん、えーと。実は…そもそも嵐山と戦いたかったのは、おれがハチの巣にされる未来視か見えたからで」
目的も終えたことだしと、ここの来た最初の理由を迅は語り始めた。
「迅がハチの巣?珍しいな」
自分でやっておきなから、嵐山はわりとさらりと言った。確かに言う通り、迅にはサイドエフェクトがあるから、確かに銃撃を全弾食らうっていう事は滅多にない。それでも先ほどの嵐山は、わりと銃口を絞ってピンポイントに迅のトリオン供給機関である胸部を狙ったわけだが。
「自分がハチの巣になる未来はわかってたんだけど、どうも相手の顔がわかんなくて、でもまあ嵐山かなぁと」
ミドルレンジで銃撃する隊員は限られてるし、本拠地が玉狛でふらふらしている迅が対戦する相手なんて、わりと限られているから、そのあたりの見当は見事に当たったことになる。まあ、一応惚れた弱みだとかそういうのは戦闘に持ち込まないようにしているとはいえ、それは迅の気持ちの中だけに存在しているものであり、実際にそう身体が動くのは別問題という部分もある。
「でも、相手が俺だったとしても、無理に当たる必要はないだろ?というか、いつもの迅なら避けられたと思うが」
もしかしたら嵐山としてはそこまで決定打として撃ち込んだわけでもなかったのかもしれない。バックステップ中のけん制にも思える一撃だったから、嵐山としてもあんなにモロに迅が食らうとは思わなかったんだろう。
「おれも避けるつもりだったんだけど、猫がさ」
言い訳がましくなるので、あまり大きな声では言いたくなくてじゃ巻口ごもる。
「その猫がどうかしたか?」
迅の頭を軽く指差して嵐山は尋ねる。迅の視界からは見えないが、相変わらずずっしりどすんっと構えているのは頭の上の重みでわかる相手だった。
「おれの猫じゃなくて嵐山の猫が原因。わかっちゃったというか…嵐山の髪ってなんか鳥の羽根みたいにふわふわしてるだろ?だから、きっと猫はじゃれついているんだと思って、それに気を取られてたら……避けるの忘れてた」
嵐山が先ほど攻撃の為に、ふわりと浮遊したときに迅には確かにそう見えたのだ。猫の生態なんて詳しく迅が知るわけでもなかったが、猫と鳥の基本関係ぐらいは子供でも捉えているわけで、事実今も嵐山の頭の上の猫はペシペシと髪の先を叩いている。だから、いつも逐一ジタバタ落ち着かずにいたのだろう。
「なるほど。それをおれが暴れているって勘違いしたわけか」
どこか納得いったらしく、嵐山も迅に習い感嘆の息を漏らす。じゃあ、太刀川の猫はどうして暴れるのかもしかしてと迅は一つの可能性が浮かんだが、そちらは目撃したわけでもないから確定したわけでもないし、本人の髪型という矜持もあるだろうからと、一つ押し黙った。
「きっと、その猫は嵐山と遊んで欲しかったんだよ」
オプショントリガーを尊重するだなんて難しい事あまり考えないが、多少なりとも自我があるなら仕方ない。項目としてはウェイト扱いであるが、嵐山隊の新たな守る仲間が増えたってことを考えれば、今後の戦闘でよりよく付き合えるのではないかなと感じた。まあ気性がやや荒いのは、嵐山が自由にさせているから調子に乗っているのかもしれないとは思うが。
「じゃあ、俺が構ってやればいいのか?」
頭の上に乗っている存在にかまけるなんて、位置的に大変という事実はあるのだが、それでも嵐山は自分が出来うることならばやろうという気持ちがあるようだった。
「えーと、しなくていい」
ちょっと即答しすぎたかもしれないとは思ったけど。
「どうしてだ?」
早速、頭の上の猫に触ろうとしている嵐山の伸びた手を止めるように言ったので、直ぐに疑問は飛んだ。
「だって、その猫。きっと嵐山に恋してる」
突飛にも思える発言だと自覚はあるし、実際多分ぶすっとした口で言ってしまった。でも、迅にはそう見えたんだから仕方ない。
「は?何を根拠に?」
やっぱりこういう反応をすると思っていた。迅の言い方も決して褒められたものではないとはわかっているが、それ以上に嵐山は他人から向けられる好意に疎いから困る。それが彼の良いところでもあるから、迅はさらに困るのだ。
「根拠なんてない。でもおれにはわかるの!だっておれも嵐山を好きなんだから」
説明出来ない気持ちを言葉に出すのは、難しかった。しかしあの一体感からの満足顔には、やられたなって感じたのだ。
「迅が言うなら、そうなのかもしれないな。しかし、猫に嫉妬してくれたんだな」
こういう台詞を赤面全くなくストレートに発するから、誰からも好かれすぎるのだ。そして今回は猫相手だ。あれこれ勘ぐってしまう迅の方が恥ずかしくなる。
「言わないでよ。自覚あるけど…」
猫相手に心が狭いとはわかっているけど、嵐山にじゃれつく猫が、どことなくあざとい感じに思えたのだ。これがまさかの同族嫌悪かと。それに、おあつらえ向きに、猫の左ふとももににはハートマーク柄まであるし。今もどこか、ゆらゆらと揺れながら小生意気な顔をしているようにさえ思える。そうだ、この嵐山を占領されている感がまるで釈然としない。やはり雄なのか雌なのか確認しておけばよかった。嵐山はおれのだからと一言伝えたい。
「えーと、そうだ。おれが負けちゃったわけだし、髪型何に変えればいいかな。あんまり奇抜なのは無理だけど」
ちょっと焦りながら、話題を切り替える。結局、嵐山と一緒の髪型でも猫の反応は違うわけで、あの鳥の羽根みたいなの再現できるほど細かく設定出来たかなぁと迅は少し考え始める。
「そうだな…別に無理に変えなくてもいいかな。今のままなら、おデコにキスしやすいし」
ふわりと揺れて、こちらに手を伸ばした嵐山は、迅の耳元の髪に一房触れてから軽く触れるだけのフレンチキスをその額に施した。それはあまりにもさり気ない仕草に思えたけど。
「えっと、もしかして猫に見せつけてる?」
猫の額に対抗するような完全な牽制に、ドキリとしながらも言ってしまう。
「そうだな。迅の猫が、迅に恋したら困るからな」
再び接近する二人。唇が触れる距離まで近づけば、互いの猫にもいい迷惑だ。

頭の上の二匹の猫は苦しそうに、にぁあと鳴いたような気さえしたのだった。





オ プ シ ョ ン ト リ ガ ー 猫