attention!
嵐迅で、太刀川さん視点。迅さんが嵐山さんを好きすぎてファンしてる話。









その日、太刀川慶は帰宅して珍しく家のポストを見た。
正直、普段はまとまったら回収する程度なのでスルーしている。それは、太刀川宛てに届くものがさして重要なものなどないからだ。だが、今日さすがに気になったのはポストから封筒がはみ出ていたからで、嫌でも目につく。実に数日ぶりの帰宅だった。普段の寝起きはボーダー本部に入り浸っているので、単に着替えを取りに来ただけという。ここ数日、雨などは降っていないから別にはみ出ていても問題はなかっただろうが、真っ赤な封筒だなんて珍しい。なかなか圧倒的な存在感なので、随分とでかいダイレクトメールだなと思いながら太刀川はポストから引っこ抜いた。ついでに他の郵便物で多少有益そうなものは、公共料金の口座振替領収書などだけのようだ。
とりあえず冷蔵庫に何か飲み物を入れておかなかったかと確認する為にリビングに向かう。乱雑にテーブルの上に郵便物たちを置くと、その一際目立つ赤い封筒がきちんと視界に入った。そうしてその封筒に印刷されているマークには見覚えがありすぎた。
「へ?ボーダーから??」
ほぼ毎日見ているから見間違えるわけもない。A4サイズの封筒の右下の刻印は、紛れもなく自分が所属するボーダーのマークだ。基本、ボーダーからの連絡事項は支給されている携帯端末に届く。重要書類やそれこそ保護者の同意が必要な書面も、最低でも太刀川隊の作戦室に届く。急ぎなら誰かが届けてくれる。だからこそ、なんでだと思うのも無理はないだろう。きちんと手に取り、その送り先を見るとそこにはやはり界境防衛機関ボーダーと正式名称が書かれている。住所もうろ覚えな記憶だが、もちろん間違っていない。再び、なぜ自宅に?と考えていても疑問が解決するわけでもない。とりあえずハサミが近くに思いつかなかったので指で封筒を、ばりっと開いた。
「なんだこりゃ」
中の書類を怪訝そうに見る太刀川の後ろで、ピンポーンと音が鳴った。そしてそれは一度きりではなかった。ピンポンピンポンと連呼された。
「うるさいな、この忙しい時に」
一先ず手の中の書類から視線を外して、独り言を言いながら玄関へと向かう。そうしてインターフォンの表示をオンにしてモニター画面からチャイムの相手を見ると、そこには同僚の迅悠一がいた。
そこでようやく思い出したのだ。数日前のやりとりを。

「レポートの高評価が確実に取れる文章構成を教えてあげるからさ。太刀川さんの個人情報をおれに売ってくれない?」
「よしっ、売った」

この時、太刀川は単位に困っていた。凄く困っていた。だから深く考えずに二つ返事で勢いよく迅の提案を了承した。そうしてレポートは無事完成して、めでたしめでたし。そこで太刀川は満足して、その先の迅の事など微塵も気にしていなかっだ。
過去の所業に頭を抱えている場合でもないので、仕方なく扉のオートロックを外して、重々しく玄関を開く。
「迅、これはお前の仕業か?」
そうして、その赤い封筒を目の前に掲げながら太刀川は尋ねる形になる。
「その通り。さあ、太刀川さん。準備して」
そう…その封筒の中身には、ボーダー嵐山隊のファンクラブ会員証が入っていたのだった。
ざっくりとしかまだ目を通していないが、明らかに太刀川本人が入会したことになっていた。それは間違いない。どう考えても迅の仕業だ。さすがに入会金等の金の工面は目の前の男の自腹だろうが。確かに勢い余って個人情報を安易に売ったが、用途を聞いておけば良かったと今更後悔してももちろん遅い。
「何をさせるつもりだ?」
相変わらずサイドエフェクトの無駄遣いしやがってと内心毒づく。もうこういう事に関しては、タイミングが良すぎる。
大体、嵐山隊のファンクラブってなんだよ?と思う。その存在自体は知っていたというか小耳くらいには挟んだことがあった。広報の為とはいえ、そこまで必要かとも思ったが、他ならぬ市民の要望らしいから人徳の成せる業というか、そこまで信頼を得ているのは単純に凄いとは思うが。いや、元々非公式ファンクラブがあったらしく、その団体が呼び掛けてボーダー本部が了承し公認になったらしいが、それ以上は知らん。
「あれ、まだきちんと中見てない?」
そう言われて仕方なく封筒の中身を改めてがさごそしてみる。先ほど一番に見かけた会員証の他にも会報誌やら、グッツのチラシやらetc...その中の一つにボール紙にはめ込みされたチケットのようなものを見つけた。どうやら単なる紙切れではないようで、手に取って見る。
「握手券?」
なんだ。その自分の人生に縁のなさそうな単語はと思ったが、そう書かれているのだから口に出すのも仕方ない。
チケットには、嵐山隊ファンクラブ限定握手券としっかり記載されていた。
「そう。間に合って良かったよ。さあ、これから行こうか」
扉を開けて外を示しながら迅は当然顔をしている。
「ええー嫌だ。めんどい。大体、嵐山隊とか、こんなのなくても握手出来るし。別に無理にしたいわけじゃないけど」
そもそも太刀川は嵐山隊に全く興味がなかった。いや、きちんとボーダーで戦闘訓練をするというのならば興味はアリアリだったが、警戒区外の広報関係で何らかを見かけても、ああ頑張ってるなー程度の認識しかないのだから。それをわざわざ自分から進んで行くだなんて、やはりめんどいの一言につきる。

「一緒に行ってくれれば、太刀川さんの通う大学の学食メニューに力うどんが追加させる方法を教えてあげるけど」
「喜んで行かせて頂きます!」



いざ行くとなれば準備が必要だと、ここに来た迅の姿が物語っていた。まあ簡単に言えば、嵐山に自分たちの正体がバレないように変装をするということだ。
「よし、太刀川さん。ヒゲを剃ろう」
とりあえず家にある手持ちの服装で太刀川なりに何となく普段とは身なりを変えたつもりだった。顔を隠した方がいいのかと冬だし衛生用のマスクを口元にしたら、さすがにマスクは怪しいから取ってくれと迅に言われ、その通りにしたら、次はこう言われたのだ。散々だ。
「ヒゲが無くなったら、俺のアイデンティティーが消失するだろうが」
自慢のアゴヒゲに指を当てながら、言う。しかし久しぶりにヒゲ剃れって外野に言われたな。なんで今日一日出かける為だけにヒゲを剃らないといけないのかと、そこは譲れないところだった。
「んーまあいいか。色付きサングラスのおかげで胡散臭い感じが増してるし」
なんとか落第点だと迅の口が言っている。ちなみに服装自体はどうしようもできておらず、普通の柄物のワイシャツに寒色系のニットとスラックスを合わせただけだ。それだけではとても変装ではないので、仕方なく滅多に被らない帽子だけは発掘してきた。ベーシックなワークキャップの中に前髪をあげて中に入れれば、普段もじゃもじゃだとか同じ隊の後輩に言われている自分の髪も目立たないだろう。髪に変な癖つかなきゃいいけど。それに薄い色付きサングラスをして、目が若干死んでいるんじゃないか的な瞳を隠せば十分だろうと太刀川自身も思う。
対して迅の方がそこまで小細工はしていないと思う。ただ、迅がその前髪をおろしている初めて見たかもしれない。玄関を開けた時だって迅がいるとわかっていたから、ああこれは迅なんだろうと声をかけたわけだが、パッとみただけでは気が付かないだろう。前髪があるといつもより若く見える。それにワンポイント刺繍の入ったフード付きのパーカーとジーンズという平凡な格好をすれば、どこにでもいる感じがする。フードを深くかぶり、いつものサングラスの代わりにフレームがやや太い伊達メガネをすれば、たったこれだけの事でも大分印象が変わるなとは思った。

太刀川の家を出た二人は徒歩で進むこととなった。何といっても行先が近かったからだ。男二人で歩くなんて悲しいが、近くなかったら太刀川だって積極的に了承しなかった。多分。実際は物に釣られたわけだが。とりあえず行くのは了承したが、会場に着く前に色々確認したいこともあり、ぽつらぽつらと歩く気ながらも声を出すこととなった。
「前々から思っていたんだけど、迅と嵐山って付き合ってるよな?」
それは改めての確認だった。今までわざわざ口頭確認をしたことがなったが、今日そんなイベントに参加するのならばきちんと知りえておかなければいけない事だと思ったのだ。
「うん。付き合ってるし、セックスしてるけど」
突然そんな事を言われて、太刀川は歩きながら片手でちびちびと飲んでいた缶コーヒーをぶっと道端に吹いた。
「ちょっ、、、おまえな!」
「何今更。太刀川さん、汚いなー」
おまえのせいだ。おまえの。むせなかった自分をここは褒めるべきだろう、むしろ。少なくとも真昼間の公道でする会話じゃない。いくら周りには誰も歩いていないとはいえだ。太刀川は別に男同士が付き合おうが偏見はないが、わざわざ知り合い同士の性事情までは知りたくない。迅も嵐山も顔を合わせる機会が多すぎるから、気まずくなるだろうが。
「で、何で俺を巻き込んだわけ?」
口元をぬぐってから改めて尋ねる。これが一番の本題だから、さっきの迅の台詞は忘れよう。そうしよう。
「いや、前々からファンクラブ限定イベントには行きたかったんだけどさ。男一人はハードルが高くて」
そうして迅は、単に今まで一人で行く勇気がなかったのだとつぶやいた。嵐山隊のファンの年齢層なんぞ知らないが、まあ何となく言っていることはわかるような。しかしだな。
「だからって、別にわざわざ握手しに行かなくてもいいだろ」
一番に凄くそう思った。迅は嵐山が好きでこの握手会なんちゃらというイベントに参加したいのはわかったが、結局は太刀川と同じ理由にもなる。別にわざわざこんなイベント出なくても握手なんぞいくらでも出来るだろうという意味だ。
「嵐山はすっごく優しいし、おれにだけ向けてくれるのも姿もカッコいいけどさ。みんなに向ける目も見たいの」
おい…結局、のろけかよ。やっぱりこれに付き合うのはだるそうだなと…太刀川は既にくたびれた。だいたい両想いのくせに、第三者視点で彼氏の様子を見てみたいだなんて贅沢な男だ。
「そんなの堂々と行けばいいじゃないか」
わざわざ変装までするだなんてオーバーだと感じた。ちょっと近くに寄ったから様子を見に来たという学生的なノリでも、迅なら笑って通ると思う。
「元々、嵐山を広報に推したのはおれだから、本当はただのファンでいたかったんだ。でも…友たちでも我慢できなくてダメ元で告白したら付き合ってくれて、未だ信じられないし。だから…」
ああ、一歩引いた感じなのはそれなのねと納得する。嵐山は昔から人気あるから、野次馬根性よろしくなってしまうのも傍から見てわかるような。しかし、あれだけ仲が良さそうな迅と嵐山でもこうなるのかと社内?恋愛ってめんどいなと太刀川は思った。仕方ない…今回だけは一緒に行ってやるかと、足を進めた。

イベント会場は、区画整理された後に作られた三門市のコンベンションホールの一角にあった。プラカードが掲げられて、握手会参加の方はこちらですとスタッフの声も飛び交う。嵐山隊は、ローカル新聞・テレビ・雑誌と、三門市のどの媒体でも大抵見かけるから、ゆるキャラじゃなくてご当地アイドルとはいえ人気は高い。地域のお兄さんお姉さん的な存在だ。そのファンはざっくりみると子供連れの親子や若い学生が多く見受けられた。うーん。若干年齢層偏っているような…それでもファンクラブ限定だから、入っている人しかいない筈なのだが。確かにあまり積極的に男一人で行くような場所ではないなと理解はした。とりあえず表題のゲートを目指して歩く。
「こちらでチケットの確認をしています。身分証明書と一緒にご提示ください」
「えっ、身分証明いんの?」
ゲート付近にいるスタッフの声を小耳にはさんだ太刀川は、隣にいる迅に疑問の声を出す。そう言われてみればチケットに名前の記載があったが、最近のイベントはそんな面倒くさい仕様だとは知らなかった。
「太刀川さん、財布とか持ってるんだよね。大学の学生証とか持ち歩いてないの?」
太刀川の本業は一応大学生である。要綱には書いてあったのかもしれないが、きちんとなんて見ていなかった。当然それくらい持っているのだろうと思い、わざわざ迅は身分証明の事なんて言わなかったのかもしれないが。
「大学は必要な時にしか行かないから学生証は本部に置いてあるなあ………今、俺が持ってる身分証明ってボーダー発行の証明書しかないし」
ピラッとカード式のICカードをポケットから出して迅へと示す。基本、防衛隊員がボーダー本部へ入る認証はトリガーで起動するが、事務方の一般職員にはトリガーが支給されていないので社員証替わりの身分証明が発行されている。このカードには電子マネー機能もあるので売店や食堂などの自販機の決済もできる。本部に入り浸っている太刀川は常に持ち歩いているのだった。
「おれは保健証持ってきたけど」
大学生ではない迅の本業はボーダーと言っても過言ではないが、そこは対策済のようだ。保健組合発行の青白い保健証カードを手にしてこちらに見せた。その手があったか…と思うが、でも仕方ない。今更家に戻る時間もない。
しぶしぶゲートに近づくと、太刀川はチケットと共にボーダー発行の身分証明書を示した。顔写真と共に所属等もきっちり記載してあるので、おそらくボーダー本部の広報関係と思われるスタッフに思いっきりギョッとされて顔を凝視された。直接の知り合いではなかったことだけが幸いだったが、当たり前だ。一般人には知れ渡っていないが、本部の人間からすれば太刀川は有名人だ。変装の意味ないので、もはや開き直ってスタッフパスを首からかけさせて下さいと言いたい気持ちにさえなった。もうさくっと終わらせるに限ると開き直って、さっさと足を進めることにする。

会場内はそれなりに賑わっていたが、わりと簡素で庶民的だったからまだマシだなと思った。別に変に飾りつけなどしていないし、上を見上げれば打ちっ放しのコンクリートが視界に入る。フロアの両端にあるテーブルでは、ボーダー広報雑誌が配布されているようだったが、そのあたりの人はまばら。やはりメインである嵐山隊への握手へと皆が足を運んでいる。奥は途中から専用レーンとなっていた。嵐山、時枝、佐鳥、木虎、綾辻の五人分。若干人が多くて見えないが、おそらく列の先にいるのだろう。女子二人のレーンにはさすがに野郎が多いという人口割合の偏りを感じる。自分もこの五人の中で誰かと握手するならせめて女子が良かったなと太刀川は思った。そういえば、改めて握手なんてしたことないし。だが迅は当然嵐山のレーンに並ぶわけで、こればかりは仕方なくその後ろに着いた。
段々と列も進むので少しずつ視界が開けて来て、その握手会の全貌が見えてきた。一番後ろにはボーダーの宣伝ボードがあるが、その前に嵐山隊が突っ立っているようだ。ファンとほんの少しユーモアを交えて歓談、そして握手。まあ微笑ましいと言っても過言ではないだろう。相手の年齢と性別にもよるが…確かに男が男と握手していたらそれなりにシュールな絵面というのは想像に難くない。それにしても嵐山隊は常に笑顔を絶やさないので、よくテンションを保てるもんだと感心する。いやしかし大変なんだな、広報って。純粋な善意を向けられるのは受け止める側も大変そうに思えるが、この五人は合っていると素直に感じた。少なくとも自分には絶対に向いていない。特に嵐山は子供相手には優しいようで、背の低い子にはわざわざ中腰になって目線を合わせてしゃべってあげている。手を出して積極的に握っているのも献身的。それを横にいる迅は、はらはらと眺めている。それを見てようやく太刀川はようやくデジャヴを解消した。あ、これ…アイドルというか、キャラクターのヒーローショーの握手会っぽい雰囲気だな、と。子どもの頃以来行ってないからよくわからないが、某遊園地で僕と握手!とかいうCMのアレだ。
迅たちの少し前に並んでいるのも小さな男の子だった。付き添いの親に肩車されていた未就学児を嵐山は受け取り、腕で抱っこして頭を撫でている。明らかに、いいなぁという顔をする迅が見えた。いや、迅相手には無理だろっ…後でトリオン体でお姫様だっこでもしてもらえと思うしかない。
「次の方、どうぞー」
前の人の握手が終わり、列を整理しているスタッフから声がかかる。
迅は一瞬ビクリとした後に、いそいそと伊達メガネの位置を直し背筋を伸ばしてから、闊歩して嵐山の前へと向かった。そうしてキラキラとしている嵐山と向き合うこととなる。
「…あ、あの。………い、いつも応援しています!」
迅のその口ぶりは、わざと声変えたというよりは、ただ声が上ずっているとしか言えなかった。誰だ…お前というより、完全に嵐山のただのファンと化している。モブかよ。余裕なんてないのはわかるが、もはや迅からはボーダーオーラは完全に消えうせていた。おいおい…前にいるのは、おまえの彼氏だろうがとは思うが。好きな男の前だとこういうものなのか?いや、だがいつも二人が本部で並んで歩いている時など、気軽にじゃれあっている記憶があるが。
「ありがとう」
嵐山が白い歯を見せて笑いながら、迅へとすっと手を伸ばして、ぎゅっと握りしめた。わざわざ両手だ。しっかりと両手で握手というやつ。そこまでされているのに、迅は真っ直ぐ顔をあげられないでいた。顔を隠しているわけではなくどうみても緊張して照れているだけだろう。まあ、本人幸せそうだからいいかと思っていたところだったが。
「わざわざ来てくれたんだな、迅」
「へ?」
そう嵐山に言われて間抜けな声を出した迅は、ばっと顔を上げて二人の視線が鉢合った。嵐山があまりに、とびきり極上なまっすぐとした瞳でこちらを見ているからこそだろう。一瞬で迅の顔が赤くなり、あうあうと何事やら口は動いているが声は出ないらしい。対して満面の笑顔の嵐山はさすがだ。ただ、迅は慌てて手を離そうとしているが、嵐山がそれを逃がしていない。ガッチリと指を絡めとられている。
「…き、気づいて…?」
何とかその声を絞り出すと、迅の付け慣れない伊達メガネがずるりと落ちた。やっぱり変装の意味なかったな。でも、割とうまくいったと思ったんだが。前髪を下ろした迅なんて特にレア…ああそうかベッドでいつも見ているのかと太刀川は苦笑した。
「ファンクラブに入ってくれていることは知っていたからな。あ、太刀川さんも」
そこまで言って嵐山はひょいっと顔をこちらへ顔を向けてきたので、太刀川は観念してよっと片手を上げて応える。まさかファンクラブ会員の名前をチェックしているとは…太刀川が思う以上に嵐山はマメな男だったらしい。忍び笑いをしながらも、手をひらひらと振ってやった。
どうやら本日の自分の出番はここまでのようだ。もはや意味の無くなった帽子とサングラスを取ってから、手を握りしめられたまま固まってる迅に近づき「じゃあ俺の分も握手よろしく〜」と軽く伝えてこの場を颯爽と去った。

その後方で、『この後、楽屋に来てくれないか?』と迅に伝える嵐山の声が聞こえたような気がした。





数日後。太刀川の大学の学食のメニューに、力うどんとコロッケうどんが増えた。
これで皆が幸せになったと思ったが、ちゃっかり他の嵐山隊員に太刀川が帰る姿を目撃されていたらしく…
ボーダー内で、太刀川が嵐山隊のファンクラブに入っているという噂も同時に流れたのだった。





太 刀 川 慶 は 見 た !